難題問答
『伊曾保物語』(仮名草子)上-7 ある人が学者しゃんとに、「大海の潮を飲み尽くせるか」と問うた。しゃんとは奴隷伊曾保の入れ知恵で、「飲み尽くすから、大海に流れこむ河をすべて堰き止めてくれ」と言い返した。
『一休と虎』(昔話) ある時、和尚が一休に「ふすまに描いた虎を縄で縛れ」と命じた。一休は「では、虎をふすまから追い出してくれ」と言い返した。
『佐々木政談』(落語) 南町奉行佐々木信濃守が、桶屋の子供四郎吉の智恵を試そうと、奉行所へ呼ぶ。信濃守が「天の星の数を答えよ」と言うと、四郎吉は「お白洲の砂利の数がいくつあるか、ご存知ですか」と言い返す。また、信濃守が「父と母のどちらが好きか」と問うと、四郎吉は饅頭を半分に割って示し、「どちらがおいしいでしょう」と問い返す。
『牧童』(グリム)KHM152 王が、賢いという評判の牧童に「大海の中に水が何滴あるか」と問うと、牧童は「川の水が1滴も流れ込まないようにしていただければ、海に何滴あるか数えましょう」と答えた。また、王が「空に星がいくつあるか」と問うと、牧童は大きな紙一面に、ペン先で無数の細かな点を打ち、「空にはこの点と同数の星があるので、数えて下さい」と答えた。
『マタイによる福音書』第22章 パリサイ人たちが、神の道を説くイエスの言葉尻を捕らえて罠にかけようと、「カイザルに税金を納めてよいかどうか」と問う。イエスは「税に納める貨幣には誰の肖像がついているのか」と問い返し、パリサイ人たちが「カイザルのだ」と答えると、イエスは「カイザルのものはカイザルに、神のものは神に返せ」と言う〔*『マルコ』第12章・『ルカ』第20章に類話〕。
『ヨハネによる福音書』第8章 律法学者やパリサイ人が、姦淫した女を捕らえ、「モーセは律法の中で、こういう女は石で打ち殺せと命じたが、あなたはどう思うか」とイエスに問い、愛を説くイエスを試して、訴える口実を得ようとする。イエスは「あなたがたの中で罪のない者が、最初にこの女に石を投げつけよ」と答える。
『イソップ寓話集』(岩波文庫版)36「罰あたり」 男が小雀を隠し持ち、「私が手に持つものは命有りや無しや」と、デルポイの神殿で問う。「生きたもの」との神託があれば雀を締め殺し、「死んだもの」との神託があれば生かしたままで、見せようとしたのである。神は男のずるい考えを知り、叱る〔*『寓話』(ラ・フォンテーヌ)巻4-19に類話〕。
『京鹿子娘道成寺』 道成寺の鐘供養を拝みに来た白拍子が、握りこぶしを僧たちに見せ、「この手の中の雀の生死を当てよ」と問う。僧たちは「生きていると答えたら手の内でしめつけ殺し、死んでいると答えたら放して逃がす気であろう」と言う。白拍子が手を開くと、中には何もなかった。
『寓話』(ラ・フォンテーヌ)巻9-1 ペルシャの商人が隣人に百ポンドの鉄を預けて旅に出る。帰って来ると、隣人は「1匹の鼠が鉄を食べてしまった」と嘘をつく。そこで商人は、隣人の子供を隠して「フクロウが息子さんをさらった」と言う。隣人が「そんなことは不可能だ」と言うと、商人は「鼠が百ポンドの鉄を食うなら、フクロウが体重50ポンドの男児をさらっても不思議はない」と言い返す。
『ジャータカ』第218話 村の商人が町の商人に鋤5百丁を預けるが、町の商人はそれを売って儲け、「鼠たちが鋤を食べてしまった」と嘘をつく。村の商人は、町の商人の息子を隠し、「鷹が息子さんをさらった」と言う。町の商人が「そんなことはあり得ない」と言うと、「それなら鼠も鉄製の鋤を食べないだろう」と言い返す〔*『鸚鵡七十話』第48話の類話では、鼠が食べたのは鉄の秤〕。
『知恵のある百姓娘』(グリム)KHM94 百姓A所有の子馬が駆け出て、百姓B所有の牡牛のそばにすわる。百姓Bは「私の牡牛が子馬を産んだ」と言って子馬を奪い、王も百姓Bの言い分を認める。翌日、百姓Aは王妃の教えに従い、往来に網を打って魚を取ろうとする。王が「水のない所で魚は取れぬ」と言うと、百姓Bは「牡牛に子馬が産めるなら、往来でも魚が取れるはずだ」と言い返す。
*「屋根の上では駱駝を捜せぬ」「王位にあっては神を求められぬ」→〔屋根〕5の『イスラーム神秘主義聖者列伝』「イブラーヒーム・アドハム」。
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