うまい文章が書きたいなら、読書量はとても大切です。韓国のベストセラー作家が文章に関する実践的な知識をお伝えする新刊『みんなが読みたがる文章』(ナムグン・ヨンフン著、松原佳澄訳)から抜粋してご紹介します。
「語彙力は、工具のたくさん入った道具箱」
読書は、読書をしない人ですらすすめてきます。文章を書く人は、かならず読書をしなければなりません。なぜ必須なのでしょうか? 4つの説明をしましょう。
(1)体系的な資料を得られる
文章の始まりは資料収集です。本は知識が体系的に整理されているので、簡単に資料を区分したり、筋道を見つけたりできます。読書は資料収集に最適化された手段なのです。
(2)語彙力が増える
語彙力は、その単語がどういう意味なのかを理解する能力です。語彙力が高いほど事物や現象を描写する方法が増えます。「死んだ」を「亡くなった」「他界した」「息を引き取った」「目を閉じた」のように、さまざまに表現できます。
頭で考えを形象化するとき、まず最初にするのは、適切な単語を選び出すことです。文章は単語の組み合わせです。文章をうまく書けない人は、資料が足りない場合もありますが、適切な単語を選び出せなくて書けないことも多いのです。
スティーヴン・キングは「語彙力は、工具のたくさん入った道具箱だ」といいました。必要な工具をすぐ取り出して使えるように、日ごろから読書で道具箱をいっぱいにしておきなさい、と親切に方法まで説明してくれています。
(3)考えが浮かんでくる
トルストイは『どのように生きるか』という本で、知恵を得る方法3つを述べています。瞑想(めいそう)、模倣、経験です。本にはさまざまな人生の経験が書かれています。本を読んで感情移入し、登場人物の行動を読んでそれをまねます。そして考え、瞑想します。本1冊でトルストイのいうすべての経験ができるのです。
(4)よい文章とはどういうものかがわかるようになる
美術をする人は見る目を養い、音楽をする人は聞く耳を養わなければなりません。よいものとは何か、よくないものとは何かを区分できずに模倣ができるでしょうか?
読書は、よい文章とはどのような文章であるかを教えてくれる、すぐれた教材です。文章を書く人に正確な目標を示してくれます。
メモで、通り過ぎゆく考えをつかもう
読書をしているとさまざまな考えが浮かんできます。考えを具体的に形象化する行為がメモです。スマートフォンの発達により、多様なメモアプリが出ましたが、私はいまだに手帳を使っています。
理由はまさしく、通り過ぎてゆく考えが揮発してしまうためです。スマートフォンのアプリにメモする順序を羅列してみましょう。
道を歩いているとき、眠ろうとしたとき、ふとアイデアや文章が思い浮かびます。スマートフォンを探します。ロック画面を解除します。メモアプリを探します。アプリを起動します。記録するための場所を探します。そこでいざ記録しようとすると、もう記録しようとしていた内容が思い出せません。このような経験をしたことはありませんか?
私は何度も経験しました。一つひとつの行為を、脳が集中して実行するためです。脳に留め置かれたアイデアや考えが、この過程で揮発し消えてしまいます。
一方、手帳への記録を説明しましょう。ふとアイデアが浮かびます。ポケットやカバンから手帳を取り出します。書くページにはすでにボールペンが挟まれていて、開いて書くだけです。
単純なことです。飛んでいってしまう考えをつかまえて、メモ用紙にそのままの姿を書き留める。バラエティー番組『知っておいても役に立たない神秘的な人間雑学』に出演していた作家のキム・ヨンハを注意深く見ていたら、収録の途中に手帳を取り出し、メモする場面がしょっちゅうありました。
メモをこまめにする作家がアナログ式にこだわる理由は、私と同じ考えであるはずです。たゆまぬ読書とメモが、思考をつくり、書くネタを授けてくれます。文章を書くためには、まずは読書です。そしてメモで思い浮かんだ考えをつかまえましょう。
ナムグン・ヨンフン著、松原佳澄訳、日経BP、1760円(税込み)