2015・7・10(金)マックス・ポンマー指揮札幌交響楽団
札幌コンサートホールKitara 7時
札幌交響楽団が、尾高忠明の後任として、1936年ライプツィヒ生まれの指揮者マックス・ポンマーを首席指揮者に迎えている。
今日はその就任記念定期(2回公演)の初日で、シューマンの「交響曲第4番」とメンデルスゾーンの「交響曲第2番《讃歌》」が演奏された。協演は札響合唱団、安藤赴美子と針生美智子(ソプラノ)、櫻田亮(テノール)。今日のコンサートマスターは田島高宏。なお、声楽ソリスト3人はいずれも北海道出身だそうである。
シューマンの「4番」では、まるで昔の良き時代の東ドイツのオーケストラのような音が━━たとえば往年のスウィトナーとシュターツカペレ・ベルリンが響かせていたような、渋い、柔らかい、しっとりした音色が甦った。今はドイツのメジャー・オーケストラからも全く失われてしまった音である。
ただしドイツのオケなら、もう少しギザギザしたアクセントの強い音になるだろう。だが今日は、なだらかな、優しい音である。これは日本のオーケストラの個性が反映したものともいえようが、しかし、ポンマーの指揮そのものも、やはり穏健で、温厚なスタイルのように感じられる。
第4楽章冒頭のクレッシェンドにしても、ポンマーは、弦のトレモロを最初のうち抑制気味にして、管楽器の和音の方を主体にしつつ、柔らかく響かせて行く。そして、深淵から何か巨大なものがゆっくりと立ち上がって来るといったような物々しさは一切なく、比較的あっさりと流したまま主部に入る、という具合である。
老匠ポンマーの指揮から劇的なスリルを求めてはならない・・・・とは思うものの、聴いていると、もう少し音楽的に起伏があってもいいような気もして来る。
メンデルスゾーンの「讃歌」も、実に滋味豊かで、温かい演奏だ。この、何か労働歌みたいなフシの主題が中心モティーフになる交響曲を私はこれまであまり好きではなかったのだが、しかし今日ほど柔らかく穏やかな、ヒューマニズムをあふれさせた、かつ起承転結が明確に示された構築の演奏で聴いたのは、ライヴでは初めてのことである。これは、札響が極めて緻密に演奏してくれたおかげでもあるだろう。これほどふわりとして美しい、しかも陰影に富む音で鳴り響いた札響を聴いたことは、滅多にない。このオーケストラの多様な順応性を再認識させられた思いである。
合唱は、人数の割にはあまり音量が出ないのが残念。ソプラノ・パートは美しかったけれども、男声━━特にバスのパートにはもう少し量感が欲しいところだ。
ソリストでは、安藤がきれいな伸びのあるソプラノで映えた。櫻田は、あたかも受難曲のエヴァンゲリスト(福音史家)みたいな雰囲気の歌唱だったが、この曲の宗教性を浮き出させるのに一役買っていたといえようか。
今夜の演奏を聴く範囲では、新・首席指揮者ポンマーは、今後はドイツ・オーストリア系のレパートリーで、強みを発揮して行くことになるだろう。「旧き良き時代」の東独の名匠の味を、21世紀の札幌に甦らせてくれるだろう。
ただその一方、彼の、良く言えば落ち着いた、スリリングな要素の少ない、決して暴れることのない、酸いも甘いもかみ分けたようなおとなの音楽が、年輩の聴衆にはある種の懐かしさを以って聴かれるにしても、若い聴衆にどのように受け入れられて行くだろうか?
言うまでもなく、今日のオーケストラは、シェフひとりの色に染められることは、まず無い。だが、札響の今シーズンの定期の指揮者陣を見ると、あまりにも平均年齢が高く━━この79歳のポンマーをはじめ、名誉指揮者エリシュカが84歳、名誉音楽監督・尾高忠明が68歳、客演指揮者ではアシュケナージが78歳、ハインツ・ホリガーが76歳、マティアス・バーメルトが73歳で、57歳の広上淳一が最年少というわけであり・・・・。
こうなると、札響が重いオケになってしまわないかという気がしないでもないのである。
なお、この定期は、ポンマー就任記念であると同時に「ライプツィヒ1000年」を記念すると銘打たれていた。ポンマーの出身地だから、それにも因んだのかもしれない。だがライプツィヒでは、ちょうど同じ7月10日と11日の野外演奏会で、シャイーとゲヴァントハウス管弦楽団がこの「讃歌」を演奏しているという偶然さもあった。といって、この曲を選んだのはポンマーでなく、札響側だとのことである。シューマンの「4番」はポンマーの提案だそうだ。
さらに、これは今年のPMFの「プレ・コンサート」とも位置づけられていた。オケの定期が別の音楽祭に組み入れられることは普通ありえないことだが、PMFの初日が7月12日なので、PMFのホストシティオーケストラとして協力関係にある札響との相乗り・・・・ということになったらしい。詳しい経緯は、関係者に尋ねても、あまりはっきりしたことは判らない。客席にはPMF参加のアカデミー生も、何人か聴きに来ていた。
開演前のロビーコンサートではバッハの「ブランデンブルク協奏曲第4番」第1楽章が演奏されたが、ロビコンにしては豪華な選曲である。演奏もなかなかのものであった。
ノボテル札幌に宿泊。今は観光客が多く、市内のホテルはどこも取り難い。しかも高い。
☞別稿 北海道新聞
札幌交響楽団が、尾高忠明の後任として、1936年ライプツィヒ生まれの指揮者マックス・ポンマーを首席指揮者に迎えている。
今日はその就任記念定期(2回公演)の初日で、シューマンの「交響曲第4番」とメンデルスゾーンの「交響曲第2番《讃歌》」が演奏された。協演は札響合唱団、安藤赴美子と針生美智子(ソプラノ)、櫻田亮(テノール)。今日のコンサートマスターは田島高宏。なお、声楽ソリスト3人はいずれも北海道出身だそうである。
シューマンの「4番」では、まるで昔の良き時代の東ドイツのオーケストラのような音が━━たとえば往年のスウィトナーとシュターツカペレ・ベルリンが響かせていたような、渋い、柔らかい、しっとりした音色が甦った。今はドイツのメジャー・オーケストラからも全く失われてしまった音である。
ただしドイツのオケなら、もう少しギザギザしたアクセントの強い音になるだろう。だが今日は、なだらかな、優しい音である。これは日本のオーケストラの個性が反映したものともいえようが、しかし、ポンマーの指揮そのものも、やはり穏健で、温厚なスタイルのように感じられる。
第4楽章冒頭のクレッシェンドにしても、ポンマーは、弦のトレモロを最初のうち抑制気味にして、管楽器の和音の方を主体にしつつ、柔らかく響かせて行く。そして、深淵から何か巨大なものがゆっくりと立ち上がって来るといったような物々しさは一切なく、比較的あっさりと流したまま主部に入る、という具合である。
老匠ポンマーの指揮から劇的なスリルを求めてはならない・・・・とは思うものの、聴いていると、もう少し音楽的に起伏があってもいいような気もして来る。
メンデルスゾーンの「讃歌」も、実に滋味豊かで、温かい演奏だ。この、何か労働歌みたいなフシの主題が中心モティーフになる交響曲を私はこれまであまり好きではなかったのだが、しかし今日ほど柔らかく穏やかな、ヒューマニズムをあふれさせた、かつ起承転結が明確に示された構築の演奏で聴いたのは、ライヴでは初めてのことである。これは、札響が極めて緻密に演奏してくれたおかげでもあるだろう。これほどふわりとして美しい、しかも陰影に富む音で鳴り響いた札響を聴いたことは、滅多にない。このオーケストラの多様な順応性を再認識させられた思いである。
合唱は、人数の割にはあまり音量が出ないのが残念。ソプラノ・パートは美しかったけれども、男声━━特にバスのパートにはもう少し量感が欲しいところだ。
ソリストでは、安藤がきれいな伸びのあるソプラノで映えた。櫻田は、あたかも受難曲のエヴァンゲリスト(福音史家)みたいな雰囲気の歌唱だったが、この曲の宗教性を浮き出させるのに一役買っていたといえようか。
今夜の演奏を聴く範囲では、新・首席指揮者ポンマーは、今後はドイツ・オーストリア系のレパートリーで、強みを発揮して行くことになるだろう。「旧き良き時代」の東独の名匠の味を、21世紀の札幌に甦らせてくれるだろう。
ただその一方、彼の、良く言えば落ち着いた、スリリングな要素の少ない、決して暴れることのない、酸いも甘いもかみ分けたようなおとなの音楽が、年輩の聴衆にはある種の懐かしさを以って聴かれるにしても、若い聴衆にどのように受け入れられて行くだろうか?
言うまでもなく、今日のオーケストラは、シェフひとりの色に染められることは、まず無い。だが、札響の今シーズンの定期の指揮者陣を見ると、あまりにも平均年齢が高く━━この79歳のポンマーをはじめ、名誉指揮者エリシュカが84歳、名誉音楽監督・尾高忠明が68歳、客演指揮者ではアシュケナージが78歳、ハインツ・ホリガーが76歳、マティアス・バーメルトが73歳で、57歳の広上淳一が最年少というわけであり・・・・。
こうなると、札響が重いオケになってしまわないかという気がしないでもないのである。
なお、この定期は、ポンマー就任記念であると同時に「ライプツィヒ1000年」を記念すると銘打たれていた。ポンマーの出身地だから、それにも因んだのかもしれない。だがライプツィヒでは、ちょうど同じ7月10日と11日の野外演奏会で、シャイーとゲヴァントハウス管弦楽団がこの「讃歌」を演奏しているという偶然さもあった。といって、この曲を選んだのはポンマーでなく、札響側だとのことである。シューマンの「4番」はポンマーの提案だそうだ。
さらに、これは今年のPMFの「プレ・コンサート」とも位置づけられていた。オケの定期が別の音楽祭に組み入れられることは普通ありえないことだが、PMFの初日が7月12日なので、PMFのホストシティオーケストラとして協力関係にある札響との相乗り・・・・ということになったらしい。詳しい経緯は、関係者に尋ねても、あまりはっきりしたことは判らない。客席にはPMF参加のアカデミー生も、何人か聴きに来ていた。
開演前のロビーコンサートではバッハの「ブランデンブルク協奏曲第4番」第1楽章が演奏されたが、ロビコンにしては豪華な選曲である。演奏もなかなかのものであった。
ノボテル札幌に宿泊。今は観光客が多く、市内のホテルはどこも取り難い。しかも高い。
☞別稿 北海道新聞
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