DVDのコピー禁止を法律に盛り込むことに強く反対します
asahi.com(朝日新聞社):DVDコピー、家庭内も禁止へ 暗号で保護のソフト対象 - 社会
DVDのコピー禁止を法律に盛り込むことに強く反対します。なぜなら、Linux上でのDVD視聴が不可能になりかねないからです。
Linux上では、 Content Scramble System (以下CSS) というアクセスコントロールのかかったDVDの内容にアクセスするために、libdvdcss2というものを利用します。これは、DVDプレーヤーに搭載されていたCSS解除アルゴリズムを、当時十代であったノルウェーのプログラマー、ヨン・レック・ヨハンセン氏が解析したものだそうです。氏は著作権法違反で起訴さましたが無罪となりました。それゆえ、libdvdcss2はLinux界で広く使われるようになり、LinuxでもDVDが楽しめるようになったのです。
このlibdvdcss2、「保護を破るプログラムの製造や配布」に当たるということにされかねません。これが入手できなくなると、LinuxでDVDを再生する術がなくなります。
…そんなバカな、だって?WindowsにだってCSSを通じてDVDにアクセスするのにはデコーダを買って用意する必要があり (例えばPowerDVDなんかにはデコーダが含まれている、これをインストールしない状態でWMPでDVDを見ようとすると、デコーダを買えと言われる) 、Linuxでも正規のデコーダを販売するようになればいいだけの話だろうと?
たぶん、そうそううまくはいかないと思います。
「オープンソースDRM」の不可能性について - SourceForge.JP Magazine : オープンソースの話題満載
どうでしょう?デコーダの権利者が、Linux用の正規のデコーダを配布することを許すでしょうか?オープンソースOSでこれを走らせることはコントロールの潜脱になるとか解釈されはしないでしょうか。
では、オープンソースによるソフトウェア開発そのものが悪いのでしょうか?こんなコンテンツ保護のできないシステムが悪だと言われてしまいそうですが…俺はそうは思いません、むしろ極めて健全なソフトウェア開発形態であると思います。
人間は、その歴史の中で培われた膨大な知識を、書とすることで保存してきました。小中高と通った人はその授業で教科書を使ったでしょう。大学に入ったら、専門書を買ったり図書館で借りたりしてそれで勉強したでしょう。偉い学者も、既になされた知の蓄積を無視して仕事をすることは絶対にないと言えるでしょう。この人間の知の営みは、誰も否定できないものです。では、先人のソースコードを元に新たなソフトウェアを開発しさらにそのソースコードを公開するこのオープンソースの取り組みと、ソースコードをその価値がなくなるまで隠し続け社会には還元しないクローズドな開発、どちらが健全でしょうか。後者は人類の知の営みの歴史から外れるという意味ではすごく不健全です、いけないことであるとまでは言えませんが。
今日、様々なところでLinuxが利用されています。サーバー、組み込みシステムはもちろんのこと、PC用OSとしての世界シェアも調査によってばらつきはあるものの概ね1%前後の数値を獲得しています。また、一部の地方自治体にOOoが採用され、中にはUbuntuを採用したというものもありました。それに、他国製のクローズドソースのOSを使うこと自体にセキュリティ的な問題はないか、と危惧する声もあります。例えばNSAとマイクロソフトがグルになってWindowsにバックドアを仕込んでいたら、一体我々はどうやってこれから情報を守ったらよいのでしょうか。いや、これはファンタジーではなく、例えば米国政府も中国レノボのPCに中国当局製バックドアを仕込まれることを憂慮しているそうですよ。
米国務省購入PCの「スパイ疑惑」にレノボが反論 - CNET Japan
逆もまた然りでしょう。他方Linuxならば、ソースコードが開示されるのでそういうものがあっても誰かが気づくことは期待できます。公開するソースコードには載せず、開発陣に紛れ込んだ諜報部員がこっそりソースコードにバックドアを加えてビルドしたものを配布したとしても、それはGPL違反ですからこれまた誰かが気がつくことは期待できます、例えば公開ソースコードを手元でビルドしたものとハッシュが合わないとか。
よって、オープンソースをコンピュータ業界から締め出すことは、公益、いや国益にすら関わってくる問題であると思います。もちろん今回はオープンソースを締め出すなんて話ではないのですが、DVDが再生できないとなるとLinuxのPC利用に大きな打撃になることは間違いないのです。どうか、「保護を破るプログラムの製造や配布」については考え直してくださいませ。
…トロンを使おうなんて言わんといてくださいよ。組み込み分野としては広く使われているようですが、一般的なコンピュータ用として使われる実績はあまりないわけですし、アプリケーションだって十分とは言えないでしょう。
追記
ではじゃあ著作権侵害にはどう対処するべきなのか、という質問を受けました。こちらへどうぞ。
DVDのコピー禁止を法律に盛り込むことに強く反対します。なぜなら、Linux上でのDVD視聴が不可能になりかねないからです。
Linux上では、 Content Scramble System (以下CSS) というアクセスコントロールのかかったDVDの内容にアクセスするために、libdvdcss2というものを利用します。これは、DVDプレーヤーに搭載されていたCSS解除アルゴリズムを、当時十代であったノルウェーのプログラマー、ヨン・レック・ヨハンセン氏が解析したものだそうです。氏は著作権法違反で起訴さましたが無罪となりました。それゆえ、libdvdcss2はLinux界で広く使われるようになり、LinuxでもDVDが楽しめるようになったのです。
このlibdvdcss2、「保護を破るプログラムの製造や配布」に当たるということにされかねません。これが入手できなくなると、LinuxでDVDを再生する術がなくなります。
…そんなバカな、だって?WindowsにだってCSSを通じてDVDにアクセスするのにはデコーダを買って用意する必要があり (例えばPowerDVDなんかにはデコーダが含まれている、これをインストールしない状態でWMPでDVDを見ようとすると、デコーダを買えと言われる) 、Linuxでも正規のデコーダを販売するようになればいいだけの話だろうと?
たぶん、そうそううまくはいかないと思います。
「オープンソースDRM」の不可能性について - SourceForge.JP Magazine : オープンソースの話題満載
どうでしょう?デコーダの権利者が、Linux用の正規のデコーダを配布することを許すでしょうか?オープンソースOSでこれを走らせることはコントロールの潜脱になるとか解釈されはしないでしょうか。
では、オープンソースによるソフトウェア開発そのものが悪いのでしょうか?こんなコンテンツ保護のできないシステムが悪だと言われてしまいそうですが…俺はそうは思いません、むしろ極めて健全なソフトウェア開発形態であると思います。
人間は、その歴史の中で培われた膨大な知識を、書とすることで保存してきました。小中高と通った人はその授業で教科書を使ったでしょう。大学に入ったら、専門書を買ったり図書館で借りたりしてそれで勉強したでしょう。偉い学者も、既になされた知の蓄積を無視して仕事をすることは絶対にないと言えるでしょう。この人間の知の営みは、誰も否定できないものです。では、先人のソースコードを元に新たなソフトウェアを開発しさらにそのソースコードを公開するこのオープンソースの取り組みと、ソースコードをその価値がなくなるまで隠し続け社会には還元しないクローズドな開発、どちらが健全でしょうか。後者は人類の知の営みの歴史から外れるという意味ではすごく不健全です、いけないことであるとまでは言えませんが。
今日、様々なところでLinuxが利用されています。サーバー、組み込みシステムはもちろんのこと、PC用OSとしての世界シェアも調査によってばらつきはあるものの概ね1%前後の数値を獲得しています。また、一部の地方自治体にOOoが採用され、中にはUbuntuを採用したというものもありました。それに、他国製のクローズドソースのOSを使うこと自体にセキュリティ的な問題はないか、と危惧する声もあります。例えばNSAとマイクロソフトがグルになってWindowsにバックドアを仕込んでいたら、一体我々はどうやってこれから情報を守ったらよいのでしょうか。いや、これはファンタジーではなく、例えば米国政府も中国レノボのPCに中国当局製バックドアを仕込まれることを憂慮しているそうですよ。
米国務省購入PCの「スパイ疑惑」にレノボが反論 - CNET Japan
逆もまた然りでしょう。他方Linuxならば、ソースコードが開示されるのでそういうものがあっても誰かが気づくことは期待できます。公開するソースコードには載せず、開発陣に紛れ込んだ諜報部員がこっそりソースコードにバックドアを加えてビルドしたものを配布したとしても、それはGPL違反ですからこれまた誰かが気がつくことは期待できます、例えば公開ソースコードを手元でビルドしたものとハッシュが合わないとか。
よって、オープンソースをコンピュータ業界から締め出すことは、公益、いや国益にすら関わってくる問題であると思います。もちろん今回はオープンソースを締め出すなんて話ではないのですが、DVDが再生できないとなるとLinuxのPC利用に大きな打撃になることは間違いないのです。どうか、「保護を破るプログラムの製造や配布」については考え直してくださいませ。
…トロンを使おうなんて言わんといてくださいよ。組み込み分野としては広く使われているようですが、一般的なコンピュータ用として使われる実績はあまりないわけですし、アプリケーションだって十分とは言えないでしょう。
追記
ではじゃあ著作権侵害にはどう対処するべきなのか、という質問を受けました。こちらへどうぞ。
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No title
結構重要な案件だと思うのですが、この件の報道が少なすぎます。
文化審議会の人たちって「コンピュータ=Windows(Linuxなんて知らない)」と考えている人たちばかりなのでしょうか?
案件の核心部分に詳しくない、というより無関心な人たちが通そうとしているという点では、まさしく民主党の事業仕分けの様です。
文化審議会の人たちって「コンピュータ=Windows(Linuxなんて知らない)」と考えている人たちばかりなのでしょうか?
案件の核心部分に詳しくない、というより無関心な人たちが通そうとしているという点では、まさしく民主党の事業仕分けの様です。
Re: No title
ななしさん、コメントありがとうございます。
俺も報道が少ないと思ったので (せいぜいマジコン規制の話くらいか) 、ブログに書いてみました。文化審議会に果たしてちゃんとしたコンピュータ技術者がいるのかも疑問 (文化というくらいだから理系の人は少なそうな印象です) ですし。俺はコンピュータ技術者じゃありませんが、気づいた人が声をあげなきゃどうしようもありません。オープンソース系のユーザー会でもこの手の声明を発表しているところ、今のところ見かけませんし…
ななしさんも是非、できる範囲で構いませんから、何か行動を起こしてみてください。お願いします。
#事業仕分けは議論のきっかけになったという点では俺は評価はしていますがね…これもやはり、今後もこのままでは困りますけれども。
俺も報道が少ないと思ったので (せいぜいマジコン規制の話くらいか) 、ブログに書いてみました。文化審議会に果たしてちゃんとしたコンピュータ技術者がいるのかも疑問 (文化というくらいだから理系の人は少なそうな印象です) ですし。俺はコンピュータ技術者じゃありませんが、気づいた人が声をあげなきゃどうしようもありません。オープンソース系のユーザー会でもこの手の声明を発表しているところ、今のところ見かけませんし…
ななしさんも是非、できる範囲で構いませんから、何か行動を起こしてみてください。お願いします。
#事業仕分けは議論のきっかけになったという点では俺は評価はしていますがね…これもやはり、今後もこのままでは困りますけれども。