死者数の推計
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/06 21:07 UTC 版)
「チェルノブイリ原発事故の影響」の記事における「死者数の推計」の解説
1986年8月のウィーンでプレスとオブザーバーなしで行われたIAEA非公開会議で、ソ連側の事故処理責任者ヴァレリー・レガソフは、当時放射線医学の根拠とされていた唯一のサンプル調査であった広島原爆での結果から、4万人が癌で死亡するという推計を発表した。しかし、広島での原爆から試算した理論上の数字に過ぎないとして会議では4,000人と結論され、この数字がIAEAの公式見解となった。ミハイル・ゴルバチョフはレガソフにIAEAに全てを報告するように命じていたが、彼が会場で行った説明は非常に細部まで踏み込んでおり、会場の全員にショックを与えたと回想している。結果的に、西側諸国は当事国による原発事故の評価を受け入れなかった。2005年9月にウィーンのIAEA本部でチェルノブイリ・フォーラムの主催で開催された国際会議においても4,000人という数字が踏襲され公式発表された。報告書はベラルーシやウクライナの専門家、ベラルーシ政府などからの抗議を受けたが、修正版は表現を変える程度に留まった。 事故から20年後の2006年を迎え、世界保健機関 (WHO) はリクビダートルと最汚染汚染地域および避難住民を対象にした4,000件に、その他の汚染地域住民を対象にした5,000件を加えた9,000件との推計を発表した。これはウクライナ、ロシア、ベラルーシの3カ国のみによる値で、WHOのM. Repacholiによれば、前回4000件としたのは低汚染地域を含めてまで推定するのは科学的ではないと判断したためとしており、事実上の閾値を設けていたことが分かった。WHOの国際がん研究機関 (IARC) は、ヨーロッパ諸国全体(40ヶ国)の住民も含めて、1万6,000件との推計を示し、米国科学アカデミー傘下の米国学術研究会議 (National Research Council) による「電離放射線の生物学的影響」第7次報告書 (BEIR-VII)に基づき全体の致死リスク係数を10%/Svから5.1%/Svに引き下げられたが、対象範囲を広げたために死亡予測数の増加となった。WHOは、1959年に、IAEAと世界保健総会決議(World Health Assembly:WHA)においてWHA_12-40という協定に署名しており、IAEAの合意なしには核の健康被害についての研究結果等を発表できないとする批判もあり、核戦争防止国際医師会議のドイツ支部がまとめた報告書には、WHOの独立性と信頼性に対する疑問が呈示されている。 欧州緑の党による要請を受けて報告されたTORCH reportによると、事故による全世界の集団線量は約60万[人・Sv]、過剰癌死亡数を約3万から6万件と推定している。環境団体グリーンピースは9万3,000件を推計し、さらに将来的には追加で14万件が加算されると予測している。ロシア医科学アカデミーでは、21万2,000件という値を推計している。2007年にはロシア科学アカデミーのAlexey V. Yablokovらが英語およびロシア語などのスラブ系の諸言語の文献を中心にまとめた総説の中で1986年から2004年の間で98万5000件を推計、2009年にはロシア語から英訳されてChernobyl: Consequences of the Catastrophe for People and the Environmentというタイトルで出版された。ウクライナのチェルノブイリ連合 (NGO) は、現在までの事故による死亡者数を約73万4,000件と見積もっている。京都大学原子炉実験所(現・京都大学複合原子力科学研究所)の今中哲二によれば、チェルノブイリ事故の被曝の影響による全世界の癌死者数の見積りとして2万件から6万件が妥当なところとの見解を示しているが、たとえ直接の被曝を受けなくとも避難などに伴う心理面・物理面での間接的な健康被害への影響に対する責任が免責されるわけではないと指摘している。 ウクライナ国立科学アカデミー (National Academy of Sciences of Ukraine) のイワン・ゴドレフスキ (Ivan Godlevsky) らの調査によると、チェルノブイリ事故前のウクライナにおけるルジニー (Lugyny) 地区の平均寿命は75歳であったが、事故後、65歳にまで減少しており、特に高齢者の死亡率が高まっていることが分かった[要出典]。これは放射線およびストレスのかかる状況が長期化したことが大きな要因と見られる。1991年に独立した当時のウクライナの人口は約5200万人だったが、2010年には約4500万人にまで減少している。[誰によって?] 2009年、「Chernobyl: Consequences of the Catastrophe for People and the Environment(チェルノブイリ――大惨事が人びとと環境におよぼした影響)」というタイトルで、1986年から2004年までに約100万人が死亡したという報告書がニューヨーク科学アカデミー(英語版)から出版された。2011年5月、この報告書の編集者ジャネット・シャーマン (Dr. Janette D. Sherman) のインタビューがカール・グロスマン(英語版)の司会により紹介され、ニューヨークのTVドキュメンタリー制作会社「エンヴァイロ・ビデオ」から発表された。なお、カール・グロスマンもジャネット・シャーマンも共に、1985年に設立された米国の独立研究機関「放射線と公衆衛生プロジェクト」のメンバーである。
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