2015・12・1(火)第9回浜松国際ピアノコンクール 第3次予選初日
アクトシティ浜松中ホール 午後0時30分
1991年以来、3年ごとに開催されているこのコンクール。過去にはアレクサンダー・ガブリリュク、ラファウ・ブレハッチ、チョ・ソンジンらを優勝者として輩出した、実績のあるコンクールである。
審査委員長は前回に続き海老彰子。審査委員はマルタ・アルゲリッチ、アンヌ・ケフェレックら計10人。
この第3次予選には12人が残り、内訳はロシア4人、他には、日本、米国、中国、韓国、イタリア、ルーマニア、ウクライナ、ギリシャ/ベネズエラが各1人、となっている。それにしても、残った日本人がたった1人とは、残念なこと。
今日は、6人が演奏した。1人あたりの持ち時間は、予定では70分だが、5分ほどオーバーする人もいる。それぞれのあとに、15分ずつの休憩がある(夜は1時間ちょっとの休憩時間がある)。夜の9時40分まで、延べ9時間にわたってコンサートを6つ聴くようなものだ。「ラ・フォル・ジュルネ」といえども、これほど濃密なスケジュールではない。審査委員ならずとも、かなり体力と精神力を消耗する。
審査委員とわれわれ取材関係は2階席に陣取る。1階席は一般のお客さんのためのものだ。いつものように熱心な聴衆で席が埋め尽くされるので、主催の浜松市と浜松市文化振興財団も満足だろう。
出場者が演奏するのは、モーツァルトの「ピアノ四重奏曲」の第1番もしくは第2番と、ソロ作品数曲ずつである。
室内楽では、豊嶋泰嗣、磯村和英、上村昇、漆原啓子、鈴木康浩、向山佳絵子という名手たちがトリオを組み、交替でソリストと協演するのだが、彼らの演奏が実に見事な上に、ホールの音響効果がいいので、それに釣られてコンペティターたちの演奏がみんな良く聞こえるという効果も生んでいるようだ(したがって以下の日記ではこの曲での演奏については省略する)。
とにかく、今日の出場者6人の水準の高さには感心する。技術的にも見事だし(それを誇示し過ぎるという面もなくはないが)音楽も立派なのである。
最初に登場したアレクセイ・メリニコフ(エントリーナンバー45、ロシア 25歳)は、ロシア人の強みとでもいうか、特にプロコフィエフの「ソナタ第6番」で、自信満々のソロを聴かせた(使用ピアノはカワイ)。
続くダニエル・シュー(17、アメリカ 18歳)は、シューベルトの「即興曲作品142-1」を弾き始めた時の、音楽が突然ぱっと拡がって行くような素晴らしさにまず惹きつけられる。「展覧会の絵」も明晰、くっきりと隈取りされた音色が爽やかだ(ピアノはスタインウェイ)。
3番目のシェン・ルウ(68、中国 30歳)も、演奏はこの上なく鮮やかである。特にスクリャービンの「ソナタ第4番」やラフマニノフの「絵画的練習曲集 作品31」での幻想味が素晴らしかったが・・・・ただしプログラムは少し長すぎた(ピアノはカワイ)。
そして次がわが日本の三浦謙司(48、22歳)である。
居並ぶ外国人たちの中で聴くと、どんなに激しい熱演を聴かせても、どこかに、いかにも日本人といった節度を感じさせるのが国民性というものだろう。バッハ~ブゾーニの「シャコンヌ」は力強いながら清澄な感性を持った演奏であり、ラフマニノフの前奏曲(3曲)および「ペトルーシュカからの3つの断章」は、いずれも大熱演で鮮やかな弾きっぷりだ。
とはいえ、もう少し音に深みと重みと色彩感といったようなものが欲しくなる。正確そのものだが、色が薄いのである(カワイ)。
ここで夕食タイムということで1時間強の休憩。予定では75分だが、時間が押していて休憩時間も短くなってしまうのは、持ち時間を少し超過する出場者がいるのと(前回ほどはいない)、審査員たちがお喋りしていて、開始時間になってもなかなか席に着かないからでもある。
そのあとに、アレクサンデル・ガジェヴ(15、イタリア/スロべニア 20歳)が弾く。ベートーヴェンの「ソナタ第7番」があまり面白くなくて退屈させられたが、最後の「ペトルーシュカからの3つの断章」になると、これはまあ、何と闊達で派手で、音楽の動きが大きく、カラフルな演奏を聴かせることか。自ら思い切り愉しみ、お客も楽しませるといった雰囲気が横溢しているのである。さっきの三浦と比べてどうこうという意味ではないが、これがすなわち国民性というものだろう(カワイ)。
本日のトリは、アレクシーア・ムーサ(50、ギリシャ/ベネズエラ 26歳)。本日登場の唯一の女性で、綺麗な、明るい音だ。室内楽では、今日の6人の中で、この人のピアノがいちばん音がよく透ってはっきりと出ていたようである。
ソロ曲では、ショパンの「前奏曲集」全曲を弾いた。叙情的な良さはあるものの、全24曲の流れの中での起伏感と緊迫度などにはちょっと不足していたのではないか(ヤマハ)。今日の6人の中で、ちょっと引けを取った感があったのは、このムーサかもしれない。
夜9時40分頃、全ての演奏が終る。ともあれ、みんな頑張って、よく弾いている若者たちである。どれもいい、と言いたくなる。
だがその一方、突出した個性はというと、どうか? どこの大コンクールでも、たいてい、これは図抜けている、とか、優勝はこれじゃないか、とか、下馬評の集中する存在が1人か2人はいるものだが、今年は、ここまでのところ、未だそういう出場者にはお目にかかれないのである。それゆえ、正直言って、私には全く予想がつかないのが、初日の印象であった。
1991年以来、3年ごとに開催されているこのコンクール。過去にはアレクサンダー・ガブリリュク、ラファウ・ブレハッチ、チョ・ソンジンらを優勝者として輩出した、実績のあるコンクールである。
審査委員長は前回に続き海老彰子。審査委員はマルタ・アルゲリッチ、アンヌ・ケフェレックら計10人。
この第3次予選には12人が残り、内訳はロシア4人、他には、日本、米国、中国、韓国、イタリア、ルーマニア、ウクライナ、ギリシャ/ベネズエラが各1人、となっている。それにしても、残った日本人がたった1人とは、残念なこと。
今日は、6人が演奏した。1人あたりの持ち時間は、予定では70分だが、5分ほどオーバーする人もいる。それぞれのあとに、15分ずつの休憩がある(夜は1時間ちょっとの休憩時間がある)。夜の9時40分まで、延べ9時間にわたってコンサートを6つ聴くようなものだ。「ラ・フォル・ジュルネ」といえども、これほど濃密なスケジュールではない。審査委員ならずとも、かなり体力と精神力を消耗する。
審査委員とわれわれ取材関係は2階席に陣取る。1階席は一般のお客さんのためのものだ。いつものように熱心な聴衆で席が埋め尽くされるので、主催の浜松市と浜松市文化振興財団も満足だろう。
出場者が演奏するのは、モーツァルトの「ピアノ四重奏曲」の第1番もしくは第2番と、ソロ作品数曲ずつである。
室内楽では、豊嶋泰嗣、磯村和英、上村昇、漆原啓子、鈴木康浩、向山佳絵子という名手たちがトリオを組み、交替でソリストと協演するのだが、彼らの演奏が実に見事な上に、ホールの音響効果がいいので、それに釣られてコンペティターたちの演奏がみんな良く聞こえるという効果も生んでいるようだ(したがって以下の日記ではこの曲での演奏については省略する)。
とにかく、今日の出場者6人の水準の高さには感心する。技術的にも見事だし(それを誇示し過ぎるという面もなくはないが)音楽も立派なのである。
最初に登場したアレクセイ・メリニコフ(エントリーナンバー45、ロシア 25歳)は、ロシア人の強みとでもいうか、特にプロコフィエフの「ソナタ第6番」で、自信満々のソロを聴かせた(使用ピアノはカワイ)。
続くダニエル・シュー(17、アメリカ 18歳)は、シューベルトの「即興曲作品142-1」を弾き始めた時の、音楽が突然ぱっと拡がって行くような素晴らしさにまず惹きつけられる。「展覧会の絵」も明晰、くっきりと隈取りされた音色が爽やかだ(ピアノはスタインウェイ)。
3番目のシェン・ルウ(68、中国 30歳)も、演奏はこの上なく鮮やかである。特にスクリャービンの「ソナタ第4番」やラフマニノフの「絵画的練習曲集 作品31」での幻想味が素晴らしかったが・・・・ただしプログラムは少し長すぎた(ピアノはカワイ)。
そして次がわが日本の三浦謙司(48、22歳)である。
居並ぶ外国人たちの中で聴くと、どんなに激しい熱演を聴かせても、どこかに、いかにも日本人といった節度を感じさせるのが国民性というものだろう。バッハ~ブゾーニの「シャコンヌ」は力強いながら清澄な感性を持った演奏であり、ラフマニノフの前奏曲(3曲)および「ペトルーシュカからの3つの断章」は、いずれも大熱演で鮮やかな弾きっぷりだ。
とはいえ、もう少し音に深みと重みと色彩感といったようなものが欲しくなる。正確そのものだが、色が薄いのである(カワイ)。
ここで夕食タイムということで1時間強の休憩。予定では75分だが、時間が押していて休憩時間も短くなってしまうのは、持ち時間を少し超過する出場者がいるのと(前回ほどはいない)、審査員たちがお喋りしていて、開始時間になってもなかなか席に着かないからでもある。
そのあとに、アレクサンデル・ガジェヴ(15、イタリア/スロべニア 20歳)が弾く。ベートーヴェンの「ソナタ第7番」があまり面白くなくて退屈させられたが、最後の「ペトルーシュカからの3つの断章」になると、これはまあ、何と闊達で派手で、音楽の動きが大きく、カラフルな演奏を聴かせることか。自ら思い切り愉しみ、お客も楽しませるといった雰囲気が横溢しているのである。さっきの三浦と比べてどうこうという意味ではないが、これがすなわち国民性というものだろう(カワイ)。
本日のトリは、アレクシーア・ムーサ(50、ギリシャ/ベネズエラ 26歳)。本日登場の唯一の女性で、綺麗な、明るい音だ。室内楽では、今日の6人の中で、この人のピアノがいちばん音がよく透ってはっきりと出ていたようである。
ソロ曲では、ショパンの「前奏曲集」全曲を弾いた。叙情的な良さはあるものの、全24曲の流れの中での起伏感と緊迫度などにはちょっと不足していたのではないか(ヤマハ)。今日の6人の中で、ちょっと引けを取った感があったのは、このムーサかもしれない。
夜9時40分頃、全ての演奏が終る。ともあれ、みんな頑張って、よく弾いている若者たちである。どれもいい、と言いたくなる。
だがその一方、突出した個性はというと、どうか? どこの大コンクールでも、たいてい、これは図抜けている、とか、優勝はこれじゃないか、とか、下馬評の集中する存在が1人か2人はいるものだが、今年は、ここまでのところ、未だそういう出場者にはお目にかかれないのである。それゆえ、正直言って、私には全く予想がつかないのが、初日の印象であった。
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