2013・3・24(日)新国立劇場 ヴェルディ:「アイーダ」
新国立劇場オペラパレス 2時
新国立劇場開場15周年記念公演の「アイーダ」。
これは開場最初のシーズンに制作され、98年1月5日にプレミエされたフランコ・ゼッフィレッリ演出のプロダクションで、それ以降も何シーズンかごとに「再演」されている人気作だ。
演出の細部はその都度少し手直しされているのか、あるいはその時の歌手により若干変更されているのか、詳しいことは判らないけれども、とにかくゼッフィレッリの作(演出・美術・衣装)にふさわしい、豪華絢爛な舞台だ。彼のこの種のプロダクションを今日なお上演し続けている歌劇場は、世界でもMETなど僅かしかないと思われるが、その意味では新国立劇場の貴重なオリジナル財産であることに間違いなかろう。
第2幕「凱旋の場」における大編成の合唱団やバレエ団のほか、「歌わない」群衆・兵士・僧侶などの助演者も150人近く、馬も2頭出て来る。こういう「人海戦術」も、今日では世界の歌劇場でもなかなかお目にかかれないものだ。
衣装や背景の色彩感も豊かで、特にブルー系の色が効果的に生かされているのがいい。
大詰めの第4幕第2場、神殿が上昇して舞台下の石室が顕われ、幽閉されたラダメスとアイーダと共にその石室がまた地下へ消えて行くといったくだりは、あまり活用されない新国立劇場の「立派な」舞台機構を久しぶりで観客にも見せてくれるという点で、貴重なものだろう――私の記憶では、この大掛かりな舞台機構設備が活用された新国立劇場のプロダクションは、それ以降には鈴木敬介演出の「アラベッラ」と、ウォーナー演出の「ヴァルキューレ」くらいしかなかったような気がするのだが・・・・他に何かあったか?
今回のエチオピア王女アイーダ役はラトニア・ムーア、エジプト軍総司令官ラダメスはカルロ・ヴェントレ、エジプト王女アムネリスはマリアンネ・コルネッティ。
3人とも強大な声量で、合唱やオーケストラを吹き飛ばすほどのパワーだ。が、どうも歌唱が荒っぽくて、楽譜に正確な歌い方をしていないところがしばしば聞かれたのが気になる。
コルネッティなど、第2幕第1場でシュプレヒ・ゲザングのような歌い方をしたところがあってギョッとさせられたし、ヴェントレと来たら終始怒鳴りまくるといった雰囲気であった。それともう一つ、コルネッティが盛んに苦悩の叫び声を上げるのは彼女自身の解釈だろうが、むしろオーケストラの音楽を邪魔する結果になる。
エチオピア王アモナズロの堀内康雄も第2幕では彼らしくなかったが、第3幕では威厳ある父親としての歌唱を取り戻していた。他にエジプト王を平野和、大僧正ラムフィスを妻屋秀和(2人とも長身で舞台映えする!)、伝令を樋口達哉、巫女を半田美和子。
指揮はミヒャエル・ギュトラー。無難にはこなしているが、第4幕第1場などのようにアムネリスを中心に丁々発止とぶつかり合う心理ドラマ的な凄みのある音楽を再現するには、未だ力不足だろう。このオペラの本当のクライマックスは、派手な第2幕の凱旋の場ではなく、むしろ第3幕でのアイーダ、アモナズロ、ラダメスの確執と、第4幕第1場のアムネリスの苦悩の場面とに置かれているのであり、これらの個所の音楽に緊迫感と悲劇性があふれていないと、単なるお祭りオペラに終わってしまいかねないのである。
ともあれこの「アイーダ」、今シーズンは計7回上演され(27日、30日にも公演あり)、さすが名作だけあって、しかも今日は日曜日のせいもあってか、客席は完全に埋め尽くされていた。6時終演。
新国立劇場開場15周年記念公演の「アイーダ」。
これは開場最初のシーズンに制作され、98年1月5日にプレミエされたフランコ・ゼッフィレッリ演出のプロダクションで、それ以降も何シーズンかごとに「再演」されている人気作だ。
演出の細部はその都度少し手直しされているのか、あるいはその時の歌手により若干変更されているのか、詳しいことは判らないけれども、とにかくゼッフィレッリの作(演出・美術・衣装)にふさわしい、豪華絢爛な舞台だ。彼のこの種のプロダクションを今日なお上演し続けている歌劇場は、世界でもMETなど僅かしかないと思われるが、その意味では新国立劇場の貴重なオリジナル財産であることに間違いなかろう。
第2幕「凱旋の場」における大編成の合唱団やバレエ団のほか、「歌わない」群衆・兵士・僧侶などの助演者も150人近く、馬も2頭出て来る。こういう「人海戦術」も、今日では世界の歌劇場でもなかなかお目にかかれないものだ。
衣装や背景の色彩感も豊かで、特にブルー系の色が効果的に生かされているのがいい。
大詰めの第4幕第2場、神殿が上昇して舞台下の石室が顕われ、幽閉されたラダメスとアイーダと共にその石室がまた地下へ消えて行くといったくだりは、あまり活用されない新国立劇場の「立派な」舞台機構を久しぶりで観客にも見せてくれるという点で、貴重なものだろう――私の記憶では、この大掛かりな舞台機構設備が活用された新国立劇場のプロダクションは、それ以降には鈴木敬介演出の「アラベッラ」と、ウォーナー演出の「ヴァルキューレ」くらいしかなかったような気がするのだが・・・・他に何かあったか?
今回のエチオピア王女アイーダ役はラトニア・ムーア、エジプト軍総司令官ラダメスはカルロ・ヴェントレ、エジプト王女アムネリスはマリアンネ・コルネッティ。
3人とも強大な声量で、合唱やオーケストラを吹き飛ばすほどのパワーだ。が、どうも歌唱が荒っぽくて、楽譜に正確な歌い方をしていないところがしばしば聞かれたのが気になる。
コルネッティなど、第2幕第1場でシュプレヒ・ゲザングのような歌い方をしたところがあってギョッとさせられたし、ヴェントレと来たら終始怒鳴りまくるといった雰囲気であった。それともう一つ、コルネッティが盛んに苦悩の叫び声を上げるのは彼女自身の解釈だろうが、むしろオーケストラの音楽を邪魔する結果になる。
エチオピア王アモナズロの堀内康雄も第2幕では彼らしくなかったが、第3幕では威厳ある父親としての歌唱を取り戻していた。他にエジプト王を平野和、大僧正ラムフィスを妻屋秀和(2人とも長身で舞台映えする!)、伝令を樋口達哉、巫女を半田美和子。
指揮はミヒャエル・ギュトラー。無難にはこなしているが、第4幕第1場などのようにアムネリスを中心に丁々発止とぶつかり合う心理ドラマ的な凄みのある音楽を再現するには、未だ力不足だろう。このオペラの本当のクライマックスは、派手な第2幕の凱旋の場ではなく、むしろ第3幕でのアイーダ、アモナズロ、ラダメスの確執と、第4幕第1場のアムネリスの苦悩の場面とに置かれているのであり、これらの個所の音楽に緊迫感と悲劇性があふれていないと、単なるお祭りオペラに終わってしまいかねないのである。
ともあれこの「アイーダ」、今シーズンは計7回上演され(27日、30日にも公演あり)、さすが名作だけあって、しかも今日は日曜日のせいもあってか、客席は完全に埋め尽くされていた。6時終演。
コメント
新国立劇場開場「アイーダ」(3月24日)
「アイーダ」
こんにちは。
私も、「アイーダ」を鑑賞してきましたので、興味をもって読ませていただきました。私の気が付かなかったところまで詳しく鑑賞されているのを拝読し、大変勉強になりました。ありがとうございます。
私の感想としては、第2幕第2場は勇壮な凱旋の場の舞台が圧巻でした。
主役級の歌手と合唱のバランスもよく、私個人としては楽しめる舞台だったと思いました。
私もブログにオペラ「アイーダ」について書いてみました。
よろしかったら見て頂けるとうれしいです。
ご意見、ご感想などコメントしてくださると感謝致します。
私も、「アイーダ」を鑑賞してきましたので、興味をもって読ませていただきました。私の気が付かなかったところまで詳しく鑑賞されているのを拝読し、大変勉強になりました。ありがとうございます。
私の感想としては、第2幕第2場は勇壮な凱旋の場の舞台が圧巻でした。
主役級の歌手と合唱のバランスもよく、私個人としては楽しめる舞台だったと思いました。
私もブログにオペラ「アイーダ」について書いてみました。
よろしかったら見て頂けるとうれしいです。
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新国立劇場開場15周年の今回の上演ではアイーダ、ラダメス、アムネリス以外は全て日本人が歌ったが小さな役まで素晴らしい歌唱。15年の間に日本人オペラ歌手のレベルは非常に高くなった…との感慨を持った。合唱は昨今、うま過ぎるくらいうまく、「世界一」と言われるレベルにまでなっている。
再演演出は粟國淳が担当しており、再演としては丁寧な表現が随所に見られた。第3幕の演出はかなり細かい…と感じて、3者の思惑のぶつかり合いを非常に集中して聴くことが出来た。
第2幕第2場「凱旋の場」はなかなか比較出来るものがない程の豪華さであるし、セリをうまく使った第4幕第2場「神殿の地下室」は何度観ても初演時と同じように感動出来る強く印象に残る場面である。初演時に作品の豪華さを「税金の無駄遣い」と批判したメディアがあったことを思い出すが、今なお作品の魅力は全く衰えていないと感じる。「100年耐える作品」と高く評価する人がいるのも納得出来る。
会場では「『アイーダ』と『トスカ』はこの劇場の財産ですよ」との会話も聞こえた。東条さんが「この劇場の大掛かりな舞台機構設備が活用されたプロダクションは、『アイーダ』『アラベッラ』『ヴァルキューレ』」…と記述しておられるが、「トスカ」も入れて良いのではないか。テ・デウムの豪華さと大詰めでの「アイーダ」に似たセリの使い方が魅力である。
歌手はそれぞれ魅力があった。アイーダ、ラダメス、アムネリスは強大な声量だけでなく、「巨漢」という印象で「3人の体重を足すとどんな感じか…」と音楽とは関係ないことをと思ってしまったが、楽屋口で見かけた彼らが意外に小柄だったのには驚いた。舞台で大きく見える…というのは存在感があるということであり歌手として大事なことだろう。
演奏は丁寧で、指揮者から歌手への指示も歌いやすそうで良かったと思うが、やや生真面目な指揮…ということはあったかも知れない。
観客。第1幕ではあまりに早い拍手が起き、いったんそれが収まってもまだ演奏は続き、その後、指揮者が観客に「拍手をするならここですよ」と合図をするようなしぐさをして正しい拍手が起きる…という場面があった。この日の観客席は初心者も少なくない様子でこの先が思いやられるなあ…と思ったが、その後は各歌唱、各幕切れで比較的余裕を持った拍手だったのは良かった。
新国立劇場開場15周年、ヴェルディ生誕200年を祝うこの公演は7公演がほぼ満席。私自身はこの作品の5回目の再演があったらまた観に(聴きに)行くだろう。