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    無知:たのもう、たのもう。

    親父:なんだ、騒々しい。また、おまえか。

    無知:独学なんかしても独善に陥るだけだといじめられました。なんとかしてください。

    親父:その話題は『独学大全』の対話11(418頁以降)で既に取り上げてるだろう。

    無知:そこをもう一声お願いします。やっぱり独学は独善は避けられないんでしょうか。

    親父:そうだな。おれたちの知識も認知能力も有限だ。すべてを知ることは不可能だし、どれだけ学んでも、知らないことすら気付けない未知の領域はいくらでもある。

    無知:とほほ。これからはひっそり日陰者として生きていきます。

    親父:賢明だな。まあ、あまりバカなことをしでかさないように、自戒するための注意点ならいくつかある。

    無知:そういうのを先に言ってください。なんですか?

    親父:まず第一に、専門家をバカにするようになったら、悪い筋に陥ってると思っていい。「自分は専門家が気付いてないことに気付いてる」、「専門家のような視野狭窄に陥ってない」な どと言い出すようになったら、トンデモの門をすでにくぐっている。

    無知:あわわ。今日だけでも7回は言いました。でも、それだと専門家の意見は絶対に正しい と、天の声扱いしなきゃならないのですか?

    親父:そうじゃない。専門家だって人間だ。知識も認知能力も有限であることは変わりがない。 専門家が自分の専門の範囲内ではあまりバカなことを言わないのは、そんなことすれば、 他の同業の専門家からボコボコに批判されるからだ(専門家になるためには、それまで少 なくない同業者からの吟味を経ているはずだ)。広い意味でのピア・レビューだな。逆に言うと、同業の専門家の目を気にしなくなったら、そいつはもう専門家とは言えない。専門家の肩書だけを残した、質の悪いトンデモ野郎だ。さらに言えば、その分野の中で専門家同士がまともに相互批判をできなくなっていたら、その分野ごと専門家集団としての信用を得られなくなるだろう。

    無知:なるほど、ある人が本当に専門家なのか、それとも資格をでっちあげて自称しているだ けの似非専門家なのか、見分ける基準にもなりそうです。でも、知識も認知能力も有限なのは、独学者だけじゃなく、人間の仕様というやつですか?

    親父:加えて言うなら、ヒトは身内びいきする生き物だ。仲間以外なら厳しく吟味することも、自分たちの仲間なら見過ごすなんて、実によくある話だろう。ピア・レビューはヒトの仕様からは自然には生じない。だからこそ、専門家集団という人工物=制度が外部足場として必要だし、そうした人工物を維持するには意識的な努力が要求される。

    無知:独学者も独学者同士、相互批判できればいいのでは?

    親父:不可能とは言わんが難しい。独学者はそれぞれの必要から、時にやむにやまれぬ必要から 学ぶ。始める場所も目指すところも、それぞれだろう。独学者は、独学という共通のディシプリンの船に乗っている訳じゃなく、皆各々の船に乗っている。すれ違う時には挨拶ぐらい交わすだろうが、基本的にはバラバラに学びの道を行くもの同士だ。最低限守るべき倫理はあるが、それはヒトなら誰しも理解できて担う程度の最低限のものだろう。何かを協同で作り上げることになったとしても、それは独学者同士というより、もっと別の目的や志に同じくする者同士として、のはずだ。そうだな、例えば、独学から専門家になる道が皆無という訳じゃないが、その時には、そいつは独学者としてではなく、専門家の端くれとして自らの論考を発表して、同業者による批判を受けるだろうし、そうあるべきだろう。

    無知:人間の仕様の話を思い出して、少し安心しました。実は、独学するような人間は自信家なので、余計に他の人の意見に耳を貸さなくなる、ようなことを言われたんです。

    親父:じゃあ一応聞いてやるが、おまえは自信家なのか?

    無知:滅相もない。調子づいた発言をするのでよく誤解されますが、どちらかというと打たれ弱いヘタレです。

    親父:違いない。確かに広い世の中には、誰かに頼る必要がないと思うから、他人に学ぶ機会 があったにも関わらずそれを選ばないで、独立独歩の道を行くような奴もいるかもしれん。まあ、そういう連中は『独学大全』なんて本には見向きもしないだろうがな。

    無知:そうでしょうね。

    親父:独学は、実家の太い強メンタルな者だけに許された贅沢品じゃない。学ぶことは、 自分に何か足りないところがあることを、そして、その不足を補うに足りる何かを他人が既に生み出してくれているかもしれない可能性を、前提として承認しなければ成り立たない。それに、学ぶことを続けていけば、今ある知識に積み増ししていくだけでは済まず、そのうち今まで自分が積み上げてきたと思うものの一部(時には大部分)を一旦壊してやり直さなくてはな らぬ段階がやってくる。一片の謙虚さも持たずに、どうして他人が作ったに過ぎない知識を受け入れ、その中に入って行こうとすることができる? 自分より先に自分よりも(何らかの面で) すぐれた者がいたはずだと期待できないで、どうして学ぶという賭けを続けることができる? 自分が誰の教えも必要ないと思うほど偉ぶって、この世界が生きるに足り、また学ぶに足りると、どうして信じることができる?




     


    読書猿です。
    2020年は3年かかった新著『独学大全』を上梓することができました。

    幸いにも、誰も予想しなかったほどの反響を得ることができ、
    様々なメディア等でとりあげていただきました。
    おかげで、これまで読書猿をご存じなかった方にも拙書を知っていただくことができました。

    お礼申し上げるとともに、ご紹介させていただきます。
    (遺漏がありましたら、お教えください)。

    2021年も年頭よりお目にかかると思います。
    引き続き、よろしくお願いいたします。

    それでは
    2021年が皆様にとって新たな学びの年となりますように

    読書猿





    新聞
    読売新聞 2020年10月11日(日) 「読書情報」欄、書評
    日経新聞 2020年11月7日(土) ベストセラーの裏側
    読売新聞(夕刊) 2020年11月9日(月) 「ひらづみ」欄、友田健太郎氏が書評
    産経新聞 2020年12月5日(土) 話題の本


    雑誌
    UOMO 2021年 01 月号 2020年11月25日(水) 千野帽子氏による書評
    ダ・ヴィンチ 2020年12月4日(金) この本にひとめ惚れ「ひとめ惚れ大賞」
    UP 2020-12 2020年12月4日(金)(確認中)
    週刊ダイヤモンド  2020年12月7日(月) 書評
    週刊ダイヤモンド 2020年12月21日(月) 『完全書き下ろし 別冊 独学大全』
    本の雑誌451号 2020年12月11日(金) 冬木糸一氏が紹介
    ブルータス 2020年12月15日(火) 千葉雅也氏が紹介
    図書館界72巻5号 2021年1月1日(金) 小林昌樹氏による書評

    ウェブ
    現代ビジネス 2020年9月29日(火)〜 著者寄稿(全11回)
    NIKKEI STYLE 2020年10月23日(金) 学びをあきらめない人へ 独学の探求者が技法を集大成/青山ブックセンター本店
    ダ・ヴィンチニュース 2020年11月4日(水) 書評
    ダイヤモンド・オンライン 2020年11月15日(木)〜 「だから、この本。」読書猿初のロングインタビュー
    News Picks 2020年11月21日(土) 思考がみなぎる「ディープな読書」の技法
    文化通信 2020年12月14日(月) “分厚い・高額” ビジネス書が異例の売れ行き
    リアルサウンド 2020年12月23日(水) ”高くても分厚い本”が売れるワケ
    NIKKEI STYLE 2020年12月25日(金) 年末年始に読みたいビジネス書
    Business Insider Japan 2020年12月30日(水) 「自己啓発の悪循環を断ち切れ」独学の達人・読書猿オススメの年末年始に読むべき1冊
    telling, 2020年12月30日(水) 年末年始に読みたい書籍3選

    ラジオ
    TBSラジオ「文化系トークラジオ Life」 2020年12月29日(火) 「文化系大忘年会2020」Part5


    テレビ
    テレ東NEWS
    池上彰流書店の歩き方「鬼滅の刃」超え女優の裏話 2021年1月3日(日)16:00放映予定 

     
     

    著者の読書猿です。
    9/29発売の新著『独学大全』ですが、おかげさまで
    11/25の時点で刊行から2ヶ月を待たず7刷が決定となり累計で100,000部に達しました。
    ひとえに皆様のご支援のおかげです。厚くお礼申し上げます。


    10万部達成感謝企画として、ネットを通じて世界中どこにいても参加できる企画をご用意しました。

    『独学大全』のノベルティグッズをつくります。
    『独学大全』という書物の性質をかんがみて、作成段階から読者の皆さんにご参加いただきたいと考えました。


    あなたが選んだ金言がしおりになる

    10万部突破記念!「#みんなの独学大全」プレゼントキャンペーン

    を開催します【12/28-1/11】。


    しおりには、読者のみなさんが選んだ『独学大全』からの引用した言葉を盛り込みたいと思っています。

    つきましては、この言葉を入れてほしいというフレーズや一文を募集し、募集された言葉に投票していただき、栞にする『独学大全』の言葉を決定したいと思います。


    さらにもうひとつ、ご応募の副賞として、みなさんの独学の継続を支える特製アイテム

    独学野帳
    (『独学大全』オリジナルの「測量野帳」)

    独学野帳


    をご用意しています。


    公式告知と詳しい応募要項は以下のページから

    【12/28-1/11】10万部突破記念!「#みんなの独学大全」プレゼントキャンペーン
    https://note.com/diamondbooks/n/n957895fd6499


    ふるってご参加ください。