2024-12

2013・8・29(木)ザルツブルク音楽祭(終)
リッカルド・ムーティ指揮 ヴェルディ「ナブッコ」(演奏会形式)

  ザルツブルク祝祭大劇場  9時

 「ヴェルディって、いつもあんなに四六時中、ドンチャカドンチャカやってるの?」と、以前ヴェルディの初期のオペラに初めて接した知人から訊かれたことを、演奏を聴きながらつい思い出して、可笑しくなった。

 巨匠リッカルド・ムーティがローマ歌劇場管弦楽団と合唱団を率いて演奏した今夜の「ナブッコ」。シンバルや大太鼓など鳴り物大活躍の、勢いのいい音楽満載のこのオペラ。
 ムーティは舞台上のオーケストラをいっぱいに鳴らすので、まさにホールも揺らぐばかりの大音響が出現する。だが、どんなにガンガン鳴ろうと、決して騒々しい印象にならない。とにかく痛快無類だ。溌溂たるリズム感に、沸き立つような熱気と躍動感、些かも弛緩を感じさせないドラマティックな音楽の進行など、ムーティの指揮の昔からの特徴は、今なお健在である。

 しかもさすが「作曲者に忠実」を標榜するムーティ、ふだんカットされる個所をも、忠実に再現する。第2部のアビガイッレのアリアのカバレッタの最後で、合唱と一緒に歌うところでのソロは、ナマの上演ではしばしば休みになってしまうものだが、今回はちゃんと全部、カットなしで演奏された。

 そのアビガイッレを歌ったのは、アンナ・ピロッツイ。
 当初歌うはずだったタチヤーナ・セリヤンに代わり、急遽登場ということになったらしい。今年10月にはボローニャで同役を歌うそうだが、そのわりには今回は、彼女一人だけ、譜面台を前においての歌唱だった。もっとも、原典にうるさいムーティの前で歌うとあって、慎重を期したのかもしれない。ソプラノ・ドラマティコ・ダジリタとしてはまだ少し優しすぎるところもあるが、重責は立派に果たした。

 前述のアリアでは、カヴァティーナのあとでムーティが休止を入れたため、大拍手とブラ―ヴァが飛んで、ピロッツィも嬉しそうにニコニコしていた。
 ところが、続くシェーナと華麗なカバレッタでは、前述のとおりノーカットで見事に歌ったものの、最後の「決め」の音は上げずに歌い終えた。聴衆は拍子抜けしたのか、歓声は沸かず、静かな拍手しか起こらない。彼女は「何よ、さっき3点Cもちゃんと歌ったじゃないの、今の個所の方が大変だったのに」と言わんばかりに客席を見て、不満そうな表情。
 もちろんこれは、ムーティの指示で原譜どおりに歌っただけのことである(以前のEMI盤でもムーティはこのように歌わせている)。彼女としては華やかに大見得を切って結びたかったのかもしれないが、相手が大ムーティ様では、文句も言えまい。ちょっと気の毒というか・・・・。

 彼女を含めソロ歌手陣は、出番が多かろうが少なかろうが、全曲を通じて全員が板付きで座っている。配役は、ナブッコをジェリコ・ルチッチ、ザッカリアをディミトリ・ベロッセルスキー、イズマエーレをフランチェスコ・メーリ、フェネーナをソニア・ガナッシ、ほか。大音量のオーケストラに負けまいと、みんな朗々と声を出してイタリア・オペラの醍醐味を聴かせていた。

 舞台奥に座を占めた大編成のローマ歌劇場合唱団もたっぷりした音量の迫力で、もちろん「行け、わが想いよ、黄金の翼に乗って」も美しいピアニッシモで結んだ。
 この曲に入ったのがすでに11時を遥かに過ぎた頃。しきたり通り、もう1度やられたりしたら、長くなって困るなと思い、拍手をそこそこにやめてしまう。するとお客も、演奏会形式上演だからということもあってか、みんな同じように考えていたらしい。拍手は程々に終った。ムーティもさり気なく先へ進んでくれた。ヤレヤレと安堵。
 ローマ歌劇場管弦楽団も、先ほど述べたように、ダイナミックな活気でわれわれを楽しませてくれた。ひとりピッコロ吹きのおじさんは、ノリまくっているのか、目立ちたがり屋なのか、踊るような派手な身振りで吹き続けていた。こういうおじさんには時々お目にかかるから面白い。たとえば、あのモスクワ放送響の、二刀流タンバリンのおじさんとか・・・・。

 深夜11時55分終演。明朝早いので、カーテンコールの途中で失礼する。なにしろバイロイト以来の転戦、連戦、乱戦(?)が祟って、少々疲労。他の客と一緒に最後まで手を叩いていたりしたら身体が持たぬ。とにかく、これで夏の陣はおしまい。

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