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【対訳】ボードレール『悪の華』48. 薬瓶

悪の華
Les Fleurs du mal (1861)

Charles(シャルル) Baudelaire(ボードレール)/萩原 學(訳)


憂鬱と理想
SPLEEN ET IDÉAL


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48. 小瓶
XLVIII
LE FLACON

題名は普通「香水壜」と訳される。しかし英訳しても The Bottle としか出て来ない。「香水やリキュールを入れる美しい小さな瓶」であると辞書には出てくるのだが、やや意訳が過ぎるような。

サバティエ詩群ここまで 脚韻AABB


強烈な香水もあるものだ、どんな物でも穴だらけ
にしてしまうような、ガラスをすら通り抜け。
東洋からの箱を開くに当たり
鍵がきしみ、悲鳴を上げたり、

Il est de forts parfums pour qui toute matière
Est poreuse. On dirait qu’ils pénètrent le verre.
En ouvrant un coffret venu de l’Orient
Dont la serrure grince et rechigne en criant,

あるいは、さびれた古家の戸棚に
粉っぽくて黒い過去の匂いでいっぱい、
折にふれ、古い瓶を見つける、
するとそこから魂が湧き出る。

Ou dans une maison déserte quelque armoire
Pleine de l’âcre odeur des temps, poudreuse et noire,
Parfois on trouve un vieux flacon qui se souvient,
D’où jaillit toute vive une âme qui revient.

千の思いが眠り、葬儀のさなぎとなって、
重い闇の中に静かに震えて、
それが羽化して翼を広げて飛び立つ、
紺碧に染まり、薔薇色に凍り、金色に輝く。

Mille pensers dormaient, chrysalides funèbres,
Frémissant doucement dans les lourdes ténèbres,
Qui dégagent leur aile et prennent leur essor,
Teintés d’azur, glacés de rose, lamés d’or.

人を酔わせる記憶の空中曲芸だ
乱れた空気、目を閉じ、「目眩」が
両手で掴み、押しやる、敗北した魂を
人々の放つ瘴気に曇らされた深淵へと

Voilà le souvenir enivrant qui voltige
Dans l’air troublé ; les yeux se ferment ; le Vertige
Saisit l’âme vaincue et la pousse à deux mains
Vers un gouffre obscurci de miasmes humains ;

「目眩」が百年来の深淵の縁に叩き落とし
そこに香しきラザロ屍衣を引き裂き、
亡霊の死体が目覚めて追うは、
古く腐った愛、魅力的で不浄な。

Il la terrasse au bord d’un gouffre séculaire*1,
Où, Lazare*2 odorant déchirant son suaire,
Se meut dans son réveil le cadavre spectral
D’un vieil amour ranci, charmant et sépulcral.

だから、私の記憶を失った時
男たちの、不吉な箪笥の片隅に
私が見捨てられた時、古ぼけた瓶として
朽ち果て、粉っぽく、汚く、忌まわしく、ぬるぬる、ひび割れて、

Ainsi, quand je serai perdu dans la mémoire
Des hommes, dans le coin d’une sinistre armoire
Quand on m’aura jeté, vieux flacon désolé,
Décrépit, poudreux, sale, abject, visqueux, fêlé,

愛すべき疫病神よ、私はあなたの棺になる!
あなたの強さと毒性の証人となる、
天使が用意した親愛なる毒!酒よ。
私をかじるもの、私の心の生と死よ!

Je serai ton cercueil, aimable pestilence !
Le témoin de ta force et de ta virulence,
Cher poison préparé par les anges ! liqueur
Qui me ronge, ô la vie et la mort de mon cœur !


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訳注

画像は Tap Color 塗り絵から

*1 séculaire:
この語を引くと「世俗的な」と出てくる。しかし引き直すとCenturies old とあり、そちらが正しいようだ。この節では他にも解らないところが多く、訳は合っていないかも。
*2 Lazare:
ヨハネによる福音書11章
38 イエスはまた激しく感動して、墓にはいられた。それは洞穴であって、そこに石がはめてあった。
39 イエスは言われた、「石を取りのけなさい」。死んだラザロの姉妹マルタが言った、「主よ、もう臭くなっております。四日もたっていますから」。
40 イエスは彼女に言われた、「もし信じるなら神の栄光を見るであろうと、あなたに言ったではないか」。
41 人々は石を取りのけた。すると、イエスは目を天にむけて言われた、「父よ、わたしの願いをお聞き下さったことを感謝します。
42 あなたがいつでもわたしの願いを聞きいれて下さることを、よく知っています。しかし、こう申しますのは、そばに立っている人々に、あなたがわたしをつかわされたことを、信じさせるためであります」。
43 こう言いながら、大声で「ラザロよ、出てきなさい」と呼ばわれた。
44 すると、死人は手足を布でまかれ、顔もおおいで包まれたまま、出てきた。イエスは人々に言われた、「彼をほどいてやって、帰らせなさい」。