フーガ
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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ドニゼッティ:フーガ ト短調 | Fuga | |
ヘンデル:フーガ ホ長調 | Fuga E-Dur HWV 612 | 作曲年: 1717-20, rev.ca.1750年 |
マイアベーア:フーガ | Fuge | |
ペッテション=べリエル:フーガ | Fuga | 作曲年: 1889年 |
ヘンデル:フーガ ヘ長調 | Fuga F-Dur HWV 611 | 作曲年: before 1706?年 |
メンデルスゾーン:フーガ 嬰ハ短調 | Fuge cis-Moll U 51 | 作曲年: 1826年 |
メンデルスゾーン:フーガ 変ホ長調 | Fuge Es-Dur U 57 | 作曲年: 1826年 出版年: 1985年 初版出版地/出版社: Cambridge |
ラフマニノフ:フーガ | Fuga | |
ケルビーニ:フーガ | Fugue | |
モーツァルト:フーガ ト短調(未完) | Fuge g-Moll K.401 K6.375e | 作曲年: 1783年 出版年: 1800年 初版出版地/出版社: Breitkopf & Härtel |
モーツァルト:フーガ 変ホ長調(断片) | Fuge Es-Dur K.153 | 作曲年: 1783年 |
モーツァルト:フーガ ト短調(断片) | Fuge g-Moll K.154 | 作曲年: 1782?年 |
バッハ:フーガ ホ短調 | Fuge e-Moll BWV 960 | |
バッハ:フーガ 変ロ長調 | Fuge B-Dur BWV 954 | |
バッハ:フーガ 変ロ長調 | Fuge B-Dur BWV 955 | |
スクリャービン(スクリアビン):フーガ ホ短調 | Fugue | |
シューベルト:フーガ | Fuge D 952 Op.152 | 作曲年: 1828年 出版年: 1848年 |
パッヘルベル:フーガ ハ長調 | Fuga | |
パッヘルベル:フーガ ニ長調 | Fuga | |
パッヘルベル:フーガ ニ短調 | Fuga | |
シューベルト:フーガ ニ短調 | Fuga D 13 | 作曲年: ca.1812年 |
リムスキー=コルサコフ:フーガ ハ長調 | Fugue | 作曲年: 1875年 出版年: 1951年 初版出版地/出版社: モスクワ |
ショパン:フーガ イ短調
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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ショパン:フーガ イ短調 | Fugue a-Moll KK.IVc/2 | 作曲年: 1841?年 出版年: 1898年 初版出版地/出版社: Leipzig |
作品解説
1827年ごろまたは1841年頃の作品とされている。出版は、ショパンの死後、1898年になされた。
ショパンがバッハを敬愛していたことはよく知られており、数多くの作品に対位法的な手法が見られる。しかし、2分の2拍子のイ短調で書かれ、2声によるこのフーガは、ショパンの諸作品の対位法的な箇所に比べ、比較的簡素な構造をもつことから、弟子の教育のために書かれた作品か、もしくは若いときの習作と考えられている。主題は、属音から主音へと完全4度上行する旋律で開始するため、作曲にあたっては、「変応」が要求される。また、主題の各小節に半音階的な動きが少なくとも1つ見られることは、バッハのフーガを思い返すと、興味深いことに感じられる。
バッハ:フーガ イ短調
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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バッハ:フーガ イ短調 | Fuge a-Moll BWV 947 | 出版年: 1847年 初版出版地/出版社: Peters |
作品解説
19世紀の出版譜(ライプツィヒのペータース社によるバッハ鍵盤作品全集、グリーペンケルル校訂、1847年刊)より古い資料がいっさい失われているため、真贋が疑われる作品。初版となった校訂譜は、フォルケル所蔵の手稿譜に基づいて作られた。
資料状況からバッハの真作であることを証明するのはきわめて困難である。が、様式や書法が単純である、ということは偽作の決定的な証拠にはならない。「フーガ」というタイトルをはずしてみれば、《カプリッチョ》BWV993などと構造上の類似点が見出せるからである。また、八分音符の連打で上行する主題はオルガン用の《幻想曲》BWV571ときわめてよく似ており、曲の後半で平進行や伴奏風の和音が多用されるところも、共通している。
この曲には対比的な3種の動機が見出せる。主題の始まりを確実に知らせる八分音符の同音連打、回音を連ねて徐々に上行・下行する十六分音符、そしてダイナミックな分散和音である。分散和音は曲の終盤にようやく現れる。すると、それまで足踏みしながら少しずつ進んできた音楽が一挙に広がりを持って流れ出す。やがて伴奏も、それまでの楔のトゲのような前打音を吸収して、滑らかな四分音符の連結に昇華される。(このとき特に現代のピアノでは、和音が鋭く、あるいは重くならないよう注意しなければならない。)
フーガとしてみればこのような構成はあまりに単純に過ぎるのだが、闊達なリズムをよく生かした簡潔で愛らしい作品である。
バッハ:フーガ イ短調
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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バッハ:フーガ イ短調 | Fuge a-Moll BWV 958 | 作曲年: 1710?年 |
作品解説
後代の資料のみによる伝承と、やや拙い音楽内容から、疑作とされている。
主題は同音反復とテンポの違う3つの動機を含む。こうした主題は、聴き手にとっては逃すことのない判りやすいもの、作曲家にとっては多声部との組み合わせが容易で扱いやすいものとして、古いフーガの教程が理想的主題と教える種類のものである。しかし、この作品全体の響きは古風と言うよりはむしろ、ヘンデルのような明るい柔軟性をも備えて、バッハよりやや後の時代の音楽を思わせる。また、声部書法が厳格に守られず、4つめの声部が処々に現れては消えてしまう。さらに、バッハの円熟期のフーガに必ず現れる中間の完全終止は、この曲では全体の5分の4を過ぎたところでようやく発生する。しかもG-Durという遠隔の調であるので、残り12小節で主調へとうまくまとめるには、やや展開を急がねばならなくなった。
バッハの他の作品と比べてみると、摸続進行や平進行、単純な反復が目立つ。真の作者は明らかでないが、おそらくそれはJ. S. バッハではない。とはいえ、ここにはバッハのあまりに精緻なフーガ作品にないのびやかさと、氾濫する常套句ゆえの安心感とがある。演奏技術をそれほど要求しないので、フーガの練習用としても親しみやすい作品である。
バッハ:フーガ イ短調
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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バッハ:フーガ イ短調 | Fuge a-Moll BWV 959 | 作曲年: 1710?年 |
作品解説
これがバッハの作ではあり得ないことは音楽内容から明らかである。しかし、この作品を音楽的に「拙い」と断定するのは、必ずしも正しくない。〈フーガ〉としてみれば確かに対位法的展開はおろか、声部書法もままならないようであるし、ポリフォニーとは相容れないような三和音の連続や摸続進行などを多用する。そもそも、主題からして対位法的展開に向いているとは言い難い。
しかし、フーガ主題が率いる各セクションのまとまりは明確であり、結部で次の主題の入りを準備する。その和声進行や音域変化の緊張感はドラマティックですらある。この作品はフーガというよりはむしろ、フーガ風書法を用いた小品、というべきであろうし、そのようにみれば、各部であっさりと使い捨てされる音型は――展開が足りないのではなく――むしろ創造力に富んでいるということもできよう。
バッハ:フーガ イ長調
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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バッハ:フーガ イ長調 | Fuge A-Dur BWV 949 | 作曲年: about 1707-13年 出版年: 1843年 初版出版地/出版社: Peters |
作品解説
「メラー手稿譜」に伝えられる。「メラー手稿譜」の通称は、表紙に所有者メラーの名が記されていることに由来するが、幼少のバッハを引き取ったオールドルーフのオルガニスト、ヨハン・クリストフがその大部分を作成した。北ドイツのみならず、イタリア、フランスの作品が断片を含めて54曲収められている。その中にヨハン・ゼバスティアン・バッハの作品が12曲、バッハ自身が書きつけた部分も含まれ、バッハの筆跡を知る上でも貴重な資料である。(なお、これと同時期ほとんど同様の成り立ちをしたものに、「アンドレーアス・バッハ本」がある。この2冊は直系の弟子から弟子へと引き継がれていった。)
〈フーガ〉イ短調BWV949は、一部の文献で今も疑作とされているが、メラー手稿譜にははっきりとヨハン・ゼバスティアン・バッハの名が冠されている。典型的な初期のスタイルで、すなわち主題提示を行わない自由な展開部分(エピソード)がほとんどなく、曲の終わりは主題とあまり関連のない走句によって締めくくられる。しかし、対位法技法に関しては意欲的で、主題の素材から作られた対位主題が2つ用意されている。対位主題の使用は、バッハの創作史においてこの曲がほぼ初の試みである。主題はひじょうによく際立つ同音連打で始まり、刺繍音(例えば第2小節の最初の16分音符の h 音や第2拍の cis 音のように、凹型ないし凸型に音を飾る非和声音)を伴う動機で緩やかに5度上行する。この刺繍音の動機はいたるところに散りばめられ、全曲を通じてつねにどこかでこの音型が聴こえている、といっても過言ではない。その所為でいささか単調になっているのは否定できない。が、主題の導入は音域やテクスチュアを工夫していつも周到に準備される。とりわけ、コーダの直前のバスにおける提示(第74小節)は劇的ですらある。コーダ部分には「ペダル」と記された低音があり、第80小節の dis 音に関しては移高ないしソステヌート・ペダルが必要だが、最終4小節は両手のみで演奏可能である。全体が明澄で、演奏効果の高い作品といえる。
バッハ:フーガ イ長調(アルビノーニの主題による)
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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バッハ:フーガ イ長調(アルビノーニの主題による) | Fuge über Thema von Tomaso Albinoni BWV 950 | 作曲年: about 1725年 出版年: 1866-67年 初版出版地/出版社: Peters |
作品解説
主題の出典は、アルビノーニの『トリオ・ソナタ集』Op.1(ヴェネツィア、1694)の第3番第2楽章で、元はヴァイオリン2本と通奏低音による曲である。バッハは主題以外にもいくつかの素材を借用した。たとえば冒頭第3小節、主題に続く16分音符は、原曲では対位主題として用いられた旋律である。が、バッハはこの作品で明確な対位主題を設定していない。むしろ、つぎつぎ現れる主題をくっきりと聴かせつつ曲を劇的に進めるため、広い音域にわたる簡明なテクスチュアを選択している。お陰で、いわゆる「主題の入り」は、奏者が特別に力を込めなくとも、声部の増減や瞬間的な音域の変化によって明確になる。全体は主題の提示を中心に組み立てられ、主題素材の念入りな展開や複雑な対位法技法などは見られない。主題がトリルを伴って終止すると、続く部分は早くも次の主題を準備するために走り出すのである。
息をつかせないような奔流は、第75-79小節のストレッタでクライマックスを迎え、第85-88小節の分散和音を経てたどり着いた属和音で、緊張感を保ったまませきとめられる。休符のあとは、もはやおし留めることの叶わない勢いで鍵盤を端から端まで駆け巡り、低音のペダルポイントの上ではさらに激しさを増す。この目くるめく加速感は、ドイツの鍵盤音楽の伝統に典型の終結の手法である。ただし残念なことに、現代のピアノでこのペダルポイントと分散和音のフィギュレーションを完全に演奏することはきわめて困難で、ソステヌート・ペダルを活用するか、音域を変更する必要がある。
バッハ:フーガ ト長調 (コラール「神よ、慈しみをもって我を遇し」に基づく)
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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バッハ:フーガ ト長調 (コラール「神よ、慈しみをもって我を遇し」に基づく) | Fuge nach einem Choral "Mach's mit mir, Gott, nach deiner Güt" G-Dur BWV 957 |
作品解説
長らく真贋が議論され、位置づけの定まらない作品であったが、バッハの初期のコラール編曲を集めた写本「ノイマイスター・コラール集」に含まれていたことから、2つの点についていちおうの結論が導かれた。まず、これがバッハの真作である可能性がきわめて高い、ということ、そして、この作品は単なるフーガではなく、コラール旋律を主題に持っているということである。
旧バッハ全集にも収載されたが、旋律があまりに変形を加えられているため、この曲の主題の出所に誰も気づかなかった。バッハの『4声のコラール集』(1784-87, C. P. E. バッハおよびキルンベルガー編)に含まれるコラール《神よ、慈しみをもって我を遇しMach's mit mir, Gott, nach deiner Güt》(BWV377)の最上声部と比べてみると、ゆるやかに上行して下行するアーチ型旋律、という以外にはあまり共通する特徴がない。しかし、「ノイマイスター・コラール集」の稿では最後に、四声体のコラールがおかれており、この曲の出自を明らかにしている。(旧全集が参照した資料はこの四声体コラールを持たなかった。)
タイトルとしては〈フーガ〉とのみ伝承されているが、よくみると、フーガの書法としてはいささか奇妙であることに気づく。最初の主題提示では主調が2回連続する。各声部は本来、主題をもってその最初の登場を飾るのであるが、この曲の3つめの声部となるソプラノは、間句で主題動機の断片を担うのが初仕事である。また、最後にバスで再現される主題は下属調である。この最終提示には対旋律と呼べるものがなく、右手は単純な三和音を打ち鳴らす。こうした書法はしかし、コラール編曲であるとすれば納得がいく。コラール編曲では、フーガの厳格な実践よりもコラール旋律の提示を優先させることが許されるからである。
この作品は所収資料の「ノイマイスター・コラール集」によって身元が判明したかに見えるが、じつは真作であると完全に保証されたわけではない。疑作との意見も根強く、未だに真贋問題には決着をみない。また、コラールを扱っている点からオルガンを想定したものと考えられるが、演奏はどのような楽器でもできるように書かれている。従って依然として曖昧な点が多い。しかし、鍵盤の幅いっぱいにころころと主題が上り下りし、音域の変化によって響きが刻一刻と色を変え、上行下行の切り替わりによって緊張感が生まれる。こうした効果は、オルガン、チェンバロ、また現代のピアノ、どんな楽器でもそれぞれ異なった音色で楽しむことができるだろう。
バッハ:フーガ ニ短調
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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バッハ:フーガ ニ短調 | Fuge d-Moll BWV 948 | 作曲年: 1709-11年 出版年: 1843年 初版出版地/出版社: Peters |
作品解説
2声のカノンで始まり、13小節(ほぼ見開き2ページ)に渡る華麗なカデンツァに終わる作品。主題は前半が八分音符、後半が坦々と進む十六分音符から成り、全体は主題から導かれる動機によって展開される。調的な冒険が随所に見られ、とくに終結部では摸続進行によって五度圏を一巡する。
この曲は、現在では疑作とされている。その根拠は、対位法や転調のぎこちなさ、演奏不可能なペダル声部、いささか唐突な終結部の走句など、様式上の判断による。しかし、非常に多くの筆写譜で伝えられており、バッハに近い場所で成立し、実践の中で伝承されたことは間違いない。
バッハ:フーガ ハ長調(アルビノーニの主題による)
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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バッハ:フーガ ハ長調(アルビノーニの主題による) | Fuge C-Dur BWV 946 | 出版年: 1866-67年 初版出版地/出版社: Peters |
作品解説
主題は、『トリオ・ソナタ集』作品1(1694、ヴェネツィア)第12番終楽章による。この曲集から主題を借りたフーガは全部で3曲あり、ほぼ同時期、ヴァイマール赴任以前の作曲とみられる。これら初期作品群のフーガの特徴としては、主題提示に明確なデザインがないこと、曲の最後にトッカータ風の走句をおいて締めくくることが挙げられる。主題提示のデザインが不明瞭であると、主題を各声部が提示する部分と自由な動機展開を行う部分(エピソード)の交代が明確でない、さらにいうなら、エピソード部が存在しないようなフーガになる。また、しばしば摸続進行やカデンツが紋切り型で冗長に感じられる。「アルビノーニ・フーガ」の最後の作品であるBWV951は大幅な改訂を加えてBWV951aに書き直されるが、その際、終結部の走句も含めて古い常套句が排除された。改訂はヴァイマール時代と推測され、すなわちバッハ自身が自らの「初期」フーガと意識的に決別したのがこの頃、ということになる。
BWV946は、創作史のとりわけ初期に習作として書かれたようだ。声部はあまり厳格に維持されず、対位法技法にも、対位主題や転回などの特別な技巧は見られない。時に2声部に減じるにも拘らず、全体がどこか重厚に感じられるのは、主題に対位される声部がリズムや旋律形の上でコントラストを生まないことに原因がある。そこで奏者には、ハ長調のきわめて明澄なアーチ型主題をくっきりと際立たせるよう注意が求められるだろう。
また、チェンバロやピアノで演奏する場合には終結部の4小節半の最低声部に、オクターヴ移高など何らかの手を加えなければならない。
バッハ:フーガ ハ長調
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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バッハ:フーガ ハ長調 | Fuge C-Dur BWV 952 | 作曲年: 1720?年 出版年: 1843年 初版出版地/出版社: Peters |
作品解説
伝承経路が明らかでないために、近年は疑作として扱われることが多い。しかし、《平均律》第2巻第1番BWV870/2、《ヴィルヘルム・フリーデマン・バッハのための音楽帳》第31番のハ長調のフーガBWV953と、構成や雰囲気に類似点が多く、J. S. バッハの真作である可能性はきわめて高いと考えられる。
全体は、3声の主題提示が完結する第5小節以降、2部に分かれる。その中心となるのが第23小節のe-Mollの完全終止である。ここまではd-Moll、a-Mollなど短調をめぐる間句、この中間のカデンツ以降はF-DurからC-Durへと戻る長調の領域である。
前半にも明確な完全終止がたびたび現れる点では、フーガBWV953よりも《平均律》第2巻第1番BWV870/2に近いが、e-Mollのカデンツを楽曲の中間の終止とするところは、フーガBWV953の姉妹作品であるかのように見える。いずれにせよ、バッハのハ長調フーガのひとつの典型をみせる作品である。
バッハ:フーガ ハ長調
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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バッハ:フーガ ハ長調 | Fuge C-Dur BWV 953 | 作曲年: 1723?年 出版年: 1843年 初版出版地/出版社: Peters |
作品解説
《ヴィルヘルム・フリーデマン・バッハの音楽帖》に第31曲として含まれる作品。曲集等には拾遺されず残された。全体の構成や音楽の雰囲気から、《平均律クラヴィーア曲集》第2巻第1番BWV870/2のフーガを思わせる。この作品はあるいは《平均律》の候補作であったのかも知れない。
フーガの中間の切れ目は第22-23小節にかけてのe-Moll完全終止に生じる。3声の主題提示が行なわれたのちは、この完全終止を中心としてほぼシンメトリックに作られている。しかし、最初の主題提示は明確な完全終止をとらず、第7小節では通過点としてやり過ごされ、第10小節では終止音をオクターヴ下げるというごく単純な手法によって終止感が得られない。明確なカデンツはようやく第14-15小節のa-Mollに起こる。ここからd-Mollを通って長いe-Moll領域へと入っていく。そうして中間の完全終止が訪れる。以降は一転して長調へ向かい、G-Durを高音域で明るく響かせたのち、自然な和声進行の内にC-Durが復帰して、バスに主題を再現して終止となる。
登場する調はいずれも近親調の範囲であり、奇をてらった転調や進行は現れないが、それだけに安定感と明澄さを保っている。
バッハ:フーガ ホ短調
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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バッハ:フーガ ホ短調 | Fuge e-Moll BWV 945 |
作品解説
《アルマンドとクーラント》BWV838と同じ筆写資料によって伝えられる作品。疑作とされる。バッハの真作である可能性は閉ざされていないが、その証明はおそらくほとんど不可能である。
音楽様式からは一見して、真の作曲者が他にいるように思われる。主題は倚音を含む2度進行で開始し、オクターヴ跳躍を繰り返す。すでにフーガとしての展開可能性が期待できない主題造形である。それでも後半には16分音符で下行する新しい動機が主題と組み合わされて展開する。
全体の和声にもバッハ典型の巧みさはみられないが、各主題提示は大胆な進行によって終止に導かれる。素朴な主題そのものと相まって、どこか古風な響きのする作品である。
バッハ:フーガ ホ短調
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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バッハ:フーガ ホ短調 | Fuge e-Moll BWV 956 |
作品解説
J. P. ケルナーの弟子が写した手稿譜を唯一の資料として伝えられる。ケルナーはバッハと同時代の人でバッハの作品をコレクションしていたのだが、その弟子の筆写となると、ケルナー自身の作である可能性がひじょうに高くなる。
しかし、全体にはバッハらしい特徴がいくつか見られる。まず、この種の摸続進行と同音連打を含む主題は、ヴァイマール時代以前によく用いたタイプである。また、3声の主題提示を一通り終えたのちは、主題提示のあいだに長い自由句が挿入される。これは、バッハの初期のフーガの特徴である。(《平均律クラヴィーア曲集》など中後期の様式では、主題提示はまとまって行なわれ、いわば主題グループを繋ぐように自由な展開部分が現れるようになる。)さらに、楽曲のほぼ中央、第35小節に平行長調へ転じる明確な完全終止がおかれる。フーガのなかに完全終止をおいて、フーガにシンメトリーを与える手法は、バッハが後年に確立する形式であるが、すでにここに萌芽がある。
摸続進行や3度の平進行のために単調で陳腐な響きとなってしまった部分は否めないが、半音階や巧みな和声進行も垣間見え、たとえ誰の作であったにせよ味わい深いフーガとなっている。
バッハ:フーガ ロ短調(アルビノーニの主題による)
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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バッハ:フーガ ロ短調(アルビノーニの主題による) | Fuge über Thema von Tomaso Albinoni BWV 951/951a | 作曲年: 1710?年 出版年: 1866-67年 初版出版地/出版社: Peters |
作品解説
主題はアルビノーニの『トリオ・ソナタ集』Op.1(ヴェネツィア, 1694)第8番第2楽章より借用された。3つのいわゆる「アルビノーニ・フーガ」(BWV946, 950, 951)のなかで、もっとも大規模かつ重々しいフーガ。バッハの最初期のロ短調作品でもある。バッハは後年、ミサ曲を初めとする厳粛な作品をロ短調で生み出したが、その萌芽をここに見ることができよう。
この曲には徹底的に書き直した後期稿 BWV951a が存在する。生硬な対位法や禁則進行を修正し、古いカデンツ定型や常套句は排除された。調構造を見直して新しいセクションを加え、さらに明確な再現部を設けて、初期稿の即興的な流れをシンメトリックな労作へと作り変えた。全体の雰囲気や構成に変化はないが、初期作品にしばしば見られるような古臭さや冗長さを取り除いて、充分に熟した様式に改められている。
バッハは大改造のあともライプツィヒ時代に至るまでずっと手を入れ続けたようで、細部の異なる稿がさまざまの筆写譜に残っている。また、BWV951と951aは後世の手稿資料にもしばしば対で現れ、多くの音楽家がバッハの改訂の軌跡を追う好例として研究したとみられる。同じくロ短調による初期作品《幻想曲》BWV923との取り合わせはバッハによるアイデアではないと思われるが、いくつもの資料に伝えられており、この作品が実践の中で広く受け継がれたことを物語っている。
バッハ:フーガ 変ロ長調 (ラインケンの主題による)
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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バッハ:フーガ 変ロ長調 (ラインケンの主題による) | Fuge nach Reinken B-Dur BWV 954 | 作曲年: before 1717年 出版年: 1880年 初版出版地/出版社: Peters |
作品解説
ヤン・アダム・ラインケン(1623-1722)はハンブルクの教会オルガニストで、バッハの時代にはオルガン芸術の巨匠として名を知られていた。1720年にバッハがハンブルクに求職した時、ラインケンは試験演奏に接し、伝統的な技法を自在に操るバッハの技量を絶賛したという逸話が伝えられている。
BWV954のフーガは、それより少し前、ヴァイマールで過去の音楽作品を研究していた時期に生まれた。原曲はラインケンの器楽アンサンブル曲集『音楽の園 Hortus musicus』(1687)、ハンブルク)第2番。元はヴァイオリン2パート、ヴィオラ・ダ・ガンバ、チェンバロの4パートを想定しており、ソナタと組舞曲を1セットとする30曲から成る。舞曲はアルマンド、クーラント、サラバンド、ジグの基本4曲、ソナタは緩い序奏部、フーガ、自由展開部に分かれる。バッハが用いたのはこのソナタのフーガ主題で、原曲ではヴァイオリンが受け持っていた。バッハは主題後半、同音反復の部分を回音に変更している(第3-4小節)。これは、ヴァイオリンの語法から鍵盤の語法への転換である。全体はこの主題素材から紡ぎだされる。
この曲に関する記事でしばしば「編曲」とされているのは正確でない。バッハは巨匠の主題から新たに独自のフーガを書いた。そこには、柔軟で明澄なバッハ独特のスタイルがすでに芽吹いている。最低声部は主題提示やバス音の保持だけでなく、細かな音型を連ねて対位法に参入する。即興風の単調な摸続進行や掛留は出来るだけ排除されている。終結部分は唐突な中断や分散和音のフィギュレーションなどがなく、最低声部での主題提示の後をすっきりとまとめている。
ヴァイマール期のクラヴィーア・フーガには、初期様式からの脱却が明らかにみてとれる作品群があるが、この曲もそうした中のひとつである。
バッハ:フーガ 変ロ長調 (エルゼーリウスの主題による)
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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バッハ:フーガ 変ロ長調 (エルゼーリウスの主題による) | Fuge nach Erselius B-Dur BWV 955 | 作曲年: before 1717年 出版年: 1880年 初版出版地/出版社: Peters |
作品解説
ここに名を残している「エルゼーリウス」がいったい誰なのか、ということは現在、問い直されている。ト長調の稿BWV955aを伝える筆写資料に「フライベルクのオルガニスト」と書き込まれたことが混乱の原因となった。これを受けて旧全集では「J.C. エルゼーリウス」とされたのだが、この人物はバッハよりも完全に一世代あとの音楽家であるから、実際には当てはまらない。もっとも、バッハの創作史や伝記を再構築する上で「エルゼーリウス」についての関心は尽きないのだが、この作品を演奏する上では主題の原曲の作者はあまり問題ではないだろう。
BWV955はヴァイマール以前の初期フーガの一つとして、古いスタイルを残している。主題素材によらない単調な摸続進行や装飾音型、声部の独立性を乱す三和音など、熟し足りないところも散見される。しかし、朗々とした四分音符の主題と十六分音符の装飾的なフィギュレーションの絡み合いが、全体を簡明で判りやすいものにしている。また、音域とテクスチュアも刻々変化し、低音域から重々しく始まり、中音域で展開を始め、低音がやんで高音域にきらきらと漂ったあと、ずしりと低音が戻ってくるなど、劇的な演出がなされている。
こうした経過の中で、四分音符の主題は、聞き取るべきテーマというよりも曲全体を支える屋台骨としてやや後景に退いている。そこには、きらびやかな装飾音の可能性が演奏者に開かれているだろう。
フーガ
フーガ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/04/12 15:14 UTC 版)
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フーガ(伊: fuga、遁走曲または追走曲)は、対位法を主体とした楽曲形式[注釈 1]の1つ。
フーガとは
"fuga"(逃走)という語が示すように、各声部が同じ主題をもとに順に「追走」する模倣の技法を特徴とする[2]。基本的に単一の主題にもとづいて展開するが、複数の主題をもつフーガもある(#多重フーガ)[3]。声部間の厳格な模倣が最後まで続くカノン[2]とは区別される。
フーガの形式
典型的なものを示せば次の通りである。
- 提示部(主調) - 嬉遊部 - 提示部(主調以外) - 嬉遊部 ………… - 追迫部(主調)
この提示部ないし追迫部と嬉遊部の関係だけを見ると、リトルネロ形式と非常に似ている。
フーガでは各提示部において、下記のように各声部が同じ旋律を定められた変形を伴って順次奏するのが特徴であるが、普通、回ごとに各声部が違う順序で導入される。
上述のものはあくまでも典型的な例であって、標準的でないもの(主題が複数あるものや、ストレッタを欠くものなど様々)もありうる。
提示部

フーガの大きな特徴は、カノン同様、同じ旋律が複数の声部に順次現れるということである。 この部分を主題提示部(英・仏: exposition)、または単に提示部、主部と呼ぶが、これには次のような原則がある。
- 最初に一つの声部が旋律(フーガでは最初の声部のそれを主唱(英:subject、仏:sujet、伊:soggetto)という)を提示する(そのあと、結句(coda、codetta)と呼ばれる短い自由な経過句が挿入されるのが普通である)。
- 主唱が終わったら、別の声部で主唱を繰り返す。これを応唱(英:answer、仏:réponse)という。このとき、基本的に全体を5度上げるないし4度下げる(正応)。ただし、その中で、属音は、原則として5度上げずに4度上げて(ないし5度下げて)主音にする(変応(へんのう))。これは、主音と属音を入れ替えることが求められるためである。
- 応唱が始まったら、最初の声部ではやや遅れて別の旋律を演奏する。これを対唱(英:countersubject、仏:contre-sujet)という。
- 3声以上ある場合には、第3の声部で主唱を演奏する。まれに応唱を演奏することがある。
- 第2の声部で、対唱を演奏する。対唱は、主唱(応唱)に合わせて変化させられる。
- 最初の声部は自由唱となる。
- 4声以上ある場合には、第4の声部で応唱を演奏する。しばしば主唱を演奏することがある。
- 第3の声部で、対唱を演奏する。対唱は、応唱(主唱)に合わせて変化させられうる。
- 第1、第2の声部は自由唱となる。
- 以下、すべての声部で主唱もしくは応唱を演奏する。
このようにして、提示部が形成される。提示部は一つのフーガの中に異なる調で数回現れる。
追迫部
提示部と、推移的な嬉遊部(英:episode、仏:divertissement)とを繰り返し、最後に追迫部(ストレッタ stretta)が置かれる。追迫部では追迫(主唱が終わらないうちに応唱を導入する)という手法が用いられる。
フーガの種類
声部の数
フーガは声部の数によって二声のフーガ、三声のフーガ、四声のフーガ、五声のフーガ……などと分類される。声部数によって、当然作曲に求められる技法は変化する。
多重フーガ
複数の主題を持って構成されるフーガをその数に従って二重フーガ、三重フーガと呼ぶ。普通のフーガでは対唱の主題性は主唱に比べて低く、2つの旋律が同時に演奏されるにしても主題は1つであると言って良いが、これらのフーガでは同等の主題性を持つ旋律が複数並び立つこととなる。このようなフーガでは、しばしばそれら複数の主題が曲頭から順に提示される(4声の二重フーガの場合は第1主題→第2主題→第1主題(属調)→第2主題(属調)となる)。
反行フーガ
フーガの主題は時として上下転回された形で模倣される。上下転回された主題を、主題の反行形と呼ぶ。最初の提示部での応答が転回されたり(結果として主音と属音が入れ替わる)、第2、第3…の提示部において主題が転回されるなど、反行形の主題の提示位置は様々である。こうした反行形の主題が示されるフーガを反行フーガと呼ぶ。
拡大フーガ・縮小フーガ
フーガの中で、主題がその音価を整数倍に拡大して示される場合、これを拡大フーガと呼ぶ。例えば2倍の拡大であれば、四分音符→二分音符、八分音符→四分音符のように、主題の全ての音符が比例拡大される。同様に主題が音価を縮小されて示される場合、これを縮小フーガと呼ぶ。拡大ないし縮小された主題はしばしば曲の途中から示され、効果的に用いられる。
フゲッタ
小さなフーガの意味である。また、上記の要件を満たさない、フーガ様の楽曲をフゲッタ (fughetta) と呼ぶことがある。
フガート
交響曲や室内楽曲、ソナタなどの一部に現れるフーガ様の部分は、フーガの提示部やストレッタなどの様式・技法を用いて作曲されているが、フーガとしての要件を全て満たしているわけでもなく、また独立した曲ではなくて一つの曲や楽章の部分を成す。こうしたものはフガート (fugato) と呼ばれる。
ソナタ形式の展開部においては、提示部で提示された2つの主題(後期ロマン派に於いては3つの場合もある)がまず転調を繰り返したのち、フーガ様の部分(フガート)を挟み、やがて属音保続でクライマックスを迎えて、再現部に戻る、という構造を持つものが多い。また交響曲の第4楽章に於いては、長大なフーガがその楽章の主要な部分を占めるという楽曲も見られる(モーツァルト: 交響曲第41番「ジュピター」、ブルックナー: 交響曲第5番など)。
オペラでは複数の歌い手が対等に歌う楽曲(または部分)でフーガの構造を持つものがあり、作曲家の手腕の見せ所とされた。ヴェルディ「マクベス」改訂版や「ファルスタッフ」、ワーグナー「ニュルンベルクのマイスタージンガー」などに見られる。
イタリアの各種音楽院がフランスの対位法とフーガの教程を翻訳していたとき、音楽院の教員は模倣形式とフガートへの言及がないことに気づいた。そこで、1930年代からBasso Imitato e Fugatoという模倣形式とフガートのための教材が続々と出版された。教本執筆者のなかにはジャチント・シェルシのアシスタントを務めたヴィエーリ・トサッティ[4]も含まれている。
主要曲
ルネサンス
バロック以前の作曲家、特に教会音楽においては、モテットとして対位法が用いられることが多く見られ、その中の主な様式の一つとしてフーガがあった。
代表的な作曲家として、ジョヴァンニ・ダ・パレストリーナ、ジョスカン・デ・プレ、オルランド・ディ・ラッソなどが挙げられる。
バロック
バロック初期にはリチェルカーレ、ファンタジアなど様々な対位法的な器楽曲が存在したが、後にそれらは一括してフーガと呼ばれるようになった。また前奏曲やトッカータなど即興的作品の一部として挿入されていた対位法的な部分が次第に拡大され、1つの楽章として確立したものもフーガと呼ばれるようになった。バロック後期に活動したヨハン・ゼバスティアン・バッハの作品はフーガの書法における一つの頂点とみなされ[5]、またヨハン・ヨーゼフ・フックスが1725年に発表した理論書『グラドゥス・アド・パルナッスム』は後世まで影響を与えた[6]。
古典派
古典派の時代に入るとフーガは標準的な形式からは外れ、和声的な思考が重視されるにつれてしだいに衒学的、難解でなじみの薄いものとみなされるようになった[5]。しかしフーガは作曲されつづけ、ミサ曲などの声楽曲にはフーガを配置する伝統が残ったほか、ソナタ形式などの楽曲にもフーガが組み込まれることがあった[6]。
- ハイドン: 弦楽四重奏曲集「太陽」 op. 20[注釈 3]
- ハイドン: 交響曲第3番、第13番、第40番、第70番
- モーツァルト: ミサ曲 - K. 139, K. 66, K. 167, K. 262, K. 337、K.427 (大ミサ、未完)
- モーツァルト: 交響曲第41番「ジュピター」K. 551 第4楽章
- モーツァルト: レクイエム K. 626 キリエ(ルクス・エテルナ[注釈 4])、ラクリモーサ(アーメンのフーガのスケッチのみ残存、後世の研究者たちが補作を試みている)、ドミネ・イエス
- レイハ: 36のフーガ op. 36
- ベートーヴェン: 『エロイカ』の主題による変奏曲とフーガ op. 35
- ベートーヴェン: ピアノソナタ第29番「ハンマークラヴィーア」op. 106 第4楽章
- ベートーヴェン: 交響曲第9番 第4楽章 Allegro energico, sempre ben marcato 以降
- ベートーヴェン: ミサ・ソレムニス ニ長調 グローリア、クレド
- ベートーヴェン: 弦楽四重奏のための大フーガ op. 133
ロマン派
- カール・チェルニー: 48の前奏曲とフーガ op. 856
- ベルリオーズ: レクイエム op. 5 サンクトゥス
- ベルリオーズ: テ・デウム op. 22 第1曲、第6曲
- メンデルスゾーン: 6つの前奏曲とフーガ op. 35
- シューマン: 4つのフーガ op. 72
- リスト: BACH主題による幻想曲とフーガ S.529
- フランク: 前奏曲、コラールとフーガ ロ短調 M. 21
- フランク: 前奏曲、フーガと変奏曲 ロ短調 op. 18
- ブラームス: ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ op. 24
- ブラームス: ドイツ・レクイエム 第3曲、第6曲
- ブルックナー: 交響曲第5番 WAB. 105 第4楽章
- ヴェルディ: レクイエム サンクトゥス、リベラ・メ
近代(20世紀前半)
- パデレフスキ: 変奏曲とフーガ op. 23
- ブゾーニ: ショパンのハ短調前奏曲による変奏曲と自由な形式のフーガ op. 22
- ブゾーニ: バッハの断片に基づくコラール前奏曲とフーガ BV 256a[注釈 5]
- レーガー: J.S.バッハの主題による変奏曲とフーガ op. 81
- レーガー: テレマンの主題による変奏曲とフーガ op. 134
- レーガー: バッハの主題による幻想曲とフーガ op. 46
- レーガー: 序奏、パッサカリアとフーガ op. 127
- ドホナーニ: E.G.の主題による変奏曲とフーガ op. 4
- ベルク: ヴォツェック 第2幕第2場
- ウィリアム・シューマン: 交響曲第3番
- ブリテン: パーセルの主題による変奏曲とフーガ op. 34(青少年のための管弦楽入門)
- ウォルトン: スピットファイア 前奏曲とフーガ
- ラヴェル: クープランの墓 第2曲 フーガ[注釈 6]
- バルトーク: 弦楽器と打楽器とチェレスタのための音楽 Sz. 106 第1楽章
- トッホ: 地理的フーガ
- デュリュフレ: アランの名による前奏曲とフーガ op. 7
- デュリュフレ: レクイエム op. 9 キリエ
- ケクラン: バッハの名による音楽の捧げもの op. 187
- メシアン: 幼子イエスに注ぐ20の眼差し 第6曲 それに全ては成されたり
- ヒンデミット: ルードゥス・トナリス
現代(20世紀後半)
ドミートリイ・ショスタコーヴィチがピアノのための『24の前奏曲とフーガ』(1950年-1951年)を作曲して以来[注釈 7]、次のような人物がバッハを踏襲した『24のプレリュードとフーガ』を書いている。
- ロディオン・シチェドリン
- 原博
- ハワード・スケンプトン[10]
- ディミトリー・スミルノフ
- ニコライ・カプースチン
- セルゲイ・スロニムスキー
- ニエル・ヴィゴ・ベンツォン
- ハンス・ガル
- トリグヴェ・マドセン[11]
- フランク・トヴェオル・ノーレンステン (Frank Tveor Nordensten)[12]
- ユリウス・ヴァイスマン
- ディヴィッド・オット[13]
- ヴセヴォロード・ザデラツキー
- ゲオルギー・ムシェル
- マリオ・カステルヌオーヴォ=テデスコ
クラシック音楽以外
- レナード・バーンスタイン: 『ウエスト・サイド物語』クール
- ジョン・ルイス(モダン・ジャズ・カルテット): コンコルド
- ピアソラ: フーガと神秘、フーガ9
- ジョン・ウィリアムズ: 『ジョーズ』檻の用意(シャーク・ケージ・フーガ)
- Giovanni Dettori: レディー・ガガ・フーガ(『バッド・ロマンス』による)[注釈 8]
学習
フーガは対位法の学習課程で重要な位置を占める。かつて19世紀まで、ヨーロッパの主要都市の大聖堂など主だった教会に任務するオルガン奏者は、ミサで用いられる聖歌の旋律の断片をもとに、フーガを即興演奏することが求められた。この伝統は21世紀の現在においてもオルガン奏者に受け継がれている。
ヘンデルにまつわる俗説として、ドメニコ・スカルラッティと即興演奏の公開演奏会で勝負をしたところ、チェンバロでは両者は対等であったが、オルガンでは先にヘンデルが見事な即興フーガを披露し、スカルラッティはそれを聞いただけで自分は演奏せずヘンデルの勝ちを認めたという逸話があるが、これは後世の創作である。またブルックナーは青年時代、リンツ大聖堂のオルガン奏者登用試験で受験者ではなく観客としてそれを聞きに行ったところ、他の受験者たちがフーガ課題で出来が良くなく、審査員の一人でデュルンベルガー (Johann August Dürrnberger) というブルックナーの以前のオルガンの教師が客席にいたブルックナーを見つけて演奏するように仕向けたところ、ブルックナーが見事な即興フーガを披露して他の受験者を凌ぎ、大聖堂オルガニストの座を勝ち取ったという逸話がある。
フランスにおいてはとくにフーガとアカデミズムとの結びつきが強く[5]、フランソワ=ジョゼフ・フェティス、ルイジ・ケルビーニ、テオドール・デュボワ、アンドレ・ジェダルジュといった教師が活動したパリ音楽院において、作曲の訓練のために厳格な規則をもつ形式が発展した。歴史上の実作とは必ずしも符合しないこの規範的な形式は「学習フーガ」(仏:fugue d'école、英:school fugue) と呼ばれ[16]、21世紀に入っても教えられている。
旧ソビエト連邦ではソ連崩壊まで「ピアノ(またはオルガン)のためのプレリュードとフーガ」の作曲が必修であった。ドミートリイ・ショスタコーヴィチは、バッハの『平均律』の解釈をマリア・ユージナから個人レッスンで教わった。その結果生まれたのが『ピアノのための24のプレリュードとフーガ』である。
かつて20世紀の音楽学校ではフーガは必修科目であったが、戦後は対位法学習の旧弊な点が指摘され、徐々にカリキュラムから減らされていった。ルチアーノ・ベリオは「パリベニ (Giulio Cesare Paribeni) のクラスで対位法をやっていたが、たびたび二人きりの授業になった」と語っている[17]。また、ナディア・ブーランジェが目指した最も高い指標に「即興でフーガを作曲すること」がある。
イタリアの各種音楽院もパリ音楽院に倣って、和声法と対位法とフーガの書籍が大量にイタリア語に翻訳された。翻訳のみならずヴィンセンツォ・フェローニのように、1939年[18]には隅々までパリ音楽院のメソッドを輸入[19]していた時期もあった。しかしながら、レナート・ディオニーシが1960年代末から対位法教育の改革に取り組み、現在では16世紀の技法と18世紀の技法を別個に習うよう元に戻されている。ただし、日本はそのまま元に戻ることはなく、現在もパリ音楽院のメソッドが継承されている。
フーガに関する文献
- 山口博史 (2016). フーガ書法~パリ音楽院の方式による~. 音楽之友社.
- 島岡譲 (1984). 音楽の理論と実習 III. 音楽之友社. (絶版)
- Joseph Kerman (2005). The art of fugue: Bach fugues for keyboard, 1715-1750. University of California Press.
- David Ledbetter (2002). Bach's Well-tempered Clavier: The 48 Preludes and Fugues. Yale University Press.
- 市田儀一郎 (1968). バッハ 平均律クラヴィーア I 解釈と演奏法. 音楽之友社.(2012年部分改訂)
- 市田儀一郎 (1983). バッハ 平均律クラヴィーア II 解釈と演奏法. 音楽之友社.
- Hugo Riemann (1890, 1891). Katechismus der Fugen-Komposition: Analyse von J. S. Bachs Wohltemperiertem Klavier und Kunst der Fuge.
- Marjorie Wornell Engels (2006). Bach's Well-Tempered Clavier: An Exploration of the 48 Preludes and Fugues. McFarland.
- Carl Czerny (1837). Die Schule des Fugenspiels op. 400.
- Bruno Zanolini (1993). La tecnica del contrappunto strumentale nell'epoca di Bach. Suvini Zerboni.
- Peter Schubert; Christoph Neidhöfer (2006). Baroque counterpoint. Pearson Prentice Hall.
- André Gédalge (1901). Traité de la fugue.
- Théodore Dubois (1901). Traité de contrepoint et de fugue.
- Alfred Mann (1958). Study of Fugue.
- ザロモン・ヤーダスゾーン, 戸田邦雄訳注 (1952). カノンとフーガ-典則曲および遁走曲教程. 音楽之友社.
- Ebenezer Prout (1891). Fugue.
- ルイジ・ケルビーニ, 小鍛冶邦隆訳 (2013). 対位法とフーガ講座. アルテスパブリッシング.
- 池内友次郎 (1977). 学習追走曲. 音楽之友社.(2024年に『学習フーガ』として再刊)
- Charles Koechlin (1933). Étude sur l'écriture de la fugue d'école.
- Marcel Dupré (1938). Cours complèt de fugue.
- マルセル・ビッチ、ジャン・ボンフィス, 池内友次郎監修, 余田安広訳 (1986). フーガ. 白水社(文庫クセジュ).
- Graves, William L., Jr. (1962). Twentieth Century Fugue. Washington, D.C.: The Catholic University of America Press. OCLC 480340.
- Kivy, Peter (1990). Music Alone: Philosophical Reflections on the Purely Musical Experience. Ithaca: Cornell University Press. ISBN 0-8014-2331-7.
- Ratner, Leonard G. (1980). Classic Music: Expression, Form, and Style. London: Collier Macmillan Publishers. ISBN 9780028720203. OCLC 6648908.
- Ratz, Erwin (1951). Einführung in die Musikalische Formenlehre: Über Formprinzipien in den Inventionen J. S. Bachs und ihre Bedeutung für die Kompositionstechnik Beethovens [Introduction to Musical Form: On the Principles of Form in J. S. Bach's Inventions and their Import for Beethoven's Compositional Technique] (first edition with supplementary volume ed.). Vienna: Österreichischer Bundesverlag für Unterricht, Wissenschaft und Kunst.
- Verrall, John W. (1966). Fugue and Invention in Theory and Practice. Palo Alto: Pacific Books. OCLC 1173554.
- Walker, Paul (1992). The Origin of Permutation Fugue. New York: Broude Brothers Limited.
- Walker, Paul Mark (2000). Theories of Fugue from the Age of Josquin to the Age of Bach. Eastman studies in music 13. Rochester: University of Rochester Press. ISBN 9781580461504. OCLC 56634238.
脚注
注釈
- ^ ただし定まった楽式があるわけではなく、実際にはむしろ作曲技法もしくは演奏様式の1つと考えられる[1]。
- ^ 第1部の序曲後半、"And He shall purify"、"His yoke is easy"、第2部 "And with His stripes"、"He trusted in God"、終曲 "Amen" などがフーガの形をとる
- ^ ヨハン・ヨーゼフ・フックスの対位法理論書「グラドゥス・アド・パルナッスム」の影響が顕著に見られる
- ^ 同じ曲の歌詞違い
- ^ 『対位法的幻想曲』(Fantasia contrappuntistica) BV 256 のフーガを中心にした短縮版
- ^ ピアノ版のみ。オーケストラ版には無い
- ^ ヴセヴォロード・ザデラツキー (Vsevolod Zaderatsky) の『24の前奏曲とフーガ』は強制収容所で過ごした1937年から1939年にかけて書かれ、ソ連崩壊後まで公にならず初演は2015年に行われた[9]。
- ^ 2011年4月にYouTubeに投稿された動画で発表され、レディー・ガガ本人もTwitter上で言及している[14]。デヤン・ラジッチが2011年のBBCプロムスでアンコールとして演奏し[15]、ハル・レナードから複数の編曲が出版されている。
出典
- ^ 久保田慶一編『バッハ・キーワード事典』(春秋社、2012)p. 163, ISBN 9784393930281.
- ^ a b 柴田南雄, 遠山一行 総監修 (1996), “フーガ”. ニューグローヴ世界音楽大事典. 15. 音楽之友社. pp. 7-9
- ^ The Harvard Dictionary of Music, 4th ed. Harvard University Press, 2003. p. 336.
- ^ Sansuini, Roberto, Calderoni, Caterina: Il Basso Imitato E Fugato. Elementi Per Lo Studio E La Composizione, Edizione Ricordi E.R. 2933, p.46
- ^ a b c “フーガ”. ニューグローヴ世界音楽大事典. pp. 10-12
- ^ a b Walker, Paul. (2001), “Fugue”, in Sadie, Stanley, ed. The New Grove Dictionary of Music and Musicians, 9 (Second ed.), Oxford University Press, pp. 328-329
- ^ Peter O'Hagan (2016), Pierre Boulez and the Piano: A Study in Style and Technique, Routledge. pp. 101-103.
- ^ Amy Bauer (2016), Ligeti's Laments: Nostalgia, Exoticism, and the Absolute, Routledge. p. 68.
- ^ 塩野直之『ザデラツキーと『24 の前奏曲とフーガ』』 33/34巻、Slavistika : 東京大学大学院人文社会系研究科スラヴ語スラヴ文学研究室年報、2018年、51-60頁。hdl:2261/00077061。 NAID 120006630014 。
- ^ “24 Preludes & Fugues”. www.youtube.com. www.youtube.com. 2021年7月19日閲覧。
- ^ “24 Preludes & Fugues”. www.prestomusic.com. www.prestomusic.com. 2021年7月19日閲覧。
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- ^ “24 Preludes & Fugues”. www.depauw.edu. www.depauw.edu. 2021年7月19日閲覧。
- ^ The epic Baroque Fugue on a Theme by Lady Gaga - classicfm.com. 2022年4月17日閲覧。
- ^ Lady Gaga - Bad Romance (Lady Gaga Fugue arr. Dettori) - bbc.co.uk. 2022年4月17日閲覧。
- ^ Walker, Paul. (2001), “Fugue d'école”, in Sadie, Stanley, ed. The New Grove Dictionary of Music and Musicians, 9 (Second ed.), Oxford University Press, p. 332
- ^ D・オズモンド=スミス;ベリオ『現代音楽の航海者』(青土社)p.14, ISBN 4-7917-5645-2より
- ^ “Corso di Contrappunto e Fuga”. www.picclickimg.com. www.picclickimg.com. 2021年4月14日閲覧。
- ^ “Corso di Contrappunto e Fuga”. www.picclickimg.com. www.picclickimg.com. 2021年4月14日閲覧。
外部リンク
- Fugue - Grove Music Online
- フーガの楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト
- Fugue Treatises, Analyses and Tools - kunstderfuge.com
- Michel Baron - Cours de Fugue - musimem.com
- 校長の研究室 - 作曲理論研究1「フーガの書法」 - 洗足オンラインスクール・オブ・ミュージック
フーガ(ホ短調、2分の2拍子)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/13 17:40 UTC 版)
「前奏曲とフーガ ホ短調 BWV 548」の記事における「フーガ(ホ短調、2分の2拍子)」の解説
3部分からなり、第1部分と第3部分は4声のフーガである。主題となる第1部分はテノール-アルト-ソプラノ-バスの順に、固定対位句を伴って提示される。第2部分はトッカータ風、第3部分は第1部分がそのままの形として再現される。なお、フーガ主題はペダルで演奏される際には一部音が省略されている。
※この「フーガ(ホ短調、2分の2拍子)」の解説は、「前奏曲とフーガ ホ短調 BWV 548」の解説の一部です。
「フーガ(ホ短調、2分の2拍子)」を含む「前奏曲とフーガ ホ短調 BWV 548」の記事については、「前奏曲とフーガ ホ短調 BWV 548」の概要を参照ください。
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