スティグリッツ「経済危機に導いた5つの過ち」

スティグリッツがヴァニティ・フェアで、今回の経済危機に至る過去の5つの過ちを指摘した。

  1. FRB議長の解任
  2. 引き裂かれた壁
    • 1999å¹´11月にグラス・スティーガル法が廃止され、商業銀行と投資銀行の垣根が無くなった。本来は商業銀行はリスクに対して保守的な半面、投資銀行は富裕層相手なので高リスク高リターンを狙う、という違いがあり、それゆえに前者は政府による預金者保護があった。しかし、同法の廃止により、投資銀行の文化が商業銀行に持ち込まれ、商業銀行がリスクを取るようになった。
    • それ以外にも、以下のような動きがあった。
      • 2004å¹´4月にSECが投資銀行の負債比率上限を12:1から30:1以上に拡大(当時はあまり注目されず見過ごされたが)。
      • LTCM破綻を受けて、米商品先物取引委員会(CFTC)のブルックスリー・ボーン委員長が派生商品への規制を訴えたが、ルービン、サマーズ、グリーンスパンに潰された*2。
         
  3. ヒル療法
    • ブッシュ政権は、富裕層や企業への減税――2001å¹´6月7日に導入し2年後に追加策を講じた――が、経済問題への万能薬になると思ったらしいが、それは現代のヒル療法に過ぎない。減税の効果が無かったため、FRBが流動性供給で景気刺激をする必要が生じた。
    • イラク戦争による石油価格の高騰も、石油輸入に頼る米経済に負担を掛けた。本来はそれによる70年代のような景気後退が生じるはずだったが、FRBのさらなる流動性供給により阻止された。しかし、そうした景気下支えは近視眼的な対応だった――過剰な流動性により、モーゲージ市場で本来は借りるべきでない人まで借り入れることが可能になり、米国の貯蓄率はゼロまで落ちた。米国は借りたカネ、借りた時間で生活していることを明確にすべきだった。
    • キャピタルゲイン減税は、借金によるレバレッジのインセンティブを加速させた。
       
  4. 数字のごまかし
    • 企業会計スキャンダルにより、2002å¹´7月30日にサーベンス=オクスリー法が成立したが、ストックオプションが対象外となった。アーサー・レビット元SEC委員長を初めとする関係者が根幹的な問題と見做したにも関わらず、である。経営者へのインセンティブの付与、というのがストック・オプションを擁護する名目だったが、業績が悪くてもどうせ何らかの形で経営者に報酬が支払われるので、それは本当に名目上の話に過ぎなかった。その上に、ストック・オプションは会計のごまかしをするインセンティブをもたらした。
    • 格付け会社が、まさに格付けする対象の人々から報酬を貰うというのも、間違ったインセンティブ構造の例であった。
       
  5. 出血療法
    • 最後のターニングポイントは、2008å¹´10月3日に成立した救済法案、すなわち、現政権の危機対応策そのもの。当初のポールソン案は、内出血の患者に輸血をしようとするもので、内出血の原因――つまり住宅差し押さえ――に手当てをするものではなかった。
    • 漸く銀行への資本注入に乗り出した時も、納税者のカネが貸し出しに使われるかどうかの監視を怠り、それらのカネの一部が株主に流出するのを見過ごした。
    • 米国経済の弱さにも手当てがなされていない。過剰借り入れによる経済成長は終焉し、消費は縮小しているのを、今は輸出で凌いでいる。しかし、ドル高や欧州の景気後退でそれも今後は厳しい。一方、税収の落ち込みにより政府支出も削減を余儀なくされるだろう。景気後退はさらなる不良債権をもたらし、弱っている金融機関に打撃を与える。
    • 現政権は、信頼構築について語るが、実際にやってきたのは信用詐欺。金融への信頼を取り戻す気が本当にあるならば、誤ったインセンティブ構造と不適切な規制という根本問題の解決に乗り出すべき。
つまるところ、過ちは以下の一点に集約される
市場には自己調整能力があり、政府の役割は最小限であるべき、という考え。

*1:このスティグリッツのボルカーに対する高評価と、ロゴフがここで紹介したエピソードを比較してみるのも面白い。

*2:cf. このブルームバーグ記事ã‚„このエントリの注。