Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

日本高等教育学会第20回大会に参加しました

high190です。
5/27,28の二日間、東北大学で開催された日本高等教育学会の第20回大会に参加しました。私は会員ではないのですが、大会のみに参加する事は可能という事で大学教育学会、大学行政管理学会に続いて学会に参加してきた記録です。以下の記録についてはhigh190が各講演者の発表等を聞きながら内容をまとめたものですので、予めご了承下さい。

日本高等教育学会第20回大会


Day1(2017-05-27)自由研究発表Ⅰ・Ⅱ

現代の大学教育における「教養」概念の一考察-教養系学部の基本情報の分析を通じて-(玉川大学 栗原郁太 氏)

  • 「教養」「リベラルアーツ」の定義にまつわる議論は多くあり、多義性と一般性を併せ持つマジックワードに。意味が拡散・整理しにくい。
  • 全国大学一覧、大学ポートレート、各大学のWEBからデータを収集してKH Coderで計量テキスト分析。
    • 学位に着目して関連する概念の分析。DP,CP内容の概観のための計量テキスト分析。共起ネットワーク図で示すとDPでは「国際教養」学部のインパクトが強い。関連して英語運用能力、論理的思考力などが関連。CPで言語力をベーストした文化・社会の理解、留学語学研修の重視、情報収集などが頻出。頻出後をクラスター分析。世界・国際文化を理解。社会における問題解決力、外国語を用いたコミュニケーション能力。
    • CPのクラスター分析。国際教養学部だと留学等を含めたカリキュラムの特徴、教養系学部だと社会・文化、理解すべき事象、能力観などが出てくる。その他の教養系学部では情報スキルが出てくる。
    • DP・CPの分析を通じて、大学教育の理念的な文脈からは、「学び方としての教養」の概念が検証。各教養系学部がDP,CP策定の際に依拠している文書は?
      • これまでの答申等「新しい時代における教養教育の在り方について(答申)」などで頻出された単語。
  • 結論
    • 「専門としての教養」に着目して分析すると、
    • 学芸・科学分野
      • 文学、国語・国文学、英語・英文学、英語・英米文学、歴史学、心理学、社会学、教養・学芸、地域研究、国際関係、経済学、理学及び音楽
    • 職業分野
      • 教育学、法学、商学、
  • 大学教育における「教養」のディシプリンの範囲
  • 質疑:
    • 結論部分の学問分野の括りが大雑把では。
      • 学位授与機構が発行している新しい学士への道で提示されている分類を使用した。
    • AAC&Uの文書はアメリカにおけるリベラルアーツの研究論文を回顧したものではないので、先行研究として扱うべきでない。AAC&Uは業界団体。アメリカの教養教育に関する参考文献が少ない。AAC&Uの教養教育に関する文書*1など*2、もう少し広く文献に当たる必要なのではないか。歴史学を取っても日本とアメリカでは異なるので、その点はもう少し整理する事。結論1から結論2までの議論の以降を整理する事。
      • 「先行研究」ではなく「背景」とすべきだったとコメントあり。

教養教育については私もまだ知らない事が多いので、興味深く拝聴しました。KHCoderは誰でも使える計量テキスト分析のソフトですので、興味がある方は使ってみてはいかがでしょうか。研究で使用された事例も公開されていますので、こちらも参考になるかと思います。*3あとは教養教育という点で、個人的に関心を持っているのはコロンビア大学のコアカリキュラムについてですが、その点については過去記事で言及していますので、そちらをご覧いただければ幸いです。*4

私立大学等改革総合支援事業が私立大学の教育活動に与える影響に関する実証研究(神戸学院大学 松宮慎治 氏*5)

  • 先行研究
    1. 私学経営と関連づける研究
    2. 政府との関係に着目する研究
    3. 至近の政策に着目した研究をレビュー
  • 命題:私学助成の競争的配分と私立大学のガバナンス集権化かが、私立大学の教育活動に与える効果の検証
  • 仮説:私立大学等改革総合支援事業タイプ1への選定は、私立大学に脱連結*6によるアプローチを促すため、教育の質向上に貢献しえない。ガバナンスも教育の質向上に意味を持たない。
    • 仮説設定の理由:本事業の設計は、現場の教育活動の改善以上に「選定されるか否か」に目が向きやすい。この状態は新制度派組織論の「脱連結」現象に枠づけられる。また具体的な脱連結行動としては、本来の目的と異なる趣旨での現象拡大を扱う政策過程研究、特に「準拠集団の模倣」や「水平・垂直的波及」等と親和的である。さらに先行研究に鑑みて、ガバナンスの集権化が教育改善等に効果があるとは考えがたい。
  • 結論
    • ガバナンス改革を改革総合支援事業で行ったが、結論的にはガバナンスよりも組織にあったマネジメントの重要性があげられる。プロセスが大事なのであれば、GP事業を再評価できる可能性がある。
  • 質疑
    • この研究で得られたインプリケーションを再度整理してもらいたい。
      • 私立大学に対して競争的に資金配分する流れは止められないと思うが、私立大学側がそれに適う行動を取れるのかどうかを考慮する必要がある。

私立大学関係者ならば皆が気にする改革総合支援事業についての政策的効果を示した研究です。個人的にはGP事業の再評価という意見が出た事に関心を持ちました。また、「ガバナンスよりも組織にあったマネジメントが重要」という点はその通りだと思います。ガバナンスは仕組みであって、それを回すマネジメントを改善しない事には、大学経営の効率性は向上しないと最近は感じています。

「第三の領域に属する教職員養成の政策実施過程−分野を横断しての事例分析」(群馬大学 二宮祐 氏、玉川大学 小島佐恵子 氏、同志社大学 浜島幸司氏、山梨学院大学 児島功和 氏)

  • FDer
    • 活用状況を見ても、自大学の専門家を活用する例は少ない。(大学における教育内容の改革状況調査)
    • インタビュー調査
      • アイデンティティの不安定さ。専門職なのか非常に疑問。専門分野関わらず就ける。※これで専門性と言えるのか。
      • 求められる業務が非常に多様。業績評価指標が非常に曖昧。
      • 教員と職員の中間を担う「ノンアカデミック」「ノンファカルティ」の職の重要性を指摘。しかしながら、そういった業務を担う者は冷遇。
  • キャリア支援・教育担当者
    • 文科省、厚労省の政策動向によって、かなり引っ張られている。
    • インタビュー調査
      • 安定しない雇用と先の見えなさ。部局間の壁を越えるのが難しい。学内に仲間がいない。学部特性などが分からないと学生に対する効果的なアドバイスが難しい。特任教員を重要視していない。非常勤講師や任期付雇用の教員はカリキュラム作成に関与できないので、その点が難しい。
  • リサーチ・アドミニストレーション担当者(URA)
    • 他の専門職と比較すると、職能団体が発足している。
    • URAに関してはスキル標準が定められている。2013年度に東京大学に委託。早稲田大学に「研修・教育プログラムの作成」を委託。
      • 目的が曖昧ながらも、従事しながら主たる業務を理解していく。
      • 現場での混乱が拭えない。
      • 自ら業務を増やしていく。
      • 同僚との関わりから最適解を導こうとする
      • サービスとしての研究者以上のコミュニケーション
    • URAには研究者以上のコミュニケーション能力が求められる?
      • 他の専門職よりも制度的な整備が進んでいるように思われる。
  • 産官学連携コーディネーター担当者
    • 政策形成の経緯
      • 法整備の後、文科省・経産省が産官学連携を進展させるための政策形成。専門職団体がある。産学連携学会、日本知財学会。ネットワーク化が他の専門職と比較すると進んでいる。
      • 企業出身者の専門職が大学の慣行に悩む例が散見される。技術移転に関しての専門家を育成するためには時間がかかる。
    • 専門職に視点を当てると、そもそもが組織としてどのようにその専門職を活用したいのか、その成果設定が上手く行っていない。
  • 政策形成とその実施、と言う点では
    1. 「第三の領域における教職員の必要性」が指摘される。
    2. 政策形成されて予算措置される
    3. 教職員の短期養成、他分野から移籍する教職員
    4. 時限付き予算による任期終了、不透明な契約更新の可能性、職能形成の課題。資源不足や曖昧な目標による職務遂行上の問題(「現場」での苦境)
  • 専門職団体の有無がストリート・レベルの官僚制を解消するか。URAの事例が最もうまくいっているように感じたが、その点についてはどうなのか。また、人材労働市場が整備されると良いのでは。
    • 仕事の裁量は広いが、雇用される期間は短い。
    • 職業が形をなす「初期の話」であるところが興味深い。事例としてあればだが、研究対象とした職種で、専門職養成課程をしっかり整えるべきと考える人と、そういったものは必要ないと考えている団体、どちらが強いのか。
      • 今回の対象とした事例は、職能団体は成立しているが、団体としては有機的に機能していないのだと思われる。
    • アメリカは専門職社会だが、アメリカが一般的になる訳ではないので、それ以外の道を模索することも必要である。
    • IRerとして業務を担当しているので、興味深い。自分自身は外部資金で雇用されていて科研費にも応募できる状況にある。今後の研究で、科研費申請の有無などを調べると研究者へのキャリアパスが見られて良いのではないか。
      • 必ずしも全ての専門職が研究に向きたい訳でもない。
    • 今回の研究のフィードバックをどのように行っていくつもりか。
      • 今回の発表に当たっても協力者へのフィードバックを行う必要があると思うので、その点については緊密に連絡を取りながら行っている。
  • 総括討論
    • 専門性よりも同僚性を重視するように感じたが、その点についてはどうか。
      • 東京学芸大学は大学教員の専門性を考慮した伝統的な考え方に基づく専門職養成だが、群馬大学の二宮氏らによる研究は、第三の領域に属する教職員養成の政策実施過程は現状に関連する個別集合体としての大学を考えるか、機能的に役割を果たしている事を良しとするか否か。
    • 専門職という点では、米国の例を見てて感じるのは人件費が上がり、専門職としての利権が発生する可能性はある。30代前半の職員は大概が便利屋になっている。日本においては立派な「政策」は存在しておらず、場当たり的である。専門職が増えると経営側は使いにくくなるということにならないか。
      • 教員養成型大学では、学生満足度と教員就職率が評価指標になる。同僚性に関して内発的・自発的な点に重きを置いているが、既存の教育学研究科が教職大学院化してしまうことに危惧を抱く。
      • キャリアに関する専門職を置くことは、学部内で本来的には学部の教育ディシプリンに基づいた専門性との分断が発生してしまうので、その意味においてはレリバンスの分断をキャリアの専門職が起こしてしまう事から、専門職を置かない方が望ましいとの意見もある。
      • FDについては大学でも定着したが、ポジティブとネガティブな人が分かれている点には着目する必要がある、

今回の発表で事前に聞きたいと思っていたものです。この研究発表は科学研究費補助金にも採択されているもので、研究動向なども公開されています。
*7現在の大学ではこの発表で示されているように第三の領域に属する専門職の方々が多くおられます。私は一事務職員でしかないですが、専門性を有する専門職の方々との協働をどのようにして果たしていくのか、その仕掛けを大学経営の主要課題として捉えることができるかどうかは大きなポイントではないかと思ってます。
個人的には、一般的な大学職員の中でも、設置認可申請業務に関しては経験知識を積み重ねていく業務で、経験が物を言う部分がありますので、新任者を育成するのに時間がかかるという点では似ているように感じました。このように通常の職員業務でも一定の専門性をどのようにして獲得して知識を更新していくのか、大学としての経営資源である人的資源をどのようにして保全していくのかが最近の関心事です。

私立大学における大学運営効率の規定要因に関する実証的研究(広島大学 前田一之 氏)

  • 命題:上意下達型のガバナンスによって、私立大学の運営効率は向上しない
  • 副命題:
    • 非公式組織に関する副命題:集権的な組織文化の醸成および集権的なリーダーシップによって私立大学の運営効率は向上しない
    • 公式組織に関する副命題:公式組織の集権化によって私立大学の運営効率は向上しない
    • 環境要因に関する副命題:私立大学の運営効率に対する環境要因の影響は公式・非公式組織の影響より大きい
    • (アドホクラシー型の組織文化が)適応効率性を重視した方が組織の運営効率は高まる仮説
      • 組合があると運営効率は7%下がる
  • 結論:
    • アドホクラシー型の組織文化への刷新
    • 内部的な財政規律の強化による基本金組入額の確保

DEA(Data envelopment Analysis)=包絡分析法についての発表でした。私はまだこの分野についての学習が足りていないので、あまりコメントできないのですが、仮説の立て方の妥当性について質疑で質問が多く出ていました。(元会長の金子元久先生などから)この分野ですと、京都外国語大学の山崎そのさん*8が第一人者ではないかと思いますので、山崎さんの書籍なども参考にしながら学び直しが必要だなと感じました。

学校法人(私立大学)の持続可能な財政運営のあり方についての実証的研究(國學院大學 篠田隆行 氏)

  • 目的:学校法人会計基準の改正に伴う財務運営における経営行動にどんな影響を及ぼしたか仮説を解明する。人口減少に伴い、私学を取り巻く経営環境が厳しくなる中で、永続的な存続を可能とする財務運営のモデル構築の提唱
    • 帰属収支差額、基本金組入前当年度収支差額
  • 内部留保への経営行動
    • 会計基準の変更は直接的には影響していないが、中長期的には関係がある
    • 東洋経済の財務力ランキングでの算出数値の修正
    • 基本金組入前当期収支差額が黒字であった場合、ステークホルダーから学費の値下げ等の要求があるのではないか。
  • 質疑
    • 基本金組入を「内部留保」と表現するにあたって、第2号基本金と第3号基本金が該当すると思うが、注記をした方が望ましいのではないか。
      • 近年では3号基本金を組み入れる学校法人が増えている。
  • 総括討論
    • DEAモデルが利用されている研究が2つあったが、どのようにしてモデルを組むのかを再度説明して欲しい。
      • 例えば効率性のモデル化として、帰属収入を最大化することを目的としつつ、人件費・ST比を下げることが目的として整合的であるのかをお聞きしたい。また、出力指標に帰属収入という部分が納得できないのだが、その点についてはどうなのか。
      • マスプロ教育がいいと言う訳ではない。大学経営の継続性を担保するために、人件費の抑制と帰属収入の増加を両立させられる大学がどのように存在しているのかを知りたいという意見である。
    • 人件費の最適配分、というtobit分析に関しては諸外国でのコーポレートガバナンス研究などでも使用されていた指標である。
      • 帰無仮説を検定した形で実証できるのだが、その点についてはさらに検証が必要である。
    • 持続可能な財政運営に関連する二つの質問。基本金組入前当年度収支差額ができたが、企業会計の営業収支に当たる教育活動収支差額に着目してはどうか。
      • 施設・設備の貸出のように、本来であれば財務活動に分類されるようなものも教育活動に入ってしまうため、基本金組入前当年度収支差額に注目した。
    • 第2号基本金は学校法人によって計上していない例もあるので、金融資産に着目した方が良いのではないか。ここからBSに発展させていきたい。「教育活動」という決め方が分かりにくかったのではないかと思う。
    • 減価償却費はどこに含まれるのか。
    • 基本金組入については額が大きくなってしまうので社会からの批判の対象にもなるが、一種の資産を保有する形態が予算と決算が示されていて、この際に予算と決算が食い違う場合、どういった理由に基づくのか。基本金は元々必要な額として計上するのか、残余額を基本金として扱うのか、その点はどうなのか。
      • それぞれで統制機能が働いており、一番発生するのは基本金組入である。経営者の計画に基づき、決定しなければならないが、設備投資に伴う金額として影響する。
      • 教育研究経費と管理経費の中に減価償却費が入っていると、学校法人側で減価償却費を操作できてしまう。よってB/Sで見ていかないと財政上の状況は把握できないので、当事者としても発信していかなければならないと思う。
    • 学校法人は企業会計との比較で議論されるが、消費収支計算は学納金設定を原則としていたこと、補助金が入ってくる事なども考慮する必要がある。
    • 業績連動型での運営交付金配分については、配分比率などについては旧帝大を優遇するようなものではなく、当初の国立大学法人化の趣旨を徹底すべきではないかと考える。
      • 回帰分析を行うにあたって、教育プログラム上での特色を持った学校などもあると思うので、その点は定量的分析と定性的分析を組み合わせた方がよいかもしれない。

総括討論での議論も交えてですが、大学経営を考える時に財務関係の知識をもう少し付けないと議論の背景が分からないので、学習が必要だと感じました。これまで財務部門で勤務した事が無いので、今後のキャリアではそういった部署での経験を積む事も必要かも知れません。

Day2(2017-05-27)課題研究「大学の教育マネジメントとガバナンス」

二日目のプログラムは午前中に所用があったため、午後の課題研究のみに参加しました。

金沢大学における教育改革推進体制について(金沢大学国際基幹教育院高等教育開発・支援系/部門 堀井祐介 氏)

  • 教員組織・教員人事制度の改革
    • 学域の設定。専任教員と準専任教員(全ての教員は1つの学類の準専任教員となることができる。専任教員に準じて当該学類の教育を担当する教員)共通教育での統一性に乏しい(アラカルト方式、科目はあるがカリキュラムでない)➡現学長がトップダウン式の改革方針を発表+SGU採択
    • 全ての学類で卒業要件となる共通教育科目を30単位に揃えた
      • 金沢大学<グローバル>スタンダードの5基準の目標に科目を紐づけ
      • 国際基幹教育院を設置し、共通教育機構を所管
  • 教育戦略会議の設置(理事の諮問機関)
    • 教育改革を実現する上での組織的な工夫と課題
    • 工夫
      • 教教分離、機動性の高い教育戦略会議(一貫性のある教育改革)
    • 課題
      • トップダウン型教学マネジメントのため、現場レベルに十分な情報が伝わっていない。制度はできても十分機能していない部分。改革全般に対する教員への情報提供、啓蒙が不十分(SGU、AP、COC、COC+などの補助金頼み。自ら目指す方向性がぶれている?)安定した財政基盤が無いために政策に振り回される。

金沢大学での教員組織改革の事例報告。地方の国立大学における教学改革事例ですが、実際には運営面で様々なご苦労がある事を拝察しました。これも国立大学法人化以後の国立大学法人運営の難しさを示す一例ではないかと思います。

私立総合大学における教育改革-立命館大学の内部質保証システムに着目して-立命館大学の内部質保証システムに着目して-(立命館大学大学評価室/教育改革推進機構 鳥居朋子 氏)

  • 大規模私立総合大学の教育改革事例(教育マネジメントの組織・メカニズム(PDCA)等の現状と課題について整理)学生が約35,000人
  • 大綱的指針
    • 立命館憲章
    • R2020後半期計画(7つの基本目標)「学びのコミュニティ」の形成
  • 第3期認証評価の受審(2018年度)の準備(学習成果、内部質保証)
  • 教育改革に関与する諸機関と実行プロセス
    • 包括的な視点の重要性
    • 内部質保証へのまなざし
    • 立命館大学「内部質保証システム体系図」
      • 3つの階層(大学全体・プログラム・授業)でPDCAを回す
      • カリキュラムマップ、ナンバリングなどのツールの活用
      • メカニズムとしての体制は整ったが、実質化させるのがこれから。
    • 基本的課題に照らした学びの実態の可視化
      • 外国語運用能力が学年進行で下がっていく。カリキュラムに原因を求め、1〜2年時のみであった外国語科目を3〜4年次でも開講するように変更。
      • 学修成果を年次進行で把握できるシステムの存在
      • 間接指標のみではなく、直接指標の開発が喫緊の課題
      • 学部・研究科のカリキュラム改革のタイミングのずれ(ほぼ毎年どこかの学部でカリキュラム改革している。加えて改組・新設等でカリキュラム改革に一定の制約がある)
  • 複雑系組織としての大学のガバナンス・マネジメント、リーダーシップ等を包括的に捉えるための視点
    • 各部局で作成した体系図を持ってきたが、各部署で作成してきた資料には異なりが生じた。体制を整備し、全学的に合意しても落とし込む所まではさらに意識のすり合わせが必要と思われる。
    • 大学において権限の集中化だけで問題は解決しない。シェアドガバナンスを前提としながら、個々の組織の暴走を防ぐ手だての工面・方策の検討。

立命館大学の教学マネジメント事例の紹介でしたが、「内部質保証システム体系図」が印象的でした。学生数が35,000人を超え、大規模大学として教学マネジメントにも様々なご苦労があると思うのですが、内部質保証のエスカレーションルールがA4一枚で分かりやすく整理されていたのが印象的です。こうした体系図の作成に関しても、職員が初期段階から参画しているとのことでしたので、内部質保証に関しても職員力の高さが影響しているのかなと思いました。

地方小規模大学における学生募集政策と出口を切り口に-教育改革の手順を中心に-(尚絅学院大学 黄梅英 氏)

  • 大学改革の成功に資する組織内の要因
    • 意思決定のスタイル
    • 課題に対する認識の共有
      • トップダウンにしてもボトムアップにしても、課題認識の共有を工夫する事が重要(自学の問題点、改革の必要性、他大学の先進的事例)
      • 取り組みの実態を随時報告し、新しい取り組みの効果を検証する事も欠かさない(教職員の継続的な協力が不可欠)
      • 学生の自己評価によるSPレーダー(レーダーチャートを用いた学生評価)

尚絅学院大学の取り組みについては、あまりメモできなかったのですが、小規模大学としての取り組み事例として色々思う所がありました。私自身、前職は小規模大学勤務でしたので。その意味では非常によくやられているのではないかと思う反面、小規模大学であるが故に新しい課題にチャレンジし続けないと他大学との間での競争優位が担保できないと言う点は、どこでも共通する問題なのだなと感じた所です。この点については、大阪経済大学の清水一先生が過去に論じた論考からも読み取れます。*9

指定討論(まとめと論点整理)(東京大学 両角亜希子 氏)

  • 支援センターの役割
    • 大学改革を担う組織の取り組み(従来のFD+IR機能+提案機能?)
    • 既存の組織ではできない業務を担うのか。
  • 教学IRの役割
    • 教学IRを各大学でどのように活用しているか。どのような教育改善・効果憲章等に活用されているのか。また、活用を目的として調査設計などが行われているのか。
  • リーダーシップのスタイル
    • 大学特性の影響、個人特性の影響、行う改革の特徴(既存組織へのインパクトの大きさ等、権限の違い)
    • リーダーシップのスタイル(ビジョンを示す⇄具体策も示す)
  • 教学ガバナンス・マネジメント・リーダーシップ
    • 各所・各層でのリーダーシップの重要性
      • 政策では学長リーダーシップに焦点
      • 実態はどうなのか
        • 学長の権限は学長のリーダーシップ発揮に影響を与えているのか
        • 組織特徴の違いがどのようにマネジメントに影響するのか
  • 教育改革政策の効果
    • 学校教育法の改正は教育マネジメントに影響を与えたか
      • 改革推進のための補助金の効果は?
      • 教育改革ツールの有効性は?(ルーブリック、ナンバリングなど)
  • 教教分離が教育改革に与える効果
    • 大きな制度改革が与えた影響は何か。教員人事制度の改革の効果は?
  • フロアとの質疑応答
  • 中長期計画などの策定には初期から職員が入っている(鳥居先生)
    • 大学評価室は学部の教員と寄り添って問題解決を図っていく。教学に関するリーダーシップは最終的に学長が責任は持つが、教学委員会で各学部の副学部長が出席しており、ミドルレベルのリーダーシップとして権限委譲されている。ポリセントリズム(中心となる組織は複数あるほうがよいという考え方。多中心主義)の議論。高等教育機関はニッチを探しながら競争優位を構築しようとしている。課題課題に即して現場で即座に判断することが望ましいように変わってくるならば、IRのあり様が変わる。しかしながら、これまでの日本ではIRがなかったのではなく、包括的な取りまとめができていなかったことがある。しかし、分散型に移行するためには一度は包括するというモデルを経ないとうまくいかないのではないかと感じる。
      • 日本の大学は学部・学科を基本とした組織でリーダーシップを発揮してきたが、これでは硬直的なので、、、分散してきた(羽田)
      • 教教分離というオルタナティブはあるのか。立命館ではその選択肢は恐らく無い。学部長なども任期が終われば普通の教員に戻る。組合が強い。今後さらに学部が二つ程度増える予定なので、それをどうマネージしていくか。教務部長というポストがあるが、これは非常に責任が重く大変。「内部質保証システム体系図」のひな形は大学基準協会が作成しており、このスキームに入れ込むとなると複雑になってしまう。(鳥居)
  • 職員の関わり方(黄先生)
    • 教務部長、教務課長などSDの強化に取り組んでいる。学長からも強く言われている。尚絅学院大学ではIRの実質化はこれからだが、次年度の予算計画などの策定に関して職員が関与している。
    • 2014年に将来構想プロジェクトを立ち上げた事自体、学長の意思である。ただし、学長が発案するのではなく、ボトムアップでの発案を取り入れるスタイルのリーダーシップを発揮。「生き残るための危機感」
  • 金沢大学の事例
    • 教職協働も行われているが、学内の意見提案としてはパブリックコメント制度の活用などを行っている。
    • 学長集中型のリーダーシップ。理事にも分権されているのだが、学長が決定をひっくり返すこともあるので、その点ではガバナンス上の問題点もあるように思われる。
  • まとめ
    • 評価と統制の問題。外部からの指標が与えられる場合、一致しない場合が多いのでチェックの機能すら働かなくなる。大きな組織で分割されたものをどう統合していくのか。取引コストの低減をどのようにするか。分権化しながらどのようにしてマネジメントしていくのか。
    • 立命館のケースだと、ミドルリーダーシップの権限を強化していくことはひとつのトレンド。質保証は外部性なので、内部を見て顕在化させると教員の授業方法などを画一化していくことになる。内部統制=内部質保証ではない。言葉だけに踊らされないように注意が必要。

内部質保証についての議論なども興味深かったのですが、職員がどのようにして参画していくのかという点について、立命館大学の例は示唆的だと思いました。しかし、これは今に始まった事ではなく、大学経営に職員が直接的に参画している大学の場合、内部質保証にしろ何にしろ、好循環が生まれているように思います。これは大学における教員と職員の関係性によるのだと思いますが、大学組織を永続的に運営していくのは職員組織であって、教員組織ではありません。教員は異動する事が頻繁にありますし、当該大学における教育の質を担保するためにも教員をどう動かすかを職員が真剣に考えている大学がうまくいっているという事なのだと思います。
日本高等教育学会には初めて参加したのですが、研究重視の議論が多く、質疑でも厳しい意見が飛ぶなど個人的には色々な発見がありました。SDにおける教職協働が重要であるとの大学設置基準改正がなされましたが、*10こうした学会に参加する事で教員集団が何を重視し、その中で高等教育をどのように考えているのかを知れることは大切だと思います。大学は教員だけ職員だけで動かせるものではないため、教員文化を知るためにも学会に参加する事は有意義だと思った次第です。