豪鬼メモ

MT車練習中

股関節と膝関節の死点を確認してペダリングする

自分が走っているのを横から撮影して、股関節と膝関節の動きを確認してみた。この方法だとローラー台がなくても何とかなる。各関節の死点ではその関節を動かす筋肉を脱力していることが望ましいので、自分のポジションで死点を確認することは重要だ。


自転車のペダリングのコツについてはYoutubeやブログなどで多くの人が取り上げているが、私は以下のサイトが最も参考になると思っている。12時が上死点で6時が下死点という単純なモデルから一歩踏み込んで適切なペダリングを検討している。股関節と膝関節の死点となるクランク角を割り出して、それを基準に筋肉の使い方を提案するというものだ。感覚的な語彙に頼るのではなく、科学的で誰でも検証と反証が可能な説明になっているのが素晴らしい。
hchanaken.com

体型と車体で脚の動かし方は変わるし、サドルのポジション調整(高さと角度と前後位置)でも変わるので、自分の場合にどうなのか確認したくなった。よって、自分が走っているところの動画を撮った。ローラー台を持っていなかったので、適当なベンチにカメラを水平に置いて、その前を何往復かするのを撮影した。
www.youtube.com

わざわざ撮影して確認してから言うのも何だが、標準的な体型でまともなポジション調整をしているなら上記のサイトで述べられている数値とそんなに変わらない結果になるっぽい。ロードバイクでもブロンプトンでも下半身の位置関係はほぼ同じなので、死点の位置もほぼ同じになる。

股関節の角度が最も深くなる状態でのクランク角が股関節の上死点である。私の場合、それは1時くらいだと確認できた。この状態では股関節は稼働できないので、股関節を後ろから引っ張る大臀筋などの筋肉は脱力していることが望ましい。つまり1時の時点ではまだ下方向に踏んじゃ駄目で、代わりに膝関節だけを伸長してペダルを前に進めようとすべきだ。

股関節の角度が最も浅くなる状態でのクランク角が股関節の下死点である。私の場合、それは5時40分くらいだと確認できた。この状態では股関節は稼働できないので、股関節を前から引っ張る腸腰筋や大腰筋などの筋肉は脱力していることが望ましい。つまり6時よりも前に下に踏むのは止めて、代わりに膝関節だけを屈曲してペダルを後ろに進めようとすべきだ。

膝関節の角度が最も深くなる状態でのクランク角が膝関節の上死点である。私の場合、それは10時30分くらいだと確認できた。この状態では膝関節は稼働できないので、膝関節を前から引っ張る大腿四頭筋などの筋肉は脱力していることが望ましい。つまり9時から11時半までは膝は使わずに股関節だけを屈曲してペダルを上に持ち上げようとすべきだ。

膝関節の角度が最も浅くなる状態でのクランク角が膝関節の下死点である。私の場合、それは3時20分くらいだと確認できた。この状態では膝関節は稼働できないので、膝関節を後から引っ張る大腿二頭筋などの筋肉は脱力していることが望ましい。つまり3時付近では膝は使わずに股関節だけを伸長してペダルを下に押し下げようとすべきだ。

総合して考えてみる。個人的には、9時から11時半に腿上げを意識するのが最も大事だと思っている。膝蹴りを斜め上前に繰り出すが如く、腰の筋肉に気合を入れてグイッと大腿を持ち上げる。12時から1時までは前腿の筋肉を使って脛を前に押し出す。2時から4時半までは尻の筋肉を使って体重をペダルに乗っけて下に押し下げる。5時前にはもう踏むのを止めて脱力しておく。5時から8時半までは腿裏やふくらはぎの筋肉でペダルを軽く後ろに引きつつ、次の周回の腿上げに備える。

上述の努力をすれば、クランク全周に渡って入力でき、かつペダリング効率が最大化するはずだ。しかし、さらに考慮すべき点がある。人間の筋肉の力はモーターの電磁石のように矩形波で切り替わるわけじゃなく、サイン波のようにじわっと入ってじわっと抜けるものだ。また、意識した瞬間に動き出すわけじゃなくて遅延があるので、若干早めの稼働と脱力を心がける必要があるだろう。そして、実際にはクランク全周で力を入れる必要はない。脱力して惰性で動かす区間があっても良いし、ペダリングは両足でやるものなので、逆の足のトルクでもクランクは回っていく。死点でその関節を動かす力を入れるのが無駄なのは幾何学だけで説明できる明白なことだが、いつどのように力を入れるのが最適かは生理学的な要素を含めて考える必要がある。

私はレースは全くしない一方で、100km超えのロングライドをよくする。よって、クランク全周で最大の入力をして最高速を追求するのではなく、死点の周辺を避けて美味しいところだけで入力してペダリング効率を追求したい。さらに、負荷を多くの筋肉に分散して楽に長く走りたい。その観点では、すぐに売り切れがちな大腿四頭筋をいかに温存するかが重要だ。よって、12時から2時までの前押し足は軽くしかしない。さらに、2時から4時半までの踏み込みも力を入れずに脚の重みを乗っけるだけにして、大臀筋の負荷も下げる。登坂や逆風などの際には大腿四頭筋や大臀筋もグイグイ使うが、逆にいえばそこで頑張るために普段は温存しておきたい。その代わりに、普段は引き足を意識して漕ぐ。9時から11時半の腿上げが重要だと考えるのはその理由からだ。5時から8時半までの後ろ引き足の筋肉は頑張りすぎると攣ってしまうし、そもそもハーフクリップでは後ろ方向の引っ掛かりがないので靴が滑ってしまうため、惰性を邪魔しない程度に稼働させるだけにする。結果として、ロングライド中のほとんどの時間は腿上げだけを意識して漕いでいくことになる。実際には、腿上げを意識して乗っていても徐々にペダリングに意識が向かなくなり、どの筋肉にも負荷が集中せずに満遍なく使っているような状態になる。風景を眺めたり考え事をしながら無意識に漕いでいる時に最も効率的なペダリングができるような気がする。

冒頭に挙げたサイトで詳しく述べられているが、腿裏にある大腿二頭筋などのハムストリングスは股関節と膝関節をまたがっていて、股関節の伸展と膝関節の屈曲に同時に作用する。つまりハムストリングスを収縮させると股関節が伸展する力を生むと同時に膝関節が屈曲する力を生む。よって、ハムストリングスが効率的に稼働するのは、股関節が伸びようとする区間(1時から5時40分まで)と膝関節が縮もうとする区間(3時20分から10時半まで)の重複区間だけだ。それぞれから死点の付近を除いたスイートスポットだけを考えるなら、5時付近しかない。ビンディングペダルなら6時以降も後ろ引き足でそれなりの入力ができるが、そこでハムを稼働させると、筋肉を伸ばしながら収縮させるエキセントリック収縮になる。これが後ろ引き足を頑張ると脚が攣りやすくなる理由だ。スプリントで脚を売り切る勢いで漕ぐならハムを酷使しても良いが、ロングライドの場合には後ろ引き足は気持ち程度にしておくべきだ。

ダンシングはシッティングよりもペダリング効率が悪くなる。体を支えるためにリカバリゾーンでトルクをかけねばならず、一部は負のトルクにさえなる。よって、ロングライドではダンシングの割合はできるだけ少なくしたい。それでもパワーゾーンで全体重をペダルに載せられるのは大きな魅力で、登坂の際にはダンシングに頼ることも多い。ダンシングの場合は、股関節と膝関節をほぼ同期して曲げ伸ばしすることになる。坂の勾配やハンドルの位置にもよって変動するが、基本的には双方の関節の上死点は12時半くらいで、下死点は6時半くらいになるっぽい。よって、1時半から5時半までは脚を伸ばして、7時半から11時半までは脚を曲げるという単純な操作になる。

ダンシングのコツとしてよく言われるのは、体をあまり上下させないことだ。私もそれを意識して漕ぐことが多い。つまり、前の脚を伸ばした分だけ後ろの足を曲げて、クランク全周で尻の高さがほぼ一定になるようにする。そのためには、上死点付近や下死点付近で無駄に踏み込んで体が上下に振れないように脱力と左右のペダルの間での体重移動を適宜行うのと、前足を踏み込む際に体重をかけるのに応じて後ろ足はきちんと引き上げることが必要だ。個人的には引き足の際に爪先がトウクリップを上に軽く押し付けている感覚を得られるように力を調整している。

ここまでの話は全てビンディングまたはトウクリップを使ってペダリングすることを前提としている。普通のフラットペダルの場合には1時から5時までくらいしかまともな入力ができないので、大臀筋と大腿四頭筋に負荷が集中する。しかし、それらの筋肉は元々強いし、ずっとフラットペダルで訓練していればそれらの筋肉が重点的に強化されるので、フラットペダルでも速い人は速いし、ブルベ等の超ロングランをフラットペダルでこなす猛者も多い。とはいえ、ビンディングやトウクリップを使って負荷分散した方が速く長く走れるというのも確実なことだ。ビンディングが怖かったり面倒だったりと言う人でもハーフクリップを使うだけで随分違うので、ハーフクリップがもっと流行ればいいのにと心から思う。

まとめ。ペダリングは主に股関節と膝関節を動かして行うので、それらの死点を意識した筋肉の使い方をすべきだ。そのためには各関節の死点がどこにあるかを把握しておかねばならないが、動画を撮ってみるとよくわかる。最高速を追求するのであればクランク角ごとに利用可能な筋肉を知っておいてタイミングよく動員すべきだろう。ロングライドをするのであれば疲れやすい筋肉を温存してそれ以外の筋肉を動員することを意識すべきだ。

追記:この議論をもとに、真円チェーンリングと楕円チェーンリングのペダリングの違いも考察した。
mikio.hatenablog.com