厳密にはアイドルじゃないけど
練習生の時は結構華々しかったと思う。ダンスは上手くなかったけどみるみるうちに上達して、歌はもっとはっきりうまくなって。惜しいところでデビューできなかったけど、きっとどこかでこの子はアイドルになってくれるんだろう、と思ってた。初期の方に出たグッズも熱が高まったせいかかなり高値になってたけどメルカリで買って、もっと早く好きになればよかったな、デビューしたらアクスタが出るだろうから一緒に並べたいな、と思って日々ワクワクしていた。
しばらくしてその子がSNSを始めたという報せがあった。不穏な空気が流れた。しないって言ってたのにな。その子が発信するたびにあの時あんなに珍しくてありがたかった写真や文章の価値が下がっていく音がした。文章なんて顕著だった。口を開けば余計なことしか言わない。写真はただただずっと可愛かった。もちろんそんなSNS運用がうまくいくはずもなく瞬く間に炎上した。ダンスの上達よりも早かった気がする。アカウントが消えた時は嬉しかった。あぁ、炎上したけど誰かが拾ってくれたんだ、って。いやでもそれよりももう幻滅しないで済むんだ、という歪な安堵があった。この頃にはすっかりグッズの値段は下がっていた。
そのあと長くない時間が経って結局その子は夜の道に進んだことを知った。それからは救えない日々が続く。詳しくは言わないけどまたSNSを開設してアンチを煽ったり、偽物が出てきたりしてずっと振り回されっぱなしだった。なんで好きになったっけ、なんで好きじゃなくなれないんだろう。なんてのは毎日考えた。その子が好きだと言ったお菓子をみれば落ち込み、その子が好きだと言った動物をみれば涙すら出た。他のあぶれた練習生たちはほとんどデビューしていた。もうあの子にアイドルになって欲しいとは言わないけど、もう私をがっかりさせないで欲しい。私の人生を救ったままの一番星でいて欲しい。もうあなたの顔は見たくないのです。私は嫌いになれないから、お願いだから、お願いだからどうか伝説になって、SNSからは姿を消してください。もう付き合いきれないよ。でも仕方ないくらい大好きなんだ。