POETIC LABORATORY ★☆★魔術幻燈☆★☆

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【対訳】ボードレール『悪の華』56. 秋の歌

悪の華
Les Fleurs du mal (1861)

Charles(シャルル) Baudelaire(ボードレール)/萩原 學(訳)


憂鬱と理想
SPLEEN ET IDÉAL


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56. 秋の歌
LVI
CHANT D’AUTOMNE

マリー・ドーブラン詩群 二部構成 脚韻ABAB


もうじき、我等は凍(い)てつく闇に沈む。
さらば、短すぎた夏の光よ!
早くも、悼(いた)ましい音が耳につく、
中庭の石畳に響く薪(まき)の音。

Bientôt nous plongerons dans les froides ténèbres ;
Adieu, vive clarté de nos étés trop courts !
J’entends déjà tomber avec des chocs funèbres
Le bois retentissant sur le pavé des cours.


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冬の間中(あいだじゅう)、渦巻くは「憤怒」、自分の中に
憎しみ、戦慄、恐怖、過酷な強制労働、
そして、極北凍土における太陽のように、
私の心臓は凍てついた赤い塊となろう。

Tout l’hiver va rentrer dans mon être : colère,
Haine, frissons, horreur, labeur dur et forcé,
Et, comme le soleil dans son enfer polaire,
Mon cœur ne sera plus qu’un bloc rouge et glacé.


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丸太が落ちる度に、身震いしながら耳を傾ける。
もうくぐもった響きはない、処刑台を組む音に。
私の精神は、倒される塔のように傾けられる、
不屈の重い破城槌の打撃に。

J’écoute en frémissant chaque bûche qui tombe ;
L’échafaud qu’on bâtit n’a pas d’écho plus sourd.
Mon esprit est pareil à la tour qui succombe
Sous les coups du bélier infatigable et lourd.

単調な衝撃がどこか心地よさの域。
棺桶が急遽、どこかで釘付けされているよう。
誰の棺(ひつぎ)?……昨日は夏。今や秋!
この謎めいた音、旅立ちを告げるよう。

Il me semble, bercé par ce choc monotone,
Qu’on cloue en grande hâte un cercueil quelque part.
Pour qui ? — C’était hier l’été ; voici l’automne !
Ce bruit mystérieux sonne comme un départ.

II

君の切れ長の緑がかった目の光が好きだ、
優しい美女よ。しかし今日は全てが苦い、
あなたの愛も、寝室も、暖炉も、要らないのだ、
今は何ひとつ、海に輝く陽に及ばない。

J’aime de vos longs yeux la lumière verdâtre,
Douce beauté, mais tout aujourd’hui m’est amer,
Et rien, ni votre amour, ni le boudoir, ni l’âtre,
Ne me vaut le soleil rayonnant sur la mer.


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それでも私を愛し給え、優しい心よ!母に在り給え、
恩知らずにも、悪人にも、
恋人で在れ、姉妹で在れ、ほんのつかの間であれ。
華やかな秋の、あるいは沈む太陽の。

Et pourtant aimez-moi, tendre cœur ! soyez mère,
Même pour un ingrat, même pour un méchant ;
Amante ou sœur, soyez la douceur éphémère
D’un glorieux automne ou d’un soleil couchant.

直ぐ済む事だ!墓が待っている、貪欲に!
お願いだ、君の膝枕を貸しておくれよ、
味あわせてくれ、灼熱の白い夏を惜しみ、
秋も深まる程に黄色く柔らかくなる光を!

Courte tâche ! La tombe attend ; elle est avide !
Ah ! laissez-moi, mon front posé sur vos genoux,
Goûter, en regrettant l’été blanc et torride,
De l’arrière-saison le rayon jaune et doux !


訳注

この詩にはフォーレが作曲しており、流石の美しさであるけれど、一部省略されているのは残念。陰鬱な詩想を歌うにも関わらず、何故か他にも多くの作曲があるのは引く。その理由を探してみたところ、キリスト教会では(国により若干の違いはあるが)11月2日を「死者の日」「万霊節」と定め、全ての死者の魂のために祈りを捧げる日とする。それで11月は「死者の月」とされるので、作者も読者もこれを意識しているというか、本邦におけるお盆のような感覚なのであろう。念の為に付け加えると、「お盆」は秋の季語である。

ja.m.wikipedia.org

ゴトンゴトンと倒れる音が、前半のモチーフになっている。冬に備えて薪を積む音を聞いていたら、 やがて断頭台を立てる音と聞こえ、精神を打ち倒す破城槌となり、遂には棺桶に釘打つ音と化す。後半では恋人の緑の目の光が、黄色い陽の光に入れ替わる。冷たい音から暖かい光に代わったのなら安心だが、聞こえる音が止まったとは書いていない辺りがボードレールである。

colère:
フランス映画では Le Colère として、「七つの大罪」に数えられる「憤怒 wrath」に当てた事もある。ボードレールがそこまで意識したかどうか。
enfer polaire:
enfer はたいてい「地獄」「冥土」だけれども、「凍土」を指すこともあり、この場合は此方が合うようだ。
「メイドの土産」って土産物も本当にあったが、もう売ってないか。
mon front posé sur vos genoux:
「君の膝に私の額を乗せて」というから、実は「膝枕」とは逆の姿勢。であるが、日本の男女間でそんな姿勢を取ると、おそらく違う意味に取られると思われるので、修正を入れた。