ボヘミアの海岸線

海外文学を読んで感想を書く

2011-12-01から1ヶ月間の記事一覧

海外文学アワード2011

しれっと新年を迎えようかとも思ったけれど、なんだかんだで今年もやることにした「海外文学アワード」。2011年刊行のものではなく、2011年に私が読んだ本の中から特に気に入ったものを選ぶという趣旨。「アワード2011」という感じではぜんぜんないが、そこ…

『灰色の輝ける贈り物』アリステア・マクラウド

「わかってるよ、母さん」とお父さんが言う。「よくわかっているし、みんなには感謝しているよ。ただ、とにかく、同じ一族という仕組みのなかでは、もう生きられなくなっているんだよ。自分とか自分の家族とかを超えて、ものを見なきゃ。今は二十世紀なんだ…

『リチャード三世』ウィリアム・シェイクスピア

もはや悪党になるしかない。 馬だ! 馬だ! 馬をよこせば王国をくれてやる!——ウィリアム・シェイクスピア『リチャード三世』 絶望して死ね! 王家につらなる人々が流麗な言葉で歌いあげる、呪詛の交響曲である。この世のすべてを、大事な人を奪った者を、自…

『ヘンリー六世』ウィリアム・シェイクスピア

ああ、栄華も権勢も、しょせんは土と埃にすぎぬのか? 人間、どう生きようと、結局は死なねばならぬのか?——ウィリアム・シェイクスピア『ヘンリー六世』 足を踏みならして貴族と王族が輪になって踊っている。それは権力争いの踊りで、踊り手は増えては消え…

『じゃじゃ馬ならし』ウィリアム・シェイクスピア

ペトルーチオ おれはきみを飼いならすために生まれた男だ、ケート、 山猫ケートを飼い猫ケートに変えてだな、ケート、 おとなしくかわいがられる女房にしてやるぞ、ケート。——ウィリアム・シェイクスピア『じゃじゃ馬ならし』 交換可能の愛と属性 『じゃじゃ…

W.G.ゼーバルト『アウステルリッツ』

三十六度というのは、自然界でいちばん適切な温度だということがわかっているのだよ、アルフォンスはそう言いました。神秘的な閾値といってもいい。私はこんなことを思ったことがあるんだ、ひょっとしたら人類の不幸は、いつのころだか体温がこの基準からず…

フェルナンド・ペソア『不穏の書、断章』

人生は意図せずに行われてしまった実験旅行だ。それは物質を通しての精神の旅行であり、旅行しているのは私たちの精神なのだから、私たちが生きているのは精神のなかだ。だから、外で生きる魂よりも、ずっと強烈で、ずっと広大で、ずっと波乱に満ちた生涯を…

須賀敦子『塩一トンの読書』

「ひとりの人を理解するまでには、すくなくも、一トンの塩をいっしょに舐めなければだめなのよ」 ミラノで結婚してまもないころ、これといった深い考えもなく夫と知人のうわさをしていた私にむかって、姑がいきなりこんなことをいった。とっさに喩えの意味…