私はいま、板橋区ホタル生態環境館の元飼育担当職員から「名誉棄損」で訴えられ、裁判中です。
このブログ連載「ホタルの闇」やツイッタ―、フェイスブックなどで、私が「ナノ銀で放射能除染できるというのはインチキ」と指摘したことを、「ナノ銀除染」の〝発明者〟である元職員は、名誉棄損にあたると主張しているのです。
◆除菌できるなら放射能も…?
そもそもナノ銀除染とは何でしょうか?
ナノ銀とは銀(Ag)の粒子をナノスケールまで細かくしたもの。ホタル館では、ナノ銀が含まれる薬品を除菌剤として使用していました。訴状では次のように説明しています。
◆「ナノ銀とは、10ナノメートル程度からそれ以下の粒子径の銀のことである。ナノ銀に抗菌作用があるものと認識されていたことから、原告は、ナノ銀を石及び土等に担持することによって水をろ過し、カビの発生のない環境を確立させ、ホタルの累代飼育に活用していた」(原告側訴状15ページ)。
フェイスブックなどでは、元職員は「エボラ出血熱にも効く」などと言っています。
2011年3月11日の東日本大震災と福島第一原発の事故が発生すると、
◆「そんな中で、ナノ銀担持物質(例えば御影石)をとおして菌が除去できるのであれば、放射性物質にも効力があるのではないかという助言があり、ホタル館周辺の高濃度の汚染度や汚染水を使った除染実験に着手してみた。
そうしたところ、放射性物質のレベルが下がることが確認されたため、原告はこの結果が本当ならば、進行する放射性物質による汚染とその被害を少しでも回避することができるのではないかと考えて真剣にこの効能について検討を重ねていった」(訴状8ページ)
訴状によると、福島県や千葉県などでナノ銀除染の「実証実験」や研究発表を繰り返しました。そして次のような結果を得たといいます。
◆ 「ほぼ“半減期”が約1~2カ月程度の減弱効果が存在するとの結論を得つつある。途上だが現状報告する」(2013年2月5日 研究会「放射線検出器とその応用」(第27回)での発表 訴状11ページ)
◆ 「本未知現象のメカニズムについてはγ線計測実験だけからは不明であるが、現在の所、他分野の情報も加味すると、近年多くの実験データを示しつつある“低エネルギー核反応”LENRが有力と捉えている」(2014年1月30日、上記研究会28回での発表 訴状11ページ)
化学反応は原子核に影響しないこと、放射性物質の半減期はそれぞれの核種に固有のものであることを根拠に、私はこうした「ナノ銀の放射性物質低減効果」なるものはインチキだと批判し、「ナノ銀除染」を信じないように警告を発してきました。
訴状に対して私はつぎのような意見を裁判所に提出しています。
●「放射性同位体の放射性崩壊は自然に発生するもので,半減期の長短は,放射性同位体ごとに定まる確率(崩壊定数)のみによって定まるものである。すなわち,崩壊までの期間はその物質の置かれている古典物理学的・化学的環境(熱・電磁場・化学反応など)には一切依存せず,半減期は放射性同位体ごとの固有の期間となるものである。これらは,自然科学における人類の実証的探求の結果,科学的事実が立証されている放射線物理学の学問的知見である」(被告準備書面(2)平成27年6月5日)
◆科学的に実証せよ!
ところが原告の元職員はこれに再反論してきました。
◆「原告はナノ銀による放射線低減効果について科学的検証を行い、研究発表会で発表までしている。被告は単に『放射能同位体の半減期は放射性同位体ごとに定まる確率のみによって定まり、その期間は科学的環境には一切依存せず、半減期は放射性同位体ごとの固有の期間となるものである』と主張するだけでなく、実際に自身が主張する上記理論について、科学的に実証されたい。」(原告準備書面(1)平成27年8月10日 )
まず指摘しなければならないのは、被告側主張の引用に誤字があることです。「放射能同位体の」は誤りで、正しくは「放射性同位体の」です。また、「科学的環境には」は誤りで、正しくは「化学的環境には」と記述すべきです。
たしかにささないなことかもしれません。でも、このさい正確な用語の定義を確認しておきましょう。
放射能とは、かんたんにいえば「放射線を出す性質あるいは能力」のことをいいます。「不安定な原子核が自発的に別のより安定な原子核に壊変する性質」といいかえることもできす。原子核が壊変するときにアルファ線、ベータ線、ガンマ線という放射線を出すのです。
ですから、放射性物質とは放射能をもった物質のことで、放射性同位体ともいいます。
なぜ放射性同位体というのかといえば、同じ化学的性質をもった物質でも放射能を持っているものと、持っていないものがあるからです。
たとえばセシウムは、セシウム133、セシウム134、セシウム137の3つの同位体があり、そのうち放射能を持つ放射性同位体は134と137の2つの核種です。
「化学」と「科学」を混同していては議論になりません。問題は、ナノ銀という物質をふりかけたり、混ぜたりすることで、どんな反応や効果があらわれるか?ということですから、化学としてとらえなければなりません。
では化学とは何か?
「物質の性質・構造、物質相互間の化学反応を研究する自然科学の一部門」であり、そして化学反応とは、物質のもとである原子を構成する素粒子のひとつである電子のやりとりにかかわる現象のことです。原子は中心に陽子・中性子からなる原子核があり、そのまわりの軌道を電子がまわっていることで構成されています。
その電子にかかわる変化が化学反応であり、原子核にかかわる変化が核反応です。
化学反応では、原子核に影響を及ぼしません。だから私は、ナノ銀を加えるというような化学反応では、原子核の壊変=放射線には影響しないと言ったのだけにすぎません。これは自説の主張などではなく、事実そのものです。
ですから、原告の元職員から「主張するだけでなく、実際に自身が主張する上記理論について、科学的に実証されたい」と求められても、正直困ってしまいます。
「これらは,自然科学における人類の実証的探求の結果,科学的事実が立証されている放射線物理学の学問的知見」なのですから、それ以上説明しようがないのです。
たとえば、ニュートンは万有引力の法則を発見し、「2物体間には常に,それらの質量の積に比例し,距離の2乗に反比例する引力がはたらく」という重力の性質を明らかにしましたが、なぜ重力が生じるのか? という疑問にニュートンは答えませんでした。アインシュタインが現れて、「重力とは空間の歪みである」と説明できるようになりました。ですが、空間はどうやって生まれたのでしょうか? とけない謎はまだまだ多いのです。だからといって、ニュートンやアインシュタインは間違っていたということにはなりません。
◆ニセ科学と立証責任
もともと「ナノ銀で放射能を低減させる」「半減期を減弱させる」などと、これまでの化学的知見に反する主張をしているのは原告の元職員なのですから、立証責任は原告側にあります。
宇宙物理学者の池内了さんは疑似科学(ニセ科学)の特徴の一つに「立証責任を批判者に負わせる」ことをあげています。
●「(疑似科学の)第二の特徴は、それを主張する人が立証責任を負わず、むしろ批判する人が反証しなければならないと言い募ることにある。『それがウソだというなら、ウソであることを証明してみろ』というわけだ。しかし、第一の特徴にあるように反証する手だてがない。そこで『ウソであると証明できないではないか』として、自らの主張が正しいかのうように言い立てるのだ。立証責任を脇において、反証責任を批判者に押し付けるのである。」
(「疑似科学入門」 池内了 岩波新書 2008年)
アメリカの科学史家マイクル・シャーマーは「なぜ人はニセ科学を信じるのか」(岡田靖史・訳 早川書房 1999年)のなかで
「突飛な仮説を打ち出す者は、専門家に対して…立証責任を負うことになる」と述べています。そして「念のために言っておくと、証拠を提出するだけでは充分ではない。その証拠の正当性を人々に納得させなければならない」
と指摘しています。
同じくアメリカのロバート・パークはでつぎのように言います。
「『物理学の最先端』を自称するインチキ科学もある。自分たちの発見は科学に大革命をもたらし、科学理論を根本からくつがえすと吹聴する連中だ。こうした『新しい科学』のふりをするインチキ科学にたいして、科学界は、説得力のある証拠を提示するよう強く求めなければならない。カール・セーガン博士は『突拍子もない主張は、突拍子もない証拠によって裏打ちされている』と述べた。だが、突拍子もない主張というものは、まちがっていたことがあとでかならず判明する」(「わたしたちはなぜ科学にだまされるか」(栗木さつき訳 主婦の友社 2001年)
「ナノ銀の放射能低減効果」なるものが、「突飛な仮説」「突拍子もない主張」であることは、ネット上の書き込みはみればあきらかでしょう。
しかも発見者の元職員も、その支援者たちも、それらが間違いであることに気づいています。
元職員は著書「ホタルよ 福島にふたたび」で「もっとも、学者はそんな単純な話ではない、と言うんですけれどね。でも、彼らの言い分は昔々に発表された理論に基づいたものでしかない。」と科学者たちから批判されていることを認めています。
また「放射能浄化Abe-Effect協議会 」という団体までつくり、元職員と「ナノ銀」除染活動を支援している元参院議員の平野貞夫氏は「LENRという技術は、四半世紀前に『常温核融合』として話題になったが、再現性が悪く、主流学界から似非科学と烙印を押されていた」(「戦後政治の叡智」平野貞夫 イースト新書 2014年)と述べています。
さらに元職員とともに「ナノ銀の放射能低減効果」を主張する元東北大学大学院教授・工学博士の岩崎信氏は平野氏らが主催した勉強会で、つぎのように講演し、「ナノ銀」が常識に反していると語っています。
「化学というのは、全部(周りの軌道)電子(の話)なのです。その(原子核と電子)間に、殆どやり取りが無い事が常識なのです。ですから、何で包(くる)もうが、ナノ銀で包もうと、そんなものに係らない。実はそんな事は(物理学の)教科書に書いてありませんが、いろいろ(その分野で)仕事していると、その様な『常識』が生まれて参ります」(平成24年8月9日 放射能浄化勉強会での講演)
岩崎氏は「物理学の教科書に書いてありません」といいますが、それは基礎中の基礎であるからに他なりません。しかも、実際には高校物理の教科書や参考書にも書かれています。
私の書棚にある本からいくつかを紹介しましょう。
◆夢にすぎない
「誤解1 科学が進歩すれば、いずれ放射能を無害化する『夢の薬品』ができる?ーー
ある原子が『放射能をもつかどうか』は、原子の中心にある原子核が『何個の陽子と何個の中性子で構成されているか』という『核内事情』で決まります。薬品が起こす化学反応は、原子核の外の結びつきに影響を及ぼすだけで、『核内事情』にはまったく影響を与えることができません。だから、これは夢に過ぎません」
(「原発事故の理科・社会」安斉育郎 新日本出版社2012年)
◆人工的に変換できない
「普通の化学的な反応をいくら繰り返しても、元素を人工的に変換することなどできるはずがありません。元素を変えるためには、原子核の核子構成、特に陽子数を変えなければなりませんが、化学反応というのは、原子核にまで作用を及ぼすものではなく、核外の軌道電子、しかもかなり外側の軌道に近いやりとりにかかわるものだからです。」
「放射性核種の放射能が減衰していくスピードは、温度や圧力などの条件にまったく支配されずに、核種に特有なものです。」
(絵とき 放射線のやさしい知識」飯田博美・安斉育郎 オーム社1984年)
◆叩いてもこわしてもだめ
「放射性物質(放射性元素)からは、放射線が絶えず出ています。これを叩いて壊したり、あるいは加熱や冷却をしても、放射線の放出は止みません」
(「Q&A 放射性物理 改訂新版」大塚徳勝・西谷源展 共立出版 2007年 )
◆化学反応の100万倍のエネルギー
「ここで強調したいことは化学反応というものはすべて核の周りを覆っている電子の働きによるもので、化学反応が起きている最中も化学反応が終わった後でも、それぞれの核は元の状態を保ち、核自体には何の変化も起きないということである」
「核エネルギーは電気エネルギーの100万倍も大きいのである。したがって電気力によって核を壊すなどとは、できる相談ではない。すべての化学反応は核の周りを回る電子たちの作用によって起こるのであり、したがってすべての化学反応がもたらすエネルギーは電気エネルギーである。つまり核分裂に代表される核反応がもたらすエネルギーは化学反応がもたらすエネルギーの100万倍となる」
(「放射性物質の正体」 山田克哉 PHP新書 2012年)
◆野球ボールと電車くらい違う
「化学反応は原子核の中には影響しないんだよ。原子核の中で何かを起こすためには化学反応の100万倍のエネルギーが必要になる」「たとえば、野球のボールが飛んでくるのと、それと同じ速さで電車が飛んでくるのの違いくらい」
(「いちから聞きたい放射線のほんとう」 菊池誠・小峰公子 筑摩書房 2014年)
◆化学反応では原子核はびくともしない
「化学反応でも原子は壊れるだろうか。実はその心配は無用である。化学反応は原子核の周りの電子が他の原子と相互作用をした結果起こる。これに対し、原子核の崩壊現象は不安定な原子核から原子核の構成要素の一部が解放されるような現象である。原子核内の結合力は化学的な結合力の100万倍も強いので、原子核の変換に伴って出入りするエネルギーは、化学反応のエネルギーの100万倍も大きい。だから化学反応では原子核はびくともしない」
(「新しい高校物理の教科書」 山本明利・左巻健男 講談社ブルーバックス 2006年)
元職員は、ナノ銀からどうやって100万倍のエネルギーを取り出したというのでしょうか? 次回は彼の「実験結果」を具体的に見ていきたいと思います。
つづく
この学習会は終了しました。ご参加、ご協力いただきありがとうございました。
板橋区「ホタル館問題」報告学習会日時 2015年11月28日(土) 18時30分から場所 板橋区立グリーンホール 402会議室報告者 ●区議会議員 松崎いたる ●弁護士 阿部哲二(城北法律事務所)主催 板橋区ホタル生態環境館の真相解明を求める会●25年間におよぶ累代飼育は事実だったのか?●年間約3000万円、総計10億円以上の税金支出は適切だったか?●「ナノ銀ニセ除染」とは何か? ●裁判のゆくえは?
多くの区民に親しまれてきた板橋区ホタル生態環境館が2015年3月に閉館になりました。
同館では、ホタル成虫を外部から持ちこんでいたという飼育偽装、年間1400万円の事業委託費が使途不明に、区長・区議会に無断で他団体と契約を結び特定業者に便宜供与、「ナノ銀除染」というニセ科学の発信と流布……など、数々の不正・疑惑が指摘されています。
そして、懲戒免職された元飼育担当職員が区長と区議会議員を裁判に訴える事態にまでなっています。
ホタル館で何があったのか?――疑惑追及の先頭に立ってきた区議と弁護士が報告します。
ここに多額の税金が! ホタル館での疑問、疑惑の数々……。
◆見つかった幼虫がたった2匹
(2014年1月27日)
「毎年2万匹が羽化」と報告されていたが、板橋区環境課が2014年1月27日の生息数調査で、実際に発見されたホタル幼虫の数はゲンジボタル2匹だけで、発見漏れを含めて推計してもわずか23匹だけだった。
◆ DNA調査で「福島県大熊町由来」ではなかったことが判明。
これまでホタル館のゲンジボタルは、平成元年に福島県大熊町で採取した300個の卵から、他の地域のホタル遺伝子を交雑させることなく累代飼育をしてきたと元飼育担当職員は報告してきたが、板橋区がホタル館内で発見されたホタルのDNA調査をおこなった結果、ゲンジボタルは西日本産であることが判明。「大熊町由来」とする根拠は否定されている。
◆初年度の異常に高い羽化率
ホタルが卵から成虫になるまでの割合=羽化率は通常1%前後とであることは定説となっている。
しかし、旧・区立温室植物園の一画でホタル飼育事業が始まった平成元年には、ゲンジの卵300個から150匹が羽化し、ヘイケも卵700個から550匹が羽化したと、元職員は報告している(区環境課『報告書』11ページ参照)。ここから算定される卵からの羽化率はゲンジ50%、ヘイケ78%となり、極めて常識外れな値になってしまい実際の数であると信用することはできない。
◆ホタルの「GPS」と「威嚇光」??
元職員の代理人弁護士がマスコミに送付した「見解」では、「持ち込んだホタルの光は威嚇光や警戒光になり、発光パターンが不規則になる。これは肉眼でも分かる」と主張し、区環境課『報告書』が結論付けたホタル館外部からの成虫の持ち込みを否定している。
元職員は著書『ホタルよ福島にふたたび』の中で「(別の場所から)無理やり連れてこられたホタルさんにしてみれば、『ここは自分の育った場所じゃないぞ』という気持ちになります。すると威嚇光を発するのです。彼らは体内にGPS機能を内蔵しているのだと思いますね」(210ページ)という。
だがこれまでも区役所やエコポリス館での出張公開などホタル館から移動され、別の場所で公開されたことが何度もあったが、誰も「威嚇光」を目撃していない。
この矛盾について、元職員が技術指導として深くかかわっている「ルシオラ」社の社長は移動させる前に秘密の技術で「磁場」を調整していたと説明。2015年7月3日のフェイスブックでは「尚、この磁場調整については特別の場合だけなので、悪用されることを懸念し、公開はされていません」という。
◆「20万匹というのはウソ」
元職員は2014年9月5日放送のTBSテレビのニュース番組「Nスタ」において、記者から、1995(平成7)年度に約20万匹を羽化させたという報告について問われ、「20万匹というのはウソです」と虚偽報告をしていたことを自ら告白している。
元職員はこの虚偽報告について「当時、板橋区として『数を拡大して言え』というのがあったんです」と、上司の指示による予算獲得のためのウソの報告だったと弁明している。
情報や科学に対するリテラシーを確立させ、行政や教育にはびこるニセ科学への啓発と対策を求めて、以下の質問をしました。(2015年9月16日)
◆環境を悪化させる「EM菌」ーー松崎の質問 ニセ科学に対しても警戒と対策を急ぐべきです。その一つがEM菌です。
EMとは、有用微生物群の略称で商品名にもなっていますが、1980年代の初めに土壌改良を目的とした微生物資材として開発されたものでした。
ところがその後土壌だけでなく、河川や下水を浄化する、飲めば健康になる、自動車のラジエーターに入れれば燃費が向上するなど、際限ない効果、万能性が喧伝されています。原発事故後は「EM菌は放射能を分解する」とまで宣伝されるようになっています。
乳酸菌や酵母菌が含まれていれば、それ相応の効果があっても不思議ではありませんが、万能性を裏付ける科学的根拠はありません。しかし見過ごせないのは、EM菌が様々な市民団体や自治体によって、環境浄化の名のもとに推奨される事態が広がっていることです。
また、環境学習、体験学習として、EM菌を使った授業や学校行事も全国で行われています。
こうした動きに対し、たとえば福島県は、「高濃度の有機物が含まれる微生物資材を河川や湖沼に投入すれば汚濁源となる」という見解を出しています。広島県でも、水質浄化に効果が認められないとして、県としてはEMの利用を推進しないことに決めています。
板橋区でも放置せずに対策を講じるべきです。EM菌は全国の自治体、学校に広がり続けていますが、環境浄化どころかかえって環境に負荷を与え、汚染の原因ともなります。EM菌に対する板橋区の評価をお聞きします。
◆授業で「EM菌」は扱わないーー教育長の答弁
学校における EM菌を取り扱った授業についてのご質問ですが、板橋区では、区立幼稚園、小中学校において、板橋区保幼小中一貫カリキュラムに基づき、環境教育の保育及び授業を行っています。
保幼小中一貫カリキュラムに基づいた区独自の環境教育テキスト「未来へ」の中では、EM菌を取り上げた内容は取り扱っていません。
現在、テキスト「未来へ」の改訂を進めていますが、EM菌については取り扱うことは考えておりません。
◆偏見を助長する「親学」――松崎の質問
「親学」も放置できないニセ科学です。
「親学」は、「子どもは3歳になるまで母親が育てないと発達障害になる」とか、「自閉症は親の育て方が悪いため後天的に発症する」、など科学的根拠のない俗説を振りまいているからです。
これは板橋区でも無縁ではありません。親学には、「親学」とは名乗らない、いくつもの亜流が存在しますが、そのひとつの団体が、板橋区にパンフを寄贈し、区立保育園を通じて保護者に配布されるという出来事もありました。
そのパンフには「保育園に預けられて子どもは悲しんでいる」という内容が書かれていました。
また、区議会議員に「アンナチュラル―小説・自閉症」という単行本が無償配布されるということもありました。この本はフィクションとはいえ、自閉障害が後天性で親に原因があるという間違った認識を広げるものとして看過できません。
これら「親学」などと名前をつけ、科学・学問を装った俗説は、障害や病気に対する差別、偏見を助長するとともに、子育てにたいして親、とくに母親に過大な責任を押し付け、孤立化させるものです。
親学は子育てや行政から追放すべきものです。「親学」に対する区の評価をお聞きします。
◆「発達障害は後天性」にまったく科学的根拠はないーー区長の答弁
親学に対する区の評価についてのご質問です。
親学とは、親になるために学んでほしいことを伝える考え方であると認識をしておりますが、親学の考え方の是非について、区が評価をする立場にないと考えます。
当然ながら、子どもは3歳になるまで母親が育てないと発達障がいになるとか、自閉症は親の育て方が悪いため後天性に発症することなど、全く科学的根拠のないことであると考えます。
◆「江戸しぐさ」ウソの歴史を教えるのは有害ーー松崎の質問
さらに「江戸しぐさ」も歴史的事実にもとづかない一種のニセ科学、ニセの歴史であり、教育から排除すべきです。
江戸しぐさとは、江戸時代に江戸の商人たちが生み出した思いやりや譲り合いのマナーだと説明されており、地下鉄などの公共マナーのポスターやテレビCMにもなり、文科省発行の「私たちの道徳 小学校5.6年」にもとりあげられています。
しかし、江戸しぐさが実在したことを示す文書、絵画、言い伝えはいっさい存在しません。そればかりか、歴史的事実に反することが「江戸しぐさ」だとされています。
たとえば「傘かしげ」は「私たちの道徳」では「傘をさした人同士がすれ違うときのしぐさで、相手をぬらさないように、たがいの傘をかたむける」と説明されています。しかし、江戸時代の江戸において、和傘は超高級なぜいたく品で、一般の町人が日常の雨具に使用できるようなものではありませんでした。雨具には美濃や頭にかぶる笠が使用されていたことが分かっています。 仮に数が少ないとはいえ和傘を使用した場合でも、重い和傘を傾けるのではなく、すぼませるほうがずっと合理的で、この情景は当時の浮世絵にも描かれています。
「こぶしうかせ」はさらにありえません。「私たちの道徳」は「複数の人が一緒にすわるとき、一人でも多くの人が座れるように、みんなが少しずつ腰を上げて、場所をつくる」しぐさだというのですが、江戸時代には、電車の座席のようなみんなで座る長椅子やベンチは、そもそも存在しないのです。
「私たちの道徳」の挿絵は、茶店の縁台のようなものが描かれていますが、縁台は座席とテーブルを兼ねたもので、この挿絵のように詰めて座れば、出されたお茶や団子を置く場所がなくなってしまい、現実的におこりえません。
江戸しぐさは、江戸時代にはなく、1980年代に創作された作り話です。道徳を教えるのにウソの歴史を使う必要はありません。例え話として使うのなら、童話や昔話のように、空想と現実を区別して子どもたちに伝えるべきです。
歴史的根拠のないウソの歴史を学校の授業で子どもたちに教えるのは有害です。にもかかわらず、なぜいまだに江戸しぐさを教え続けるのでしょうか? それが正しいというのであれば、それを裏付ける歴史的事実、科学的根拠を示すべきです。
教育委員会が学校で江戸しぐさを教える根拠をお示しください。
◆とくに問題はないーー教育長の答弁 「江戸しぐさ」を取り上げた授業についてのご質問ですが、区立小中学校においては、学習指導要領に基づき、児童生徒の実態に応じて道徳教育の年間指導計画を作成しています。
「江戸しぐさ」については、文部科学省が発行をしている道徳教育教材集「わたしたちの道徳 小学校第5、6学年」で、主として、他の人とのかかわりに関することについて考える題材として取り上げられています。
各学校では、学年の発達段階に応じて道徳の時間や総合的な学習の時間などの学習で「江戸しぐさ」を取り上げており、
礼儀やおもてなしなどにかかわる学習において取り扱う上では、特に問題はないと考えています。
◆ニセ科学を教育に持ち込ませるなーー松崎の質問
ナノ銀除染、EM菌、親学、江戸しぐさに代表されるようなニセ科学を教育に持ち込ませないようにすべきです。
そのためには教育委員会とともに、それぞれの学校や、一人一人の教職員が意識的な情報リテラシーに取り組むことが必要です。
長崎大学や文教大学では、教職員課程で学ぶ学生向けや、一般教養科目として「疑似科学とのつきあい方」というカリキュラムを組んでいます。
こうした先進事例を研究し、板橋区でもニセ科学を教育に持ち込ませないように特別の注意をはらっていただきたいが、いかがですか?
◆「水から伝言」を反省。引き続き注意するーー教育長の答弁
教育にニセ科学を持ち込まないようにすることについてのご質問ですが、長崎大学や文教大学では、水に対して「ありがとう」などのよい言葉をかけるときれいな結晶になるという、いわゆる「水からの伝言」などの疑似科学についての研究事例があります。区立小中学校の学習では、学習指導要領に基づき行われており、校長が週ごとの指導計画で内容を確認した上で、教員は授業を実施しています。教育委員会は、学校が各教科等の指導において適切な教材を選択するよう、引き続き注意を促していくとともに、主体的・協働的な学習を通じて、思考力・判断力・表現力等を一層伸ばしていくための授業を推進するよう指導してまいります。
◆教員に考える時間の保障をーー松崎の質問
ニセ科学は教職員の忙しさに付け込んできます。たとえば、容器に「ありがとう」と書いたラベルを張ったボトルの水を凍らせるときれいな結晶になり、「ばかやろう」と書いたラベルを張ったボトルの水を凍らせると汚い結晶の氷しかできないという、いわゆる「水からの伝言」というニセ科学では、インターネットを通じて、これを授業でおしえる「指導案」が配られました。EM菌でも同様なことがおきています。
多忙のなかで指導案を考えるゆとりのない先生には、こうした出来あいの指導案は大きな誘惑になります。教員に考える時間を保障することはたいへん大事です。
とくに小学校において専科教員を増やすなど、担任教員の負担を減らし、研修時間を確保することを求めるものですが、教育長の見解を求めます。
◆担任教員の負担を減らし、研修時間などを確保したいーー教育長の答弁
教員の研修時間などを確保する取り組みについてのご質問ですが、小学校において、担任教員の負担を減らし研修時間などを確保していくことは重要課題の1つと考えています。しかし、現状では、区独自に専科教員を増やすことは制度上困難です。
そこで、各学校が今年度から稼働している校務支援システムを有効活用するとともに、全教職員がチームとして校務を効果的に分担したり、学習指導講師を一層活用したりすることで担任教員の負担を減らし、研修時間などを確保してまいります。
いただきました教育に関する質問の答弁につきましては、以上でございます。
2015年9月16日の板橋区議会本会議で、ホタル生態環境館を舞台に繰り広げられた数々のニセ科学について、坂本健区長に反省を求めて質問をしました。質問と答弁を紹介します。
◆松崎いたる
行政にはびこるニセ科学への啓発と対策を
つぎに情報や科学に対するリテラシーを確立させ、行政や教育にはびこるニセ科学への啓発と対策を求めるものです。
この問題では、板橋区ホタル生態環境館での、ホタル成虫の持ち込みなど、一連の不正や不祥事を、痛烈な教訓とすべきです。
〇「クロマルハナバチのフェロモンの抗菌効果」
ホタル館では、飼育担当元職員によって「クロマルハナバチのフェロモンには抗菌効果があり、ホタルと共生関係にある」とか、「ホタルは磁気を感じとり、東西方向に流れる川にしか生息せず、南北方向にしか上陸しない」とか、「ナノ銀溶液をかけただけで放射能を分解し、除染できる」などなど、数々の珍説・奇説が流布され続けてきました。
これらは従来の確立された科学的知見に照らして検証すれば、科学には値しないニセ科学であることは、すぐにわかるものばかりです。
生物のフェロモンは同種の別個体に、その受容体があって初めて効果があらわれるものです。偶然、別種の生物である細菌に何らかの効果を発現すると仮定したとしても、ごくごく微量のフェロモンを抽出し、その効果や因果関係を実証することは研究施設でもないホタル館では不可能です。
〇「磁気を感じとるホタル」
ホタルと磁気との関係についても、客観的な研究は何一つありません。
元職員がかかわったホタル再生事業では、磁場を調整するとして地中に磁石を埋めたという事例がありますが、その分、工事費用が膨れ上がっただけです。
ホタルが磁場を感じるということが、事実ではないことは、板橋区内でも場所を移動してのホタルの出張公開が行なわれていたこと、福島県いわき市で元職員がホタル幼虫を放流した湯本川は南北方向に流れる川で、南北には上陸できる場所がないことからも明らかです。
〇「ナノ銀による放射能除染」
「ナノ銀で放射能除染」なるものは、「板橋区ホタル館で開発」などのふれこみで、1セット4000円で「ナノ銀汚染水簡易濾過セット」なる商品が販売されていたり、原発事故被害地である大熊町で町長や議長の目の前で「放射能低減実験」なるものが披露されていました。挙句の果てには国会議員まで巻き込み、参議院本会議で政府に対し、ナノ銀による除染事業まで提案される事態にまでなっています。
これは、国の除染事業、原発事故汚染水対策に混乱をもたらすものにほかなりません。
ナノ銀による放射能低減には、まったく科学的根拠はまったくありません。文科省の要請のもと、日本原子力研究開発機構で試験した結果、なんの効果もなかったことが判明しています。
そもそも、いくらナノサイズにまで銀を細かくしたところで、ケミカル=化学反応で原子核反応は起こせません。これは物理の基礎の一つである自然法則です。
これらホタル館を拠点に拡げられてきたニセ科学に対して、板橋区は無関心や黙認、あるいは盲信という態度をとり続けてきました。
板橋区の施設であるホタル館で「開発・発明された」と宣伝されてきたにもかかわらず、最小限の検証すら怠ってきたという反省はあるのでしょうか? 区長の認識を伺います。
◆坂本区長
科学的に裏付ける「論文」がない
次は、クロマルハナバチのフェロモンの効果等について、検証を怠ってきたことについてのご質問であります。
元飼育担当職員に対し、クロマルハナバチが出すフェロモンが、土を抗菌化するということを科学的に裏づける論文などの確認を求めましたが、提出がされてこなかった状況であります。また、クロマルハナバチのフェロモン以外にもさまざまな主張をしているようですが、検証するには、検証できる機関の有無、そして時間と経費など課題がありまして、難しいと考えております。
※ 区長答弁について、解説を加えると、「クロマルハナバチのフェロモン」については「科学的根拠が確認できない」という見解を明らかにしたものです。
「ホタルと磁気」「ナノ銀除染」については「検証は難しい」と態度表明を棚上げした答弁です。しかし、「検証が難しい」ということは、「ナノ銀」に関する研究も難しいということであり、研究結果も検証されていないことが明らかになった答弁でした。
「ホタルの闇」を久しぶりに再開します。
この間、このブログで紹介してきたように私が板橋区ホタル生態環境館(今年3月をもって閉館)の実態について、さまざまな疑惑を指摘してきたことに対して、ホタル館の元飼育担当職員(昨年3月に板橋区から懲戒免職。理学博士、ホタル博士)が『名誉棄損』だとして、私を提訴するということありました。
そうした中で、元職員側が提示してきた資料やもともと私が収集してきたホタル館関連の記録を見直していくなかで、新たに重大な問題に気が付きました。
その一つが、ホタル館設置のきっかけとなった旧・区立温室植物園解体時の『出来事』です。
温室植物園の解体時の矛盾
元職員の著書「ホタルよ 福島にふたたび」に、ホタル飼育事業初年度(1989年 平成元年)から4年間ホタルの飼育場所であった区立温室植物園の解体時の出来事が書かれています。
「(1992年7月7日夜)、園内に入り、待ち合わせ場所の冷房室のほうへと向かった私の目に飛び込んできたのはガレキの山でした。冷房室が跡形もなく壊されていたのです。傍らには地面を掘り起こすのに使ったと思われるブルドーザーが1台止まっている。そのとき、目の前のガレキの中から青白い光が一筋、舞い上がりました。」
ガレキからホタルが光りながら舞い上がるなど、感傷を呼ぶために過剰な誇張表現でしょうが、そもそも事実ではありえません。
なぜなら、重機を使った解体工事が行なわれている現場に夜間、待ち合わせをした民間人とともに現場に入ったことになっていますが、そのようなことはほとんど不可能だかです(可能性があるとすれば「不法侵入」ということになる)。
当時から施設の解体現場には仮囲いを施して、工事関係者以外は立ち入れないようにすることが区の安全管理上の仕様書に記載されています。民間人はもちろん区職員であっても、工事関係者以外は入ることはできません。しかも夜間ともなれば、なおのことで、立ち入れるはずがありません。
また、温室植物園が6月いっぱいで閉館になり、7月7日の時点ではまだ建物は残っていた場合も考えられます。(同年10月22日付の朝日新聞には建物の写真が掲載されている)。それならば、移転作業としてそこで働いていた元職員が敷地や建物内に入ることは当然あったでしょう。
しかしそれでは、「ガレキの山」「地面を掘り起こすのに使ったと思われるブルドーザー」という記述と矛盾が生じます。
どちらにせよ、「目の前のガレキの中から青白い光が一筋、舞い上がりました」ということは起こりえないのです。
ところが、このホタルが温室植物園に取り残され「20万匹が死ぬ」という話は、新聞でも報道されて、区議会でも区長の「多数のホタルを死なせた責任」が追及されました。
これらの報道や議会質問の情報源はすべて元職員とその親しい仲間の人物の証言によるものです。
「一部の方が言われているような,ホタルを見殺しにするというような報道がありますけれども,これは全く事実無根でありまし,私も大変迷惑を受けておりまして,この機会に,このことについては,事実無根であるということを明らかにしておきたいと思います」
と述べて、 「ホタルを見殺しにした」とした報道自体を事実無根と否定しています。(1992年9月22日)
繰り返される陰謀論
さらに元職員(ホタル博士)は、この温室植物園の閉館・解体にかかわって『ホタルよ、福島にふたたび』のなかで、ある〝陰謀〟があったと主張しています。
「とんでもない計画の全貌を聞くことになったのは、1992年の1月でした。私の耳に「『温室植物園』が6月いっぱいで閉鎖される」との知らせが届いたのです。そして、私は区内にある『赤塚植物園』に異動になると…。だんだん裏事情がわかってきました。東京都から出向していた当時の課長が、植物園内につくった生態系空間の規模を広げて、『マレーシアの熱帯を再現したい』と言い出したのです。密かに準備を進め、建設会社とも話をつけていた。後に報道された記事によると、どうやら建設会社との癒着関係にあったらしいですね。『マレーシア館』を新設するには、ホタルも阿部も邪魔だった。そこで植物園を閉鎖して、私を異動させようと考えたわけです」(100~101ページ)。
「後に報道された記事」とはどの記事なのか?さだかではありませんが、「建設会社との癒着関係」なるスキャンダルが板橋区政や区議会で問題になったことはありません。職員の異動は自治体職場では通常当然のようにあることで、なんら不自然なことではありません。
『陰謀論』にもとづく主張はこの時だけではありません。
これとよく似た話を最近も繰り返しています。
記事のなかでA氏(元職員のこと)は「自分は利権政治の犠牲者だ」として、つぎのような話を披歴しています。
「ホタル生態環境館を取り壊し、跡地に介護老人ホームの建設を目論む会社が板橋区内にある。その会社社長が、区議会議員Kのスポンサーで、そのK議員の手下にM議員がいる。そしてM議員が所属する政党の系列の病院が、介護老人ホームを運営したがっている。跡地に絡む利権を獲得したいK議員とM議員が、私を悪者に仕立て上げて、ホタル生態環境館を廃止に追い込もうと、動いた」
この記事は取材した記者自身が「にわかには信じがたい説明」と評するほど、事実無根の話です。
M議員とは私(松﨑)のことで、区議会議員Kとは実在の自民党現職区議のことであることは、わかるのですが、共産党の私が自民党議員の「手下」になり、結託して「利権を獲得」などというありもしない話をでっち上げ、新聞記者に記事を書かせるなど、それこそ名誉棄損にあたるような行為です。
それにしても、元職員が著書に書いた1992年の「裏事情」と、2015年に記者に話した「利権政治」はそっくりで、【跡地に新施設を建設する利権】のために、【役人や議員が建設会社と癒着】し、【既存の施設の閉鎖】をねらい、そこの【職員を追い出す】という話の骨格はまったく同じです。
1つでもありそうにない陰謀が2度もおこなわれるというのは、どれほどの『奇跡』でしょうか?
ホタル館の実態=真実を解明するには、なぜ〝陰謀論〟が繰り返されるのか、という問題もいっしょに考えるべきだと思います。