大変わかりやすい「五十嵐さんのシャインマスカットがおいしい理由」
いい形ですなあ、シャインマスカット。早く食べたい。
昨年、一昨年とわたくし的シャインマスカットの食味No.1は
山形県高畠町の五十嵐晴夫さんが栽培したものである。
五十嵐さんはもともとはぶどう農家だった。
長いことおつとめしていたが、定年後、もう一度ぶどうを作りたいと考えた。
そこで、定年になる前からずーっと「今のぶどう栽培の問題点」
「おいしいぶどうをつくるための畑」「高齢者にもできるぶどう栽培」
「省力化」について考え抜き、新しい農地に新しいぶどう畑をつくってしまった。
それが「60歳から始め25年間、85歳まで無理なくできるぶどう畑」、
作業性がよく、省力化、剪定もカンタンという3拍子揃った
すんばらしい畑である。
っつーことで行ってきましたその畑に。
五十嵐さんいわく「短梢剪定の本に出てた」という仕立ては
マンソン仕立てに似ているが少し違っており、
今までに見たこともない形だが、非常に効率よく作られている。
ここでぶどう栽培の基本情報。
生食用ぶどうは主に棚栽培なので、基本的に作業は上を向いて行われる。
摘房・摘粒・収穫・剪定、全て腕を上げて上を向いて行う作業だ。
棚の高さはだいたいそこんちのかあちゃんの背の高さに合わせてある。
というか、家族の背の低い人に合わせてあると言ったほうがいいかもしれない。
剪定時には葉っぱも果実もついてないのでぶどう棚は本来の高さだが、
果実が実ってくるとその重みで棚が下がってくる。
棚が下がると想定以下の高さになるから、中腰で移動しなくてはならない。
わたくし(164センチ)はたいがいのぶどう畑をチョー中腰で移動し、
腰は痛くなるし蚊には食われまくるしで畑でゆっくり話などとてもできなかった。
これじゃ年取ったら大変だわーとか考えていたが、ぶどう農家はもっと大変だ。
常に上向きの作業。そして中腰。70過ぎたら腰を痛めるに違いない。
五十嵐晴夫さん。果実が胸元になるので作業性がとても良くてらくちん。
棚が低くないから腰もすっと伸ばして作業できます。
袋かけたり粒を摘んだりするのは若いうちはいいけど年取るとたいへん。
変わった形をしているでしょう。ぶどうが一列にズラッと並んでいます。
んでかまぼこ型の棚に枝がまっすぐに伸びております。
風がふき通って気持ちよくて蚊がいないので
まんなかにあるテーブルでコーヒー飲みながら長時間話せます。
しかし五十嵐さんのぶどう畑はそういう具合に作られていない。
ぶどうの果実は胸元に実るよう結果母枝がまっすぐ誘引されていて、
かまぼこ型につくられた棚にそって枝が、まっすぐに伸びているから
ぶどうの葉っぱがいたずらに重なりあったりしていない。
作業は全て胸元で行われる。ぶどうの重みで棚が下がることもない。
そして前回も書いたのだが、この時期のぶどう畑なのに蚊がいないのだ。
全くいない。全然いないから、ぶどう棚の下にテーブルと椅子を置いて
何時間でも座ってお茶やコーヒーを飲んでいられる。もーこれだけでスゴイと思うわ。
さらに。
五十嵐さんのぶどう畑は田んぼの跡地に客土したものだが、
風通しが良くて、どうかすると外よりもハウスの中のほうが涼しい。
「何かしました?」わたくし。「炭は入れてあるけどね」五十嵐さん。
つーことで、理由は不明だが、佐藤さんの畑と同じくとても気持ちいいのだ。
その気持ちいいぶどう畑に見事なシャインマスカットが一列に実っている。
今回初めてぶどうがなっているところを見たのだが、
なるほどよく考えてあるなーってな部分をそこかしこに発見した。
実がついているところから2本の枝が伸びていて、
一房に対して葉っぱが何枚ついているかひと目でわかる。
わたくしが今まで見たぶどう畑のように、枝がどっから出てきてるかとか、
そもそもこの枝の元の木はどこだっけ? みたいなことは全くない。
まるでぶどう工場みたい。こんな仕立てができるんだあ。
「葉っぱがたくさんついてても、あんまり意味ないと思うんだよね。
ひとつの果実にだいたい30枚くらいでいいかなって思って。
この一本の枝にだいたい15枚。その先は切っちゃうの。
葉っぱを茂らせても全ての葉が光合成するわけじゃないからね。
あとは土づくりかなあ。土ができたらもっと味が良くなると思うよ」
3芽残して剪定したところから2本出した枝に4個花をつけて最終的に1個残し、
2本出た枝に15枚葉っぱをつけたら先端を切る。何枚葉っぱがあるか、
ちゃんと数えられる仕立てにするんだと言ってたのを聞いてたけど、
ほんとにそうなってるからスゴイ。よく考えたなーって感じ。
ぶどう畑全景。まーっすぐにぶどうがなってるので収穫もしやすい。
変わった形をしているのがわかっていただけましたでしょうか。
五十嵐さんのシャインがおいしいと騒いでるのはわたくしだけではなく、
地元の農家の主婦のみなさまたちにもかなり評判で、
けっこういいお値段するのにリピーター続出でよく売れる。
おいしいものは黙ってても売れるんだなー。スゴイなー。
だからと言ってこの畑を見に来る農家がいるかと言ったらそうではない。
なぜだろう?
まずぶどう棚を新しく作り替えるなんてことは普通はできない。
親から受け継いだぶどう畑の番線を新しくしたり品種を代えたりはするが、
ぶどう棚の構造を一から変えるにはお金がかかるし、
まずそこに植わってる木をどうするかという問題も起きる。
五十嵐さんのぶどう畑と同じ仕立てにするには新しい畑が必要である。
またシャインマスカットのような大粒種は価格はいいが、
反当たりの収量から考えると種なしデラウェアの方が確実に儲かる。
山形県ではとにかく種なしデラウェアが確実に収入源になるらしく、
大粒種は手間がかかるわりに儲からない、というのが農家の常識らしい。
つーことで、とくに大粒種オンリーで食味の優れたものおいしいものを!
みたいなことはあんまり誰も考えないようなのだった。
五十嵐さんにそれが可能なのは、定年退職後の就農だからだ。
65歳になれば年金が支給されるからそれほどガツガツしなくていい。
農業が好きだから85歳までおいしいもん作り続けたいなー、って感じ。
であれば。
五十嵐式改良マンソン仕立ては
定年後にぶどう農家になる人に向いてるのではないかな?
訪問中にざーっと雨が降ってきたのだが、わたくしが感心したのはここ。
通常ハウスの境目部分から雨が落ちてくるので、減農薬栽培だと
ここからベト病などが広がる。五十嵐さんのハウスは境目に葉っぱが存在しない。
ちょうど伸びてきた枝を切るところにハウスの境目があるからだ。すごいわー。
60歳過ぎてぶどう農家の後を継ぐ人がずいぶん増えているようだが、
親の背に合わせたぶどう棚の下で上向きで作業して腰を痛めたりして
75歳くらいには疲れちゃってぶどう栽培を辞めてしまうかもしれない。
胸元で作業できて夏季剪定もそんなにしなくていい管理しやすい畑。
五十嵐さんの畑も管理方法も、定年後就農者にピッタリなのではなかろうか。
60歳から85歳までの25年間、おいしいぶどうが作れてしかも儲かる。
ちょっとウキウキするような話のような気がするが気のせいだろうか。
つーことで、今年も始まります、五十嵐さんのシャインマスカット。
パリンという食感、鼻に抜ける艶やかなマスカット香、甘み、歯ごたえ。
あああああああ、早く食べたい。じゅる(よだれ)
あと半月。ぶどうシーズンに向けて五感を解放中のわたくしです。
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