2012年3月27日火曜日

“知りたい情報”がサクサク集まる!ネット速読の達人ワザ [book]

“知りたい情報”がサクサク集まる!ネット速読の達人ワザ

アルファブロガー・アワードを3度受賞した ネタフル を運営する,コグレマサトさんによる一冊.毎日10-20エントリーという驚異的なアウトプットを続ける彼が,そのネタとなるべきインプットをどのように実践しているかを,比較的パソコンなどに詳しくない人向けに紹介しています.

現代人にとって、今、本当に必要な能力は、ネット情報の速読術。

本書では、パソコン画面上の情報が超高速で読めるテクニックや、膨大なネット情報の中から、自分の知りたい情報がどんどん集まる仕組みのつくり方を紹介します。

-- コグレマサト (序文より)


本書の9割は,具体的なその「手法」を解説しています.つまり魚を与えています.

それはコグレさん自身も述べている通り,ヘビーユーザーには物足りないかもしれませんが,「もっといいやり方はないだろうか」と模索している人が参考にするには良いかもしれません.

ただ,手法はいつか陳腐化するし,結局万人向けにはなりません (例えば所謂「あとで読むサービス」は,本書が推薦する Instapaper よりも個人的には Readability の方が好きだったり).

それよりも重要なのは,残りの1割の概念的な部分.魚ではなく釣り方でしょう.

具体的には,「情報はフロー (Twitter のように情報が流れていくメディア) とストック (ブログのように情報が蓄積されるメディア) で考える」「情報を取捨選択する為の『選球眼』を鍛える」という概念.

さらに,これは直接本書に書いてあったことではありませんが,情報を摂取するということに対して自分なりの方法を確立すること.本書の内容を全てコピーするのではなく,あくまで確立された1つの方法の例,として捉えるべきです.

以上を踏まえて私が本書から読み取ったメッセージは,「刀は研ぎ続けよう」ということです.手法は陳腐化していくので,自分なりの方法を確立した上で,それを常にチューニングしていくことが大切です.


要するに,だ.

「自身のスタイルを確立する」

「自身の行動から,常に改善点を意識する」

ということ…と考えると,ネット上の情報収集に留まらず,全ての物事にあてはまる,普段から習慣としておくべきことに帰着しますね.


さて本書のレビューは以上ですが,情報収集に話を戻すと,大きなお世話かもしれませんが,なんとか情報量を増やそうと躍起になって,本書をそのノウハウ本として手に取るのであれば,それはお勧めしません.その考え方には際限がなく,破滅的だからです.

この情報過多の時代,絶対量を増やすことに意識が向いてしまうと,疲弊してしまいませんか? 以前も書いたことですが,最後に私のインプットに対するスタンスを,今一度述べておきます.

情報収集? アホか! 実はそんなことがしたかったわけではないのだ…という気がする.

(中略)

そう,インターネットからは情報ではなくインスピレーションがほしかったのだ.

Peace Pipe: 「おもしろくて便利じゃないもの」は,少なくともおもしろい [memo]

情報なんて,欲しい時に検索すればすぐ手に入る時代に,なぜ収集する必要があるのでしょう.「情報収集」と構えてしまうと,なんだかまるで息苦しい.

心地良いと感じるインプットの量には個人差がある.客観的にではなく,主観的に適度なインプットを心掛け,その範囲で手に入らない情報は,元々自分には重要ではなかったんだと考える.自らアウトプットをすればインプットの質は高まるし,ブログや Twitter,Tumblr をはじめ,自己表現を助長するツールやサービスがたくさんある.

そしてさらにその枠を越えて,美しい文章や目を奪うような写真,キラキラした音楽や鳥肌が立つような感性に出会う為に,インターネットはあるんだと思いたい.

で,自分にとっておもしろいかおもしろくないか,という尺度を最後の拠り所にしておけば,情弱みたいな概念はなくなる.ステマだろうがデマだろうが,おもしろければ正義…ぐらいでもいいんじゃない?

Peace Pipe: インターネットは,便利なものよりも,おもしろいものであってほしい [memo]

「入ってくる情報は全て処理しなければならない」と思うと,心理的負担が大きくなってしまいます.

例えば RSS フィードの未読記事などは,時間が取れない時は読まずに全て既読にする (捨てる).インプットが多ければ,重要なものはまた返ってくる.

インプットは風のようなもので,その時たまたま吹いている風に吹かれればいい.インプットを増やすのは,風に吹かれる機会と出会いの確率を高める為であって,処理する労力や負担を増やす為ではない,というのが持論です.

Perfectionist (完全論者) では,ネット上では生きていけないのです.

Peace Pipe: 情報の呼吸法 - 津田大介のメディアに対する取り組みの過去と現在を知ることで,自分のメディアに対する取り組みの現在とこれからを思う本 [book]

4413038088“知りたい情報”がサクサク集まる!ネット速読の達人ワザ
コグレ マサト


2012年3月18日日曜日

有給を潰したり無駄な残業をすることは,恥ずかしくてカッコ悪い [memo]

年度末まであと2週間となったので,以前 Google+ に書いたことですが,こちらにも転載しておこうかな.

長い休みを取ると,ごちゃごちゃうるさいこと言う輩がいますよね.
しかもそんな人に限って有給を潰している,さらに「長い時間働くこと = たくさん働くこと」「休みを潰してまで会社の為に働いてる自分はエラい」という大きな勘違いをしている場合が多い.

そんな輩に一言言っとくか.


有給という認められた権利すら満足に使いこなせない人が,その人のモノサシで他人の休みをとやかく言う資格は一切ありません.

むしろそのメンタリティーこそが,間違ったプロセス,業務上のボトルネック,無駄なミーティングといった,本質的な問題の顕在化を妨げているんです.

どちらが会社にとって悪なのか,今一度よく考えた方がいいと思います.


もちろん仕事を放ったらかして休むのは論外.
仕事ができるのは当たり前.
その上で,有給を潰したり無駄な残業をすることは,恥ずかしくてカッコ悪い,ということです.




●おまけ(メンバーの休暇について)

1)メンバーが休みたいと言ったら全てノータイムでOKする。
2)ちゃんと考えられる人は、ちゃんと時期などを考えてるから問題ない。
3)ちゃんと考えられない人は、いつ休まれてもとくに困らない。
4)休みたい人を無理矢理引き止めてもいいことがない。


https://plus.google.com/111617911388903609906/posts/RSJ6z783VCa


2012年3月15日木曜日

ネットで成功しているのは〈やめない人たち〉である [book]

ネットで成功しているのは〈やめない人たち〉である

人気ブログ,みたいもん! を執筆し,2011年度のアルファブロガー・アワードを受賞した,いしたにまさきさんによる一冊.

本書の主張を一言で表すと,タイトルの通り,ネットで成功しているのは「やめない人たち」である,となります (ちなみに本書の中で「やめないこと」と「続けること」は違う,と言及されています) が,その結論に至るアプローチは非常にユニークです.

本書を手がけるにあたり,いしたにさんはまずブロガー・文化人・エンジニア・ネット有名人などを対象に,以下のアンケートを実施します.

・お名前

・Twitter ID

・ご自分の Web サイト,ブログなど

・いちばん好きな Web サイト (Web サービスも含む) はどこですか?

・初めて見た時にいちばん衝撃を受けた Web サイト (Web サービスも含む) とその理由

・ネットで情報発信する際にいちばん必要な個人のスキルはなんでしょう?

・あなたがネットで情報発信する際に心がけていることは?

・あなたがネットでの活動を続けることができた理由はなんでしょう? なぜ続いてきたのでしょう?

・あなたがネットで活動を続けてきたことで,収入に変化はありましたか?

・収入に変化があった場合,それは活動をはじめてからどれぐらい経ってからですか? (半年・1年・3年・5年・その他)

・ブログなどのアクセス数を増やす工夫をしていますか? (あり・なしのチェックボックス回答)

・ツイッターのフォロワーを増やす工夫をしてますか? (あり・なしのチェックボックス回答)


一般的にアンケート調査の成否というものは,ひとえにその設問にかかっていますが,さすがいしたにさんと言うべきか,思わず自分に当てはめて考えてしまうほど面白く鋭い設問です.

そして得られた110人の回答を一挙に掲載し,その結果を分析し,インタビューを交えながら考察を重ね,最後に「ログ的にものを考える」という持論を展開していきます.


とにかくアンケート結果の一挙掲載が圧巻です.そうそうたるメンバー - その多くは,普段からネットで目にするコンテンツを生み出しているブロガーやクリエイターの方々 - の生の声は,首が折れるほど頷きたくなるものから,考えもしなかったことを意識させられるものまであり,とても興味深いものでした.これだけでも本書を手に取る価値がある.

また,最終章の「ログ的にものを考える」については,ログが重要であるからこそやめないことが大事であり,ではログをどう蓄積し,どう活用するべきかについて,独自の見解を披露しています.

それぞれの詳細については本書を手に取って頂きたいのですが,ここではせっかくなので,上記アンケートに対する私の回答を書いてみたいと思います.


【お名前】

Toshiya Hasegawa


【 Twitter ID 】

@toshiya


【ご自分の Web サイト,ブログなど】

http://peace-pipe.blogspot.com/


【いちばん好きな Web サイト (Web サービスも含む) はどこですか?】

現時点では Tumblr かな (Peace Pipe: Tumblr のおもしろさを書いてみる [memo]).

あとはもちろん自分のブログですね.


【初めて見た時にいちばん衝撃を受けた Web サイト (Web サービスも含む) とその理由】

1つだけ挙げるなら Wolfgang's Vault です.単に音楽が好きで,自分にとっては宝箱のようなサイトだから.

ネット的に答えると,2005年前後にウェブが静的なものから動的なものに移り変わっていく中で,その一端を担ってきたサイトやサービス…具体的には,コンテンツにおいては Digg とか Delicious とか Flickr とか,UI においては Gmail とか,更にその時代の数々のブログには,それぞれ衝撃を受けてきました.

最近のものだと Turntable.fm が一番衝撃的でしたが,アメリカ以外からアクセスできなくなってしまったのが残念.

その他にも,Google Earth とか Google Maps (特にストリートビュー) とか Wikipedia とか YouTube とか Twitter とか Facebook とか,どれもめちゃくちゃすごいと思いますけど.


【ネットで情報発信する際にいちばん必要な個人のスキルはなんでしょう?】

頭や心にある漠然としたものを,素早く形にして吐き出す力.

受け取る情報を鵜呑みにするのではなく,自分なりに咀嚼する力.


【あなたがネットで情報発信する際に心がけていることは?】

完璧主義にならないこと.

あくまで主観的に,自分というフィルターを通して見たり感じたりしたことを綴る,ということ.


【あなたがネットでの活動を続けることができた理由はなんでしょう? なぜ続いてきたのでしょう?】

アウトプットをすればインプットの質が高まるというネットの原則を,身をもって体験してしまったから.今ではそれが当たり前になってしまったから.

つまり基本,自分の為にやっているから.


【あなたがネットで活動を続けてきたことで,収入に変化はありましたか?】

はい (雀の涙ですけど).


【収入に変化があった場合,それは活動をはじめてからどれぐらい経ってからですか? (半年・1年・3年・5年・その他) 】

1年.


【ブログなどのアクセス数を増やす工夫をしていますか? (あり・なしのチェックボックス回答) 】

今はしてません (昔はしてました).


【ツイッターのフォロワーを増やす工夫をしてますか? (あり・なしのチェックボックス回答) 】

いいえ.

余談ですけど,ツイッターのフォロワー数って,あまり意味が無いと思ってます.

個人的には,「Twitter でどれだけの人にフォローされているか」は,最早あまりクレディビリティーにならないと思う.フォロワーはお金でも買えるし,本書にあるように,誰かをフォローしたらその何割かはフォロー返しをする.Sat Jan 14 13:00:41 via YoruFukurou

なので,(1) 適当に沢山フォローする → (2) フォロー返ししなかった人をリムーブ → (1) に戻る…を繰り返せば,簡単にフォロワーは増やせる.Sat Jan 14 13:01:40 via YoruFukurou

強いて言うなら,フォロワー数よりも,「いくつの,どんなリストに入れられているか」の方が重要,というか,知らない人の信頼性を計る上では見た方が良いポイント.Sat Jan 14 13:02:51 via YoruFukurou



加えて,アンケート結果の中で私が特に共感を覚えた,drikin さんの回答を1つ紹介しておきます.「インターネットはタイムマシン」って名言だ.
結局、ネットの先に人がいるから。
インターネットはバーチャルで人との付き合いが薄れるなんていうのはナンセンスの極みで、僕としてはインターネットは人間のコミュニケーション能力の増幅装置であり、タイムマシンであると思っていて、人が一人で生きられず、常に他人とのコミュニケーションの上で成り立ってる限りネット活動は続くと思う。

-- drikin (「あなたがネットでの活動を続けることができた理由はなんでしょう? なぜ続いてきたのでしょう?」という設問に対して)



そもそもインターネットなんていうものは,それぞれが勝手な定義をして勝手に摂取すればいいと思ってる.たまに「ネットで成功する為のノウハウ本」を見かけますが,そんなものは何の役にも立ちません.

本書はその類の本ではなく,インターネットのテクノロジー・アーキテクチャー・コミュニケーションを身体で理解している人たち,そしてそれが生活の一部となっている人たちの本音に触れられる本です.それはあなたに確かな気づきを与え,自らのポリシーを振り返るきっかけをもたらすでしょう.

4774144681ネットで成功しているのは〈やめない人たち〉である
いしたに まさき


2012年3月12日月曜日

真の Post-PC era 到来を告げる,creation device となった iPad [memo]

先週発表された iPad について,Leo Laporte の論点が非常に鋭いと思ったので,以下に個人的な補足と所感を交えてメモしておきます.The Tech Guy エピソードナンバー855 のオープニングトークより.

新しい iPad は retina display (2048x1536・Full HD TV よりも高解像度) になり,カメラも強化された.つまりこのデバイスは…Mon Mar 12 06:59:10 via YoruFukurou

これまで iPad は "consumption device" (コンテンツを視聴する為の機器) だったが,iPad は3世代目にして "creation device" (コンテンツをクリエイトすることもできる機器) になった.Mon Mar 12 07:00:27 via YoruFukurou

例えば今回の iPad は,1080p の動画を撮影しながら,画面上でリアルタイムにその動画が再生された時のイメージを確認できる,唯一のデバイスである.Mon Mar 12 07:01:10 via YoruFukurou

iCloud はビデオにも対応したし,iOS 用 iMovie もアップデートされた.iOS 用 の iPhoto もリリースされたし,iWork だってある.サービスやアプリも,iPad を "creation device" にする為に着々と足並みを揃えている.Mon Mar 12 07:01:59 via YoruFukurou

キーボードが無い,というのはその通りだが,bluetooth キーボードを繋ぐのではない (それなら PC を追いかけているに過ぎない).そうではなく,タブレットでは声による入力でタイピングをするのだ,という明確な方向性を Apple は iOS5.1 で打ち出した.Mon Mar 12 07:02:35 via YoruFukurou

これまでタブレットは「PC の傍らにあるデバイス」だったが,content creation device となったタブレットは,「これだけでいい.これがあれば PC は要らないデバイス」になりつつある.Mon Mar 12 07:03:04 via YoruFukurou

新しい iPad には名前がない."iPad3" でも "iPad HD" でもない.分かりにくいと文句を言う人がいるが,iMac や MacBook が世代ごとに名付けられていないように,Apple は iPad を PC の領域まで昇華させたのではないか.Mon Mar 12 07:03:36 via YoruFukurou

真の Post-PC era が到来する.例えば Windows8 などを見ても,完全に業界のトレンドはその方向.Mon Mar 12 07:03:59 via YoruFukurou

ところで「Apple 製品は使いやすい」と言う人がいるけど,Apple は別に「使いやすさ」を追い求めているわけではない.iPhone にはしばらく Copy&Paste すら無かったし,はっきり言って使いにくかった.Mon Mar 12 07:04:36 via YoruFukurou

iPhone では,今日において常識である Copy&Paste にすら,なかなか対応しなかった Apple が,「Full HD を超える解像度をタブレットで実現する」については世界ではじめてやってきた.これが何を意味するか.Mon Mar 12 07:05:03 via YoruFukurou

家電メーカーが画質だパネルだと言いながら大型テレビに開発投資をしているが,手元で観る retina の9.7インチディスプレイの視聴体験は,「秘伝のタレ」を詰め込んだ10フィート先の大画面 3D TV のそれを,あっさりと凌駕してしまうかもしれない.Mon Mar 12 07:05:47 via YoruFukurou



2012年3月7日水曜日

リトル・ブラザー - 情報社会と監視社会の意味を再考させられるサイエンス・フィクション [book]

リトル・ブラザー

高校生ハッカーの主人公 - Linux をインストールした Xbox を踏み台に傍受をかいくぐり,テレビとラジオと新聞からしか情報を得ない両親を持ち,普通の高校生と同じように恋に焦がれる - が,無実の罪を着せられ,ネットで仲間を集い,国家権力を相手に復讐をするという,とても分かりやすいストーリー.


著者のコリイ・ドクトロウは,人気ブログ Boing Boing の共同編集者としても知られる.そんな Web・テクノロジーに精通した作家が執筆しただけあり,本書に登場する技術やちょっとした小話は,どれも気がきいています.

それに伴い,例えば,今日では広く普及している公開鍵暗号方式の説明に丸々5ページ費やしたかと思うと,その直後に高校生の甘酸っぱくナイーブな海辺のパーティーの描写が続く - 但しそれは互いの公開鍵を交換する為の鍵署名パーティーである…みたいな,独特の展開を見せます.

単なるフィクションとしても,その痛快なストーリーは読みごたえがあるし,インターネットやテクノロジーが好きな方は特に共感する部分が多いでしょう.

もしもきみがまだコンピューターのプログラムをつくったことがないなら、ぜひ一度つくってみるといい。他に類を見ない体験だからだ。

(中略)

掛け値なしに感動的な体験になるはずだ。感動で胸がいっぱいになるはずだ。

-- 主人公の言葉 (本文より)



さらに特筆すべきは,空想の出来事を描いた SF でありながら,すぐ隣りで起きているかのような現実感が,本書全体に漂っていることです.いや,様々な監視や傍受など,それらの多くは実際に行われているのでしょう.

例えば昨今話題にあがることの多いプライバシー問題について.

東京から名古屋まで高速道路を使うと,通常料金は7100円.ETC を使えば最大半額まで割引され,随分お得ですよね.なぜ ETC を使った方が安くなるかについては,渋滞の解消,物流の効率化,人件費の削減,ETC の普及促進…などなど,いくつか理由が考えられますが,ETC を使うとあなたが高速道路を利用した日時が記録されるわけです.

つまりこうも考えられる.

あなたは,ETC を使うことによって,あなたのプライバシーを3550円で売ったのです.得られたプライバシーの対価として,高速料金は安くなったのです.むしろそちらを基準とするなら,匿名で東京・名古屋間の高速道路を利用するには,最大3550円の追加料金が発生するのです.ところで,こうしてあなたが切り売りしているプライバシーは,値段相応ですか?

あなたのプライバシーはあなた以外の誰か (多くの場合は買い手側) に勝手に値付けされ (多くの場合はゼロ円),あなたが知らないうちに取引されているのです.

…みたいなことを考えさせられる1冊でした.

わたしは本書を、情報社会の意味についての議論の一助となることを願って執筆した。

情報社会とは完全な管理社会なのだろうか、それとも先例のない自由な社会なのだろうか?

情報社会は、たんなる概念ではなく、わたしたちが生きなければならない現実なのだ。

-- コリイ・ドクトロウ (序文より)


4152091991リトル・ブラザー
コリイ・ドクトロウ


2012年3月2日金曜日

やってしまって,良かったと思え - 選択肢は常に1つだったと考える [memo]

前エントリー でレビューした PLAY・JOB ですが,そこで紹介されていたメッセージの1つは特に印象に残ったので,別エントリーとして取りあげてみます.

「やってしまって、良かったと思え」


人生とは、実に判断の連続である。
判断は人生そのものだと言ってもいいかもしれない。

(中略)

どれを選んだって同じ。得も損もない。
あなたが選んだものは、どれもあなたが「唯一選べたもの」だから。
そうじゃなければ、違う決定をしているはずなんだ。
私たちはすべて、選べるものだけを選んでいる。
どこに後悔する余地があるっていうんだ?


生きるということには,様々な意思決定がある.
悩むことも迷うこともある.
痛みや悲しみを伴う選択もある.
選んだ後に不安になることもある - 果たして本当に正しい選択だったのだろうか…

「選んだ以上は後悔しないように云々」みたいな言葉はよく聞くけど,そもそも選ぶという概念から抜け出して,選択肢は最初から1つだったんだと思い込んでしまう,というのは目から鱗でした.

ただの言葉遊びかもしれないけど,そういうのって結構大事だと思うんですよね.言葉ってとてもパワフルだしね.

4861139236PLAY・JOB (プレイ・ジョブ)
ポール・アーデン


PLAY・JOB - 守破離で言えば「破」ではなく「離」の立場で眺めたいポスターセッション [book]

PLAY・JOB (プレイ・ジョブ)

著者のポール・アーデンは,数々の著名な広告を手がけたクリエイター.本書の主張を一言で表わすなら,原題の "WHATEVER YOU THINK, THINK THE OPPOSITE" が示す通り,「既成概念を壊し,人と違うことをやろう」でしょうか.

本書は,こんな風にはじまります.

この本は「常識はずれな行動」の重要性を説明している。

「無茶をすること」が、いかにあなたの人生を安定させるか。

「まともじゃない方法」が、なぜ論理的な方法よりも優れているのか。

(中略)

この本はあなたが以前考えていたこと(たとえあなたが以前何を考えていたか、自分で知らなかったとしても)をめちゃくちゃに壊すだろう。

そのかわり、いくつかの確信を与える。

人生はもっとリスキーに生きた方がいいし、仕事はもっと面白おかしくやった方がいい。そして想像をはるかに超えるほど、自分はもっと自由で、適当で、でたらめな人間になった方がいい、という確信である。

この本を読んだ後は、もう何かに悩んだり、迷ったりする必要はない。


以降,見開き2ページで1つのメッセージを,象徴的な写真やイラストと共に投げかける,言わばポスターセッションのような本です.

そのメッセージをいくつか紹介すると,

「最初から『誰も選ばないもの』を選べ。それが正解だから」

「願望を捨てろ。欲求を持て」

「『やりすぎ』くらいをめざせ」

「考える前に動き出せ」

「エゴを隠すな」

「反逆者の価値を、いますぐ認めろ」

「賢くやろう。としない人が一番賢い」

…といった具合で,生きる上でのちょっとしたヒントが,力強く簡潔に述べられています.確かに物事をちょっと違った角度から捉えてみるには,いいきっかけになるでしょう.


さて個人的に思ったのは,本書は「破」ではなく「離」として摂取しないと本末転倒だよな,ということ.


武道や芸道における成長過程を表す言葉に「守破離 (しゅはり)」というものがあります.学問,技術,経営など,あらゆることに当てはまる理念です.

最初の「守」の段階では,師の教えを忠実に守り,それをしっかりと身につける.

次の「破」の段階では,師の教えをあえて破り,独自のやり方を見つけていく.

そして「離」の段階では,「師の教え」などという概念は既に無くなり,そこから離れて何事にもとらわれない境地に至る.


「シンプルに生きよう」などと考え出したらそれはもうシンプルではないし,「常識にとらわれないようにしよう」と思った瞬間に,今度は常識にとらわれないようにするという価値観にとらわれてしまうんですね.

だから「既成概念を壊そう」という本書の主張には同意するものの,それは手段であって目的にしてはいけない.

もともと全ページフルカラーでとても美しい装丁なので,それを楽しみつつ,「まあそんな考え方もあるよねー」ぐらいに気軽に眺めるのがいいのかもしれません.

4861139236PLAY・JOB (プレイ・ジョブ)
ポール・アーデン