豪鬼メモ

MT車練習中

真円チェーンリングと楕円チェーンリングの直接比較

同径の真円チェーンリングと楕円チェーンリングをフロントダブルで装着して、切り替えながら漕いでみて、使用感の直接比較をした。楕円チェーンリングでかれこれ1万km以上は走っているので、その振り返りもしてみる。

同径で楕円+真円のフロントダブル

楕円チェーンリングの乗り味について過去にも何度か書いているが、そこでの感想は、チェーンリングを付け替える前の過去の記憶にある真円チェーンリングの使用感と比較したものだった。その方法だと、強いバイアスがかかる。過去の記憶は曖昧で信用できないし、新しい部品を導入したことによる選択支持バイアス(購入者バイアス)も起こるし、使用時のコースや天候や体調や筋力などの条件が異なることも問題だ。理想的には、比較したい部品以外の条件を全て同じにして同時に使ってみたいところだ。また、選択支持バイアスを緩和するためには、真円チェーンリングも新規購入したほうが良い。

てことで、単に公平な比較がしたいというだけのために、真円チェーンリングを買うことにした。BCD110の4アームで52Tの真円チェーンリングを探すことになるわけだが、意外に中古でも手頃な値段のものは出回っていない。そこでAli Expressを探したところ、1806円の激安なのがあった。おそらく短期間しか使わないので、こんなんで十分だ。なお、今使っている楕円チェーンリングはO.Symetricの52Tだ。数学的な楕円の定義に当てはまらない形状なので「非真円」が正しい呼び方だが、ここでは面倒なので「楕円」と呼ぶ。

車体にはブロンプトンを使う。私の個体はシマノ105のFC-R7100とToken TK878EXでホローテック2化しているのでドライブトレインの効率はロードバイクと同等のはずだ。手持ちのロードバイクに付けても良かったのだが、チェーンの加工とフロントディレイラーの調整が必要になるので躊躇した。で、ブロンプトンのアウターに楕円52T、インナーに真円52Tを装着した。両者を重ねてみると分かるが、歯数は同じでも、楕円だと短径がかなり内側に入っていて、長径が少し外側に出ている。

人間は「慣れる」「忘れる」に長けているので、真円でも楕円でもしばらく乗っていれば慣れて何も感じなくなるし、真円と楕円の換装作業をしているうちに以前の乗り味を忘れてしまうので、換装作業の前後での乗り味の変化も的確に捉えにくい。ところが、真円と楕円を切り替えながら実際に乗ってみると、乗り味の違いを如実に感じることができる。実際に真円と楕円を5kmずつくらいで切り替えながら何週間か走ってみたところ、真円と楕円の違いについて自分なりの見解を確立することができた。

真円にしばらく乗って慣れた状態で楕円に切り替えると、クランク角5時(11時)あたりで急にペダルが軽くなって足が空回りする感覚がある。クランク角3時(9時)あたりでしっかり踏み込みや引き足ができる感覚もある。一方、楕円にしばらく乗って慣れた状態で真円に切り替えると、クランク角1時(7時)あたりで急にペダルが重くなって足の動きが詰まる感覚がある。クランク角3時(9時)がスカスカで足が空回りする感覚もある。何度試しても、この感覚には再現性がある。しかし、切り替えてから20分くらい乗っていると、真円でも楕円でも違和感なくペダリングできるようになってくる。とはいえ、走行性能や疲労の度合いには顕著な違いがある。それについて考察していこう。

その前提として、股関節と膝関節のそれぞれで稼働できるクランク角の区間が違うということを認識すべきだ。この話は以下の記事に書いたのでまずそちらをご覧いただきたい。
mikio.hatenablog.com

要点をおさらいすると、以下の4つだ。言うは易し行うは難しの典型だが、死点で無駄な方向に力をかけないように意識するだけでもかなり楽に漕げるようになる。

  • クランク角12時から2時の区間は主に膝関節を伸ばす筋肉を使ってペダルを前に押すべし。
  • 2時から4時半の区間は主に股関節を伸ばす筋肉を使ってペダルを下に押すべし。
  • 5時から8時半の区間は主に膝関節を曲げる筋肉を使ってペダルを後ろに引くべし。
  • 9時から11時半の区間は主に股関節を曲げる筋肉を使ってペダルを上に引くべし。


楕円の考察

まず楕円チェーンリングの考察をする。各関節の死点と稼働区間の図にO.Symetricの形状を重ねてみる。ここで気づくのは、股関節の上死点付近であり膝関節だけで漕がねばならない12時から1時の付近にチェーンリングの最短経が来ているということだ。大腿四頭筋を収縮させて膝関節を伸ばす動作の負荷が軽いということだ。そこから徐々に経が長くなり、1時半から4時くらいの区間のパワーゾーンで長経が継続している。最長経は3時20くらいで、ちょうど膝関節の下死点のあたりだ。これは、大臀筋を収縮させて股関節を伸ばす動作の負荷が重いということを意味する。このことから、楕円チェーンリングは大腿四頭筋を温存して大臀筋を酷使する仕組みであることが分かる。

次に気づくのは、4時には徐々に経が短くなり始め、5時ではもうパワーゾーンとは言えないほど短くなっているということだ。これは楕円だと5時付近がスカスカに感じるという乗車感と合致している。大腿二頭筋などのハムストリングスを収縮させて膝関節を曲げる動作の負荷が軽いということだ。そして9時20分くらいに再び最長経が来る。これは大腰筋や腸腰筋を収縮させて股関節を曲げる動作の負荷が重いということだ。つまり、楕円チェーンリングはハムストリングスを温存して大腰筋や腸腰筋を酷使する仕組みでもあることが分かる。なお、多くの楕円チェーンリングは最大径が4時くらいに来るのだが、O.Symetricだとそれより前なのが特徴的だ。他社の楕円に慣れている人でもO.Symetricを使うと最初は5時のスカスカ感を感じるかもしれない。

私個人としては、楕円の乗り味が好きだ。売り切れやすい大腿四頭筋と攣りやすいハムストリングスの双方を温存できるからだ。大腿四頭筋が売り切れると膝が笑う状態になって走れなくなるし、足が攣っても同様に走れなくなるので、それらの筋肉を温存できることはロングライドで重要だ。その代わりに尻と腰の筋肉は酷使されるのだが、そいつらが先に売り切れることはまずないため、ロングライドでは問題ない。一方で、スプリントを含む競技であれば、スタミナはないが強力な大腿四頭筋を酷使する真円チェーンリングの方が向いていそうだ。

楕円チェーンリングをうまく乗りこなすコツは、パワーゾーンでの踏み込みの際の脱力を早めにすることだ。4時半にはもう脱力していることが望ましい。5時のスカスカ感を体感するようだと、脱力が遅すぎだ。楕円チェーンリングをペダリング矯正機能であるとみなす人もいるが、一理あると思う。5時はもう股関節の下死点に近いので、そこで頑張っても強い推進力は生まれない。5時のスカスカ感を感じないように脱力を早めることでペダリング効率は高まるはずだ。それに加えて、股関節を曲げて行う9時付近の引き足を意識することも重要だ。酷使される大臀筋の負荷を下げるためには、大臀筋が稼働する区間の対岸で負のトルクを入れないようにしたい。

怪我防止の観点でも、楕円チェーンリングは有利だ。膝関節が故障するという話はよく聞くが、股関節が故障するという話は稀だ。私個人としてもロングライド中に膝関節に違和感を感じることがたまにあるが、股関節に違和感を感じたことは一度もない。真円だと1時にひっかかり感があるのでその時に膝関節の負荷が高まるが、楕円だとそれが無いので膝関節に優しいと言える。余談だが、その楕円ですら膝に違和感が発生する際には、私の場合、大抵右膝が問題になる。そういう場合は右脚は常に脱力しつつ、左脚だけを意識して漕ぐようにすると走行を続けられる。また、パワーゾーンで股関節を稼働させている間も膝関節を固定するための負荷がかかるが、それを緩和するには9時付近の引き足を頑張るのが望ましい。左脚の腿上げだけを意識して5分漕いで、次に左右の腿上げだけを意識して5分漕ぐと、いつの間にか膝の違和感が解消されることが多い。

改めて楕円チェーンリングの形を見ると、クランクの角速度が大きくなりがちな区間ほど経が長くなっていることにも気づく。膝関節と股関節の両方が伸長できるようになる1時半から、体重を乗っけて股関節を伸長できる4時までの間は、強いトルクが発生してクランクの角速度が上がっていくが、楕円では経を長くして多くの仕事をさせることで角速度の上昇を緩和している。一方で、膝関節の上死点と股関節の上死点の間である11時から1時までの区間は弱いトルクしか発生させられないのでクランクの角速度が下がっていくが、楕円では経を短くして少ない仕事しかさせないことで角速度の下降を緩和している。点対称なので、股関節の下死点の付近である5時から6時の区間でも同様の効果がある。結果としてクランク全周での角速度の変動が緩和されて、ヌルっとした乗り味になる。乗り出しに加速する際にも、電動自転車で等加速運動しているのに似た感覚になる。

クランク全周での角速度の変動が少ないということは、角速度の最高値と最低値の差が少なくなるということだ。最高値が下がることで、ケイデンスが高くてもパワーゾーンでの踏み込みがスカスカになりにくくなり、より高いケイデンスでも漕げるようになる。最低値が下がることで、ケイデンスが低くてもリカバリゾーンで足が止まりそうになりにくくなり、より低いケイデンスでも漕げるようになる。つまり、ギアを変えずに同じ変速比のままで乗れるケイデンスの幅が広がることになる。これはギアの枚数が少ないブロンプトンでは非常にありがたい効果だ。私は急坂以外の95%の行程をアウタートップ縛りで走るので、特に低ケイデンスで乗りやすいのは嬉しい。それでいて、高速巡行時にもケイデンスが高すぎて足が追い付かないということがない。

ケイデンスが高すぎるとかえって疲れるのは、慣性力を制御するのに力を使うからだ。股関節を動かす場合、股間から先の足全体5kgほどの質量を動かしたり止めたりしなければならない。しかも股関節は上下に動かすので、慣性力と重力の合力を制御する必要がある。一方で、膝関節を動かす場合、膝から先の2kgほどの質量を扱うだけで、しかも水平に近い運動をするだけなので重力の影響をあまり受けない。ゆえに、股関節を速く動かすのは大仕事だが、膝関節を速く動かすのは比較的楽だ。そして、楕円チェーンリングは、相対的に股関節を遅く動かして、膝関節を速く動かす仕組みである。同じケイデンスでも、股関節の上下運動が相対的に遅くなれば、慣性力の制御は楽になる。これが楕円だと高いケイデンスに耐えられる理由だろう。

ダンシングで漕ぐと、股関節と膝関節の各死点が近い位置に集約され、それぞれを同期して伸展および屈曲させることになる。上死点は12時半くらい、下死点は6時半くらいになる。シッティングに比べると、股関節の上死点と下死点はあまり変わらないが、膝関節の上死点は大きく前にずれ、膝関節の下死点は大きく下にずれる。O.Symetricの形状だと12時半はまさに最短径の部分なので、ダンシングでの引っ掛かり感はかなり小さくなり、ケイデンスが低くなっても回し続けやすい。しかも、パワーゾーンである2時から4時の滞在時間が長いので、そこでしっかりと体重をかけて加速できる。ただし、各関節が伸びて足がまだ下がり続けている5時の時点で踏み応えが軽くなってしまうことには注意すべきだ。5時を過ぎたら逆側の足に体重を移す動作を急激に行うことになる。ダンシングのコツは体を無駄に上下に揺らさないことだが、そのためには体重移動を適切に行うことが必要だ。楕円だと体重移動は忙しい感じにはなるが、その分だけ体重をペダルに伝えて踏み込んでいる時間は長くなるので、ダンシングでの登坂能力も高まると言える。

総じて、やはり楕円チェーンリングの形状は合理的で、特にO.Symetricの形状にはうならされる。ただし、ここで述べたような理想的な筋肉の動かし方を身に着けるのは一朝一夕では行かないので、慣れるまでは単に気持ち悪い乗り味になってしまうかもしれない。私はO.Symetricに乗って1日くらいで慣れた記憶があるが、それに応じて尻や腰の筋肉が発達するまでには長い期間が必要だった。長距離乗っても疲れにくいという真の価値に気づいたのは何千キロも乗ってからのことだ。


真円の考察

さて、真円チェーンリングの考察に移る。簡単に言えば、楕円の考察で述べたのと逆のことが当てはまる。クランク全周で踏み応えが一定なので、上死点が集まる11時から1時の区間で角速度が急激に低下して、それが1時での引っ掛かり感に繋がる。一方で体重をかけて強く踏み込める2時から4時までは角速度が急激に上がり、その区間でのスカスカ感を感じる。これはクランク角全周での角速度の変動が大きいことも意味する。

ゆえに、楕円から真円に切り替えた場合、11時から1時の区間で膝関節の伸長を頑張ってペダルを前に押し出すことで角速度の低下を抑えることが望ましい。その対岸である5時から7時に膝関節の屈曲を頑張ってペダルを後ろに引くこともその補助になる。一方で2時から4時で股関節を伸長をする区間はあまり頑張らずに自然に脚を下ろすだけで良い。もちろん、最高速を目指すならその区間も全力で踏むことにはなるが、基本的にはパワーゾーンでは体重を適度にかけるという乗り方をすべきだろう。

ペダルを押した反作用とペダルを引いた反作用が相殺されれば、サドルにかかる負荷も小さくなる。ペダリングのコツとして、上下の運動よりも前後の運動を意識して漕ぐべしという指摘をする人も多いが、おそらくここで述べたことと同じ効果を狙ってのことだと思う。なお、前後方向で頑張ろうとすると膝関節の上死点である10時半にも膝関節に力を入れようとして効率が悪化する可能性があるが、そうならないように9時から11時半まで股関節を屈曲させるのも大事だ。つまり、腿上げをしっかり意識することが重要だ。この点は真円でも楕円でも共通だ。

漕ぎ方を工夫したとしても真円は楕円に比べると角速度の変動が大きくなるので、快適なケイデンスの範囲はより狭くなる。よって、ケイデンスを一定範囲に留めるための変速操作をより頻繁に行うことが望ましい。私のブロンプトンはギアが2段しかないのでそれは無理なのだが、普通のアルテグラの真円チェーンリングのコンポを使っているロードバイクでは適宜ギアチェンジをしてケイデンス75rpmから80rpmくらいになるように努めている。高強度での乳酸の除去を考えると90rpmくらいの方が効率的らしいが、そんな高強度では乗らないので私には80rpmで十分だ。楕円だともっと低い60rpmとかでも快適に乗れてしまうし、一時的に100rpmとかになっても問題なく回せるので、楕円に慣れると変速操作が疎かになりがちなのが欠点かもしれない。楕円だと赤信号とかでトップギアのまま停止してそのまま発進するのが普通だが、真円の場合はちゃんとギアを下げて停止して発進時の負荷を下げた方が良さげだ。逆に言えば、真円に乗っているとケイデンスの変化に敏感になるので、サイコンに頼らずとも脚が感じる重さだけで適切な変速操作ができるように訓練される。

楕円は膝関節に優しいが、それと比べると、真円は膝関節を酷使すると言える。しかし、それが悪いわけじゃない。膝関節の伸長を司る大腿四頭筋の力はとても強いので、股関節の伸長を司る大臀筋と合わせて両方頑張らせれば、大きな推進力を生み出せる。前押し足を頑張ることで速くなれるということだ。大腿四頭筋が疲れやすいというのであれば、訓練で強化すれば良い。真円に慣れた人が楕円に切り替えてもピンとこない理由は、既に述べた5時のスカスカ感に加えて、膝関節を伸ばす11時から1時のスカスカ感もあるだろう。せっかく鍛えた大腿四頭筋の仕事がチョロすぎることになるからだ。

二関節筋であるハムストリングスは股関節の伸長と膝関節の屈曲に同時に作用するが、股関節の伸長区間と膝関節の屈曲区間の重複区間である5時付近で頑張らせることでそれなりの推進力を生める。5時のスカスカ感がない真円の方が後ろ引き足での仕事も大きい。つまり真円では後ろ引き足を頑張ることで速くなれるということだ。ただし、後ろ引き足はトウクリップだと滑ってしまって強くできないので、ビンディングが必須になる。

チェーンリングの形状が楕円だろうが真円だろうが、クランクアームの回転運動が真円であることは変わらず、ペダルとその上の足が動く軌跡も真円のままだ。各クランク角で稼働すべき筋肉も同じで、股関節の力と膝関節の力の合力がペダルの移動円の接線方向に向くのが理想だ。その理想に照らすと、真円から楕円に切り替えた際に5時でスカスカ感を感じるのは、楕円でのペダリングの問題ではなく真円でのペダリングの問題かもしれない。つまり、楕円にするとスカスカ感を感じてしまうくらいに真円だと5時で踏んでしまっている可能性があるということだ。5時40分には膝関節の下死点があるわけで、そこで踏んでも法線方向の力を加えるだけになる。ペダリング効率を追求するなら、5時で強く踏むのは得策ではない。では、なぜ真円だと5時で強く踏んでしまうのか。それは、2時から4時が軽すぎて、仕事を十分にしないままに角速度が増大した状態で5時を迎えるからだろう。たとえペダリング効率が悪化したとしても5時でも踏んでおかないと、股関節の力を使いきれない。ここで少しでもペダリング効率を上げるには、上述したように、膝関節の下死点である3時20分を過ぎて4時くらいには早めの後ろ引き足を意識して、ハムストリングスを使って股関節の伸長と膝関節の屈曲を同時にするのが有効だろう。それなら力の方向が真下でなく斜め後ろ下になって接線方向に近づく。もし楕円の5時のスカスカ感がハムがちゃんと使えることが原因で生じているのなら、真円の方が合っているかもしれない。

真円は回転面のどの角度から見ても形状が同じなので、サドルのポジションを変えても幾何学的な関係が変わらないし、坂の勾配などに応じて前乗りやダンシングをした場合でも同様だ。楕円の場合は人それぞれの漕ぎ方の違いに合わせて角度調整をすべきと言われるが、真円の場合にはそのような調整の余地がない。これは、万人に最適化されているとも言えるし、誰にも最適化されていないとも言える。

楕円に比べると真円はパワーゾーンの滞在時間が短く、ダンシングでペダルに体重をかけた方の脚が下に降りる速度も速い。それでいて、ケイデンスは一定以上に保っていないと上死点での負荷が大きくなってしまう。結果として、ダンシングの際の足運びがちょっと忙しい感じになる。私はダンシングは「休むダンシング」で膝関節の筋肉を休めたい時にしかやらないのだが、その乗り方は真円の方が難しく感じる。ロードバイクなら絶妙な変速比にできるので休むダンシングもやりやすいのだが、ワイドレシオのブロンプトンだと重過ぎて筋肉が休まらなかったり軽過ぎて心拍が上がり過ぎたりしてしまう。やはり真円をうまく乗りこなすにはケイデンスの管理が重要だ。


楕円を長らく使っての振り返り

私は楕円チェーンリングとハーフクリップをつけたブロンプトンで津々浦々に自転車旅をして、乗鞍岳や渋峠などの登坂もしている。その経験を振り返って言えるのは、やはり楕円だと脚が売り切れにくいということだ。ブロンプトンと真円チェーンリングの組み合わせだと150kmも走れば膝が笑い出してまともに漕げなくなってくるが、楕円チェーンリングにするとそれがない。負荷が分散しているだけで脚全体が満遍なく疲れてくるのだが、特定の部位が痙攣したり痛みが出たりすることは無い。疲れてきたら、腿上げだけ意識して12時くらいまで足を持ち上げたらペダルにそっと載せて脱力するというやる気のない漕ぎ方をすればよい。その漕ぎ方だとほぼ休憩しているようなもので、水と栄養さえ補給していれば、少しずつ体力が回復していく。それでもママチャリよりは遥かに速く進んでいける。降りて休憩しても目的地には近づかないが、乗りながら休憩すればどんどん近づいていける。DNF(途中棄権)したとしても結局は帰らねばならないし、僻地から自走以外で街に戻ろうとするとむしろ手間なので、単に疲れたという理由でDNFしたいと思うことはない。それは乗りながら休憩できるからこそで、尻に限界が来るまではずっと乗っていられる気すらする。楕円チェーンリングとハーフクリップがあれば、特に剛脚というわけではない中年男でも、その境地に達することができた。

私のブロンプトンはスプロケットが2速しかなく、11Tと18Tという非常にワイドレシオな設定にしている。平地巡行と5%くらいまでの坂であれば11Tで済ませるのだが、5%くらいの坂を登るとかなりケイデンスが低くなってしまう。それでも楕円のおかげで1時の引っ掛かりがないので、止まりそうになることはない。普段は温存している大腿四頭筋とハムを動員すればでグングン加速して登っていくことすらできる。5%を越える坂でそれをやると疲れが溜まってしまうので、きつい坂や長い坂では早々に18Tに切り替える。そうするとかなりケイデンスが上がることがあるが、これまた楕円のおかげで、脚が空回りすることがない。ワイドレシオと楕円チェーンリングは相性が良い。

楕円を長らく使うことで体に変化もあった。自転車に乗れば真円だろうが楕円だろうが脚の筋肉が付いてくるのだが、楕円だと股関節をよく使うので、それを動かす尻と腰の筋肉が顕著に発達する。股関節を伸ばす大臀筋が発達することで、尻が引き締まった感じになった。また、股関節を縮める腸腰筋や大腰筋が発達することで、下腹も引き締まった感じになった。なお、腸腰筋や大腰筋は腹筋の下に隠れるインナーマッスルなので、それらが多少太くなっても直接的に見た目が変わるわけじゃない。いわゆるシックスパックは腹筋の話だ。また、ある部位の筋肉を鍛えてもその部位の脂肪が集中的に減るわけではないので、自転車に乗ることで尻や腰の脂肪が集中的に減るわけでもない。ただし、インナーマッスルが発達すると腹圧で内蔵の位置が調整されるので、下腹が引っ込んだ感じになる。結果として、ズボンのベルトがかなり余るようになった。真円でも同様の効果はあるはずだが、比較すれば楕円の方が尻と腰に効くだろう。

せっかく真円チェーンリングもつけたので、真円しばりでロングランもしてみた。東京から国道254号に乗って寄居やら藤岡やら下仁田を通って内山峠を抜けて佐久に至り、さらに東御市の実家に至る行程だ。それで感じたのは、楕円への恋しさだ。30分も乗れば真円の乗り味にも慣れて何も違和感なく走れるようになるのだが、停車からの発進時や登坂でケイデンスが低い状態になると、どうにも脚が疲れる。膝関節を酷使している感覚が強い。向かい風に逆らって漕ぎ続ける際にも膝関節に疲労が溜まって前腿が張ってしまう。早めに軽いギアに切り替えることで過度の負荷がかからないように努力すればいい話だが、ギアの少ないブロンプトンでは軽過ぎてケイデンスが無駄に高くなることも多い。真円でケイデンスが高くなると太腿が激しく上下して忙しい。さらにその振動は尻にも伝わり、乗車姿勢が直立気味なブロンプトンだと尻が痛くなりやすい。真円でも普通にロングランできたが、途中で何度も楕円に戻したくなる誘惑に駆られた。


まとめ

同径の真円チェーンリングと楕円チェーンリングを交互に使うことで両者を直接的に比較した。楕円の利点は、膝関節に優しくて脚が売り切れにくいことと、角速度の変動が小さいのでケイデンスの適用範囲が広いことだ。真円の利点は、膝関節を駆使して強力な推進力を生み出せることだ。ゆえに、強力な膝関節を持っていて適切な変則操作でケイデンスを維持できる人は真円チェーンリングの方の方が幸せになそうだ。どちらが速いとかどちらが効率が良いとかいう話ではなく、個々人の筋肉の発達や運動の癖に最適なチェーンリングはどちらかという話だ。私は貧弱な膝関節しかなく、ブロンプトンのギアは2速しかないので、楕円チェーンリングの乗り味が大層気に入っている。特にロングライドでは楕円の利点が光る。