2024-12

2013・8・29(木)ザルツブルク音楽祭(5)
マゼール指揮ウィーン・フィル ワーグナー「ヴァルキューレ」第1幕

  ザルツブルク祝祭大劇場  5時

 此処でもまた演奏会形式の「ヴァルキューレ」第1幕。
 先立つ第1部には、同じワーグナーの「ジークフリート牧歌」が置かれた。プログラムの構成としては、やはりこの程度の長さが適当ではなかろうか。

 しかもマゼールは、この「ジークフリート牧歌」を弦16型編成で(!)重量感たっぷりに、かつ、かなり遅いテンポでじっくりと指揮した。演奏時間も20分以上かかったかもしれない。相当内容の濃いものを聴いた、という気分にさせられる。

 「ヴァルキューレ」第1幕には、ペーター・ザイフェルト(ジークムント)、エヴァ=マリア・ウェストブロック(ジークリンデ)、マッティ・サルミネン(フンディング)がソリストとして登場した。
 ザイフェルトがいつからあのトレードマークの立派な髭をなくし、眼鏡をかけるようになっていたのかは知らないが、とにかく別人のような、何か老けたような顔になっていたのに驚く。聞かせどころの「ヴェルゼ!」を精一杯に延ばして歌い、力感を誇示して、さらに全曲大詰の個所でも大見得を切っていたが、低音域がやや不安定になる癖が出ていたのをはじめ、やはり年齢を感じさせるようになっていたのは寂しい。

 サルミネンは、昨夜のフィリッポ2世役よりもさすがに重量感にあふれ、凄味を発揮する。
 だが、他を圧して映えていたのは、やはりウェストブロックだ。声の輝かしさといい、表現力の多彩さといい、まさに絶好調であろう。おずおずとジークムントに語りかける冒頭から、やがて情熱にあふれた女に変身して行くまで、性格の変化を見事に描き出していた。

 巨匠マゼールは、いまやゆったりとしたテンポで、重厚なスケール感を前面に押し出した指揮を聴かせる。演奏時間こそ68分と、さほど長い部類には入らない類のものだが、悠然たる風格でオーケストラを余裕たっぷりに鳴らすため、遅めのテンポに聞こえるのだろう。
 若い頃のような才気煥発の颯爽たる音楽づくりも、中年時代のような仁王の如き筋肉質の音楽づくりも今はない。専ら練達のウィーン・フィルを信じて、余裕綽々、ワーグナーの壮大な響きを自然に引き出すといった指揮ぶりだ(もっともマゼールくらい、日によって、またはオケによって表現を変える指揮者も稀だから、今日の指揮がこうだからといってもアテにはならない)。
 最後のクライマックス部分に入ってもとりわけテンポを煽ることなく、ただ昂揚感を高めて行くのみである。せいぜい「ヴェルゼ!」の個所で、その都度ジークムントの歌に先立つ弦をクレッシェンドさせて劇的効果を出すあたりが、彼らしい芝居気と言えば言えなくもない。

 ウィーン・フィルが、やはり素晴しい。前出の「ジークフリート牧歌」と同様、ライナー・キュッヒルをコンサートマスターとする弦楽器群の音色を聴いているだけでも、充実した感覚に浸れる。ワーグナーの叙情美が全開したこの第1幕を、この明るく温かい官能的な響きで聴けること自体が幸せというものだろう。

 ただし今日は、金管の調子があまりよろしくない。「牧歌」のホルンは気の毒なほど音を外し、「ヴァルキューレ」でのバス・トランペットも同様だった。そういうミスは人間だから仕方ないとしても、「フンディングの動機」が最初に出現する際にホルンが入りを間違えるなどというのは、歌劇場を本拠とするこのオケらしからぬ事故だ。もしかして、トラだったか? マゼールは、この「ヴァルキューレ」では珍しくスコアを目の前において指揮していたので、彼が間違えたとも思えないが、ただ彼がちらりとホルンの方を見た途端に、3番ホルンがフッと音を出したのは確かだ。・・・・ウィーン・フィルも連日連夜の仕事で忙しいから、大変でしょうな。

 なお今回は、歌手3人はすべて板付き。サルミネンも最初から最後までステージ上に留まっていた。お疲れ様である。
 7時5分終演。次の「ナブッコ」まで、軽い食事をしながら待つ。

コメント

いつも興味深く拝見しておりますが配信
ありがとうございます。

私もアマチュアで長年演奏続けておりますが最近は独欧圏オケの管楽器、特に金管の技術低下には呆れるばかりです。


牧歌の詩的にまどろむホルンソロが不出来なら聴衆も驚きます…伝統に胡坐かくうちに日本では技術的には高校生あたりでも吹けます。

確かに楽器スタイルによる美しい響きや音楽性は残ってますが、まずは一応のクオリティーがないと… 突然失礼いたしました。

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