2013・8・3(土)音楽監督クリスティアン・アルミンク、新日本フィル最後の定期
すみだトリフォニーホール 2時
【マーラーの「3番」。アクセントの鋭い、すこぶる明晰な、勢いのいい演奏だった。3階バルコン席で聴いたのだが、オーケストラは鳴りに鳴った。このくらいのエネルギーを引き出した方が、このオケにはいいだろう。これからも注目して行きたいと思わせるようなアルミンクの成功。】
――これは2003年の9月26日、アルミンクが新日本フィルの音楽監督に就任した記念演奏会の日の日記。
演奏の核心には何も触れていない文章だが、しかし当時、音楽監督不在の時代が長く続いていたため不調に喘ぎ、演奏にも元気が全く欠けていた新日本フィルに一陣の旋風をもたらした若い指揮者の登場を慶ぶ気持は、ここにも出ていたと思う。
それから10年、このオーケストラに活力を与え、演奏水準を高め、レパートリーにポリシーを持たせて拡大し、客演指揮者陣を多彩にし、定期公演の会員を増やすなど、多くの面でアルミンクが果たした実績には、非常に大きいものがあった。
新日本フィル結成以来ほぼ40年にわたる歴史の中で、第3代音楽監督アルミンクに率いられたこの10年間こそ、新日本フィルが飛躍的にその演奏水準を高めた時代であることは、あらゆる面から見て間違いないのである。
その彼が、音楽監督として指揮する最後の定期公演のプログラムには、同じマーラーの「第3交響曲」が選ばれた。協演は藤村実穂子(アルト)と、栗友会合唱団女声合唱および東京少年少女合唱隊。
有終の美を飾るにふさわしく、入魂の演奏だったと思う。
知人の楽員の一人が、「昨日(初日)は緊張が激しくて、演奏がちょっと硬かったけど、今日は比較的リラックスしてました。でも、もう少し引き締めるべきだったかも」と語っていたが、たしかに今日の演奏には「恐ろしいほどの緊迫感」というほどのものは感じられなかっただろう。
とはいえ、第1楽章の後半あたりから物凄く大きく聳え立って来た音楽などは立派に思えたし、また10年前の気負った、ギスギスした鋭さや清澄さの代わりに、気心知れた関係にある指揮者とオケとの一種の余裕のようなもの――が生まれているような気がしたのだった。そういう時代の変遷を感じながら、私もそれなりに楽しませてもらったのである。
そして第6楽章の後半、主題がゆっくりと盛り上がって頂点に達する個所で、「思わず涙を催させる」といったタイプの官能を刺激する音楽にはならず、ある意味で軽やかな透明な音楽のままで結ばれたあたりも、やはりいつものアルミンクらしいなと思った。
もっとも、昨日の演奏会では――多分女性楽員だろうが――「ハンカチが何枚か動いた」(事務局の話)とのことだったから、今日の2日目が「リラックスしていた」というのも本当だったのかもしれない。
藤村実穂子の風格と壮大さにあふれた歌唱も、出番は少ないが美しく歌ってくれた合唱も、素晴らしい出来だった。
満席の聴衆は、大部分が最後まで残ってカーテンコールを続けた。客席の全員が立ち上がったままの幕切れでは、コンマスの崔文洙がアルミンクの手を引っ張って舞台袖から出て来て、指揮台のところで互いに手を握り合い、抱擁し――細かい話は省略するが、これで大団円というわけだろう――アルミンクは最後までにこやかな明るい表情で、客席に手を振って去って行った。そのあとは、長蛇の列のサイン会、打ち上げパーティ・・・・と続く。
☞音楽の友10月号 演奏会評
【マーラーの「3番」。アクセントの鋭い、すこぶる明晰な、勢いのいい演奏だった。3階バルコン席で聴いたのだが、オーケストラは鳴りに鳴った。このくらいのエネルギーを引き出した方が、このオケにはいいだろう。これからも注目して行きたいと思わせるようなアルミンクの成功。】
――これは2003年の9月26日、アルミンクが新日本フィルの音楽監督に就任した記念演奏会の日の日記。
演奏の核心には何も触れていない文章だが、しかし当時、音楽監督不在の時代が長く続いていたため不調に喘ぎ、演奏にも元気が全く欠けていた新日本フィルに一陣の旋風をもたらした若い指揮者の登場を慶ぶ気持は、ここにも出ていたと思う。
それから10年、このオーケストラに活力を与え、演奏水準を高め、レパートリーにポリシーを持たせて拡大し、客演指揮者陣を多彩にし、定期公演の会員を増やすなど、多くの面でアルミンクが果たした実績には、非常に大きいものがあった。
新日本フィル結成以来ほぼ40年にわたる歴史の中で、第3代音楽監督アルミンクに率いられたこの10年間こそ、新日本フィルが飛躍的にその演奏水準を高めた時代であることは、あらゆる面から見て間違いないのである。
その彼が、音楽監督として指揮する最後の定期公演のプログラムには、同じマーラーの「第3交響曲」が選ばれた。協演は藤村実穂子(アルト)と、栗友会合唱団女声合唱および東京少年少女合唱隊。
有終の美を飾るにふさわしく、入魂の演奏だったと思う。
知人の楽員の一人が、「昨日(初日)は緊張が激しくて、演奏がちょっと硬かったけど、今日は比較的リラックスしてました。でも、もう少し引き締めるべきだったかも」と語っていたが、たしかに今日の演奏には「恐ろしいほどの緊迫感」というほどのものは感じられなかっただろう。
とはいえ、第1楽章の後半あたりから物凄く大きく聳え立って来た音楽などは立派に思えたし、また10年前の気負った、ギスギスした鋭さや清澄さの代わりに、気心知れた関係にある指揮者とオケとの一種の余裕のようなもの――が生まれているような気がしたのだった。そういう時代の変遷を感じながら、私もそれなりに楽しませてもらったのである。
そして第6楽章の後半、主題がゆっくりと盛り上がって頂点に達する個所で、「思わず涙を催させる」といったタイプの官能を刺激する音楽にはならず、ある意味で軽やかな透明な音楽のままで結ばれたあたりも、やはりいつものアルミンクらしいなと思った。
もっとも、昨日の演奏会では――多分女性楽員だろうが――「ハンカチが何枚か動いた」(事務局の話)とのことだったから、今日の2日目が「リラックスしていた」というのも本当だったのかもしれない。
藤村実穂子の風格と壮大さにあふれた歌唱も、出番は少ないが美しく歌ってくれた合唱も、素晴らしい出来だった。
満席の聴衆は、大部分が最後まで残ってカーテンコールを続けた。客席の全員が立ち上がったままの幕切れでは、コンマスの崔文洙がアルミンクの手を引っ張って舞台袖から出て来て、指揮台のところで互いに手を握り合い、抱擁し――細かい話は省略するが、これで大団円というわけだろう――アルミンクは最後までにこやかな明るい表情で、客席に手を振って去って行った。そのあとは、長蛇の列のサイン会、打ち上げパーティ・・・・と続く。
☞音楽の友10月号 演奏会評
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