雨夜の月 1-8 雑感

 咲希が高校1年目で隣席になった少女・奏音は耳が不自由だった。取り付く島もない態度をとる彼女と仲良くなろうと咲希は積極的に関わっていく――

 というくずしろ氏による百合漫画。
 この作者は『姫のためなら死ねる』が出版された時から追っているファンなのですが、『兄の嫁と暮らしています。』を出したあたりからの絶好調ぶりはすさまじく、現在漫画家漫画でコメディ調の『笑顔のたえない職場です。』とシリアス将棋漫画『永世乙女の戦い方』と本作『雨夜の月』を同時連載しているとか神なのかなと言った具合。
 どの作品も主人公の迷い/悩み/惑いを個性の立った好感度の高いキャラとの交流を通して深めていき、少しでもより良き人生――良い家族、良い漫画家、強い棋士――を送ろうとするのを描いていて、なんというのでしょうかそのはなはだ真っ当な在り方は読んでいてその人生は良いものだと清々しく感じさせてくれ、この作者の作品はほんとうに好きだなあと思うんですよね。


 さて、本作は咲希が奏音に色々な意味で一目惚れしたことから、奏音と仲良くなろうとし、ひいては耳が不自由なひとと咲希なりにどのように交流するのか学んでいきます。
 対する奏音はそもそも姫体質かつ、中学生の時に未熟さから一度人間関係に失敗しており他人に余計につんけんしており、ファーストインプレッションはかなり良くないものでした。それが咲希にほだされてわだかまりと固執が溶けていき、諦めていた普通の女子高生生活を送っていくようになる様は良かった、本当に良かったよと後方腕組みしながら頷きたくなりましたね。
 そこに特別な力なんてなくて、一目惚れと誰にも明かすことの出来ない隠しごとを原動力として苦悩しながらも正しきことをしたのは、ひとえに咲希の善性によるものです。

 (8巻、P103)

 その善性を表も裏も、綺麗なところも汚い所も、独善的なところも含めて描写しえたのはこの作者ならではと言ったところでしょう。
 彼女たち2人の関係性に、音楽についての要素や、他の登場人物の思惑も重なりに非常に満足のいく作品となっています。

 そして本シリーズのピークはひとまず6巻にあって、花火と共に美しいすれ違いが起こります。そこで信頼できている咲希が奥に隠しているもの――こいごころ――はなんだろう、と、そしていま私が胸の奥でこみあげてくるものはなんだろう――と、奏音が悩む側になるのですね。
 最新8巻になってそれが嵩じに嵩じており、いやあ、少女たちよ、大いに惑えとにやにやしっぱなしでした。これからどうなるのか楽しみにしてますよ、ええ!。


 以上。大好きなシリーズ。ちょうお薦めです。

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