2024-12

2016・4・6(水)新国立劇場 マスネ「ウェルテル」

     新国立劇場オペラパレス  2時

 ニコラ・ジョエル演出による新制作プロダクション。新国立劇場としては14年ぶりの「ウェルテル」になる。
 前回(2002年)の平凡なファッシーニ演出と異なり、今回はエマニュエル・ファーヴルによる品のいい、がっちりした舞台美術とともに、緻密に構築された舞台がつくられていた。

 ただし、今回のこれも、ト書きの演技と設定に几帳面に従った、極めてまっとうな演出である。例えばウェルテル━━シャルロット━━アルベールの三角関係を、殊更に強烈に描き出したりするものでは、ない。また、第3幕の幕切れでシャルロットとアルベールの夫妻がウェルテルの自殺を予想して諍いを起す(モネ劇場でのヨーステン演出)といったような、スリリングな設定もない。

 つまり今回のジョエル演出は、ウェルテルを情熱的で前後の見境もない青年として、シャルロットを控えめで受け身的な女性として、アルベールを表面上はあくまで冷静な夫として、それぞれ過不足ない範囲で描き出すことで完結したドラマ、といえるだろうか。
 それはそれで一つの演出手法であることは確かだ。ただ、このオペラをすでに何度か見た者からすれば、さほど新しい発見のない、刺激のない舞台に感じられてしまうのも事実である。

 指揮は、当初予定されていたミシェル・プラッソンが怪我とかで来られず、子息のエマニュエル・プラッソンが登場した。
 この指揮者、東京フィルの弦からいつもとは全然違う濃厚な色合いの音を引き出し、かつ重量感のある響きをつくり出していて、マスネの音楽を再現する点では、なかなか結構な手腕を発揮していたようである。最弱音の個所で演奏の緊張がやや薄らいでしまうという傾向もなくはなかったけれども・・・・。
 東京フィルも今日はホルンがしっかしりしていたし、まずはこれなら・・・・というところ。

 タイトルロールも当初の予定から変更になった。マルチェロ・ジョルダーニも交通事故に遭ったとか。代わりにディミトリー・コルチャックが来日して歌った。一本気で自己抑制力のない(?)ウェルテル像ともいうような、力と伸びのある声で歌い、各幕のクライマックスではいずれもダイナミックな歌唱力を披露していた。
 シャルロット役はエレーナ・マクシモワで、強音での声が鋭いのと、弱音の個所では言葉がはっきりしなくなるのが玉に瑕というところだろう。

 アルベール役のアドリアン・エレートは、今回はえらく治まりかえって落ち着いた演技と歌唱。
 なおソフィー役には砂川涼子が出演し、外国勢3人に負けじとばかり、少し力み返ってムキになったような演技ではあったものの、軽やかな声で映えていた。
 敢えて主役の皆さんに異議を唱えるなら、どちら様も歌っている言葉があまりフランス語に聞こえなかった・・・・という点か。

 ちなみに、14年前の2月の新国立劇場での「ウェルテル」では、ジュゼッペ・サッバティーニ(ウェルテル)、アンナ・カテリーナ・アントナッチ(シャルロット)、ナターレ・デ・カロリス(アルベール)という布陣だったが、ソフィーを歌っていたのは新国デビューの「注目の若手」中嶋彰子だった。当時の日記を繰ってみると、「声は柔らかく美しく、何か非常に大きな拡がりを感じさせ、期待充分な人である」と。

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