言葉を花束にして

米政府は、シリア政府が化学兵器を使ったと判断し、軍事介入を検討している。けれど、他国に軍事介入しても、その国の政治の矛盾はむしろ解決の道を失うということは、イラクで経験済みのことではないだろうか。イラクが大量破壊兵器を持っていると決めつけて米英などが軍事攻撃した結果、イラクの情勢は混乱し、いまだに元の落ち着きを取り戻せていない。結局、大量破壊兵器は出てこなかった。

だからこそ、英国の下院は今回、シリアへの軍事介入をしないと判断した。

イラクへの攻撃が始まりそうだったとき、戦争を食い止めようと努力したフランスの今の大統領は、シリアに介入したがっているけど、国民の世論調査では６割が反対している。

アメリカだって、イラク戦争を起こした結果、多くの兵が命を奪われ、体も心も傷ついて帰国した後も苦しんでいる。戦費はアメリカの財政の大きな負担となっている。アメリカももう懲りていいはずではないか。国連の調査に任せてはどうか。軍事攻撃なんて、だれの命も守れないことは、世界中がとっくに学んでいいことではないか。

イラクの戦争では、攻撃が始まる前から反戦運動が世界中に広がった。いま、声の大きさをイラクの時の倍にして、「シリアへの攻撃反対」と叫ぼう。

７月２９日に麻生太郎副首相が憲法の改定にかかわって、「ナチスの手口に学んだらどうか」などの発言をしたことが、国内外から批判の的になっている。

ナチスがワイマール憲法を停止に追い込んだ手口は、国会放火事件をでっちあげ、共産党など野党の活動を弾圧する謀略によっていたという史実から批判する人もいて、それももっともなもの。

私が思ったのは、自民党の改憲案は、国民の前に正面から提起して、国民がまじめに議論したら、多数の賛成を得られる代物ではない、つまり大義がない、ということをはしなくも白状したに等しい、ということだった。

改憲試案は、基本的人権も思想信条の自由も、国民の福祉に対する政府の責任も、憲法から消去しようという内容。だから中身を国民に知られたら反対されるのが目に見えている。それを通そうとすると、「知らない間に変わっていた」という状態、国民の目を盗んで通そう、という手口の話になるのだと思う。それを可能にする手口の例がナチスだったということだと思う。

この発言を巡って、野党から予算委員会の開催を求められても政府は応じられない。野党５党の党首による非難声明を受け取って堂々と反論できない、だから受け取りを拒否せざるをえない。

もちろん、麻生発言そのものも重大で、副首相を辞任あるいは罷免に追い込まなくてはならない。それとともに、自民党がねらっている改憲の中身も国民の前に引っ張りだそう。

この人を一度だけ間近に見かけたことがあります。
永田町の国会付近を歩いていて、横断歩道を渡ったときに向こうからスーツ姿で歩いてきたのが福島氏でした。
こちらの目が悪いせいもあるけど、遠目には有名人には見えず、すれ違いざまに誰だか気付き、驚いて顔を見直しました。福島氏は私が振り返るのを怪訝そうにちらっと見ながら遠ざかっていきました。「こんなに小柄な人だったのか」というのがそのときの印象でした。

社民党の前身の日本社会党は、戦後ながく国会で野党第１党でした。１９８９年の参院選では、自民党が公約違反の消費税導入をしたことへの批判票を大量に取り込み、９０年の総選挙でも躍進しました。土井たか子氏などを指して「マドンナ旋風」などという流行語も生まれました。

しかし、その後、自民党と組んでしまって村山政権をつくったことに国民は失望し、あとは選挙のたびに議席を減らしていきました。９６年に社民党と名前を変えました。

その社民党の人気獲得のため、当時の土井たか子党首が、テレビなどで活躍していた弁護士の福島氏を９８年の参院選の候補として起用。政治家となりました。２００３年に衆院選敗北の責任を取って土井氏が党首を辞任した後、福島氏が社民党を率いてきました。

正直言って、最初に彼女が参院選に出馬したとき、「あ〜あ、この人、社民党が何をしてきた党か、ちゃんとわかってるのかなあ？」と思って見ていましたが、その後、社民党が小さくなるのに反比例して、彼女は社民党の唯一の大黒柱になりました。土井たか子氏が党首を辞し、福島氏に代わったとき、「ここで、こんなに党歴の短い人以外に跡を継げるような頼れる人がいないの？」と思いました。議員の数が減り続ける中で、党首を務め続けました。

彼女についていうなら、社民党の議員になるという選択がそもそも間違えていたと思います。社民党が小さくなり続けてきたのは自業自得だし、福島氏は、なぜ自分の党への支持が減り続けるのか真剣な分析をしなかったとはいえるでしょう。それでも、まだ議員としてのキャリアも浅いうちから党の看板を背負わされたことは気の毒だな、と思わざるをえません。その任をこれまで続けたことは大変だったろうという想像はつきます。辞任を表明する会見では、まだまだ政治活動は続ける意志を見せたとのことですが、１０年間お疲れさまでした。

参院選は自民が多くの議席を獲得しました。

「朝日」の２３日付夕刊の「時事小言」で藤原帰一氏が自民党の勝因は、「第一に経済復興、第二に政治の安定だろう。長年の経済停滞とねじれ国会のもとで毎年首相が代わる政治がやっと終わる、その期待があればこそ、与党の勝利も可能となった」と書いています。「自民党優位のもとで長期政権が続く可能性が高い」、そして「任期だけに注目する限り、次の参院選まで国政選挙が行われない」とも。

藤原氏は、自民党は支持を拡大したとしていますが、総選挙時の比例代表選挙では１６６０万票で、参院選では１８４０万票だから、劇的に支持を伸ばしたと言うほどではないように感じます。それに、本当にアベノミクスへの期待がそんなに広がったなら投票率が戦後３番目の低さ、というのも腑に落ちません。

アベノミクスは「無制限の量的緩和」「大規模な公共投資」など、企業や投資家が儲かるようにしむけているが、そこで働く社員の収入を増やす政策がない、この半年で株価が上がったとしても、本格的な景気回復につながる保証はない、という指摘もあります。

アベノミクス以外に安倍政権は消費税増税、憲法改定、原発再稼働、社会保障の抑制も進めようとしていますが、これはどれも国民との摩擦が大きい問題です。「ねじれ」がなくなったからとすいすいうまく進められるとは思えず、さらに多数を占めるからとごり押しすれば、そのやり方への反発も強まるでしょう。

安倍氏は最初に首相になった時は、自民党総裁を二期６年務めてその間に憲法９条を変えると豪語していましたが、九条の会など憲法を守る運動が高まって、約１年で辞任に追い込まれました。辞める時もなぜ辞めるのか明確な説明すらできませんでした。あとから、体調が良くなかったことも伝えられましたが、体だけではなく、彼は打たれ弱い人だと私は思います。

国会の中では多数を占めている（多分に公明党に助けられながら）としても、世論とのギャップが大きすぎで、私はかならずしも長期政権になるとは思いません。

今日の「朝日」の社説「選挙と若者　投票すれば圧力になる」。

若い世代に参院選での投票を呼びかける意図で書かれているようですが、根拠が「的外れ」。
確かに、選挙では若い世代の投票率が低い。私も、２０代、３０代へ投票を呼びかけることは必要だと思います。でも、この社説はいただけません。

社説は、若者が経験する就職活動の厳しさ、ブラック企業の悪らつさを描いた上で、東北大学の研究グループの試算を紹介して
「２０〜４９歳の投票率が１％下がると、若い世代へのツケ回しである国の借金は１人あたり年約７万５千円増える。社会保障では、年金など高齢者向けと、子育て支援など現役世代向けとの給付の差が約６万円開く」と書いています。

さらに「熱心に投票する高齢者に政治家が目を向けがちなのは間違いない」「政治家は、有権者の『変化』に敏感だ。票が増えれば、そこを獲得しようと動くはず。前回の参院選の投票率は、６０〜７０歳代が７割以上、２０歳代は４割以下だった。でも低いから上げやすい。上がれば政治家はプレッシャーを感じる」と書きます。

東北大学のグループがどういうつもりで試算をしたのか分からないけど、世代ごとの投票率と、社会保障の給付の額に相関関係があるとしても、因果関係があるといえるのかは、私は大いに疑問です。
朝日の社説でも「因果関係を証明するのは難しい」と書いています。

高齢者の方が投票率が高いといっても、現状の高齢者向けの社会保障が充実されているといえるでしょうか。無年金や１カ月の年金額が３万円なんて人が珍しくありません。現在は１割の医療費の窓口負担は２割に上げられようとしています。現役世代だって、かつては窓口負担はゼロだったのに、今は３割。「老老介護」「孤立死」という言葉が日常化している日本で、本当に高齢者が大事にされていると言えるでしょうか。
「私たちが年を取るころには年金制度なんてなくなってるんじゃないの」と言って、政治を信用しない若者だっているでしょう。若い世代の投票率を上げるなら、政治不信を払拭するよう政治家や政党が努力するのが筋です。

就職口がない、保育園が足りないという、若者、子育て世代の困難は確かにその通りですが、その分お年寄りが得をしているかのような描き方で世代間対立をあおることは、「民主主義を発展させよう」というよびかけではありません。高齢者が投票するときには「子や孫が将来暮らしやすい社会になるように」と考えて自分なりの選択をする人もいるでしょう。

投票する人は自分が利益を得ることだけ考えて投票し、政治家は票をくれそうな世代の人たちに迎合することを考えて政策を決めているとでもいうのでしょうか。

この東北大の試算は少し前からネットで出回っていて、私も見ていました。
投票日の社説で若い世代に投票を呼びかける記事を書こうとして、この試算をネタに使ったのでしょう。新聞社としての理念も見識も感じられない、安直な記事です。大学生のレポート以下と言わざるをえません。