人新世の「資本論」(斎藤幸平)

 筆者の主張はまったくその通りだと肯いつつも、なぜ今資本論なのか、ということはやはり飲み込みにくかったですね。身も蓋もないことをいえば筆者の専攻領域だから、ということになるのでしょうが。

 マルクスにはこんな先見の明があったぜ!という「今こそ再評価されるべきマルクスの実績」というトピックと、「限界があからさまに明らかになってきた資本主義やSDGsなどの環境問題への取り組みというポーズの欺瞞」との、アカデミズム一流のアクロバティックな接続。

 どんな理論でも先行の研究成果の積み上げの上に成り立つのであって断絶するものではないけれど、十分に説得力があるならば解決策の根拠にわざわざマルクスを引っ張り出さなくても、という気がどうしてもしました。ことあるごとにマルクスの晩年の研究の先見性を参照するので、そちらがメインなのかな?と思ってしまうほど。(実際そうなのかもしれない。)

 とはいえ、これだけ話題になったのは、古いものと最新のものを強引にくっつけたところにフックがあった訳で。ところで人新世って「じんしんせい」でなく「ひとしんせい」と読むのですね。恥ずかしながら初めて知りました。

☆☆☆

※いや「じんしんせい」でもいいみたいですね。そちらの方がしっくりくるな。