豪鬼メモ

MT車練習中

MKSのトウクリップを鋼板ハーフクリップに換装

トウクリップは、臀筋とハムストリングスによる入力を可能にして、走行性能を高めるとともに、膝関節や大腿四頭筋の負荷を緩和して疲労と故障を防いでくれる、それはそれは素晴らしい部品だ。使い方に慣れたらそれなしでは生きられない。東日本縦断の長旅の途中にトウクリップが破断したので、換装するにあたって、最適なサイズと材質のものを選定した。結論としては、MKS製品の中では、ステンレス針金のケージクリップでない普通のクロム鋼のハーフクリップが私に最適だ。


ブロンプトンで長旅をするにあたって、ペダルにはハーフのトウクリップを付け、またフラットペダル用の靴を履くことで、効率的に走行できるようにした。新しい靴だと踏み込み位置が浅くなってしまったので、スペーサを多数加えて、踏み込み位置を調整した。
mikio.hatenablog.com

そこで加えたスペーサのおかげで実質的にクリップが長くなったので、クリップを足に嵌めないで走行すると地面に擦るようになった。おそらくそれが原因で、片方のクリップがいつの間にか破断していた。もはやトウクリップなしの生活には戻れないので、買い替えるしかない。同じものを買ってもよかったのだが、せっかくなのでその他の製品も検討してみることにした。ペダルがMKSなのでクリップもMKSのにするが、結構な数のラインナップがある。
www.mkspedal.com

私はフルサイズのストラップ付きのトウクリップは使えない。ストラップを緩めないと足が外れないので立ちゴケが怖すぎるし、発進停止の度にストラップの操作をするのも面倒すぎる。なので、ストラップなしのハーフクリップを使っていて、それでもペダリング効率はそこそこ向上している実感がある。クランク角12時付近で前方に押している時でも、クランク角9時付近で上方に引いている時でも、靴の先から2cmくらいの位置がクリップと接していて、その状態でそれなりの固定力がある。また、靴の先を固定するだけでも靴裏とペダル上面を押し付ける力が強まるので、クランク6時付近の後ろ引き足もほんの少しやりやすくなる。

ならば、そもそもクリップの深さは3cmもあれば十分かもしれない。そこで、ハーフクリップよりさらに上蓋が小さいクォータークリップも候補に加えた。MKSのサイトにトウクリップの選び方のPDFがあり、そこにMKSのトウクリップのサイズ表がある。私の候補の数値をそこから抜粋する。

踏み面 上蓋 先端高さ
鋼板ハーフクリップ 60.0mm 70.0mm 28.0mm
鋼板ハーフクリップディープ 60.0mm 53.0mm 42.0mm
鋼板クォータークリップ 63.7mm 26.4mm 40.0mm
ケージクリップハーフM 52.8mm 51.8mm 41.5mm
ケージクリップハーフL 65.7mm 68.7mm 44.5mm
ケージクリップクォーターM 46.0mm 28.2mm 42.2mm
ケージクリップクォーターL 58.9mm 28.2mm 42.2mm

私が元々使っていたのはケージクリップハーフMで、踏み面の52.8mmが短すぎたのでスペーサを足しまくった経緯がある。よって、踏み面が短いケージクリップハーフMとケージクリップクォーターMは脱落する。次にハーフとクォーターのどちらを選ぶかだが、接点が靴先から20mmほどだと仮定すると、クォーターの26.5mmや28.2mmというのはギリギリすぎる。ダンシング中にも引き足を使うので、滑って足が上側にすっぽぬけるのは怖い。よって、残念ながらクォーターは候補から外れる。上蓋が40mmくらいだとちょうどよいと思うのだが、無いものは仕方がない。というか、よくよく考えると、上蓋を短くすることには重量以外の利点はない。

次に検討すべきは、針金でできたケージクリップを使い続けるか、鋼板でできた普通の鋼板ハーフクリップに変えるかだ。踏み面はケージクリップハーフLの65.7mmが理想的だが、LとMの区別がない鋼板ハーフクリップと鋼板ハーフクリップディープの60mmも、元々使っていた52.8mmよりは長いので、どちらでも問題ない。上蓋の長さはケージクリップハーフLと鋼板ハーフクリップは同じくらいで、鋼板ハーフクリップディープはやや短い。これも大して変わらないのでどれでもよい。つまり、サイズ上ではどれでも良いことになるので、材質で決める。針金より板の方が強度が高いので、破断を防ぎたいなら鋼板ハーフクリップと鋼板ハーフクリップディープの方が良さそうだ。重いのは難点だが、強度のためなら仕方ない。

鋼板ハーフクリップと鋼板ハーフクリップディープの違いは、前者は先端高さが28mmしかないのに対し、後者は42mmもあることだ。後者とほぼ同じ先端高さであるケージクリップハーフMで運用したところ、ランニング用シューズでもフラペ用シューズでも、靴先の高さがかなり余った。より厚いフラペ用シューズでも靴の先端は30mm弱なので、先端高さは28mmはぴったりな気がする。よって、最終勝者は鋼板ハーフクリップということになる。仕様上の重さは82gであり、ケージクリップハーフの62gより20gほど重くなるが、許容範囲だ。

ところで、ゼファールやらの樹脂製のハーフクリップはどうだろう。樹脂のほうが柔軟なので強度は低くても衝撃をいなせることで以外に耐久性が高いのかもしれない。仕様が見つからなかったので具体的な形状は不明だが、重さはLで80gと大して変わらない。

ただし、以下のブログとかを見てみると、ゼファールのLだと先端高さが高すぎて普通の靴だとガバガバになってしまうようだ。とりあえず仕様がわかっているだけでもMKSの方が無難かな。
briareos.hatenablog.jp

MKS鋼板ハーフクリップの製品が届いたので、まずは靴に当てがってみた。クリップの先端高さが28mmしかないので靴の先端がしっかり奥まで入るか心配だったが、私が履いているChromeのKursk TRだと、まさにピッタリであった。そのおかげで、クランク角が下死点を過ぎてから引き足に移行する際に靴がペダル上で一切動かないで済む。また、ケージクリップでは靴の先端から2cmくらいのところだけが靴とクリップの接点だったが、クリップが靴とピッタリになったおかげで、より広い面で接するようになった。ただし、このままだと実際に足を入れた時には窮屈に感じるので、鋼版の角度を無理やり広げてより鈍角にする必要があった。手でグイグイ引っ張ればある程度の調整は可能だ。

例によって、母指球と小指球を結んだ線がペダル軸と交差するようにスペーサを調整する。結果としては0.8mmのワッシャーを13枚入れることとなった。ボルトはM5の25mmが丁度良かった。スペーサによって踏み面が10.4mm遠のくので、元々の踏み面60mmと足すと70.4mmの深さになった。ここまで多くスペーサを入れねばならないのは私の足が幅広甲高なので大きめの靴を履かねばならないからだ。適正な長さの靴が履ける人なら、スペーサは5mmくらいでも良いだろう。何らかの理由で爪先で漕ぎたい人は、スペーサなしでもいけるかもしれない。

スペーサで踏み面の長さが同じになるように調整したのだから、足を嵌めていない状態でクリップが下方向にぶら下がると地面を擦るという問題は変わらない。三本線であるハーフケージクリップに比べて2本線である鋼板ハーフクリップの方が若干短いが、焼け石に水だ。走行性能を犠牲にしてスペーサの数を少し減らしたとしても、地面に擦らなくなることはないだろう。そういうものとして使うしかない。つまり、クリップを足に嵌めない状態での走行は控え、押し歩きする際にはクランクを水平に近くする必要がある。

ディープでない方の鋼板ハーフクリップは上蓋が7cmもあり、また接触面が広くなったおかげで、引き足でトルクをかけやすくなった。とはいえ、フラットペダル用シューズを履いている限りは、引き足の最大トルクはほとんど変わらない。フラットペダル用シューズは上に凸の方向には全く撓らないため、爪先だけでも引っかかっていれば十分な強さで引き足入力ができるためだ。よって、たとえクォータークリップだったとしても、おそらく最大トルクは変わらない。上蓋が大きいことと接触面が広くなったことの利点を敢えて挙げるなら、何らかの理由で足の軌道や足首の角度がぶれてしまった場合でも引き足がすっぽ抜けないという安心感があることだ。

クリップ本体の重さは43gだ。スペーサやボルトも含めたペダル全体の重さは216gになる。左右合計で432gということになる。ビンディングペダルは左右合計で320gとかなので、それに比べると大分重い。これも、そういうものとして割り切るしかない。

ところで、このMKSのアーバンプラットフォームというペダルは、踏み面の上のクランク側に突起がついている。こいつのせいで、ペダル上に普通に足を置くと靴底が浮いてグリップが弱くなってしまう。そこで、電動ルーターを使って突起を削ってしまった。下の写真で手前のペダルは削る前で、奥のペダルは削った後だ。突起を削った状態で実際にペダリングしてみたところ、以前感じていた違和感はなくなった。突起を避けるように足を外側に置く必要もなくなった。

アーバンプラットフォームの別の欠点として、踏み面がツルツルで、滑り止めのためのピンやギザギザが全くないので、下死点で後ろ引き足をする際に足が滑るというのがある。後ろ引き足がしにくいのはハーフクリップに共通の欠点だが、ツルツルなことでそれが強調されてしまう。その対策として針金とボルトなどでピンの代わりを作る対策を何度も試しているが、しばらく使っていると針金が切れてしまうのが悩みだ。アーバンプラットフォーム以外のペダルにするという手もあるが、トウクリップ専用の形状になっているアーバンプラットフォームの使いやすさは捨てがたい。よく回るし、クリップに足を嵌める所作がやりやすいし、見た目も格好いい。
mikio.hatenablog.com

ハーフクリップを変えたついでに、滑り止めも改良することにした。しかし、何が最善かわからないので、手探りになる。まず試したのは、針金を使うのは止めて、ゴムと接着剤を使う作戦だ。ホームセンターで薄手のスジ入りゴムシートとゴム用接着剤を買ってきた。ゴムシートは65mm四方くらいの形に切ってから、ペダルの踏み面の形に調整して、そして接着剤で貼り付けた。

これは、完全に失敗だった。ゴムの定着はうまくいったのだが、滑り止めの効果が小さすぎる。普通に滑る。さらに、踏み面が分厚くなってしまうので、ダイレクト感が減るのと、爪先がきつくなるという弊害がある。よって、却下だ。ゴムと接着剤を剥がして元に戻した。

次にやったのは、針金の代わりにワイヤーを使うことだ。ワイヤーは細い針金を多数まとめて撚ったものだが、剛性がない代わりに曲げた際にも強度が落ちないのが特徴なので、今回のような使い方では針金より適すると考えられる。ワイヤーにはM4の四角ボルトを16枚通した。ワイヤーは結節が針金より面倒臭い。針金は捻ればよいだけだが、ワイヤーの場合はワイヤークリップやワイヤースリーブなどを使う必要がある。ホームセンターで太さ1.5mmのワイヤーを1.5mと、1.5mm用のワイヤークリップ2個を買ってきた。ペダルへの巻きつけ方は針金と同じだが、結節時には結節点と反対側で捻って張力をかけた状態でクリップを止めることが必要だ。最後に、四角ボルトが回転しないように、ペダルとの間に短く切ったワイヤーを詰めて瞬間接着剤で固定した。

これはかなりうまくいった。四角ボルトは固定されてほとんど動かないし、四角ボルトの角が靴底の溝に引っかかるので、滑り止めとしての機能をそれなりに果たしてくれる。滑り止めの位置が母指球と土踏まずの境目あたりあるのが重要で、この位置だと踏み込みを邪魔しないけれど、引き足では引っかかる。滑り止めは尖っているわけではないので靴底を痛めないし、クリップに足を挿入する動作を邪魔しない。耐久性に関しては、しばらく運用してみないとわからないが、針金よりは大分マシだろう。

これでペダリング効率についてはトウクリップに対する期待通りのものになったが、一点だけ気に入らないことがある。ステンレスの表面がキラキラしすぎていて、黒いブロンプトンに合わないことだ。それに、太陽の光が反射して足元が気になってしまう。そこで、クリップを黒く塗装することにした。金属を黒くするには塗装の他に薬品で酸化被膜(黒錆)を発生させてコーティングする手段があるが、塗装被膜に比べて酸化被膜が強いわけではないので、厚さが変わっても構わないのであれば塗装で十分だ。ステンレスは塗料が乗りにくいので、100番の紙やすりで表面を荒らしてから、艶消しマットスプレーを吹いた。ムラにならないように三度吹きした。仕上げに艶消しラッカースプレーも拭いた。その結果が以下である。使い込んでいるうちに塗料は傷ついたり剥がれてきたりしてしまうだろうが、それもまた味だ。全体の反射率が下がっていさえすれば目的には適う。

以上で、やりたい事は全部やりきった。江ノ島まで往復120kmを走ったところ、かなり調子が良かった。ケージクリップでも引き足は十分にできたが、より大きな入力ができるようになった。むしろ、引き足で大きな入力しすぎてハムストリングスが売り切れてしまった。実際のところ、引き足での入力はケージクリップで可能くらいのわずかなものができれば良いので、鋼板になったことで持続性が上がるわけではない。とはいえ、急坂などでどうしても引き足を強くしたい場合には、鋼板クリップの方が頑張れると思う。新たに設定したワイヤーと四角ボルトの滑り止めもうまく機能した。後ろ引き足による入力は僅かしかできないが、負のトルクがかからない程度に足運びができれば十分だ。

総じて、鋼板ハーフクリップはケージクリップハーフと同等以上の走行性能を実現する。重量はケージクリップより嵩むが、強度は明らかに高いと思われる。よって、長旅で破断するリスクを避けるという意味では、ケージクリップより鋼板ハーフクリップの方が適切だ。また、おまけ機能として、クリップを地面に接するようにしてスタンドの代わりに使うことができる。突き立てたい方のクランクを6時半くらいの角度にして、クリップの先端を接地させれば良い。ケージクリップでも同様のことはできたのだが、強度が高い鋼板クリップの方が車体を安定させられる。

鋼板ハーフクリップの良さは分かったのだが、樹脂製のも試してみたくなった。樹脂製のは安いので、両者を比べた上で、結論を出しても遅くはない。キャプテンスタッグの樹脂製トウクリップを買って付けてみた。

樹脂製は軽いのも美点だ。鋼板は片方43gで、樹脂は片方29gなので、片足で14g、両足で28gの差がある。まあペダルと靴の重さに比べれば誤差のようなものだが。



樹脂製クリップの形状は、私の靴にちょうど良かった。MKSのは若干きつかったので無理やり広げる必要があったが、これはそのままで完璧に適合している。

樹脂製の美点のもうひとつは、柔らかいので、間違って踏んづけたり地面と接触したりしても壊れないことである。鋼板だと地面に接触した時に「ギャリーン!」と恐ろしい音がするが、樹脂だと「カリカリ」くらいで済む。しかし、剛性が低いことはペダリング性能の上では欠点だ。平地巡行の際に使う非常に弱い引き足くらいであれば変形しないのだが、登坂や加速の際に強い引き足をすると上蓋が持ち上がってしまう。ダンシングで引き足をしようものなら、ビヨンビヨン音が聞こえそうなほど曲がる。クリップが変形したとしても引き足での入力は成立しているのだが、変形に使われた力はパワーロスになるので、効率が明らかに悪化している。

てことで、樹脂製には樹脂製の良いところがあるからそれもありだと思う一方、やはり私には鋼板クリップが合っていると思った。樹脂製を使った後で鋼鉄製を使うと、いかに剛性が高いのかが再認識できる。樹脂製がひん曲がるほどの引き足の入力ができる自分に感心するとともに、その力をちゃんと受け止めている鋼板クリップが愛おしく思えてくる。よって、やはり鋼板ハーフクリップを常用することにした。

まとめ。トウクリップをMKSのケージハーフクリップから同じくMKSの鋼板のハーフクリップに乗り換えた。少し重くなったが、剛性が上がって、かなり大きな力で上引き足ができるようになった。トウクリップを選ぶ際には靴のサイズとの相性を確認することが大事だが、鋼板ハーフクリップは私の靴によく合っていた。滑り止めもワイヤーと四角ボルトを使ったものに改良して、後ろ引き足もそれなりにできるようにした。樹脂製と鋼鉄製を比べると、快適さは樹脂製の方が上かもしれないが、走行性能では鋼鉄製に利がある。

トウクリップを導入したとしても、すぐに速く走れるわけじゃない。引き足による入力を十分にするには、ペダリングスキルと筋力が必要だ。私はトウクリップを使い始めて1年ほど経つが、最近になってやっと顕著な入力ができると感じるようになった。前方に居る敵の顔面に膝蹴りをするようなイメージで上引き足をして、さらにその敵に前蹴りで止めを差すイメージで前押し足に繋げると、かなりいい感じに入力できる気がする。鋼板ハーフクリップだとそれら一連の動きを損失なく行えるので、漕いでいて効力感がある。すなわち、頑張った分だけ速くなるという快感がある。この感覚は使ってみないと分からないだろうから、普通のフラペしか使ったことない人はぜひ試してみて欲しい。