豪鬼メモ

MT車練習中

幅広足でも履けるフラットペダル用シューズChrome Kursk TR

Chrome社のフラットペダル用サイクリングシューズKursk TRを買った。幅広甲高の足でもなんとか普通の靴が履けるようにする方法についても深く検討した。各種工夫をしたところ、かなり快適に履けるようになり、より楽に速く遠くにフラペの旅ができるようになった。

サイクリングシューズと幅広甲高

私はフラットペダルもビンディングペダルも両方使う。ブロンプトンには主にフラットペダルを付けて走り、ロードバイクには主にビンディングペダルを付けて走る。しかし、逆に、ブロンプトンにビンディングペダルを付けたり、ロードバイクにフラットペダルを付けるのも面白い。
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フラットペダルの最大の利点は普通の靴で乗れることだが、にもかかわらずフラットペダル用シューズなるものが巷には存在する。スニーカー等の普通の靴との違いは、靴底が硬いことだ。靴底が硬いと、ペダルを踏んだ時の力が靴底や足の変形に使われる度合いが減るため、力の損失が少ない。また、フラットペダルのピンや凹凸が良く引っかかるような靴底の形状になっていて、滑りにくく、耐久性も高くなっているのが一般的だ。

フラペの自転車に頻繁に乗る人間にとっては良いことづくめのフラペ用シューズだが、まさにそんな人間である私は今までフラペ用シューズを導入していなかった。なぜなら、異常に幅広甲高な私の足に合うものが売られていないからだ。ビンディングシューズはそれでも我慢して買うしかないのだが、フラペ用のサイクリングシューズを我慢して買うくらいなら普通のスニーカーの幅広のを選ぶという結論に至っていた。GIROのサイトに足のサイズの測り方があるが、それに基づいて測ると、私の足長は24.5cmで、足幅は10.8cmだ。
www.cog.inc

汚い写真で恐縮だが、私の足はこんな感じで幅広だ。幼少期から幅に合わない靴を履かされていたせいで小指は腫れて内側に曲がってしまっている。幅広もさることながら甲高も異常で、象みたいな足だと自分でも思う。甲高なのは紐靴などの高さを調整できる靴では問題にならないことが多いので、主に幅広なのが悩みだ。



足幅の規格のことをワイズと呼ぶ業界の慣習があるが(widthの音訳なので本当は /wɪtθ/ ≒ ウィッツとか言うべきだろうが)、それは足長に単純な数式を適用して求めるのではなく、JISが定めた表を引かねばならない。以下のサイトに抜粋がある。
www.baseworks.org

JISの表で足長24.5cmの行を引くと、足幅108mmはFかGということになる。日本人の平均はEだそうで、3Eや4Eがワイドやスーパーワイドとして売られている中、それをぶっちぎってFかGを誇るのが私の足だ。そんな靴は売られていないので、普段はミズノのウェーブライダーというスニーカーの26.0cmの4Eを履いている。足長に1.0cmを足すのがぴったりの靴サイズで、ちょっと余裕を持たせたければ1.5cmを足すのが良いとされる。一般に売られている最も幅広の4Eがある靴でも適正サイズでは幅が足りないので、私は余裕を持たせた1.5cmを足したサイズを履いている。それでも小指はちょっときつい。以下の写真に示すように、4Eの靴ってやたらポッチャリしていて、それで普通にペダルを漕ぐとクランクアームで靴底の縁を擦ってしまうので、ワッシャー等でペダル位置を調整しているくらいだ。

自転車文化は欧州発なので、足幅が狭い欧米人を基準にした製品が多いっぽい。そもそもDとかEとかはJIS規格なので外国産の製品には表記されていないのだが、どうもA相当からD相当あたりが普通に売られているっぽい。シマノ社ですらD相当が標準で、ワイドと称している製品でもE相当らしい。なので、自転車関連製品のメーカーの製品を探す限りは、FかGである私に合うものは皆無だ。日本人には幅広甲高の人が私の他にも多くいるはずなのに、嘆かわしいことだ。では彼らはどうしているかというと、足幅に合わせてサイズがめちゃ大きいものにするか、親指や小指が潰れるのを我慢するかしかない。私のビンディングシューズはシマノのRC3のワイドだが、長時間履いていると小指だけでなく足先全体が痛くなってくる。

フラペ用のシューズに関しては、普通のスニーカーの中から靴底が硬いものを選ぶという手がある。ミズノやムーンスターなどの日本の靴メーカーのスニーカーなら4Eの設定がある。ムーンスターのSPLT SDM01が機能とコスパが良いらしく、4Eにも対応しているので、それを買おうとも思った。ただし、あくまで自転車用の靴ではないので、靴底の剛性や厚みが最適と言うわけではない。それだったら、普段から履いているミズノウェーブライダーで十分だ。ランニング用で靴底が柔らかいので全く自転車向きではないが、軽くて通気性が良いのが気に入っているのだ。

それでも、やっぱりフラペ用シューズが欲しくなってきた。最近ロングライドを良くするようになり、歩いている時間よりも明らかに自転車に乗っている時間の方が長くなってきたからだ。比率は1対5くらいかもしれない。自転車関連メーカーの製品でも、なるべく「ゆったり目」との評判の製品を選択して、かつサイズが大きめであるのは受け入れれば何とかなるかもしれない。また、シューズストレッチャーで無理やり幅を広げるという技があるらしいことを知った。あんまり激しく広げると靴自体が壊れてしまうが、2ワイズくらいなら広げられるらしい。

市場調査

わざわざフラペ用シューズを導入するなら、普通のスニーカーしての歩行性能はではなく、ペダリング性能を追求したものが良い。で、調べたところ、Shimano、Specialized、Fizik、GIROなどのビンディングシューズを作っている有名メーカーはフラペ用シューズも作っていることが分かった。多くはマウンテンバイク用で、剛性とクッション性とグリップ力と軽量さがセールスポイントになっている。私はマウンテンバイクに乗るわけでは無いので、クッション性は不要だ。剛性重視で、グリップ力そこそこで、薄底で、なるべく軽いものが良い。各メーカーからコスパが良さそうなのを見繕ってみた。

  • Shimano ET501
  • Specialized 2FO METHOD SHOES
  • Fizik GRAVITA VERSOR X6 FLAT
  • Chrome Kursk AW
  • Chrome Kursk TR
  • GIRO DEED
  • GIRO Tracker

各所のレビューを読んだところ、Chrome Kursk TRとGIRO DEEDが気になった。Kursk TRの方は、靴底がPanaracerの技術でグリップが良さげなのと、2Eまたは3E相当の幅広形状というのが利点だ。DEEDの方は靴底が硬くて薄いのが利点だ。硬いだけでなく薄いので、スタックハイトが減ってダイレクト感が増して速度や姿勢の制御がしやすいとされる。DEEDの製品説明には「ゆったり目」と書いてあるのも良さげだ。走行性能から考えるとDEEDを選ぶべきだが、快適性から考えるとKursk TRを選ぶべきか。

ヨーロッパのメーカーの製品は、サイズ表記がEU単位になっている。調べたところ、これはパリポイントなるシステムで、cm単位の足の長さに遊びの1.5cmを足した値を2/3cm毎に数えたものらしい。すなわち、CMからEUを得るには (CM + 1.5) * 3/2 という式になり、EUからCMを得るには EU * 2/3 - 1.5 という式になる。この1.5cmというパラメータは結構適当で、メーカーや小売店によって2cmで計算していたりもするのだが、とりあえずは1.5cmということにしよう。私の足長は24.5なので、(24.5 + 1.5) * 3/2 = 39 が長さぴったりの靴ということになる。しかし実際にはそのサイズでは全く幅が合わないので履いていられない。ビンディングシューズはEU41なので何とか履けるが、ロングライドすると小指が痛くなってくる。幅だけを考えると、GIROの表を引くとEU45くらいが最適なのだが、そうすると28.5cm相当の長さになってしまうので、爪先が余りすぎる。なので、間をとってEU42かEU43が良いということになる。どちらも妥協の産物のパレート最適の上にあるので、EU42でもEU43でも良い。北米のメーカーの製品は、サイズ表記がUS単位になっている。インチ単位を3倍した尺らしいのだが、意味不明な式になっている。CMからUSを得るには (CM + 1.5) / 2.54 * 3 - 24 らしい。逆関数は (US + 24) / 3 * 2.54 - 1.5 だ。しかし、US = CM - 18 とかいう簡便法もよく使われているので、混乱する。ともかく、EUと同じ理屈で判断すると、US8かUS9が私には合いそうだ。

ここで、シューズストレッチャーが2ワイズ分だけ靴幅を広げられると仮定しよう。JISの表を引くと、24.5cmのG相当という条件が24.5cmの3E相当が必要という条件に緩和され、それは足幅が10.3cmに合う物を探すことになる。GIROの表を引くとEU43だ。さらに、比較的ゆったり目と謳っている製品ならば、そこから1サイズ下げられると仮定する。ならば、EU42でも良いことになり、EU42とEU43のどちらもOKというのは許容されることになる。この二つの仮定は単なる希望的観測を重ねたに過ぎないが、そうでもしないとEU45を買うことになってしまう。

結局のところ、Chrome Kursk TRの26.0cm(US8)をAmazonで購入した。8594円だった。サイズによって値段が大きく違うのが経済原理を感じさせるところで、26.0cmは8594円、26.5cmは15017円、27.0cmは5564円であった。需要と供給によって価格が決まるというのが如実に現れている。値段を見て、ちょっと妥協して27.0cmのを買ってしまいそうになったが、ぐっと堪えた。今までも26.0cmのスニーカーを履いていて既に爪先が余り過ぎなので、それ以上増えるのはまずい。何のために靴を新調するのか、目的を見失ってはいけない。

ウォーキングやランニングの靴であれば、サイズが1.0cm大きいくらいなら許されるかもしれない。しかし、トウクリップのペダリングではそうはいかない。靴が0.5cm長いと、爪先の余りも0.5cm増えることになる。トウクリップを使う場合、靴の先端がトウクリップに接するので、靴のサイズがペダル上の踏み込み位置を決めることになる。爪先の余りが0.5cm増えれば、踏み込み位置が0.5cm後ろにずれることになる。そうすると、母指球でペダル軸を踏めなくなり、足の筋肉への負担が増えてしまう。ウェーブライダーでも手作りのスペーサーを大量に噛ませてなんとか母指球の位置で踏めるようにしているのだが、そこからさらに増えるのは望ましくない。Amazonで靴を買った場合、サイズが合わなければ返品できるので、まずは小さい方から試して、適正サイズより大きめながらも最小のものを選択したい。ダメなら返品しつつ大きくしていくという手順を取る。

レビューを見る限り、GIRO DEEDもかなり良さそうだったので迷った。GIROの販売店に自分の足長と足幅を送って合うサイズがあるかどうか尋ねて、丁寧な返答もいただいた。GIRO Trackerならより調整幅が大きいので、インソールの工夫などをすればフィッティングできるかもとのことだった。しかし、Kursk TRは足幅が広いことが売りの一つのなので、それが決め手になってそちらを選んだ。製品説明によると「悪路での踏み込みを想定し、前足部は広めに改良」とのことで、製品の上からの写真を見ても母指球と小指球のあたりに余裕があるように見える。Kursk AWはその特性がなく足先が狭いのでダメだ。

製品外観

Chrome Kursk TRの実際の製品が届いた。EARTH/GUMとかいう色合いらしいが、なかなか良い。私が一番好きな色は黒と暗灰色だが、オリーブドラブとかカーキとかの自然色も好きだ。オレンジの差し色は目障りだと思ったけど、日焼けして褪せてくればいい感じになるかも。履いた感覚としては、縦は若干余るが、幅が若干きつい。26.0cm(US8)の製品だが、長さはミズノの26.0cmと同じくらいに感じる。製品説明にあった通り、他社製品よりもハーフサイズ小さいものを選ぶべきというのは、幅広足さんには正しいと思う。それでも私には幅が若干きついのは、予想していた通りだ。長時間履いて足がむくんでくると、小指が靴の壁にさらに押し付けられて痛むことが予期される。つまり私の足の形状から考えると靴の形状が細すぎる。それでも、他のワイド設定でない製品に比べれば幅広な形状の靴であることは分かる。ウェーブライダーの4Eまでは行かないが、2Eくらいはあるかもしれない。これなら返品しないでも良さそうだ。シューズストレッチャーで「育てる」方向で検討する。

シューストレッチャーで幅を広げる方向に圧力をかけて一晩放置したところ、若干ながら小指が楽になった。とはいえ、一晩くらいでは足りないので、数週間かけてゆっくり育てていく所存だ。無理やり広げるなんてのはメーカーが推奨する方法でないのは分かっているが、足に合うのが無いんだからしょうがない。

重さはインソールと紐込みで1足450gであり、1足250gのウェーブライダーとの差は200gにもなる。ビンディングシューズのRC3はクリート付きで1速280gだ。つまりKurskはランニングシューズに比べてもビンディングシューズに比べてもかなり重いということになるが、自転車に乗ってしまえば重さはさほど感じない。とはいえ両足で900gもあるわけで、登坂抵抗は確実に増えるので、重いのは欠点と言う他ない。MTB寄りの製品だから丈夫で重いのは仕方ないところだ。ロードの人は普通ビンディングを使うので軽いフラペシューズの需要はないのだろう。



靴底や靴全体の剛性は特筆すべきだ。下に凸の方向には、母指球から先の爪先だけがしなるようになっているが、上に凸の方向には、全くしならない。しならない部分は、手で曲げようする程度の力では全く変形しないので、剛性は十分だと言えそうだ。よって、歩行時にギクシャクする度合いを緩和しつつも、ペダリングの力を逃さずにペダルに伝えてくれることが期待できる。



Kurskの靴底の厚さは2.5cmとのことだ。GIRO DEEDの1cmに比べると大分厚いことにはなるが、ウェーブライダーの3.6cmに比べれば大分薄いとも言える。実際、ウェーブライダーに慣れた身としては、ちょっと薄くなったと感じる。とはいえ、Kurskは靴底とインソールのそれぞれの踵の部分にぷにぷにのクッション部材が入っていて、衝撃吸収性はかなり考慮されているっぽい。私がこれで長距離を歩くのは出先でパンクして押し歩きする時くらいだろうが、トレッキングシューズのように使うこともできそうだ。インソールの厚さは一定ではなく、爪先から母指球辺りまでは薄いが、踵付近は厚くなっていて、これはペダリングを考慮してのものだろう。



横の壁がメッシュになっているのは通気性を考慮してのことらしく、一般的なトレッキングシューズよりは通気性が良いのかもしれない。しかし、ランニングシューズと比べたら通気性は遥かに劣る。夏にずっと履いていたらおそらく臭くなるから、こまめに脱いで乾燥させたりスプレーで殺菌したりといったメンテが必要になるだろう。秋冬は逆に冷えにくいので使いやすい気がする。爪先部分はスエード生地だから適当に穴を開けても大丈夫そうなので、あんまり蒸れるようなら防水性の悪化を覚悟しつつポンチで穴を開けることも検討しよう。

細かい配慮で嬉しいのは、踵とタンの双方にストラップが付いていることだ。これがあると、いちいち靴紐を解かなくても、ストラップを引っ張って入り口を広げて靴の着脱ができる。本当は良く無いと分かっているが、私は靴紐を解かないで靴を履いて爪先を地面にトントンして無理やり踵を靴にねじ込むことが多い。その履き方だと踵の壁を潰してしまうことがあるので、ストラップで入り口を広げられるなら安心だ。タンには余った靴紐を留めるゴムもついていて、紐がペダルに巻き込まないように仕舞える。さらに、踵の後ろに反射材がついていて、後続車から視認されやすいようになっている。スポーツ用ペダルの多くは反射板がついていないので、地味に有難い。このあたりの工夫にメッセンジャー文化の伝道者たるChromeっぽさを感じた。多分、開発者はちゃんと自分でも製品を使っているのだろう。



ハーフクリップの改良

Kurskにおける靴の内部での爪先の余りはウェーブライダーの時とほぼ同じくらいだが、アウターの素材が分厚い分だけ、靴の先端が前に飛び出る形になる。そうすると、今まで丁度良かったハーフクリップの奥行きが足りなくなる。既に0.8mm厚のワッシャーを9枚入れた7.2mmのスペーサで奥行きを増やしていたのだが、それでは足りないことになる。よって、M5*30mmのネジ4本とM5*12mm*0.8mmのワッシャー50枚をホムセンで買ってきて、ワッシャー24枚を入れた19.2mmのスペーサを作った。

母指球と小指球を結んだ線の上にペダル軸が来るのが理想だ。母指球は小指球よりほんの少し爪先側にあるので、真横から見るとペダル軸の直上が母指球より5mmほど後ろに位置するのが望ましい。ペダリング時にはペダルの角度は水平ではなくやや前下がりになるので、それを想定してペダル軸の直上の位置を見定めるべきだ。ということで、靴に母指球の位置のマーカーをつけてから、ペダルに装着してそれっぽい角度で撮影したのが以下の写真だ。だいたい理想通りになっていそうだが、スペーサがあと5mmほど長くてもいいかなとは思った。追って調整することになるだろう。スペーサが長過ぎると強度が落ちたり重くなったり地面に擦ったり前輪と干渉したりと良いことがないのだが、パワーゾーンの入力効率が悪くては台無しなので、優先度高で対応する。

MKSのアーバンプラットフォームというペダルを使っているのだが、こいつは表面にピンなどの凹凸が付いていなくて滑りやすいので、エンザートと針金で自分でピンを作った。ちなみに、十分な荷重がかかっている場合には凹凸が無い方が接触面積が増えて摩擦力は高くなる。にもかかわらずピンを立てるのは、荷重が弱くて靴底とピンだけが接しているような場合でも摩擦力を発生させるためだ。理想的なペダリングにおいては下死点では荷重が抜けているべきだが、その状態でも後ろ方向にペダルを引くための摩擦力が欲しいので、ピンが必要なのだ。ていうか何故このペダルはピンが省かれているのかが謎だ。革靴とかでも乗れるようにするためかな。でも革靴でトウクリップ使う奴なんているのか。あと、細かいことだが、ペダル表面のペダル軸側の端にある出っ張りが邪魔だ。こいつはいずれ電動ルーターで削ってピン状にしてしまおう。



ペダリングへの影響

トウクリップでペダリングして入力効率がどうなるかが重要だ。まず、クランク角が12時付近の状態での前方向への押し足だが、若干やりやすくなった。スニーカーの時は、靴の爪先が柔らかく、かつ爪先を余らせて履いていたのでなおさら、クリップを押した際の力が靴の変形に使われていた。Kurskだと爪先がより丈夫なので、結果的に靴の変形量が明らかに減り、ダイレクト感が増した。

クランク角が3時付近の状態での下方向への踏み足だが、これも若干やりやすくなった。靴底が硬いので、踏み込んだ際の靴底が変形する感覚は小さく、ダイレクト感が増した。ただし、靴底には一定のクッション性があるので、ビンディングシューズほどのダイレクト感を期待してはいけない。それよりも、靴底が反らないのが大きな利点だろう。足首に込めた力がペダルにそのまま伝わるので、アンクリングを起こさなければ下死点近くまで入力ができる。私はもともと足首の関節が硬めなので、スニーカーで踏み込んでも足首が曲がって力が逃げると感じることはなかったが、靴全体が硬いことで踏み込み時に余計な筋肉を使わなくて済むという安心感が増した。また、発進時にペダルを漕ぎ始める際には足をペダル上の適切な位置に置き損ねる時があるが、靴底が硬ければ足の角度を保つのが楽になる。その一漕ぎが結構足首の力を使って攣りそうになることがあるので、それがなくなるのは地味に嬉しい。MTBだとペダルと足がずれることは日常茶飯事なので、この性能はかなり重要らしい。

クランク角が6時付近の状態での後ろ方向への引き足だが、これは明確にやりやすくなった。靴底のグリップ力が上がっていて、ペダルの自作ピンをしっかり噛んでくれる。靴底の溝がピンに引っかかるわけではなく、靴底の撓みがピンをねっとりと摩擦している感じだ。また、靴底の剛性も上がっているために、噛んだ状態での遊びが小さくなり、それがダイレクト感を向上させている。耐久性が高いのも売りらしく、確かに100kmほど乗った限りではピンによる全く摩耗は全く見られない。この調子なら5年とか持ちそうだ。

クランク角が9時付近の状態での上方向の引き足だが、これも明確にやりやすくなった。これが最大の効果かもしれない。靴が上に凸の方向には全くしならないため、トウクリップに爪先だけ引っ掛けて上に持ち上げても足がひん曲がらない。もちろん足首の関節には負荷がかかるし、ビンディングほどの固定力はないので筋力全開で引き足を行うことはできない。しかし、スニーカーだと負のトルクをゼロにするくらいしかできなかった上引き足が、感覚的には頑張れば10kgf相当(0.165mクランクなら1.65kgfm=16.18Nm)の正のトルクをかけられそうなくらいに強化された気がする。とはいえ、実際には引き足で大きな入力をするのはコスパが悪いので、弱い入力を無意識に続けられることの方が重要だ。

靴が重くなれば乗車重量が増えて登坂抵抗が増すのは単純に欠点だ。質量に応じて慣性力も上がるので、ケイデンスが高くなるほどにペダリングで足の軌道を調整するのが難しくなるのも欠点だ。それ以外にも面白い作用と副作用がある。靴が重ければ、クランク角3時付近で足をペダルに乗っけただけで進むという感覚が少し強まる。一方で、クランク角9時付近では靴の重さを持ち上げるために余計に力を使わねばならない。負のトルクをかけない理想的なペダリングをしている限りは、シーソーの原理で左右の足の重さが相殺されるわけじゃない。すなわち、靴が重いほど、3時付近で使う大臀筋には優しくなるが、9時付近で使う腸腰筋や大腰筋には厳しくなると思われる。低いケイデンスの平地巡行で疲労を分散するという意味では、重めの靴も悪くないのかもしれない。

さて、この靴を履くことで、ロングライドでどの程度楽になるかが本題だ。理想的にはパワーメーターを使って入力ワット数や消費カロリー数と走行距離や速度の関係を調べるべきなのだろうが、そのような設備も気力もないので、主観評価だけを述べる。上述のように、クランク角の全域で入力効率が僅かながら上がるのは確かで、それはロングライドで楽に速く遠くに走るのに一役買っている。平地巡行での感覚だと、12時のトルクは10%増し、3時のトルクは3%増し、6時のトルクは20%増し、9時のトルクは30%増しといったところだろうか。それぞれのクランク角での元来の入力を元に重みづけ平均をするなら、総合的には8%くらい入力が増しているような感覚がある。

ところで、何の前置きも無しに「入力」という言葉を使ってきたが、ここでは、「クランクの回転方向にペダルを動かそうとする力」の意味で使っている。これは、足が靴に与えた入力から、靴の変形による損失を引いたものでもある。ここで、「入力が向上した」という言説の背景には二つの要素があることが分かる。足に与える入力が上がったか、靴の変形による損失が減ったかだ。硬いフラペ用シューズを使うと両方の効果がある。後者は副作用がないので全面的に嬉しいのだが、その効果は微々たるものだ。前者は効果が比較的大きいが、筋肉が頑張る結果なので、疲労が増えるという副作用がある。つまり、シューズを変えたとて、魔法のように速く走れるようになるわけではない。しかし、パワーゾーンである3時以外の部分で入力が増えるのは疲労の分散につながるので、結果的に長く楽に走れるようになる。全て平地であるいつもの多摩川サイクリングロードを走ったところ、いい感じの速度で走り抜けられたと感じる割には、帰ってからの疲労感が少なかった。なお、多摩川サイクリングロードでは突然現れる砂利道を回避するために土手を押し歩きで上り下りすることがよくあるのだが、その際の歩行感もとても良かった。

入力が微妙に増える(よって出力も微妙に増える)のは嬉しいことだが、それより嬉しいのは、ダイレクト感が上がることだ。つまり、力を入れた分だけ如実かつ即座に自転車が加速する感覚だ。スニーカーだと、力を入れてから車体が加速するまでの間にちょっとラグがあったのだが、Kurskにしてからそのラグが小さくなった気がする。これは、自転車と自分との一体感が増したと言い換えてもいい。ほんのちょっとの差なのだろうけど、その差が自転車を操作する快楽を確かに左右する。操り難いものを操る快楽こそがスポーツの本質なので、この特性は重要だ。

靴を変えたことで増える入力は僅かなので、低い入力で加速または巡行している時には効果を実感できるが、高い入力をしている場合には実感できない。その典型がシッティングでの急坂の登坂である。試しに岡本3丁目の富士見坂を登ってみたが、スニーカーの時と全く変わらなかった。52T/18Tではシッティングでは登れず、ダンシングが必要だ。39T/18Tならシッティングでも登れる。靴を変えたら52T/18Tのシッティングでも行けるかと淡い期待を抱いてはいたが、ダメだった。ビンディングだとクランク角5時から10時くらいまでハムやその他の筋肉を頑張らせて長いこと引き足入力ができるが、ハーフクリップの引き足の入力受付時間は6時前後のほんのちょっとと9時前後のほんのちょっとだけなので、ビンディングのような力強い引き足は期待できない。これは靴だけ変えてもどうにもならない。

ダンシングの場合には、引き足の最大入力が上がって、登坂能力が顕著に向上する。ダンシングの引き足では爪先をハーフクリップに引っ掛けた状態でペダルから浮かせて、逆の踏み足が下に下がるまで、ゆっくりと上に引っ張ることができる。ビンディングほどグイっと引っ張ることはできないが、靴が固ければ、それなりの力で長いこと入力ができるようになる。実際、Kruskにしてから、重いギアのままダンシングで急坂を登り切ってしまうことが増えた。なお、緩い坂なら、普通の巡航が効率化するのと同じ理屈で、シッティングのままで押し足と引き足を駆使して調子良く登れるようになった。

追記:クランク角ごとの関節の動かし方についてはさらに考察して記事にまとめた。
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幅問題

懸案は、私の幅広の足がサイズギリギリの靴にロングライドでどの程度耐えられるかだ。結論としては、買ったままの状態では、ロングライド中にはやっぱり幅がきつくて足に違和感を感じた。Shimano RC3(長さEU41、幅E相当)での痛みを100とすると、Kursk TR(長さEU42、幅2E相当?)での痛みは30くらいか。長時間乗っていて耐えられないというほどではないが、ずっと履いていたいとは思わない感じだ。トウクリップでの走行性能のために長さを許容範囲ギリギリに抑えた結果がこれなので、仕方がない。EU43やEU44にすれば幅の余裕は生まれるが、トウクリップだと余った爪先のせいで母指球でペダル軸を踏めなくなってしまうだろう。シューストレッチャーで一晩寝かせた後は、爪先の幅に多少余裕が出てきて、痛みは15くらいに減った気がする。

小賢しい技ではあるが、靴紐の一番下の穴を使わないという手がある。一番下の穴はだいたい小指の位置にあるが、そこが緩んでいれば、小指への締め付けも弱くなる。そんなことをぜずに紐全体を緩めればいいじゃなかと思われるかもしれないが、そうするとペダリングの前押し足に伴って足の甲全体が爪先方向に動いてしまい、結果的に親指と小指が内壁に押し付けられてしまって意味がない。むしろ足の甲はしっかり締め付けて前にずれるのを防がなきゃならない。それでいて爪先の締め付けを緩和するには、この裏技はうってつけだ。実際にやってみると、1ワイズ分くらいは幅広になった感覚があり、痛みがさらに半減して、ほとんど気にならない水準になった。数値で言うなら7とかかな。副作用としては、サンダルのように爪先の上下方向の固定が甘くなる傾向にあるので、歩行時に爪先で踏ん張る際の支持が弱くなるところか。とはいえ山歩きでもしなければ差は分からないだろう。この裏技は靴紐ならではのもので、BOAダイヤルだとできない。BOAダイヤルが2個ついたものであれば前後の締め付けを変えることで似たようなことができるが、靴紐だとポンポイントに足先部分だけ緩められるという利点がある。

スエード生地はそれなりに伸びるので、シューストレッチャーをもう少し使い込めば、もう少し幅も広がるだろう。よって、幅問題はほぼ解決したと言える。元々若干広い幅であるKursk TRにシューストレッチャーを適用して紐の裏技を使うことで、象の如き異常な幅広足を持つ私でも、フラペ用シューズを履きこなすことができた。拍手。

まとめ

フラットペダルでもペダリング効率を向上させるべく、ChromeのKrusk TRを導入した。幅広の足を持つ私としては海外ブランドの靴には不安があったが、Krusk TRは比較的幅広なので、これを選んで正解であった。シューストレッチャーで幅をさらに広げて、そして靴紐の結び方を工夫したところ、小指の痛みはほぼ消えて、日常的に履いても問題なくなった。ハーフクリップと組み合わせた際のペダリング効率の向上は期待していた通りで、ビンディングペダルには比べるべくもないが、クランク全周にて入力効率が向上し、明確に走行性能が上がった。一見すると単なるおしゃれスニーカーなのに、機能美が詰まっているという製品には好ましさを感じる人も多いだろう。これは買って良かった。市場調査と購入後の対策にそれなりの時間を割いた甲斐があった。

この靴のおかげで、フラットペダルの良さを改めて感じた。ハーフクリップとフラペ用シューズの組み合わせなら、小径車だけではなく、ロードバイクでも楽しめそうだ。サイクルジャージとビンディングペダルというガチなスタイルじゃなく、Tシャツとハーフパンツとフラペとおしゃれスニーカーというカジュアルな見た目なのに、風のように街を走り抜けられたら素敵だ。カジュアルに速いというのがポイントで、買い物やカフェ巡りの交通モードとしてロードバイクに乗るというのがいかにも贅沢じゃないか。もちろん小径車でも同じ恩恵が味わえて、小径車なのにクロスバイクやロードバイクを抜いて走ることもちょっとだけ容易になる。