Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

京都で開催された高等教育研究会・2015年度大学職員フォーラムに参加しました

high190です。
遅くなりましたが今年もよろしくお願いいたします。何かと変化の大きい年になりそうですが、今年も1年自己研鑽のためになるべく多くの記事を書けるように頑張りたいと思います。
今回も拝聴した内容について、簡単に所感をまとめてみましたが、理解違いなどがある可能性がありますので、悪しからずご了承下さい。


  • 主催者あいさつ:高等教育研究会・大学職員フォーラム世話人 代表 三上宏平氏(立命館大学)
  • フォーラムの開催趣旨・進行について:コーディネーター 中元崇氏(京都大学医学研究科教務・学生支援室)

基調講演『専門的職員』、『高度専門職』を巡る検討経緯と日本の大学職員の『専門性』 菊池芳明氏(横浜市立大学)

  • これまで日本においては、「大学職員」のあり方を考える際に、「大学教員」との対比において考えてきている。
    • なお、日本型の雇用について、独立行政法人労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎氏*1は、メンバーシップ型の雇用からジョブ型雇用への移行に関する意見を発信している。*2
    • 例えば、アメリカの企業において、不要な部門が発生した場合はレイオフで対処するが、メンバーシップ型の雇用制度を持つ組織においては、制度の維持が最大の目的になる。
    • 異動・昇進についても日本独特の雇用慣行。ある意味「非常にうまくできてしまった」制度ではないか。
  • 大学に置き換えて考えると、職員はメンバーシップ型雇用で、教員はジョブ型雇用(極めて高度の専門性を有する)である。
    • 雇用形態が大きく異なる職種から日本の大学は構成されている。職員であってもアメリカはジョブ型。(職員と教員の関係を対比させると非常に異なる働き方である事が分かる)
  • 日経連の提言「能力主義管理・その理論と実践(1969)」
    • 職能資格制度の活用。(軍隊における階級に相当)評価は顕在能力を中心にするが、潜在能力にも着目
    • ジョブローテーションを伴うメンバーシップ型人材の「職務遂行能力」は、どの程度の「専門性」を獲得できるのか?
    • あるいは、必要なのは一時的なジョブローテーションの範囲で獲得可能な専門性なのか?「専門性」の敷居をどの程度に設定するか?
    • 民間企業においても、「専門役」などの職位を運用しているが、恐らくは機能していない。ジョブローテーションでの職務遂行能力はあまり向上しない事を示唆しているのでは。
  • 大学教育部会での専門的職員の議論についての意見交換
    • 専門職についての議論。アメリカにおける高度専門職の位置づけ。
    • 意見交換に関するブレがある。教員と職員を包括するか、職員のみを独立させるのか。雇用上の処遇をどうするのか・・・など
      • 関西国際大学の濱名先生「高度専門職ではなく、大学運営職に近い」
      • 浦野委員の発言「企業では普通の総合職が行っていることを高度専門職に位置づけるのか?」という意見
    • 結論的には次期の中教審での審議に持ち越される事になった。第8期の大学教育部会では、3つのポリシーが最優先課題なので、あまり専門的職員に関する議論はなされていない。
      • ガバナンス改革審議まとめでは、「高度専門職」と「事務職員の高度化」を分けていたが、それを一緒にしてしまった事が問題。
      • 事務職員をベースとするかのような「専門的職員」は、教員に近い「高度なジョブ型」の専門家を包括、育成できるか?教員に近い高度な専門家集団は、現在の経営環境で確保できるか。
      • 事務職員と別に高度な専門家を第3の職種として設定した場合、経営者と人事部門の「スペシャリスト化」を伴わずに制度設計と円滑な運営が可能なのか。教員と事務職員の身分差が存在する(という認識)

メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用への移行の観点から今後の大学職員のあり方を考えることは、以前から関心を持っていた点なので興味深く拝聴しました。菊池さんの高度専門職に関する論考は、他のWEBメディアでも読む事が出来ますので、併せてご覧いただければと思います。*3 *4 *5
また、アメリカの大学職員との比較について何度か取り上げられていましたが、以前に拝聴したLEAP参加者の方の研修報告*6でも「アメリカの大学はジョブディスクリプションが明確。アメリカには「人事異動」の概念がない。公募に応募して職を変えるというイメージ。教員もAdministrationに専念する人がいる。」というコメントがあったように、ジョブ型雇用の導入に向けては"ジョブディスクリプションの整備状況"という点がひとつの目安になります。

話題提供(1)天野絵里子氏(京都大学学術研究支援室)

  • 自己紹介
    • 元々は大学の職員。京大の図書館で勤務。2014年に京都大学学術研究支援室特定専門業務職員(URA)になった。
    • 特定専門業務職員の定義:特定専門業務職員は、特定の専門的業務に従事する。自分自身の雇用形態は時間管理。年俸制なので退職金が無く、任期がある。
    • 特定職員:特定職員は、高度な専門的知識及び豊富な実務経験を必要とする専門的業務に従事する これと比べるとURAはぼんやり
  • URAを設置する政策的背景
    • 研究者の時間的ゆとりを作る、博士人材のキャリパス的な部分を作るための役割
    • 博士を取ってすぐの人はあまり採用されない。博士学位+α。ぶっちゃけ全員が博士持ちではない。学士のみの人もいる。
  • URAとは?
    • 文部科学省の2つの政策によって整備されてきた。リサーチアドミニストレーターを育成・確保するシステムの整備。
    • 専ら研究を行う職とは別、単に研究に関する行政手続きを行う訳ではない。研究大学評価促進事業。研究力強化を遂行する役目。
  • URAの業務
    • 想定されるURA関連業務(スキル標準策定)
    • プレアワード(研究戦略・企画)➡ポストアワード(運営・管理業務)
    • 企画支援・運営支援・広報支援・国際部門
    • どういう人がURAになったか。上記事業で採用されたのは251人いた。その他を含めると700人ぐらい。どういう人がなっているか:研究職が1番、事務系職員が2番。
  • 京都大学のURA
    • 第1フェーズで「学術研究支援室」を設置。
    • 学術研究支援室URA大幅増員+4部門性の導入
    • URAネットワークは京都大学内でも有機的に結びついている。入れ替わりも激しい。来年から学術研究支援室とURAなんとか室と統合される。
    • 組織・制度の壁を超えることもひとつの目標
    • 学内限定の公募型資金情報サイト、科研費書類の書き方(非売品)
    • KURA HOURの企画運営
    • URAのキャリアパス:事務職員・教員と人事交流をしながら、最終的には理事・副学長など大学運営職を目指す(どうなるか分からないが)
    • 業務はディスカッションをベースに行っている
  • 職員からURAの接続
    • 九州大学の出向から京都大学にURAとして戻るにあたって、知識の棚卸しをした。九州大学に出向している際、戻る時にどこに行こうか迷った部分もある。
      • 基盤:専門分野、学術情報、ICT、オープンアクセス
      • 思い:大学がフィールド研究支援
      • 経験:ネットワーキング、know who
      • 戦略的:仕組みづくり、業務の効率化
    • やってきたこととやりたいことを繋げる
      • 職域レベル:URAの専門性はまだ定まっていない
      • 組織レベル:組織の中でまだ定着していない
      • 個人レベル:目的は共有(新しい事が出来そう)
  • 「高度専門職」「専門性」に対する不安がある?
    • 自分の専門性に対する自身のゆらぎ
    • 将来の不確実性
    • 職域・組織・個人の枠組みで考えてみる
  • 現代の専門職・専門性
    • ひとつの課題に対して、複数の専門職が協働しながら取り組む。専門性や思いは重なり合っており、境界はあいまいになってきている
  • 組織のレベル
    • 大学のミッション、中期計画・中期目標
    • 人事計画も上記に基づいて行われなければならない。内発的動機づけ。(大切だがあまり議論されていない)
    • 異動・配属・キャリアパス・昇進、処遇給与福利厚生・評価。研修・一貫している明示されている人的資源管理
  • 大学のミッションを中心におき、専門性は個々に内在している?
    • 図書館職員の専門性はGoogleによって脅かされてきた(情報検索が大衆の手に委ねられるようになった)
  • 革新に繋がる大学職員の知識
    • 共通のミッションに向けて
    • 越境者としてのURAに期待されること
      • 人をつなぐコミュニケーション力がある事
      • 状況に応じた適切な表現が出来る人
      • 新しい仕事に挑戦しようとする人
      • 理想と現実
      • 越境するためには境界を強く意識しておく必要がある
      • 未踏領域への挑戦(これがURA専門職)

天野さんのことは以前から存じ上げていましたが、まだ実際にお会いした事が無かったので、お会いできた事自体が嬉しかったです。URAの役割・専門性などについて、まさに高度専門職として働いている方の発表ということで、内容面でも非常に充実したものでした。未踏領域への挑戦、今後の技術革新(特に人工知能)で専門性が大きく脅かされることなど、事務職員として今後どのように専門性を持って仕事をしていくかという点で重要な示唆がたくさん含まれていたと思います。
話題の中で出てきた特定業務専門職員・特定職員といった職制の業務内容・定義については、国立大学法人京都大学特定有期雇用教職員就業規則に詳細が定められています。

話題提供(2)小野勝士氏(龍谷大学文学部事務課)

  • 自己紹介
    • 関西学院大学法学研究科博士前期課程を修了し、龍谷大学に入職。経験部署は教務・法人だが、教務畑が長く、学部事務室勤務。
    • 最初は教室調整の業務を担当。他大学出身者だったので何も知らない中で担当する大変さと面白さを感じた。法人では財務部経理課にて資産運用業務を担当した。
    • これまで、教職課程に関する業務(教員免許業務)を専門的に行ってきた。教職課程は非常に多岐にわたる法規を取り扱うため、法律に関する知識が求められる。業務外で活動する機会が多い。2014年で年間約30日、2015年は16日。全て休暇を取って参加。
    • 上記の専門性を職場で活かす機会としては、学部長会にて第2期中期計画アクションプランについて、関係資料を作成し、説明を行っている。大学執行部の元におかれた時限委員会に委員長指名で参加。
  • 教職課程事務について
    • 教員免許の分野は実は体系だった本がない。大学の教員免許業務Q&A、課程認定申請の手引き−解説書−などを執筆。今後はSYNAPSEにて連載を担当の予定。
  • なぜ関わり続けているのか。
    • 2003年末に現行法での初めての免許状取得者を出した。
      • 今まで誰も経験した事が無いことなので、何もかもが分からない状況であった
      • そういった中で全国で大学のミスで免許状を出せない事例が数件発生した
      • 非常に危うい状況であることを認識
      • 異動しても経験をつないでいかないと危うい状況になる
      • 業務外であっても関わり続けた
      • 結果として詳しくなった
    • 新法の後も細かいマイナーチェンジは行われており、そういった改正に関しても継続的に注視していかないといけない。
  • 専門性に必要なもの
    • 法令を読むことを苦にしないこと(法学部出身者か、法学分野の修士号保持者)
    • 勉強好きであること
    • 法令改正等が頻繁にあり、常に情勢は変化している。自分から知識を得たいと思い学外の勉強会に自発的に参加して積極的に情報を収集できるかどうかが大事なポイントになる。(※学部時代に立法技術をゼミで学んだ)
  • 龍谷大学の職員人事制度
    • 資格
    • 資格に関するフィードバック面談内容確認シート*7
      • 優れていた点
      • 改善点、育成点
    • 専門性に必要な能力開発
      • 教員免許業務は教務業務の一分野に過ぎない。教務事務の本筋の部分を経験した上で担当するのが望ましいのでは。
      • 大学運営全体の中(財政面、教学面の両方の側面)で、教職課程のあり方がどうあるべきかを押さえておく必要。
      • 入職後10年程度までは、広く職務を経験した後、専門性を活かせる分野に特化していく事が望ましいのではないか。
  • 特定職務型スタッフ・コースを申請しない理由
    • もう少し幅広く経験してから、固有の分野を極めていくのがいいのではないか。また、特定職務型スタッフという職種を作るなら、大学全体にてどの業務に専門性が担保されるのかを把握・調査しておく事が必要なのではないか。過去の経緯を把握した上での専門職が必要なのでは。

小野さんは教員免許業務の担当者で知らない人はいない、と思われるほどの有名人です。しかしながら、これまでのキャリアで財務部経理課にて資産運用業務なども担当されていたとは驚きでした。
個人的には、これまでの業務で学校教育法や大学設置基準などの法規に触れることが多かったため、行政との接点という点で必須の知識である法律・立法技術を学ぶことの重要性という点は興味深かったです。法学部又は法学研究科出身者という点では、「行政管理を担う大学職員」という専門性の開発もあると感じた次第です。(国家公務員に近い印象を持ちます)

基調報告及び話題提供に対するコメント 徳永寿老氏(公益財団法人大学コンソーシアム京都専務理事・事務局長)

  • 元々は大学職員であったが、現在は大学コンソーシアム京都の専務理事兼事務局長をしている。
    • 大学コンソーシアム京都では、加盟大学や自治体から出向で職員を受け入れている。高度な専門性を有する職員の雇用に関して、全員をパーマネントで雇えればいいが、人件費の支出に関しては経営面での考慮が必要。
    • 例えば国際交流関係ならば優秀な人材は多数集まる。有期雇用として対応していくことが必要と思われる部分を。
    • 菊池氏の問題提起、メンバーシップ型の維持に関してだが専門性に執着すると安定を得るのが難しい。自分自身は採用時に図書館に配属されたが、他大学職員との交流する中で、他大学の専門性が高い職員と自らを比較して、能力の違いに愕然とした気持ちになった。
    • 専門性は外注化し、職能基準・資格基準を定めていくことで、将来に不安の無い形での支援が必要。加えて経営的な努力も重要。
    • 大学コンソーシアム京都では能力体系を整備し、出向者が所属大学に戻ってからも活かせるような仕組みにしている。

大学コンソーシアム京都では、出向者を受け入れるという特殊な環境のもと、どのように職員の専門性を活かしながら能力開発を行っているかという点でのお話でした。あわせて、現在の経営環境では人件費支出が重くのしかかるという経営に直接コミットされている方ならではの悩みのような部分も垣間見えて興味深いと思いました。

全体討論(パネルディスカッション)
中元さんによる整理

  • ジョブとメンバーシップの違いは無視できない(菊池さん)
  • 専門性の捉え方、ミッション課題と繋がる形(天野さん)
  • 教職免許のみが専門性として確立せず、教務・大学全体の視点などを踏まえて専門性が必要なのではないか(小野さん)
  • 20代の前半、契約職員としての採用などに関して差は出ないと思うが、30代になってからは大きな違いが出てくる。専門性に関しては部署毎のアウトソースなどについて

【質疑応答】

  • アウトソーシングをすべきでない領域、今日のような議論は変化する環境にどう適用するか、大学の役割をどう果たすかという2つのレイヤーがある。サバイバルのための適応と大学の役割というものが無自覚に対応させてしまうような点がある。自分の境遇に照らして考えると、第3の職種が成立する事は良い事だと主張するが、この議論をどのようにセッティングしているかを聴きたい。(補足)高度に専門的な業務が存在するとして、例えば図書館業務が専門的であるとして、大学組織が内製で抱える方が大学の強みを担保するという点についてはどうか。
    • アウトソーシングを全面的に同意する訳ではないが、その反面、経営面からは必要性が高まっているのは事実である。図書館の例にあるように、専門性がはっきりしていて、機能的に定められているもの。全ての大学では出来ないということがある。専門職領域が確立していくと、外部人材の活用がやりやすくなるのではないか。大学の規模・設置者などによって状況は異なると思うが、必然的に選択されてきているのが、専門職に限らず一般職員においても現状だろうと思われる。
    • 全て専任職員で賄えればいいのだが現実的ではない。アウトソーシングする部署に属する経験は無いのだが、職員はどこまでを知っておくべきで、どこまでを任せるべきなのか、という点が明確になっていないといけない。そこはコスト面だけではなく、ジョブディスクリプションにも関係する。
    • 難しい問題だと思うが、アウトソーシングには大学のサバイバルと、どこに専任職員を配置するかという問題があるが、職員側から見ると問題だと思う例が多くある。アウトソーシングすべきでない領域は各大学によって優先順位が異なると思うが、図書館はアウトソーシングが進みすぎてしまっていて、専門性について深く考えたことはあるが、一般的に図書館の専門性として理解されなかった部分もある。
    • アウトソーシングの目的だが、経費削減に主眼が置かれている。これは受託する側にとっても必ずしも幸福ではない。よって、サービスの低下は免れない部分である。あとは社会の選択の問題であろう。例えば、高等教育の公財政支出をどの程度にするかなどの命題がある。その他、教育プログラムは絶対にアウトソースできないと思う。あとは研究についてもできないだろう。よって、現在の経営環境という視点を持たないと議論にならない。専門的な職員の処遇が低い理由については、メンバーシップ型雇用の維持を前提にしていることに留意しておく必要があるのではないか。
  • 現状のままではいけないと思う。そのギャップを埋めるためにアメリカにおいては非教員職が存在している。現在の日本の大学の現状に関し、ハイブリッド型の職員がもう少し高度化していけるような仕組みが必要だと思う。議論では事務職員か専門職かという二元的な議論になっているように感じるが、その点はどうか。
    • 民間企業でも、メンバーシップ型の人数を絞り、非正規雇用を増やすなど、雇用のあり方は変わってきている。また、ジョブローテーションについても、単純な年数による異動から一定程度の経験を積ませ、適性を判断してからキャリアパスを決めるようになってきている。これは他国の競合企業の同年代社員と比較すると、能力が低くなりがちだからである。大学職員においても同様のやり方を採用していく事は可能性があると思うが、体系的に編成された教育訓練を含んでいる事が必要だと思われる。これはコースワークに似ている。特にURAなどについては、自分で論文を書く経験を持たないとAdministratorではなくAssistantになってしまうのではないかと危惧する。アメリカは教員だけではなく職員もジョブ型であり、必要な能力の高低だけであり、能力感・能力評価あらゆるものが異なっている。民間企業から転職し、複数の大学を渡り歩いてきた経験からすると、大学職員は勉強しなさすぎだと言える。具体的には大学設置基準をろくに知らない職員も多い。民間企業の社員は大学職員と比較するとまだ勉強しているように感じる。
  • アドミッションオフィサーについての研究を科研費で行っているが、どういった人材が相応しいと思うかについてご意見を聴かせて欲しい。
    • 高大接続・高大連携についての業務を担当しており、教育委員会・高校との接続などをやっている。アメリカではアドミッションオフィサーが存在しているが、日本において同様に実施できるかどうかは非常に疑わしい。国立・公立・私立の全ての大学で網羅できるかどうかは疑問。比較的自由な学風を持つ大学においても、学部の自治・専門性などの難しい側面は出てくるだろう。本来はジョブローテーションでメンバーシップで育ってきた職員がやるべきだと思うが、大学改革が進展する中で、ジョブ型を使わないといけない。あわせて大学業界を一定程度知っている人で教務・学生支援・就職支援などを多面的に捉えている人がいればできると思うが、個人的には難しいのではないかと思われる。
  • 制度を変えても運用を併せて変えていかないといけないと思うが、経営者・人事部門とのいずれを先に改革していかなければならないと考えているか。
    • 経営者と人事部門の専門性は早急に高めないといけないが、ある意味において経営者の力量次第でどうとでもなるようになってしまう。人事についても専門性は重要であり、人事部門の担当者が3年ローテーションで回すようではとてもうまくいかないであろう。専門職が専門種として確立していない段階で起こるコンフリクト。例えばアメリカでは専門職団体があり、ジョブディスクリプションが確立している。
  • 今までのイメージ以上に9割の部分で活動されていることが驚きだったが、専門性を活かした活動によって、メンバーシップの社会の人たちとの温度差を感じることはあるか。
    • 今のところ特に温度差を感じていない。そのために自分がやるべきだと思っていることは、圧倒的なパフォーマンスで本務をこなす事だと考えている。勤務時間内で業務を完結させ、体のコンディションづくりなど、他者に文句を言わせないような仕事への取り組み方を示す事だと思う。本務をしっかりやっていれば言われない。

質疑応答においても、今後の大学職員の働き方に関する重要なポイントがいくつもあったと感じました。大学職員として働いている人々が、最も関心を持つ部分は恐らく「人事」ではないかと私は思っています。大学の人事制度の非効率性については、専門性を有している職員であっても、ジョブローテーションで全く異なる部署に異動になり、専門性が断絶するなどの話は枚挙に暇がありません。では、どのようにして専門性を持った人材を活用していくかという点についてですが、これは当日参加された方々のFacebook上での議論なども拝見したところ、単純に一大学のみで変えていけるものではなく、大学のみならず日本全体の雇用制度にも関わる話で、一概に現時点でのジョブ型への移行が正しいとは言えない部分もあるように思います。*8 *9
そこで、私からご紹介したい事例があります。特定非営利活動法人実務能力認定機構が公表している「大学マネジメント・業務スキル基準表」です。最近、「大学マネジメント・業務/基礎(知識・能力)編」も公表されました。*10事務局の所在地が早稲田大学にほど近い場所であること、役員に早稲田大学の関係者が多いことを見ると、設立当初から早稲田大学が深く関わっている団体のようです。


  • 背景
    • 近年、大学経営を取り巻く環境はますます厳しさを増し、社会のニーズに応えられる大学の運営が求められています。少子高齢化に伴う大学間競争の激化、教育・研究の高度化、グローバル化に伴う国際化への対応、大学生の就職率等々の課題に対処するために、大学経営における新しい役割を担う大学職員の育成が重要になっています。大学職員の育成・評価、個人の自己啓発の活性化、組織の活性化等を推進するための各種仕組みづくりと共に、その基本情報として大学運営業務に関する知識・スキルの体系化が必要となります。
    • ACPAでは、東京大学、法政大学、早稲田大学の人事部門および各種事務部門、また人材育成の経験豊富な企業研修部門のご協力いただき「大学マネジメント・業務基準表検討ワーキング会議」を設置して大学職員業務の体系化作業を進めてまいりました。
    • 職員一人ひとりがもっている大学運営に必要なスキルの把握と育成、また個々人の能力や経験を大学運営に活かす人事政策の基本情報として、大学運営業務全体を網羅した大学マネージメント・業務スキル基準表を、各大学の組織力強化、人材育成のツールとして大学関係者にご活用いただきたいと考えております。
  • 基準表の活用状況(2015å¹´9月現在)

まだ導入大学は少ないようですが、大学間で情報共有した上でのジョブディスクリプション整備という点で、日本国内では先行している事例ではないかと思います。大学の業務に関しても一定の標準化が進みつつあることを鑑みれば、ジョブディスクリプションの整備と併せて、ジョブ型雇用のあり方、職員の専門性についての議論が進むのではないかと思っています。とは言え、組織が職員をどう働かせたいか?ということを突き詰めないと高度専門職の活用は絵に描いた餅に終わってしまいます。
他の大学職員ブロガーによる論考が大いに参考になると思いますが、*11 *12 *13 *14私なりに考えると、職員の専門性と雇用のあり方を継続して議論していくことの必要性を感じます。今回のフォーラムで得られた示唆をもとに、継続して自分自身の専門性の開発と、大学における高度専門職のあり方に関する議論を注視していきたいと思います。

【2016/01/31追記】
当日の様子を空手家図書館員として著名なブロガーさんがまとめておられます。*15当ブログと併せてご覧いただくと、より内容が分かりやすくなると思いますので、是非ご覧下さい。

*1:http://www.jil.go.jp/profile/khama.html

*2:"特定の職務について技能を有する者を必要のつど募集、採用するという本来のあり方は影を潜め、企業の命令に従ってどんな仕事でもこなせる潜在能力を有する若者を在学中に選考し、学校卒業時点で一括して採用するという、諸外国に例を見ない特殊な慣行が一般化した"「ジョブ型正社員」と日本型雇用システム http://www.nippon.com/ja/currents/d00088/

*3:「高度専門職」の大学設置基準への位置づけについて(1)−文科省が制度化を急ぐ理由?− http://ycu-union.blogspot.jp/2014/12/blog-post.html

*4:「高度専門職」の大学設置基準への位置づけについて(2)−「高度専門職」か「専門職」か− http://ycu-union.blogspot.jp/2014/12/blog-post_25.html

*5:「高度専門職」の大学設置基準への位置づけについて(3)−「高度専門職」から「専門的職員」への変更とメンバーシップ型雇用における「専門性」− http://ycu-union.blogspot.jp/2015/02/blog-post.html

*6:LEAPプログラム参加の大学職員による研修報告を聞いてきました http://d.hatena.ne.jp/high190/20120730

*7:小野さんのブログで補足説明をしていただきました。ありがとうございます。「大学職員における高度専門職の議論をめぐって」http://blog.livedoor.jp/masashi_ono/archives/1050350584.html

*8:例えば、アメリカでIRerとして活躍されている柳浦猛さんは、アメリカでも中級レベルのIR人材を確保する場合でも、「高等教育内外から広く人材を集められる人事制度が不可欠」「任期付きの採用では人は集まりづらい」「給与システムの見直し」などを指摘しています。 http://goo.gl/U5jPwR

*9:大和総研経済調査部・主任研究員溝端幹雄「大学教育の質が高まらない理由」 http://www.dir.co.jp/library/column/20160112_010512.html

*10:大学マネジメント・業務/基礎(知識・能力)編 http://www.acpa.jp/kijun/management2.php

*11:高度専門職の検討に思う〜いったい何が良くなるのか〜 http://kakichirashi.hatenadiary.jp/entry/2014/12/17/230911

*12:高度専門職の能力水準に思う〜スペシャリストはどのように働くのか〜 http://kakichirashi.hatenadiary.jp/entry/2014/12/18/203232

*13:専門的職員とはこういうことか http://dai-staff.hatenablog.com/entry/2016/01/12/225924

*14:大学規模に応じたハイブリッドな専門的職員は必要か http://as-daigaku23.hateblo.jp/entry/2015/12/24/120000

*15:大学図書館員の専門性って何やろね・・・?(高等教育研究会の大学職員フォーラムに参加して) http://karatekalibrarian.blogspot.jp/2016/01/blog-post_30.html