POETIC LABORATORY ★☆★魔術幻燈☆★☆

詩と翻訳、音楽、その他諸々

【対訳】ボードレール『悪の華』61. 外地生まれの貴婦人へ

悪の華
Les Fleurs du mal (1861)

Charles(シャルル) Baudelaire(ボードレール)/萩原 學(訳)


憂鬱と理想
SPLEEN ET IDÉAL


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61. 外地生まれの貴婦人へ
LXI
À UNE DAME CRÉOLE
  • 1841 : sans titre 1841-10-20 : manuscrit dans une lettre à Autard de Bragard
  • 1845 : À une Créole 1845-05-25 : L’Artiste

その他のヒロイン詩群

ソネット形式 脚韻ABAB CDCD EEF GGF


太陽が愛撫する香り豊かな国で、
私は知り合った、天蓋なす赤紫(プールプル)に染まる木々と
目に物憂げの雨降らすナツメヤシの木の下で、
知られざる魅力ある外地生まれの貴婦人と。

Au pays parfumé que le soleil caresse,
J’ai connu, sous un dais d’arbres tout empourprés*1
Et de palmiers d’où pleut sur les yeux la paresse,
Une dame créole*2 aux charmes ignorés.

その顔青白く温かく、魅惑的な黒髪
首に高貴な雰囲気ふわりと。
狩人のように歩く、すらり背高く細身
浮かべるは微笑みを、目には自信を。

Son teint est pâle et chaud ; la brune enchanteresse
A dans le cou des airs noblement maniérés ;
Grande et svelte en marchant comme une chasseresse,
Son sourire est tranquille et ses yeux assurés.

もしも奥様、遊ばされたなら、真の栄光の国に、
どうぞセーヌや緑なすロワールのほとりに、
居並ぶ古来の邸宅飾るにふさわしき美貌、

Si vous alliez, Madame, au vrai pays de gloire,
Sur les bords de la Seine ou de la verte Loire,
Belle digne d’orner les antiques manoirs,

貴女はきっと、ひっそりと隠れ家に籠もられ、
詩人共は皆して、ソネットを千も心中に芽吹かせ、
大きな目をして、貴女の黒目よりも素直になろう。

Vous feriez, à l’abri des 、ombreuses retraites,
Germer mille sonnets dans le cœur des poëtes,
Que vos grands yeux rendraient plus soumis que vos noirs*3.


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訳注

*1 empourprés:
訳語が「紫一色」になったり「真紅に染める」だったり、一定しないから語源を見ると「pourpréにする」事のようだ。pourpré とはどんな色かと色見本を見ると、プールプル(Pourpre)#c0347a という、どうやらパープル(Purple)#9b68a9 と同根の色がある。

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つまり「紫」「真紅」とも間違いで、「プールプル色に染め上げる」と言わなければならない。語感が気に入ったので採用したいのだけど、たぶん誰にも理解されないので、涙を飲んで「赤紫」とした。
*2 dame créole:
植民地生まれのフランス人を、本土の者はクレオールと呼んだ。オランダ人に対する「ボーア人」や、かつての本邦で「外地生まれ」と称された人々に近い。「外地」というのは、日本人の耳に「植民地」なる響きは馴染まなかったからであるが、北海道開発の際も本州側を「内地」と呼んでいたので、日本人の「外地」概念は「内地以外」以上のものではない。逆に言うと、フランス語的には「植民地生まれ」以外の何者でもなく、そのように訳すべきではある。


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その頭に付く dame は、英語では lady に当たり、その場合は lord の女性版つまり爵位を持つ女性の称号ともなる。そこで表題を英訳すると To a Creole Lady となり、詩人にとって表敬の対象であることを示している。
*3 noirs:
noir の複数形になっているからか、「黒人たち」「黒人召使いたち」とする訳例あり。直前に詩人共の yeux(目、両眼)があるので、「黒い両眼」と読んでみた。あるいは黒髪黒目の白人が珍しいのを「クレオール」と称したかと考えたけれど、当時の肖像画に黒髪の美人も見受けられる。ので、特にエキゾチックという訳ではなく、単純に美人を讃えた歌と見てよいであろう。そこで思い出したのが『毒薬』に名前だけ出した映画女優ベティ・デイヴィスさんで、カラー写真を見る限り、黒目だったようだ。

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黒目は欧米人にとって、深淵に繋がるのだろうか。胸元のブローチは『或るマドンナへ』で取り上げた聖心 Sacred Heart に矢が刺さった意匠で、結婚していることを誇示しているように見える。実際どうだったのか、もはやご本人には聞くよしもない。

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【対訳】ボードレール『悪の華』60. フランキスカ讃歌

悪の華
Les Fleurs du mal (1861)

Charles(シャルル) Baudelaire(ボードレール)/萩原 學(訳)


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60. フランキスカ讃歌
LX
FRANCISCÆ MEÆ LAUDES

その他のヒロイン詩群

全文ラテン語 3行1節 脚韻AAA
ダンテ『神曲』のテルツァ・リーマ?


新しき弦もて我讃えん、
新生の園に戯れ為さん、
余人は入れぬ我が内心。

Novis te cantabo chordis,
O novelletum*1 quod ludis
In solitudine cordis.

花輪奉りて拝むべし、
いとも優婉なる女性
罪は之に償わるべし!

Esto sertis implicata,
O femina delicata
Per quam solvuntur peccata !

慈悲深きレーテー同様、
汝がキスを貪ろう
授かる磁力に引かれよう

Sicut beneficum Lethe,*2
Hauriam oscula de te,
Quæ imbuta es magnete.

悪徳の嵐吹き荒れしとき
なべて道塞がれしとき、
顕れましますは、神々、

Quum vitiorum tempestas
Turbabat omnes semitas,
Apparuisti, Deitas,

救いの星をさながらに
煌々と、難破船が天上に……
吾が心捧げまつる、汝が祭壇に!

Velut stella salutaris*3
In naufragiis amaris……
Suspendam cor tuis aris !

徳に満ちたる池、
永遠の若さの泉へ、
閉ざせる吾が唇に声!

Piscina plena virtutis,
Fons æternæ juventutis,
Labris*4 vocem redde mutis !

汝は穢れし物を焼き、
荒き道を平らかにし、
弱かりし者を強くし。

Quod erat spurcum, cremasti ;
Quod rudius, exæquasti*6 ;
Quod debile, confirmasti.

飢えたる日の吾が宿り、
星なき夜の吾が燈火(ともしび)、
恒(つね)に在るべきに導き給い。

In fame mea taberna,
In nocte mea lucerna,*5
Recte me semper guberna.

乗せ給え、強きを力に!
甘美なる風呂に、
心地よき香り!

Adde nunc vires viribus,
Dulce balneum suavibus
Unguentatum odoribus !

柳腰にぞ輝くべし、
さるほどに純潔の帯、
熾天使の洗礼受けし、

Meos circa lumbos mica,
O castitatis lorica,
Aqua tincta seraphica ;

宝石きらめく盃か、
塩味のパン、柔らかいお肉か、
天なる酒か、フランキスカ!

Patera gemmis corusca,
Panis salsus, mollis esca,
Divinum vinum, Francisca !


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訳注

フランキスカ(francisca)は元来、フランク族が武器とした戦斧をいう。ナポレオン・ボナパルトのフランス領事館の紋章にも使われた(1799)。

ここでは女性の名。詩人が戦斧を意識したかは定かでない。


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結局、Francisca さんは見つからなかったので、フランチェスカ・タンドイ Francesca Tandoi さんのピアノ・トリオをご紹介。ごく最近、Hope というアルバムが澤野工房から出ているのだが、何故かこれも見つからないので別のアルバムを挙げておく。

アッシジのフランチェスコとパオラのフランチェスコを歌うフランツ・リスト 2つの「伝説」(1861 - 1863)が関係するかと思ったが、本作より後になるから、影響を与えたのではなく影響を受けた(かもしれない)方になるようだ。


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*1 novelletum:
Google翻訳はこれを「小説」と訳した。英訳・仏訳は「雌鹿」に作る。Wiktionary では語源を novellus (“new”) + -ētum (“grove”) とするから、これに従えば、何れでもない。また、語意として

(post-Classical) a place planted with young trees or vines, a nursery-garden

という。前半は「苗床」「果樹園」、nursery-garden は「幼稚園」に当たるから、「新エデンの園」というようにも読める。しかし次行で「自分の心の中の」と付け加えるので、それなら随分と狭い場所のようである。
*2 Lethe:
冥府を流れるとされる忘却の川。川の水を呑んだ者は全てを忘れる。ゆえに転生前の魂は、これを呑んで前世の記憶を消去するという。
*3 stella salutaris:
救い主イエスの母マリアは古来、海の星の聖母(Stella Maris)と呼ばれ、船乗りの信仰を集めてきた。

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ゆえに「救いの星」とは 北極星であり、聖母マリアである。
*4 Labris:
ラテン語「唇」
イザヤ書6章
5 その時わたしは言った、「わざわいなるかな、わたしは滅びるばかりだ。わたしは汚れたくちびるの者で、汚れたくちびるの民の中に住む者であるのに、わたしの目が万軍の主なる王を見たのだから」。
6 この時セラピムのひとりが火ばしをもって、祭壇の上から取った燃えている炭を手に携え、わたしのところに飛んできて、
7 わたしの口に触れて言った、「見よ、これがあなたのくちびるに触れたので、あなたの悪は除かれ、あなたの罪はゆるされた」。
*5 lucerna:
ラテン語「ランプ」
イザヤ書9章
2 暗やみの中に歩んでいた民は大いなる光を見た。暗黒の地に住んでいた人々の上に光が照った。
詩篇18章
28 あなたはわたしのともしびをともし、わが神、主はわたしのやみを照されます。
29 まことに、わたしはあなたによって敵軍を打ち破り、わが神によって城壁をとび越えることができます。
*6 Quod rudius, exæquasti ;
詩篇143章
9 主よ、わたしをわが敵から助け出してください。わたしは避け所を得るためにあなたのもとにのがれました。
10 あなたのみむねを行うことを教えてください。あなたはわが神です。恵みふかい、みたまをもってわたしを平らかな道に導いてください。
11 主よ、み名のために、わたしを生かし、あなたの義によって、わたしを悩みから救い出してください。
12 また、あなたのいつくしみによって、わが敵を断ち、わがあだをことごとく滅ぼしてください。わたしはあなたのしもべです。

【対訳】ボードレール『悪の華』59. シジナという人

悪の華
Les Fleurs du mal (1861)

Charles(シャルル) Baudelaire(ボードレール)/萩原 學(訳)


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59. シジナという人
LIX
SISINA

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想像し給え、ディアーナ女神が果敢な仲間を連れて
森を歩き回ったり、藪を掻き分けたりする姿を
髪と喉を風になびかせ、騒々しさに酔いしれて
華麗にも最高の騎士たちに挑むを!

Imaginez Diane*1 en galant équipage,
Parcourant les forêts ou battant les halliers,
Cheveux et gorge au vent, s’enivrant de tapage,
Superbe et défiant les meilleurs cavaliers !

殺戮をこよなく愛するテロワーニュ、
靴も履かない民衆を攻撃に奮い立たせるや、
頬も目も血走り、役を演ずるに夢中、
剣を片手に王宮の階段のぼるを見たことは?

Avez-vous vu Théroigne*2, amante du carnage,
Excitant à l’assaut un peuple sans souliers,
La joue et l’œil en feu, jouant son personnage,
Et montant, sabre au poing, les royaux escaliers ?

シジナがそんな感じ!しかし、この優しい戦士
魂は、命を奪うのと同じくらい慈愛に満ち、
その勇気は、火薬と太鼓の熱狂の中にあっても、

Telle la Sisina ! Mais la douce guerrière
A l’âme charitable autant que meurtrière ;
Son courage, affolé de poudre et de tambours,

あの連中も武器を捨てるすべはわきまえている、
そして、彼女の心は炎に焼かれながらも、
然るべく証した者のため、いつも涙を湛えている。

Devant les suppliants sait mettre bas les armes,
Et son cœur, ravagé par la flamme, a toujours,
Pour qui s’en montre digne, un réservoir de larmes.


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訳注

1848年の二月革命に、ボードレールは加担した。ショパンの練習曲作品10-12(Étude op.10 nº12)ハ短調『革命』は1831年、ロシアのワルシャワ侵攻とほぼ同時に発表されたので、詩人の胸中には、この曲が木霊した事であろう。

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二月革命により王政は倒れ、第二共和政が始まったのだから、少なくともこの時の詩人は明確に左翼の一員であったと言わねばなるまい。尤もその動機は「(義父)オーピック将軍をやっつけに行くんだ」と称したほど支援より私怨に傾いた、些か情けないものではあったが。(おそらく渾名の)Sisina と呼ばれた女性は、そのとき知り合ったと考えられるけれども、サバティエ婦人の友人ではないかと言われるくらいで、詳細不明。読み方も正確には判らない。ただ、詩人にとっては、忘れてはならない大切な思い出となったのであろう。色見本に炎色#c44303というのを見つけたので、テーマカラーに使ってみた。
なお、革命と詩人の関わりについては、海老根龍介『革命と悪』、松本勤『ボードレールと二月革命』ほか複数の優れた研究がある。

*1 Diane:
ローマ神話に於ける月の女神にして狩猟神。ギリシア神話のアルテミスと混淆し同一視されたためか、ディアーナ独自の神話は伝わっていない。狩猟神としてのディアーナは、彫刻や絵画の題材となり、ルーベンスも描いているけれど、はっきり言ってふっくらし過ぎ、似合わない。

オラツィオ・ジェンティレスキ(Orazio Lomi Gentileschi, 1563 - 1639) の名は、実は覚えていなかったのだけど、ローマでカラヴァッジオ(Michelangelo Merisi da Caravaggio、1571 - 1610)と一緒になって騒ぎを起こすほど、公私共に影響を受けたイタリアの画家。ほぼ背面から半身をひねった独特のポーズが印象的。
*2 Théroigne:
アンヌ=ジョセフ・テロワーニュ・ド・メリクール (Anne-Josèphe Théroigne de Méricourt、1762 - 1817) フランス革命前期に活動した女性革命家。革命のシンボルとして「自由のアマゾンヌ」ともてはやされた。ボードレール (1821-1867)誕生前に亡くなったので、詩人は自分の目で見たことはない。バスティーユ襲撃の先頭に立っていたとする記述は、後世の創作と判明している。

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【対訳】ボードレール『悪の華』58. 午後の歌

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Les Fleurs du mal (1861)

Charles(シャルル) Baudelaire(ボードレール)/萩原 學(訳)


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58. 午後の歌
 LVIII
CHANSON D’APRÈS-MIDI

その他のヒロイン詩群 脚韻ABBA 

「芸術詩群」に続く「恋愛詩群」は、この後もう少し続くのだが、相手の女性がよく判らない。ので、以下7篇を研究者は「第二義的女主人公詩群」と呼んでいる。しかし自分で書いてみると、この呼び方は嫌な感じだ。いや、どこの2号さんだよ……しかし全面的に変更してしまうと意味がないので、少しだけ変えることにした。



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意地悪そうな眉毛のせいで、
君のお顔は見た目おかしく、
それも天使のものではなく、
蠱惑的(こわくてき)な目をした魔女で、

Quoique tes sourcils méchants
Te donnent un air étrange
Qui n’est pas celui d’un ange,
Sorcière aux yeux alléchants,

見た目から軽そうな、貴女を崇(あが)める
わが恐るべき情熱よ!
共に在らんと狂信の
司祭をさながら、偶像拝める。

Je t’adore, ô ma frivole,
Ma terrible passion !
Avec la dévotion
Du prêtre pour son idole.

砂漠と森
荒れた髪を香りに浸し、
君の頭がとる姿勢
謎と秘密。

Le désert et la forêt
Embaument*1 tes tresses rudes,
Ta tête a les attitudes
De l’énigme et du secret.

香りが君の肉にたゆたう
香炉の辺りに居るかのように。
君の魅力は夕暮れのように
暖かく、ほの暗い水の精のよう。

Sur ta chair le parfum rôde
Comme autour d’un encensoir ;
Tu charmes comme le soir,
Nymphe ténébreuse et chaude.

なんと!最強のポーションでも
君の「怠惰」に及ばないか、
それに君、知っていないか
死者をも蘇らせる愛撫をも!

Ah ! les philtres les plus forts
Ne valent pas ta paresse,
Et tu connais la caresse
Qui fait revivre les morts !


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君の腰は恋に落ちた
自分の背中と、自分の胸と
クッションすら喜ばさんと
悩ましげなポーズを取った

Tes hanches sont amoureuses
De ton dos et de tes seins,
Et tu ravis les coussins
Par tes poses langoureuses.

時には、君のあのわけのわからない
激情を鎮めるために、
君は贅沢に、真剣に、
噛みつきもキスもしないでは済まさない。

Quelquefois, pour apaiser
Ta rage mystérieuse,*2
Tu prodigues, sérieuse,
La morsure et le baiser ;

君は私を引き裂く、わが黒髪よ、
嘲るように笑いかけ、
そして私の心臓へ
柔らかく片目を据える、月のよう。

Tu me déchires, ma brune,
Avec un rire moqueur,
Et puis tu mets sur mon cœur
Ton Å“il*3 doux comme la lune.

君の靴の下、繻子(サテン)の
君の魅惑の、その絹の足下に
私を据える、わが喜び、大いに、
わが天才と、わが運命と、

Sous tes souliers de satin,
Sous tes charmants pieds de soie,
Moi, je mets ma grande joie,
Mon génie et mon destin,

君の魂のお陰だ、わが魂に
君のお陰で光と色を!
ドカンと熱い爆発を
わが黒々としたシベリアに!

Mon âme par toi guérie,
Par toi, lumière et couleur !
Explosion de chaleur
Dans ma noire Sibérie !


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Interior Music - Cafe Apres-midi meets ACME Furniture

Interior Music - Cafe Apres-midi meets ACME Furniture

  • アーティスト:Various Artists
  • INSENSE MUSIC WORKS INC.
Amazon

訳注

*1 Embaument:
「芳香で満たす」「香りを放つ」ほか、死体をミイラにする前の「防腐処理」をいう。詩人は「香りに浸す」と称しつつ、相手が死んだら「ミイラにしてやる」と言っている事になるが、まさか本当にやったわけではあるまい。とはいえ、本作に「死」の影がさしているのは確かである。
*2 mystérieuse:
「奇怪」「不可思議」程度の形容だが、ここの2行は韻律が難しく、少し変形して行を移した。
*3 Å“il:
同じ「目」を意味する yeux と使い分けているのは、通常の「両目」と片目つむったのを区別しているようだ。空の月は一つきりなので、「目」を「月」に例えるには、片目にする必要を感じたのであろう。

【対訳】ボードレール『悪の華』57. 或るマドンナへ

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Les Fleurs du mal (1861)

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57. 或るマドンナへ
〜スペイン風の奉納品〜
LVII
À UNE MADONE
ex-voto*1 dans le goût espagnol

マリー・ドーブラン詩群ここまで 対句

私は貴女に捧げたい、聖母(マドンナ)よ、わが恋人よ、
私の苦悩の奥底に、地の下深くの祭壇を、
先ず我が心の一番暗い隅を掘り下げる、
世俗的な欲望や嘲る目から遠く離れる、
艶やかな壁龕(へきがん)、紺碧と黄金に彩られ
そこに立つ貴女、奇跡の彫像となれ。
磨かれた詩句、純粋な金属の格子もて、
水晶の韻をそこに精巧にちりばめて、
貴女の頭に大きな花輪を作ってあげよう。
わが嫉妬のうちに、はや死すべき聖母よ、
貴女の外套(マント)、裁(た)ち方(かた)ならまあ解る、
ゴツゴツと硬く、重く、裏地は疑惑、
それは監視哨のように、貴女の魅力を封じ込めて。
真珠の刺繍の代わりに、わが涙のことごとくを込めて!
貴女のドレスは、打ち震え波打つわが欲望にて、
織り成せるわが欲望たるは、高くも低くて、
襞(ひだ)の高みに打揺(うちゆら)らぎ、谷へ下れば鎮まり返り、
白と薔薇色の貴女の体を、キスでくまなく覆い。
敬意を込めて奉る、美しい一足の靴を
サテンの、貴女の謙虚な神聖な両足を、
柔らかい抱擁の中に閉じ込めるような、
忠実な木型がその形容を変えぬような。
もし我が勤勉なる技芸の総力を凝らしてもなお、
足台となる銀の月を彫ること叶わぬなら、もう
わがはらわたを噛める大蛇を押し込むは
貴女の踵の下。踏みにじり、嘲笑うは
貴女、勝利の女王、贖罪の実を結ぶだろう、
この怪物は憎しみと唾棄で膨れ上がろう。
我が想い、蝋燭よろしく立ち並べ給え、
処女の女王の花咲き乱れる祭壇の前、
青く塗られた天井に映り星と輝く、
常に燃え盛る目で貴女を見守る。
して我が内なるもの、なべて貴女を慈しみ、讃えるよう、
ことごとくが安息香、薫香、乳香、没薬となろう、
白く雪かぶるような山巓(さんてん)の貴女に向かって絶え間なく、
わが嵐のような魂が、蒸気と化して立ちのぼる。

Je veux bâtir pour toi, Madone*2, ma maîtresse,
Un autel souterrain au fond de ma détresse,
Et creuser dans le coin le plus noir de mon cœur,*5
Loin du désir mondain et du regard moqueur,
Une niche, d’azur et d’or tout émaillée,
Où tu te dresseras, Statue émerveillée.
Avec mes Vers polis, treillis d’un pur métal
Savamment constellé de rimes de cristal,
Je ferai pour ta tête une énorme Couronne ;
Et dans ma Jalousie, ô mortelle Madone,
Je saurai te tailler un Manteau, de façon
Barbare, roide et lourd, et doublé de soupçon,
Qui, comme une guérite, enfermera tes charmes ;
Non de Perles brodé, mais de toutes mes Larmes !
Ta Robe, ce sera mon Désir, frémissant,
Onduleux, mon Désir qui monte et qui descend,
Aux pointes se balance, aux vallons se repose,
Et revêt d’un baiser tout ton corps blanc et rose.
Je te ferai de mon Respect de beaux Souliers
De satin, par tes pieds divins humiliés,
Qui, les emprisonnant dans une molle étreinte,
Comme un moule fidèle en garderont l’empreinte.
Si je ne puis, malgré tout mon art diligent,
Pour Marchepied tailler une Lune d’argent,
Je mettrai le Serpent qui me mord les entrailles*3
Sous tes talons, afin que tu foules et railles,
Reine victorieuse et féconde en rachats,
Ce monstre tout gonflé*4 de haine et de crachats.
Tu verras mes Pensers, rangés comme les Cierges
Devant l’autel fleuri de la Reine des Vierges,
Étoilant de reflets le plafond peint en bleu,
Te regarder toujours avec des yeux de feu ;
Et comme tout en moi te chérit et t’admire,
Tout se fera Benjoin, Encens, Oliban, Myrrhe,
Et sans cesse vers toi, sommet blanc et neigeux,
En Vapeurs montera mon Esprit orageux.

最後に、貴女にマリア役を遂げさせるため、
そして愛と蛮行を混ぜ合わせるため、
黒い欲望!「七つの大罪」に数えられるうち、
悔恨の処刑人、私は鋭利なナイフを7本持ち、
鋭敏で、かつ鈍感な曲芸師のようにして、
貴女の愛の深さを狙う的にして、
全て突き刺す、貴女の喘ぐ心臓へ、
啜り泣く心臓へ、血を流す心臓へ!

Enfin, pour compléter ton rôle de Marie,
Et pour mêler l’amour avec la barbarie,
Volupté noire ! des sept Péchés capitaux,*6
Bourreau plein de remords, je ferai sept Couteaux
Bien affilés, et, comme un jongleur insensible,
Prenant le plus profond de ton amour pour cible,
Je les planterai tous dans ton CÅ“ur pantelant,
Dans ton CÅ“ur sanglotant, dans ton CÅ“ur ruisselant !


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訳注

*1 ex-voto:
エクス ヴォート(Ex Voto)とはラテン語で「奉納品」をいう。教会で願掛けをし、その願い事が叶った時に感謝を込めて奉るもの。

en.m.wikipedia.org

よく「絵馬」と訳されるが、奉納する時点も目的も姿形も異なるので、少し変えた。というか、形は全く際限ない。例えば、『1662年の奉納品』(Ex-Voto de 1662)と呼ばれるものは、治癒の奇跡を描いた一幅の絵である。

他にも多種多様な奉納品が見つかる。ただ、此処では聖心 Scared Heart と呼ばれる、心臓を象った捧げ物をいうのであろう。逆にいうと、この詩は「聖心」信仰に基いて書かれている。

ja.m.wikipedia.org

Ex Voto sacred heart として検索すると、売り物の「心臓」が大量に出てくる。奉納以外にもお守りとして、また蒐集の対象にもなるようだ。奉納品が払い下げになることもあるらしい。

画像はオックスフォード大学の Amulet コレクションにある Sacred Heart Ex-Voto, France と題されたもので、説明によると

聖心の信仰は 11 世紀にまで遡ることができます。これは17世紀、フランスの修道女マルグリット=マリー・アラコックが救い主イエスの幻視を体験し、その中で救い主イエスは彼女に語りかけ、茨と炎に絡め取られ十字架に覆われた心臓を見せたことで人気を博しました。彼女は、自身と祖国を聖心の崇敬に捧げ、聖心の祝日を制定しました。
マルグリットの死後 30 年経った 1720 年、マルセイユの司教は、ヨーロッパ全土に蔓延していた疫病からこの地域を救おうと、教区を聖心に奉献しました。街は疫病の流行からすぐに回復し、聖心は危険や病気から身を守るために身に着けられる人気の紋章となりました。 

という。この「心臓」に剣を突き立てた意匠のものもあり、「スペイン風」とはそのことであろう。しかし Ex Voto Sacred Heart sword として検索しても、引っかかるのは商品ばかりで、画像として使えそうなものが見当たらない。奉納品とか聖心とか称する割には、商魂逞しいページばかり出てくるのは正直、うんざり。このような「エクス・ヴォート」を巡る事象については、岩井洋『出現・奇跡・奉納』が詳しいけれど、払い下げについては触れられていない。
と書いていたのだが、大きな見落としがあった。「剣7本」は、信心業「聖母マリアの七つの悲しみ」を表してもいたのだ。

ja.m.wikipedia.org

*2 Madone:
「聖母子」と訳されるのが La Madone au Chanoine であるから、この語は「聖母」そのもの。愛欲の対象とする女「マリー」を「聖母マリア」に重ねている訳で、これは題名共々、冒瀆に近い。毎回そんなギリギリを攻めなくてもと思うが、幸い(?)裁判の対象にはならなかったようである。
なお、イタリア語では Madonna といい、我々に馴染みの「マドンナ」は此方の発音に近く、Missa della Madonna(聖母のミサ)と言えばフレスコバルディの大作『音楽の花束 Fiori musicali』の一部をなす典礼曲集。Marienvesper とも呼ばれるモンテヴェルディ『聖母マリアの夕べの祈り (Vespro della Beata Vergine; SV 206, 206a)』も似たようなものだが、此方は題名に「処女マリア」を謳うせいか、 Madonna と呼ばれることはあまりないようである。いよいよ関係ないけれど、合衆国の歌手“マドンナ”に至っては波長が合わないというのか、出てきた時から大嫌い。あの小娘はマドンナじゃなくてマリリン(の追っかけ)じゃないのか?と最初に思ったからか、未だに歌を聞こうという気にはなれない。
*3 le Serpent...:
創世記3章

14 主なる神はへびに言われた、「おまえは、この事を、したので、すべての家畜、野のすべての獣のうち、最ものろわれる。おまえは腹で、這いあるき、一生、ちりを食べるであろう。
15 わたしは恨みをおく、おまえと女とのあいだに、おまえのすえと女のすえとの間に。彼はおまえのかしらを砕き、おまえは彼のかかとを砕くであろう」。

*4 gonflé:
怪物が「膨れ上がる」までしか書いていないが、これを「足台と為し給え」という訳で、聖母は勇ましくも怪物を踏んで立つ形。

聖人が怪物を踏みつけにする構図は、聖ゲオルギウスの竜退治に倣ったものかもしれない。

更にこの構図の元ネタと目されるホルス神ワニ退治の彫刻も発掘され、ルーブル美術館が所蔵している。

踏み心地が良さそうには見えないけれど、邪鬼を踏みつけにする図は仏像、特に四天王像や降三世明王像にも見られる。

日本や中国では本来の意味が失われてしまったが、元になったヒンズー神像図の約束事では、邪鬼と見えるものは他の神であり、その権能を奪い取った事を示している。

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マハーカーラの謎

あるいは東西交流から生まれた姿かもしれない。ヘーラクレースがヴァジュラパーニとして仏教に取り込まれ、執金剛神として伝わるくらいだから、前例がない訳でもない。

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*5 cœur;
「心」であり「心臓」でもある。英語の heart も、両者を区別しない。従って物理的に「お前の心臓を突き刺す」という表現で、心理的に「お前の心を刺す」という意味になる。
*6 des sept Péchés capitaux,:
絵図のとおり『7つの大罪』は
  • 強欲 avarice
  • 憤怒 colère
  • 嫉妬 envie
  • 暴食 gourmandise
  • 色欲 luxure
  • 傲慢 orgueil
  • 怠惰 paresse
であり、「悔恨 remord」は入っていない。内容からして「嫉妬 envie」である筈だが、詩集『悪の華』に含まれる envie は1箇所のみ、jalousie も1箇所のみ。対して remord/remords は20箇所に及ぶから、これは書き損ねではなく、故意に書き換えたものであろう。

【対訳】ボードレール『悪の華』56. 秋の歌

悪の華
Les Fleurs du mal (1861)

Charles(シャルル) Baudelaire(ボードレール)/萩原 學(訳)


憂鬱と理想
SPLEEN ET IDÉAL


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56. 秋の歌
LVI
CHANT D’AUTOMNE

マリー・ドーブラン詩群 二部構成 脚韻ABAB


もうじき、我等は凍(い)てつく闇に沈む。
さらば、短すぎた夏の光よ!
早くも、悼(いた)ましい音が耳につく、
中庭の石畳に響く薪(まき)の音。

Bientôt nous plongerons dans les froides ténèbres ;
Adieu, vive clarté de nos étés trop courts !
J’entends déjà tomber avec des chocs funèbres
Le bois retentissant sur le pavé des cours.


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冬の間中(あいだじゅう)、渦巻くは「憤怒」、自分の中に
憎しみ、戦慄、恐怖、過酷な強制労働、
そして、極北凍土における太陽のように、
私の心臓は凍てついた赤い塊となろう。

Tout l’hiver va rentrer dans mon être : colère,
Haine, frissons, horreur, labeur dur et forcé,
Et, comme le soleil dans son enfer polaire,
Mon cœur ne sera plus qu’un bloc rouge et glacé.


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丸太が落ちる度に、身震いしながら耳を傾ける。
もうくぐもった響きはない、処刑台を組む音に。
私の精神は、倒される塔のように傾けられる、
不屈の重い破城槌の打撃に。

J’écoute en frémissant chaque bûche qui tombe ;
L’échafaud qu’on bâtit n’a pas d’écho plus sourd.
Mon esprit est pareil à la tour qui succombe
Sous les coups du bélier infatigable et lourd.

単調な衝撃がどこか心地よさの域。
棺桶が急遽、どこかで釘付けされているよう。
誰の棺(ひつぎ)?……昨日は夏。今や秋!
この謎めいた音、旅立ちを告げるよう。

Il me semble, bercé par ce choc monotone,
Qu’on cloue en grande hâte un cercueil quelque part.
Pour qui ? — C’était hier l’été ; voici l’automne !
Ce bruit mystérieux sonne comme un départ.

II

君の切れ長の緑がかった目の光が好きだ、
優しい美女よ。しかし今日は全てが苦い、
あなたの愛も、寝室も、暖炉も、要らないのだ、
今は何ひとつ、海に輝く陽に及ばない。

J’aime de vos longs yeux la lumière verdâtre,
Douce beauté, mais tout aujourd’hui m’est amer,
Et rien, ni votre amour, ni le boudoir, ni l’âtre,
Ne me vaut le soleil rayonnant sur la mer.


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それでも私を愛し給え、優しい心よ!母に在り給え、
恩知らずにも、悪人にも、
恋人で在れ、姉妹で在れ、ほんのつかの間であれ。
華やかな秋の、あるいは沈む太陽の。

Et pourtant aimez-moi, tendre cœur ! soyez mère,
Même pour un ingrat, même pour un méchant ;
Amante ou sœur, soyez la douceur éphémère
D’un glorieux automne ou d’un soleil couchant.

直ぐ済む事だ!墓が待っている、貪欲に!
お願いだ、君の膝枕を貸しておくれよ、
味あわせてくれ、灼熱の白い夏を惜しみ、
秋も深まる程に黄色く柔らかくなる光を!

Courte tâche ! La tombe attend ; elle est avide !
Ah ! laissez-moi, mon front posé sur vos genoux,
Goûter, en regrettant l’été blanc et torride,
De l’arrière-saison le rayon jaune et doux !


訳注

この詩にはフォーレが作曲しており、流石の美しさであるけれど、一部省略されているのは残念。陰鬱な詩想を歌うにも関わらず、何故か他にも多くの作曲があるのは引く。その理由を探してみたところ、キリスト教会では(国により若干の違いはあるが)11月2日を「死者の日」「万霊節」と定め、全ての死者の魂のために祈りを捧げる日とする。それで11月は「死者の月」とされるので、作者も読者もこれを意識しているというか、本邦におけるお盆のような感覚なのであろう。念の為に付け加えると、「お盆」は秋の季語である。

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ゴトンゴトンと倒れる音が、前半のモチーフになっている。冬に備えて薪を積む音を聞いていたら、 やがて断頭台を立てる音と聞こえ、精神を打ち倒す破城槌となり、遂には棺桶に釘打つ音と化す。後半では恋人の緑の目の光が、黄色い陽の光に入れ替わる。冷たい音から暖かい光に代わったのなら安心だが、聞こえる音が止まったとは書いていない辺りがボードレールである。

colère:
フランス映画では Le Colère として、「七つの大罪」に数えられる「憤怒 wrath」に当てた事もある。ボードレールがそこまで意識したかどうか。
enfer polaire:
enfer はたいてい「地獄」「冥土」だけれども、「凍土」を指すこともあり、この場合は此方が合うようだ。
「メイドの土産」って土産物も本当にあったが、もう売ってないか。
mon front posé sur vos genoux:
「君の膝に私の額を乗せて」というから、実は「膝枕」とは逆の姿勢。であるが、日本の男女間でそんな姿勢を取ると、おそらく違う意味に取られると思われるので、修正を入れた。

【対訳】ボードレール『悪の華』55. 語らい

悪の華
Les Fleurs du mal (1861)

Charles(シャルル) Baudelaire(ボードレール)/萩原 學(訳)


憂鬱と理想
SPLEEN ET IDÉAL


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55. 語らい
LV
CAUSERIE

マリー・ドーブラン詩群

ソネット形式 脚韻ABAB CDCD EFE FGG 

貴女は美しい秋の空、バラ色に澄み切った!
私の中の悲しみは、潮のように満ちてきて、
わが不機嫌な唇に、引き潮となったなら、
その苦い泥は即ち、突き刺さるような思い出。

Vous êtes un beau ciel d’automne, clair et rose !
Mais la tristesse en moi monte comme la mer,
Et laisse, en refluant, sur ma lèvre morose
Le souvenir cuisant de son limon amer.

……わが胸を虚しくも、うっとりと滑る君の手。
求めるところは、友よ、荒れ果ててしまった。
さる女の獰猛な爪と歯とに掛けられて。
わが心はもう探すな、獣に喰われてしまった。

— Ta main se glisse en vain sur mon sein qui se pâme ;
Ce qu’elle cherche, amie, est un lieu saccagé
Par la griffe et la dent féroce de la femme.
Ne cherchez plus mon cœur ; les bêtes l’ont mangé.

わが心は宮殿、喧騒に荒れ果てた、
酔っぱらい、殺し合い、髪つかみ合い!
……貴女の香り、喉のぐるりを囲んだ!……

Mon cœur est un palais flétri par la cohue ;
On s’y soûle, on s’y tue, on s’y prend aux cheveux !
— Un parfum nage autour de votre gorge nue !…


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そうか。美女よ、魂の劫罰よ、君はそれがお望み!
ならば饗宴のように輝くその炎の瞳もて、
焼き尽くすがいい、獣が食い散らした残り滓でも!

Ô Beauté, dur fléau des âmes, tu le veux !
Avec tes yeux de feu, brillants comme des fêtes,
Calcine ces lambeaux qu’ont épargnés les bêtes !


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Discipline: 40th Anniversary Edition

Discipline: 40th Anniversary Edition

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劇的物語『ファウストの劫罰』は、ベルリオーズがゲーテ『ファウスト』を読んで感動のあまり作曲に及んだものであるが、初演(1846)は全く客が入らず、ベルリオーズは破産し、オペラ=コミック座は大損害を被った。しかしベルリオーズは1847年、バルザックの助言によりロシアに逃れ、サンクトペテルブルクで3月15日、モスクワで4月18日、ベルリンで6月10日、ロンドンでは翌年2月7日、作品を演奏しているから、パリの聴衆に問題があったようだ。パリで初めて成功したのは1877年、エドゥアール・コロンヌとジュール・パスドゥルーの手によるもので、この時すでにボードレールは亡くなっているから、この曲を聞けたかどうか微妙なところである。