エジプトがガザとの国境を完全に開放しない理由は、複数の要因が複雑に絡み合っているためと考えられます。主な理由としては以下の点が挙げられます。
テロリストの流入: エジプトは、ガザ地区を実効支配するハマスをテロ組織と見なしており、国境開放によってハマスの戦闘員や過激派がシナイ半島に流入し、治安が悪化することを懸念しています。シナイ半島では、以前からイスラム過激派によるテロ事件が発生しており、エジプト政府にとって治安維持は重要な課題です。
武器の密輸: 国境開放は、ガザ地区からエジプトへの武器や物資の密輸を助長する可能性があり、これもエジプトの安全保障上の懸念材料となっています。
パレスチナ難民の流入と定住: エジプトは、ガザ地区からのパレスチナ難民が大量に流入し、そのままエジプトに定住することを強く懸念しています。これは、パレスチナ問題の解決を複雑化させ、エジプトの人口構成や経済に大きな影響を与える可能性があるためです。エジプトは、パレスチナ難民の受け入れは一時的なものであり、最終的にはパレスチナへの帰還が原則であるという立場を堅持しています。
イスラエルとの関係: エジプトは1979年にイスラエルと平和条約を締結していますが、国民感情としてはパレスチナを支持する声が根強くあります。国境を完全に開放し、ガザ地区への支援を強化することは、イスラエルとの関係に影響を与える可能性があると懸念しています。
経済的負担: 大量の難民を受け入れることは、食料、住居、医療などの面でエジプト経済に大きな負担となります。エジプトはすでに多くの難民を受け入れており、新たな難民の流入は経済的な困難をさらに悪化させる可能性があります。
エジプトは、国境開放に関して国際社会から圧力を受けていますが、上記の理由から慎重な姿勢を崩していません。エジプト政府は、自国の安全保障と国益を最優先に考慮した上で、ガザ地区への人道支援は許可しつつも、国境の完全開放には応じていない状況です。
ただし、人道的な観点から、負傷者や特定の許可を得た人々に対しては、ラファハ国境などを通じて一時的な出入りが認められることもあります。しかし、恒常的な国境開放には至っていません。