2024-12

2015・12・13(日)ミュンヘン日記(終)ワーグナー「神々の黄昏」

      バイエルン州立歌劇場  4時

 2012年にプレミエされたアンドレアス・クリーゲンブルク演出のプロダクション、同年7月15日に観た舞台とほとんど同じ舞台だ。
 序幕の「ノルンの場」は、東日本大震災の映像を含む原発災害の避難民と除染の場面となり、全曲大詰め場面も原発事故を連想させる光景の修羅場となるあたりは、われわれ日本人には気が重くなる設定の演出である。

 もちろん、全部が全部こういう調子でドラマが展開するわけではない。2012年7月15日の項で概要はメモしてあるので、ここでは省略するが、前回と変わったところと言えば、第3幕冒頭で寝ている大勢の人間のうち、大部分が退場せずにそのまま残って、ギビフングの郎党━━ここでは大会社の社員たち━━に早変わりするあたりか。それと今回は、人力で行う場面転換の作業が、少し騒々しく、乱暴になった。

 だが主役歌手陣は、ヴァルトラウテのミヒャエラ・シュスター以外は、プレミエ時と比べ、全部入れ替わっている。
 今回はジークフリートがランス・ライアン、ブリュンヒルデがペトラ・ラング、グンターがマルクス・アイヒェ、ハーゲンがハンス=ペーター・ケーニヒ、アルベリヒがクリストファー・パーヴェス、グートルーネがアンナ・ガブラー・・・・という顔ぶれだ。
 なお「ラインの乙女」の一人ヴォークリンデ役は、前回同様に中村恵理が歌っていた。

 重厚で落ち着いたハーゲン、どうしようもない遊び人のグンター、蓮っ葉なグートルーネなど、歌唱面でも演技面でも、みんなそれぞれ役柄を巧くこなして、流石のものがある。ただランス・ライアンだけは、声も馬力も人並み以上のものはあるのだが、どうもあの声の乱暴な(?)出し方にはなじめない。

 音楽面での最も大きな違いは、指揮者キリル・ペトレンコにあるだろう。テンポは素晴らしく生き生きして速く、リズムも歯切れよい。序幕と第1幕が115分、第2幕が67分、第3幕が73分━━と、プレミエの時に指揮していたケント・ナガノに比べると、小気味よいほどのテンポの速さである。40分程度の休憩2回を含め、9時43分には演奏が終了した。

 テンポが速ければいいというものではないのはもちろんだが、ペトレンコの場合、音楽に寸分の緩みもなく、緊張感は常に保たれ、昂揚と鎮静の劇的な起伏感も申し分がないという特徴がある。2年前にバイロイトで聴いた時のような緻密さや柔らかい豊麗さ、楽器のバランスの精妙さなどには欠けるけれども、これはオーケストラが異なるし、ルーティン公演ということもあるから、仕方あるまい。今回聴いた席はバルコン(2階)正面最前列だったが、もし1階平土間前方で聴いたなら、多分もっと柔らかく豊麗な響きで愉しめたろうと思われる。
 カーテンコールでのペトレンコへの拍手と歓声は、どの歌手に対してのそれよりも大きく、熱狂的なものがあった。今や寵児といった感だ。

 このたった3つで、今回のミュンヘン滞在は終り。明日午後のLH714で帰国する。

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