2024-12

2022・1・30(日)METライブビューイング第2日
テレンス・ブランチャード:「Fire Shut Up in My Bones」

      東劇  午前10時

 アメナリーフ、カロナール、ムコスタ、セレコックス、セルベックス、リリカなど、聞き慣れない名前の薬を信頼する皮膚科の先生からもらって呑み、どうやら少し痛みが薄らいだものの、せっかく今週半ばに予約が取れていた「コロナ・ワクチン第3回」の接種は先送りを指示されているとあっては、そもそも帯状疱疹に見舞われるほど体力が低下しているわが身を考えれば、些か自信を失うというもの。

 なにしろこの1週間、トッパンホールのシューベルトや、METライブビューイングの第1作「ボリス・ゴドゥノフ」、井上道義指揮読響のシベリウスとマーラー、藤原オペラの「トロヴァトーレ」など、楽しみにしていたコンサートやオペラや映画を、片っ端から痛恨の欠席連絡をせざるを得ない状況だったのだ。
 とはいえ、引っ込んでばかりもいられないので、今日は敢えて「METライブビューイング」の第2作を取材しに行くことにした。交通には自分のクルマを使うし、日曜の朝なら映画館も空いているだろうと目論んで、わざとこの早朝上映を選んだ次第。

 「Fire Shut Up in My Bones」という題名は旧約聖書から採ったものだそうだが、私はキリスト教徒ではないので、そのあたりは詳しくない。
 とにかくこれは、METの今シーズンの開幕日(昨年9月27日)を飾った新作で、10月23日までに8回上演されていた。このビューイング上映の映像はその最終日のものである。

 作曲は黒人のブランチャード、登場人物も全員黒人という舞台。人種問題がひときわ過熱しているアメリカで、大メトロポリタン・オペラが開幕日にこのようなオペラを取り上げたということは、大きな意味を持つと考えられるかもしれない。
 物語の内容は、幼年時代に従兄から受けた性的被害をトラウマに持つ青年チャールズ(ウィル・リバーマン)の精神的苦悩や、彼に温かい愛を注ぐ母親グレタ(エンジェル・ブルー)を核としたもので、特に黒人問題を云々しているわけではない。
 だが、観ていて何とも強烈なインパクトを与えられるドラマであったことは疑いなく、まさにアメリカでなければ創れぬようなオペラであったことも確かである。

 ジェイムズ・ロビンソンとカミール・A・ブラウン演出による舞台も豪壮かつ細密で、歌手やダンサーを含めた黒人特有の凄まじいエネルギーを噴出させるが、この舞台で一番凄いのはそれだろう。黒人たちのステップダンスの迫力たるや、「ウェストサイド・ストーリー」のダンス・シーンをさえ、顔色なからしめるかもしれない。
 登場人物の中では、チャールズの幼年時代を歌い演じたウォルター・ラッセル3世という少年が驚異的な巧さで、最後のカーテンコールでは観客から爆発的な歓声と拍手を浴び、嬉しさに涙ぐんでいた姿も印象的であった。

 音楽もなかなかいい。クラシック音楽(前衛的なものではない)とジャズと、時にはゴスペルまでが、実に自然に融合し、交錯している。ドラムとベースに乗せて歌が進んで行く個所など、見事なものであった。
 指揮しているヤニック・ネゼ=セガン(MET音楽監督)までがこの日はド派手なコスチュームで、自らもノリにノッていると語り、鮮やかな演奏を繰り広げていた。とにかく、大変なオペラが出現したものである。

 満員の観客たち(もちろん、METのことである)は全員(であろう)マスク着用。拍手、歓声、熱狂は凄まじい。METは強力であり不滅である、という印象をこれほど強く受けたことはなかった。
 上映時間は総計3時間半。2月3日まで上映。

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