石原八束とは? わかりやすく解説

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石原八束

石原八束の俳句

かげろふや丘に群がる兵の霊
くらがりに歳月を負ふ冬帽子
さよならをくりかへしゐる走馬燈
ひらくほど紅さしてくる大牡丹
わが詩の仮幻に消ゆる胡沙の秋
コンコルド広場の釣瓶落しかな
ナイル河の金の睡蓮ひらきけり
パイプもてうちはらふ万愚節の雪
一之町二之町三之町時雨
亀鳴くは己の拙を泣くごとし
仁王の眼を啄木鳥がたたけり高野谿
光りつつ沖より時雨来たりけり
原爆地子がかげろふに消えゆけり
受難こそわが地の塩よ露微塵
妻あるも地獄妻亡し年の暮
崩れむとして白牡丹羽ひらく
彼の世より光をひいて天の川
心臓と同じくらゐの海鼠かな
悪玉が笑へり赫き盆の月
春雪や手にかざしみる吉野紙
昼寝覚めれば誰かが死んでをり
月光を炎えさかのぼる海の蝶
板山葵に銚子二本の晦日蕎麦
枯れきつて胸に棲みつく怒りの虫
死は春の空の渚に遊ぶべし
流人墓地みな壊えてをり鰤起し
流人墓地寒潮の日の高かりき
湯豆腐やいとぐち何もなかりけり
煮凝やいつも胸には風の音
白山の鴾色に雁帰る
白炎をひいて流氷帰りけり
紋様に雪のほのめくちりめん織り
素顔さへ仮面にみゆる謝肉祭
落葉焚きゐてさざなみを感じをり
葱坊主吹かれてをれどみな黙す
血を喀いて眼玉の乾く油照
谷川の音天にある桜かな
躓いてひとり笑ひて麦茶かな
身の鬼を扇ぎてゐたる団扇かな
身を鎧ふ才覚はなし木の葉髪
達治亡きあとはふらここ宙返り
野仏の前掛にゐる大螢
金粉の虫狂ひゐる白牡丹
鍵穴に雪のささやく子の目覚め
闇ふかき天に流燈のぼりゆく
陽関の涯て泉あり寄れば逃ぐ
雁も船も海峡わたるとき迅し
雁木に来て火事の炎をひく雪女
雁立ちの目隠し雪や信濃川
雪の上を死がかがやきて通りけり
 

石原八束

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/18 02:03 UTC 版)

石原 八束(いしはら やつか、1919年大正8年)11月20日 - 1998年平成10年)7月16日)は、日本の俳人

生涯

山梨県錦村二之宮(現・笛吹市御坂町二之宮)に生まれる。父親は俳人の石原舟月(起之郎)。本名は「登」であったが、病弱であったため生後一ヶ月で長命を願い「八束」に改名した。

1937年(昭和12年)、父の師である飯田蛇笏に師事する。飯田蛇笏は現在の笛吹市境川町において俳誌「雲母」を主催していた俳人で、八束も「雲母」に投句を始める。1943年(昭和18年)に中央大学法学部を卒業する。戦後は東京世田谷の石原舟月宅に「雲母」発行所が移転され、八束は1947年(昭和22年)より蛇笏の子息・飯田龍太とともに「雲母」編集に携わる。1949年(昭和24年)より三好達治に師事(第一句集『秋風琴』は三好の命名による)。1956年(昭和31年)、「馬酔木」に「内観造型への試論」を発表。

1960年(昭和35年)より、三好を囲む「一、二句文章会」を自宅にて毎月開く。1961年(昭和36年)、俳誌「秋」を松澤昭と共同で創刊、のち主宰。1976年(昭和51年)、第六句集『黒凍みの道』で芸術選奨文部大臣賞受賞。1997年現代俳句協会大賞受賞、同年『飯田蛇笏』で俳人協会評論賞受賞。現代俳句協会および俳人協会で顧問も務めた。1998年7月16日、呼吸不全のため死去。

作風

幼時から病弱であり、若い頃には結核で療養を余儀なくされた八束は、蛇笏の主観写生に学びつつ人間の内面を注視する作風を獲得するようになる。その持論である「内観造型」は、外的な自然を諷詠するのではなく、自然の中に身を据えながら人間の内部を見ることを説くもので、「くらがりに歳月を負ふ冬帽子」(『空の渚』所収)はその方法論による代表作である。

その境涯性を持つ句風はのち「黒凍みの道夜に入りて雪嶺顕(た)つ」(『黒凍みの道』所収)などに代表される暗喩的・象徴的な句風に発展。晩年は「宇宙感覚」と自ら呼ぶものを重視し、エジプト中国への旅を重ねて「わが詩(うた)の仮幻に消ゆる胡砂の秋」「ナイル河の金の睡蓮ひらきけり」(ともに『仮幻』)などの句を得ている。

著書

  • 秋風琴 句集 ユリイカ 1955
  • 現代俳句の幻想者たち 三雲書店 1962
  • 雪稜線 句集 秋発行所 1964 (秋新書)
  • 空の渚 三雲書店 1964
  • 操守 句集 牧羊社 1969 (現代俳句15人集)
  • 達治のうた 三好達治(編著) 社会思想社 1969 (現代教養文庫)
  • 俳句の作り方 明治書院 1970 (作法叢書)
  • 現代俳句の世界 評論集 中央大学出版部 1972
  • 高野谿 句集 東京美術 1972
  • 秋琴帖 随筆集 皆美社 1973
  • 川端茅舎 角川書店 1974
  • 黒凍みの道 句集 牧羊社 1976
  • 石原八束全句集 角川書店 1978.6
  • 藍微塵 第八句集 五月書房 1979.3
  • 現代句秀品抄 東門書屋 1979.3
  • 三好達治 筑摩書房 1979.12
  • 石原八束句集 芳林社 1980.7
  • 風信帖 第9句集 永田書房 1981.9
  • 定本秋風琴 牧羊社 1981.11
  • 石原八束俳論集 永田書房 1981.12
  • 定本断腸花 牧羊社 1982.3
  • 風霜記 句集 白凰社 1983.3
  • 白夜の旅人 句集 角川書店 1984.5 (現代俳句叢書)
  • 稀れな仙客 角川書店 1984.11
  • 八束唱三百句 四季出版 1986.2 (四季文庫)
  • 石原八束集 人とその影 三一書房 1987.4 (俳句の現在)
  • 駱駝の瘤にまたがって 三好達治伝 新潮社 1987.12
  • 雁の目隠し 句集 角川書店 1989.4
  • 現代句秀品批評 飯塚書店 1991.10
  • 石原八束 自選三百句 春陽堂書店 1993.1 (俳句文庫)
  • 俳句と文芸 飯塚書店 1993.3
  • 幻生花 句集 飯塚書店 1994.8
  • 石原八束 花神社 1995.5 (花神コレクション)
  • 胸中山河 秀句を拾う 飯塚書店 1996.5
  • 飯田蛇笏 角川書店 1997.2
  • 仮幻 句集 朝日新聞社 1997.7 (「俳句朝日」句集シリーズ)
  • 黒凍みの道 邑書林 1998.6 (邑書林句集文庫)
  • 春風琴 句集 角川書店 2005.7

参考文献

  • 佐怒賀正美「石原八束」『現代俳句大事典』、三省堂<普及版>、2008年、 50-51頁。
  • 安西篤「石原八束」『現代の俳人101』、新書館、2004年、 96-97頁。

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