言語ゲーム

とあるエンジニアが嘘ばかり書く日記

Twitter: @propella

長女の悪化

その日はたまたま帰りが遅くなった。普段は 19:30 には帰宅するようにしているのに、仕事のキリが悪くて 20:30 になってしまった。うすうす良からぬ事が起こるような気がしていたが、案の定長女がまだお風呂に入っていなかった。

二年前の怪我以来長女の生活リズムには気を遣う。お風呂に入るのが遅くなると眠気で機嫌が悪くなり、なぜか膝まで痛くなる。また薬を飲むタイミングが早すぎると夜中に目覚めて眠れなくなってしまう。そこで、20:30 までにお風呂から上がって薬を飲むというのが時間をかけて編み出した最適なペースだった。

その日お風呂から上がるとすでに 21:00。やはり長女は機嫌が悪く歯磨きを嫌がったので歯磨きは断念した。薬を飲むのも拒否し、寝室へ駆け込むと布団を被って泣き出した。時折悲鳴を上げる。寝ると悪夢を見るので寝たく無いと言う。今までも何度もお風呂に遅れたせいで生活のリズムが狂うという事はあったのだが、今回のは特に酷かった。油断していた。一時間泣いて叫んでそのうち疲れて眠りについた。

一度だけ合間に会話が成立する瞬間があったので、そんなに夢が怖いならお医者さんに診てもらおうと提案したらなんと「ウン」と返事した。この会話を覚えておいてくれたら嬉しいな。

それから四日が経った。少しずつ落ち着きを取り戻しているが、長女の普段の反応はガラリと変わってしまった。お手伝いを頼むなど、些細な事で悲鳴を上げる。今まで理由が無くそんな態度をとった事が無いので何か明確な理由があるに違いないが、今のところまだ分からない。お風呂を洗ったり、歯を磨いたり、少しずつ出来る事を増やしてきたのが一瞬で崩壊してしまい辛い。

幸いな事に、妻と次女の調子は良い。二人ともここ数ヶ月で笑顔が増えた。ただ、こんな感じで薄氷を踏む毎日を続けていると自分のメンタルがやばく、心の中の暗いものがどんどん大きくなる。

『GRIT やり抜く力』 アンジェラ・ダックワース著

恵まれた生い立ちで高校時代の課外活動が評価されハーバード大学に入学して(p341)研究者になった著者が努力について語るという悪趣味な本。と皮肉っぽく始めてしまったが Chat GPT に勧められて読み進むと案外学びがあったのでメモ。

短く言うと、成功するには才能ではなく努力が必要で、努力できると人生幸せになれるという話。その人が努力の人かどうかは「グリッド・スケール」(p93) というアンケートによって計測できる。

ただし、世の中には成功には努力よりも才能が必要だと思う人の方が多い、なぜなら - 「天賦の才を持つ人」を神格化してしまったほうがラクなのだ。そうすれば、やすやすと現状に甘んじていられる。(p74)

「意図的な練習」によって能力を高める事ができる。(p190)

  1. ある一点に的を絞って、ストレッチ目標〔高めの目標〕を設定する。
  2. しっかりと集中して、努力を惜しまずに、ストレッチ目標の達成を目指す。
  3. 改善すべき点がわかったあとは、うまくできるまで何度でも繰り返し練習する。

犬に電気ショックを与え続けるような「苦痛を回避できないと思うこと」(p251) を続けると「学習性無力感」にハマって努力ができなくなる。

逆に、適度に難しい課題を与える事によって勤勉さを身につける事ができる「学習性勤勉性」(p347)

認知行動療法は、患者がより客観的に考え、健康的な行動を取れるように導くことで、うつ病などの精神疾患の治療を目的としている。子どものときに非常につらい経験をしても、多くの場合は認知行動療法によって、自分の心のネガティブなつぶやきを観察することを覚え、不適応な行動を変えられるようになる。(p257)

という事で、どうやら私が求めているものは「認知行動療法」であるらしい事がわかった。この言葉は聞いた事があったのだが、難しそうなので流していた。もしも辛い過去によって我慢できなくなった子供の回復に役立つなら是非勉強したい。このキーワードが知れただけでも読んでよかった。

ちなみに、努力については 実力も運のうち という本がずっと面白く納得できた。

次女が本を読むようになった

一年くらい本を読んでなかった不登校の次女が、本を読むようになった。

次女が不登校になってちょうど一年が経つ。去年の今頃は丁度私が転職のために自宅勤務から出社に切り替わったタイミングだったのでなかなかフォローが足りず、寂しい思いをさせてしまった。週末だけでも遊んであげようと粘土遊びをしたり、クッキーを焼いたり、Chat GPT をしたり色々試したのだがどれもすぐ飽きて付き合ってくれなくなった。7月頃からはずっと寝室に閉じこもって iPad で Youtube を観たり絵を描くだけで全然部屋から出てこない毎日が続いた。

特に、不思議な事に次女は本を読まなくなった。不登校になる前は本が大好きでよく図書館にも行っていたのに、不登校と同時に読まなくなり、寝る前の読み聞かせも嫌がるようになった。不登校は恐ろしい。

そんな次女が11月の頭に妻とイケアに行ったあたりから少しずつ表情が良くなってきた。前より話すようになったし、お菓子作りにも積極的に参加するようになった。そして昨日ふと本を読んでいる事に気がついた。いつでも本が読めるようにと家中あちこちに本を放置しておいたのだが、誰も読まず置かれたままが普通だったので、今こうやって本を読んでいる姿が不思議だ。ここだけ見たら時間が巻き戻っているようだ。

私の自己流分析では、次女の状態と妻の状態がリンクしていて、妻の機嫌の良さが良い結果を生んでいるのではと思っている。この一年妻の機嫌を良くするために在宅勤務を増やしたり家事代行を頼んだり心療内科へやったりヨガを習わせたり兎に角ありとあらゆる事をやった成果がようやく見えてきたのかも。

残念ながら妻の機嫌は長女には関係ないらしく、長女の様子はさらに悪くなった。突然癇癪を起こして「キャー」と叫んで塞ぎ込む事が増えたし、寝る前は布団をかぶって震えている。精神科の先生が心配いらないとおっしゃっているの私はでできるだけ平然と振る舞っているが、正直原因がわからず恐ろしい。

家族に付き合ってるうちに私自身もこの半年くらい随分鬱っぽくなってきた。転職直後の高揚感が無くなると生気の無さを自覚するようになった。私もまた本が読めない。面白くないし読み進められないし、読んだ内容すぐ忘れるのでノートにメモしながら何とか読んでいる。不登校について気になるトピックを勉強したいのだが、頭が空回りして積読だけが増える。読書だけでもこの有様なので、作品制作など考えられない状況だ。この境遇が憎い。

今一番知りたいのは、子供が安全に失敗できる環境をどうやって作るかだ。不登校の子供は安心感を完全に失ってしまい少しの失敗でも傷ついてしまう。その傷を恐れて閉じこもってしまい、失敗に耐える能力を育む機会が無いという悪循環に陥っている。貧乏な時ほどコンビニで弁当を買ってしまい節約できないのと同じだ。蓄えが無さすぎて調理器具を買うリスクを取れないように、不登校の子供は安心感が無さすぎて自己肯定感を上げるための冒険ができない。ありふれた悩みなのでどこかに答えがあるはずだ。

不登校双子が食事中 Youtube を観なくなった

先月くらいから突然双子が食事中に Youtube を観なくなった。二年前に長女が大怪我をして以来、長女のトラウマによる尿意を我慢するために食事中 Youtube を観るようになってしまったのだが、どういうわけか突然観なくなった。尿意が消えたのか Youtube に飽きたのかよく分からないが、余計な事を聞いて逆効果になると困るのでそっとしている。二年間くだらない Youtube の音に耐えてきたが、突然食卓がシーンとして不気味だ。

とはいえ長女の病状が良くなったわけでは無い。相変わらず言葉が出ずに「ウーッ」とうなってしまう事が多く、コミュニケーションに困っている。最近特に歯が一本抜けた後が痛いらしく、歯磨きを拒否するようになってしまった。日常会話はほとんどできない。ただ、姉妹間やネット友達とは普通に会話しているので、もしかして思春期の問題なのかも知れない。まだ小学四年生なのに?!

私としては、一日一回あるかないかの会話を成立させるべく長女の好きな Fundermental Paper Education などを研究している。なかなか会話できないが、彼女の好きな曲を聴くと何となく自分も子供の頃に戻った気がする。昔母をヨセミテ公園に連れて行った時に、母がまさか自分がこんな場所に来るとは思っていなかった。子育ては自分の世界を広げると言っていたが、引きこもった娘の世界にも自分の知らない世界があって勉強させられる。娘がいなければ私は Youtube の曲に興味を持つ事は無かっただろう。

幸いにも次女の調子は良い。近所のスーパーくらいなら外出できるようになったし、お菓子作りにも付き合ってくれるようになった。良くなってるのか悪くなってるのか分からないが、少しでも双子の不安が減りますように。

「叱れば人は育つ」は幻想 村中直人著

「叱れば人は育つ」は幻想 (PHP新書)

育児をしていると子供を叱っちゃいけませんとよく言われます。叱らないで子育てをするのは相当ストレスのかかる事だし、叱らないで甘やかすわけにもいかないし、じゃあどうしたらええねんと言う事が書いてある本です。

なぜ叱ってはいけないのか?

著者によると、叱る事が有効なのは現在進行形で起きている危機への介入、例えば子供がカッターナイフを振り回して遊んでいる状況への対処のみという事です。「叱る」とは叱られる人のネガティブな感情を利用して相手をコントロールする事です。なので、進行中の危機を終わらせるには有効ですが、このネガティブな感情は人の学びや成長を抑制するため、子供は反省する事がなく、同じ失敗を繰り返してしまうという事です。

また叱る側の大人にとっては、叱る事に依存してしまう危険があります。人間には「よくないことをした人を罰したいという欲求」(p32) があるため、「叱らずにはいられない」状態になってしまう可能性があります。人は自分の苦しみを和らげてくれるものに依存する(p28)らしいです。何らかの苦痛やストレスを感じたときに、「叱る」欲求が満たされてしまうと自分の意志ではやめられなくなり、叱らずにはいられなくなるのです。

叱る代わりに前さばきとフィードバック

この本では、「叱る」代わりに「前さばき」を提案しています。叱らなければいけない状態が発生しないよう、事前に重要なメッセージを伝え、理解し、学んでもらう事が重要なのです(p40)。「叱る」というのは、トラブルが起きてからやることです。「前さばき」によって「こういうときにはこういうことが起こりそう」とあらかじめ予測して、事前に注意喚起するとか対処法を工夫しておくことで、叱るような事態を予防することができます(p65)。

また、「叱る」代わりに「フィードバック」も有効です。フィードバックは「現状通知」と「立て直し」という二つの要素で構成されています(p120)。「叱る」ことが相手をコントロールしようとするのに対して、「フィードバック」は相手が自分なりに考え、決定し問題解決していくためのサポートです(p121)。

「叱る」ことで子供はネガティブな感情を生み出し「防御モード」になります。一方で「前さばき」や「フィードバック」により自己決定を重視することで、子供たちの学びや成長を促進する「冒険モード」(p81)に導くことが重要との事です。

感想

大変素晴らしい事が書いてあるのは分かるのですが、親としては肝心の「冒険モード」を作り出すための具体的な方法があれば助かるのになと思いました。世の中には楽な子供がいて、親が何もしなくても勝手に「冒険モード」になってくれるみたいです。しんどい子はそこまで行きつかず、「前さばき」しようにも打てる手は打ち尽くし「フィードバック」しようもんならウザがられて一発触発なのです。親も子も疲労困憊で余裕がない状態です。そういうしんどい状態からどう「冒険モード」に持って行くかの指針が欲しい。

Fundamental Paper Education

ほとんどコミュニケーションが取れない子供の手掛かりを掴むために子供の好きな Fundamental Paper Education (FPE) について調べる。FPE とは Katie によって制作された YouTube で、紙の学校を舞台にした教師と生徒による物語だ。

Basics in Behavior

2024年3月に発表された Basics in Behavior は The Living Tombstone のミュージックビデオ Baldi's Basics Song - Basics in behavior に Katie の映像をつけた物だ。

Baldi's Basics Song - Basics in behavior

The Living Tombstone の元のビデオにある映像は 2018年に mystman12 が発表したホラーゲーム Baldi's BASICS in Education and Learning から取っている。

Baldi's BASICS in Education and Learning

これ自体はさらに 1990 年代セガの Sonic's Schoolhouse などの教育ゲームのパロディになっている。

What IS Sonic's Schoolhouse? ...No, Really.

という事で、FPE が生まれた背景を古い順に並べると次の順序となる。

  • 1996年にセガが教育ゲーム Sonic's Schoolhouse を発表する。
  • 2018å¹´3月に mystman12 が Sonic's Schoolhouse などをパロディ化したホラーゲーム Baldi's BASICS in Education and Learning を発表する。
  • 2018å¹´7月に The Living Tombstone が Baldi's BASICS にインスパイアされたミュージックビデオ Baldi's Basics Song - Basics in behavior を発表する。
  • 2024å¹´3月に Katie が Baldi's Basics Song の曲にアニメーションをつけた Basics in Behavior を発表する。

FPE のルーツについて調べる事に手間取ってしまって FPE の各キャラの事まで手が回らなかった。。。子供はもちろん YouTube やゲーム内のチャットで自然と覚えて行くのだが、大人が無知の状態からついて行くのはなかなか骨が折れる。

参考

双子の病状記録

今週末は長女の精神科の予約がある。今のお病院には四月からお世話になっている。病院を転々としてようやく三件目で効果のあるお医者さんにあたり非常に助かっている。ただ長女の病院嫌いは増すばかりで、前の二回は泣き叫ぶまでにもなってほとほと手を焼いていた。お医者さんも見るに見かねて次回からは親だけで来てくれて良いですよと言ってくださったので、次の診察はめちゃめちゃ気楽だ。

長女に処方されたメラトベルとエビリファイはよく効いている。ただ気になる事があって、たまに言葉が出なくなる事がある。例えば今日パソコンのお掃除をさせようと声をかけた時に、突然「ウーッ!」と唸って塞ぎ込んでしまった。僕がびっくりして急にしんどくなったのか、眠くなったのかと色々聞いても「ウーッ」と言うだけで訳が分からない。仕方が無いのでおやつを与えて少し休むと、実は急に塞ぎ込んだ原因はパソコンを拭くために取り出したウェットティッシュが乾いていて拭いても汚れが取れなかったという事だった。

長女は饒舌なタイプで割とよく話す。なのでこのように言葉が詰まるのは二年前の怪我以前には無かった。記憶にあるのは最近では6月ごろの事だ。だからもしかして薬の影響なのかもしれないと以前お医者さんに聞いた事があるのだが、その時は処方された薬で言葉が出なくなるような副作用は考えにくいとの事だった。ただ万が一の事があるのでここに記録を残す。

このように相変わらず病状は悪いが、妻によるとお漏らしの量は随分減っているらしい。「モジモジになる」と尿意を訴える頻度も減っているので、不登校のきっかけとなった怪我のトラウマを克服しつつあるのかも知れない。また以前は尿意が気になって YouTube を見ながらでないと食事ができなかったが、最近は YouTube を見ながらの食事は無くなった。

さて次女はある意味長女より悪い。明確に診断の下った長女と違い投薬もなく次女は普通の不登校なだけなのだが、次女の場合積極的にネット友達を作るわけでもなく、一日寝室に閉じこもって出てこない。表情に乏しく、寝る前は悲しくなってしまいシクシクと泣き止まない。二年前の聡明な頃の次女を思い出すと悲しくなる。

ただ次女の場合長女ほどの対人恐怖は無いので、オフ会で山に登ったり歯医者に行ったりはできる。この週末は割と調子がよくて、お母さんと杏仁豆腐を作ったり歯医者と IKEA に行ったりしていた。今日パソコンのお掃除を提案した時も積極的に参加してくれてびっくりした。

兄弟で影響しあって不登校のケースは多く、次女も長女に引きずられた形になってしまったが、なんとか次女には長女の犠牲にならず立ち直って欲しい。次女の場合お友達とリアルに会って話をするのが良いようだ。今利用しているフリースクールはネット利用なので、お友達に会うのは遠くて難しい。なんとか市の主催する不登校の会などを通して不登校友達を作ってあげたい。

不登校のコミュニティを通じて、色々な子どもや親と知り合いになれた。中には不登校をエンジョイして毎週のように旅行に出かける家族もいて、不登校だからと不幸である必要は全く無い。長女の不登校開始から二年経った。うちも尿意や不安などの病気の部分を克服して、何とか不登校なりに楽しみを見つけられたら良いなと夢見ている。