日本共産党板橋区議会議員団を代表して、
陳情第20号 板橋区画街路第9号線に関する陳情 第4項 住民等合意の件
陳情第72号 東京都市計画道路板橋区画街路第9号線並びに東京都市計画道路区画街路都市高速鉄道東武鉄道東上本線付属街路第1号~第6号線に関する陳情 第1項 住民合意の件
及び
陳情第103号「現在大山地区で進められている都市計画事業等について休止を求める陳情」
について、陳情に賛成し、不採択とした委員会決定に反対の立場で討論を行います。
初めに、陳情第103号について述べます。
本陳情は、新型コロナウイルスの感染拡大が国民生活に甚大なダメージを与えている中で、東京都が依命通達によって、既存事業の見直しを検討していることをふまえて、板橋区としても、行政のすべての英知と資源を、区民の命と暮らしを守ることに集中するため、大山地域の市街地再開発事業、東武東上線大山駅の高架化に伴う側道計画と駅前広場計画とよばれる道路計画及び都道補助26号線と東武鉄道の立体交差化事業を「休止」することを求めたものです。
陳情に賛成する第一の理由は、東京都の依命通達に沿って、既存の事業を見直すことが必要だと考えるからです。
2020年5月5日付の東京都副知事による依命通達は、都民の「命」を守る、東京の経済活動を支える、社会変革を促すなどを基本方針とし、「集中的・重点的な取り組みに注力するために休止する事業」として、「直ちに取り組む優先度が低いと考えられる事業のうち、未着手、未発注、一時停止が可能な事業は、原則延期又は中止すること」とし、具体的な事業の例として「築地市場の再開発手続き、区画整理、市街地再開発など、都市開発の推進等に関する事業」をあげています。
東京都においては、「未来の東京」戦略ビジョンによる強力な都市づくりが推進されています。しかし、その中で、あえて「市街地再開発」や「都市開発」事業を、「直ちに取り組む優先度が低い」と分類したことは注目すべきことです。
新型コロナの感染拡大から都民の命を守ることに全力を傾けるという立場に立てば、再開発や都市開発事業は中止を含めて再検討するという姿勢が示されたということです。
「再開発」や「都市開発」事業は、莫大な税金を投入してすすめられる公共事業です。コロナ禍のもと、税金や行政の資源は、医療、保健、福祉優先に切り替えるべきであり、経済の先行きの不透明さに加え、多数の関係住民、事業者の合意のもとに進めなければならないまちづくり事業は、中止を含めた検討をすべきです。
質疑の中で、都に確認したところ「事業継続の意向」だったとの答弁があり、それをうけ「事業を休止する必要はない」と陳情に反対する意見が示されました。しかし、区と都のやりとりについて明らかにするものはなく、「原則延期または中止」とした依命通達以外の公式文書は示されていません。
また、「約10年費やして事業認可、都市計画決定が行われてきた事業が未着手とはいえない」という意見が出されました。区側からも「都の事業である補助26号線はすでに着手されている事業と認識している」という答弁が行われましたが、都議会では「着手している事業」も休止の対象としているとの答弁が行われており、区の認識は誤りです。誤った認識のもとで推進を正当化することは許されません。
陳情に賛成する第二の理由は、現在すすめられている計画が、町を分断し、住民を分断し、コミュニティを壊す、将来に禍根を残す計画であり、中止すべきと考えるからです。
「大山町クロスポイント周辺地区市街地再開発」は、26号線の用地確保のためにすすめられる、タワーマンション計画です。委員会審議では、今後のマンション需要の予測も、タワーマンションの将来の維持費の見込みも区はまったく把握していないことも判明しました。
「大山駅の高架化に伴う側道計画と駅前広場という道路計画」は、コロナ禍で営業の継続さえ困難を強いられている人々に、立ち退きを迫るもので、陳情者は「社会全体で、人・モノ・金が流れを止める中で、立ち退いた住民は次の生活基盤をどこに求めたらいいのか。あえて社会に弱者を増産するもの」と述べていますが、まさにその通りだと考えます。
「補助第26号線」は「防災上の必要性」という行政のいう目的を超えて、ハッピーロード大山商店街を分断し、商店街と地域経済に重大な影響をもたらす計画です。
委員会審議では、いずれの計画も「必要な事業」「継続すべきもの」との答弁が繰り返されましたが、この姿勢は認めらません。
東京都の都市計画区域マスタープランは「グローバルな人・モノ・情報の活発な交流、新たな価値を生み続ける活動の舞台としての東京のブランド力を高め、世界中から選択される都市」をめざすとしています。大山駅周辺ですすめられている様々な計画も、区部における中枢広域拠点域の形成と位置づけられてすすめられているものです。
しかし、コロナ後の世界は、「一極集中主義」と「経済活性化」が一体であるという考え方が成立しなくなると、世界的に著名な建築家(隈研吾氏)は述べています。
『これまで都市は「集中すること」に価値があった。例えば、容積緩和によって超高層ビルの建築を可能にする特区を設け、経済の活性化を図るといった考え方もその一つで、「大きな箱」に人が集まって働くことが効率的だと考えられて、長い間惰性で続けられてきた。しかし、コロナ禍は、20世紀型の構造から脱却するきっかけになる、働き方や暮らし方などについて、人の意識も変わらざるを得ない。』との見識が示されています。
大きな社会経済構造の変革が目の前に迫っている下で、旧態依然としたまちづくりに固執する必要はまったくないと考えます。
陳情に賛成する第三の理由は、そもそも、現在すすめられている大山のまちづくりが、長い間住民が話し合い、練り上げていったまちづくり、住民の願いに沿ったまちづくりではないからです。
陳情に反対する委員からは、補助26号線計画、東武東上線の立体化と駅前広場、側道、市街地再開発などが、一体ですすめられていることが、あたかも「大山まちづくり総合計画」に込められたものであるかのような意見が出されました。
「長年の努力の結晶」「悲願が動いた」「立ち止まることはできない」との意見も出されました。
しかし、大山のまちづくりが本当にまちの人たちの思いの結晶としてすすめられているのかと言えば、けっしてそうではないということをはっきりと申し上げておきたいと思います。
大山のまちづくり計画は住民主体で「身の丈の開発」にしたいという願いのもとに、地域のまちづくり協議会が2009年の6月3日にスタートし、2012年3月22日に「大山駅周辺地区まちづくりマスタープラン」として板橋区長へ提出されました。このプランを受け、板橋区は2014年3月に「大山まちづくり総合計画」として発表しました。
ところがこの計画が発表された翌2015年2月、東京都が特定整備路線補助第26号線の事業認可を国から受け、その後26号線の計画をすすめるためのまちづくりへと、様相は一変してしまったのです。
道路用地を確保するために、クロスポイントの再開発事業が計画され、すすめ方、開発の仕方、内容すべてが変えられてしまいました。
東武東上線の立体化が26号線とセットですすめられ、そのために地域住民の「地下化」の提案は無視され、「高架化」へと突き進んでいきました。
10年間かけて、町の人たちが勉強しながら構想を練っていったまちづくりが、大きく変えられてしまったにもかかわらず、それを「まちの合意でつくられた計画」と言われて、町の人たちは怒っています。
本当にまちの合意で進めるというなら、住民が求めていた「身の丈に合った」開発、誰も追い出さない、商店街を分断しない、東上線は地下化でまちづくりをすすめるべきです。板橋区は、そうした住民の声にこそ耳を傾けるべきです。
最後に、陳情第20号第4項及び陳情第72号第1項についてですが、いずれも東武東上線の大山駅付近の駅高架化の計画について、住民合意を求めるもので、20号は、地権者、住民、商売をしている人、大山駅周辺を利用している人を対象に合意を得ることを求め、72号は、十分な説明の実施と納得と合意の上で計画を進めることを求めるものです。
委員会質疑で、区は、住民合意が得られたと考える材料は、権利者との関係では「民法上の契約締結に至った時点」と答弁し、権利者以外の合意形成については、その材料はなく、「整備終了後の町の利便性をもって理解を得る」というものでした。
それはつまり、住民との間には結果に対する合意以外は成り立たないということを表明したことになります。
また、都市計画決定が住民合意を前提としたものではないということを表明したことでもあります。
板橋区のまちづくりは住民合意を前提にせずにすすめているとする見解を認めることはできません。
反対する委員からは、「大方の合意はできている」「法的に段階を踏んでいる」との意見が出されました。
しかし、陳情者は、東上線の高架化の決定過程が不透明であること、地下化を選択すれば地元住民の犠牲を払わずに駅前広場をつくることも可能であること、不透明さが残る中で、長年住み慣れた場所を立ち退かなければならないことは納得できないという疑問を持ち続けているのです。区はそのことに対する説明責任を果たさなければなりません。都市計画決定が行われたことをもって説明責任を果たしているとするならば、それはあまりにも乱暴です。納得できないという意見を切り捨てていく姿勢は許されないと考えます。
陳情103号の審議において、陳情に反対する立場の委員から、「住民合意が必要」「お話を聞いて」「寄り添って」「親身になって、誠意を尽くして」などと言う発言が行われましたが、それならばなぜ、「住民合意」を求める陳情を不採択にしたのか、理解に苦しみます。
大山のまちづくりは大きな転換点を迎えていると考えます。2020年までとされていた補助26号線計画も5年間先送りされ、用地買収も計画通りに進んではいません。再開発事業も基本計画の変更が迫られ、地権者の権利にも影響が出ていると考えられます。
コロナ後の社会のあり方が大きく問われている今こそ、大山駅周辺のまちづくり計画を一旦立ち止まって、住民主体で積み上げてきた議論にあらためて光をあてて再構築することを求めて、私の討論を終わります。ご清聴ありがとうございました。