2021・11・19(金)みちのくオーケストラ巡礼記第2日 仙台フィル
日立システムズホール仙台・コンサートホール 7時
札幌からJRの急行「北斗」と新幹線の「はやぶさ」とを乗り継ぎ、前者は約3時間半、後者は約2時間40分、待ち時間を含め総計7時間(!)をかけて仙台に到着。それでも現在のところ、これが地上便としては最も速い移動手段のようだ。
時間のかかる鉄道をわざわざ選んだのは、車窓から道南と本州北端の自然美を鑑賞したかったがゆえである。このコースは今年夏にも一度体験しているが、あの時は北海道の「緑」の量感の美に圧倒され、感動したものだった。今回は、すでに冬景色に入った寂しい雨模様の道南と本州北端の旅である。これはこれで不思議な郷愁をそそる。
長い長い青函トンネルを抜けて本州の大地に浮かび上がった瞬間、ある札幌の知人が「北海道と青森では樹の形態が違う」と言っていたことを思い出した。なるほど、そうなのかもしれない、と窓外の景色を見ながら考える。だがそれにしても、この曇り空の下の北の光景の、何という静寂、森閑とした無人の畑と林、凄まじい寂寥感。これは東海道新幹線や山陽新幹線はもちろん、他の新幹線からも絶対見られない光景だろう。日本も広いものだ、と改めて感動する。
さて、肝心の音楽のほう。今日聴いたのは、1973年創立の仙台フィルハーモニー管弦楽団である。常任指揮者は飯守泰次郎だが、彼は2023年3月を以って退任し、そのあとは現レジデント・コンダクターの高関健がポストを引き継ぐことが発表されている。
ただし今日の定期の指揮者は、客演の鈴木雅明だ。プログラムはメンデルスゾーンの「夏の夜の夢」序曲、モーツァルトの「ヴァイオリン協奏曲第3番」(ソリストは北田千尋)、ベートーヴェンの「英雄交響曲」というもの。
最近の鈴木雅明の尖った刺激的なアプローチの指揮と、それに仙台フィルがどのように反応するかが興味津々だったため、これを選んで聴きに来たのだった。コンサートマスターは西本幸弘。
予想通り、最初の「夏の夜の夢」序曲からして、通常の演奏とは一味も二味も違う。夢幻的な妖精の舞というよりは、氷の世界を強面の妖精が荒々しく飛び回るといった雰囲気の音楽か。最強奏の個所など、びっくりするような鋭い攻撃的な音になる。
とはいえ、⒓型編成で対抗配置されたノン・ヴィブラート奏法による弦の尖った躍動が、両翼の空間に弱音で軽く拡がって行くさまは、やはり形容し難い幻想的な響きには違いない。このホールのアコースティックは、こういう編成のオケの、こういう響きにどうやら合うらしい。
なおティンパニは、まるで板を叩くようなおそろしく硬い音だが、聞くところによると、さる往年の有名人が所持していた、かなり由緒のある年代物なのだそうな。
一方、モーツァルトのコンチェルトにオーケストラの音は、鈴木雅明のスタイルの中でも最も抵抗なく共感を以って受け入れられる類のものだろう。北田千尋の明るく率直なソロとの組合せは、今日の3曲の中では最も心穏やかに聴ける演奏であった。彼女がアンコールとして、ヴィオラ首席の井野邉大輔と演奏した二重奏曲(アレッサンドロ・ロッラの「ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲」第3番第3楽章の編曲版)も爽やかで美しい。
鈴木雅明の指揮する「英雄交響曲」は、以前にも新日本フィルとの演奏で聴いたことがあった(→2021年7月9日)。
第1楽章はまさにスコアに指定されている通りの「アレグロ・コン・ブリオ」そのものの演奏である。たたかうベートーヴェン、といった趣だろう。ここでも弦楽器群の細かい粒立った動きが両翼に、空間性豊かに拡がる。対抗配置のヴァイオリン群は、見事にその効果を発揮していた。
第2楽章、ミノーレに戻ったあとのホルンの雄大なモティーフは、スコアでは1本で吹くことになっているが、今日はアシスタントを入れた4人で一斉に吹かせていたものらしく、壮大な挽歌となって響いていた。
ティンパニの硬い音は前述のとおり個性的だったが、たった1ヵ所、第2楽章終り近く、ティンパニだけが最弱音で一つの音を叩く個所だけは、その音質の点から言って、何とも締まりのない音になってしまっていた。
第4楽章冒頭の主題提示の個所は、以前の新日本フィルとの演奏と同様、実に個性的で、鈴木雅明のアイディアの本領発揮というところだろう。ここは面白い。
というわけで、仙台フィルも活気に燃え立つ演奏━━コン・ブリオの演奏を聴かせてくれたわけだが、気になったのは、快速テンポによるノン・ヴィブラートの弦のアンサンブルが何故かしばしば合わなくなる(少なくともそのように聞こえてしまう)こと。
これが第1楽章をはじめ、快速楽章で度々起こるのには微苦笑させられたが、しかし不思議なことに、それがまた演奏の響きに膨らみと拡がりのイメージを持たせていたのだから面白い。多分、明日の演奏(2日目の公演)では、もう少し異なった演奏になるかもしれない。
久しぶりに訪れた日立システムズホールは、ホワイエもレストランも付属のホールも、改装を経て見違えるほど綺麗になっていた。オケの事務局の某氏によると、「一番綺麗になったのはトイレですよ」とのこと。見に行ってみると、なるほど、おっしゃる通り。
札幌からJRの急行「北斗」と新幹線の「はやぶさ」とを乗り継ぎ、前者は約3時間半、後者は約2時間40分、待ち時間を含め総計7時間(!)をかけて仙台に到着。それでも現在のところ、これが地上便としては最も速い移動手段のようだ。
時間のかかる鉄道をわざわざ選んだのは、車窓から道南と本州北端の自然美を鑑賞したかったがゆえである。このコースは今年夏にも一度体験しているが、あの時は北海道の「緑」の量感の美に圧倒され、感動したものだった。今回は、すでに冬景色に入った寂しい雨模様の道南と本州北端の旅である。これはこれで不思議な郷愁をそそる。
長い長い青函トンネルを抜けて本州の大地に浮かび上がった瞬間、ある札幌の知人が「北海道と青森では樹の形態が違う」と言っていたことを思い出した。なるほど、そうなのかもしれない、と窓外の景色を見ながら考える。だがそれにしても、この曇り空の下の北の光景の、何という静寂、森閑とした無人の畑と林、凄まじい寂寥感。これは東海道新幹線や山陽新幹線はもちろん、他の新幹線からも絶対見られない光景だろう。日本も広いものだ、と改めて感動する。
さて、肝心の音楽のほう。今日聴いたのは、1973年創立の仙台フィルハーモニー管弦楽団である。常任指揮者は飯守泰次郎だが、彼は2023年3月を以って退任し、そのあとは現レジデント・コンダクターの高関健がポストを引き継ぐことが発表されている。
ただし今日の定期の指揮者は、客演の鈴木雅明だ。プログラムはメンデルスゾーンの「夏の夜の夢」序曲、モーツァルトの「ヴァイオリン協奏曲第3番」(ソリストは北田千尋)、ベートーヴェンの「英雄交響曲」というもの。
最近の鈴木雅明の尖った刺激的なアプローチの指揮と、それに仙台フィルがどのように反応するかが興味津々だったため、これを選んで聴きに来たのだった。コンサートマスターは西本幸弘。
予想通り、最初の「夏の夜の夢」序曲からして、通常の演奏とは一味も二味も違う。夢幻的な妖精の舞というよりは、氷の世界を強面の妖精が荒々しく飛び回るといった雰囲気の音楽か。最強奏の個所など、びっくりするような鋭い攻撃的な音になる。
とはいえ、⒓型編成で対抗配置されたノン・ヴィブラート奏法による弦の尖った躍動が、両翼の空間に弱音で軽く拡がって行くさまは、やはり形容し難い幻想的な響きには違いない。このホールのアコースティックは、こういう編成のオケの、こういう響きにどうやら合うらしい。
なおティンパニは、まるで板を叩くようなおそろしく硬い音だが、聞くところによると、さる往年の有名人が所持していた、かなり由緒のある年代物なのだそうな。
一方、モーツァルトのコンチェルトにオーケストラの音は、鈴木雅明のスタイルの中でも最も抵抗なく共感を以って受け入れられる類のものだろう。北田千尋の明るく率直なソロとの組合せは、今日の3曲の中では最も心穏やかに聴ける演奏であった。彼女がアンコールとして、ヴィオラ首席の井野邉大輔と演奏した二重奏曲(アレッサンドロ・ロッラの「ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲」第3番第3楽章の編曲版)も爽やかで美しい。
鈴木雅明の指揮する「英雄交響曲」は、以前にも新日本フィルとの演奏で聴いたことがあった(→2021年7月9日)。
第1楽章はまさにスコアに指定されている通りの「アレグロ・コン・ブリオ」そのものの演奏である。たたかうベートーヴェン、といった趣だろう。ここでも弦楽器群の細かい粒立った動きが両翼に、空間性豊かに拡がる。対抗配置のヴァイオリン群は、見事にその効果を発揮していた。
第2楽章、ミノーレに戻ったあとのホルンの雄大なモティーフは、スコアでは1本で吹くことになっているが、今日はアシスタントを入れた4人で一斉に吹かせていたものらしく、壮大な挽歌となって響いていた。
ティンパニの硬い音は前述のとおり個性的だったが、たった1ヵ所、第2楽章終り近く、ティンパニだけが最弱音で一つの音を叩く個所だけは、その音質の点から言って、何とも締まりのない音になってしまっていた。
第4楽章冒頭の主題提示の個所は、以前の新日本フィルとの演奏と同様、実に個性的で、鈴木雅明のアイディアの本領発揮というところだろう。ここは面白い。
というわけで、仙台フィルも活気に燃え立つ演奏━━コン・ブリオの演奏を聴かせてくれたわけだが、気になったのは、快速テンポによるノン・ヴィブラートの弦のアンサンブルが何故かしばしば合わなくなる(少なくともそのように聞こえてしまう)こと。
これが第1楽章をはじめ、快速楽章で度々起こるのには微苦笑させられたが、しかし不思議なことに、それがまた演奏の響きに膨らみと拡がりのイメージを持たせていたのだから面白い。多分、明日の演奏(2日目の公演)では、もう少し異なった演奏になるかもしれない。
久しぶりに訪れた日立システムズホールは、ホワイエもレストランも付属のホールも、改装を経て見違えるほど綺麗になっていた。オケの事務局の某氏によると、「一番綺麗になったのはトイレですよ」とのこと。見に行ってみると、なるほど、おっしゃる通り。
コメント
ヴィオラの井野邉さん
仙台フィルさんの首席ヴィオラ奏者、井野邉大輔さんは、大阪フィルさんの特別契約首席奏者でもあります。室内楽を拝聴したことがありますが、素晴らしい演奏で癒されました!これからのご活躍を期待しています!
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