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冷たい熱帯魚
2011年02月12日

2011_0211_223629-DVC00002.jpg多く映画を観てると、忘れたころにとんでもないゲテモノにぶち当たることがある。
この映画は、車に乗ってもいないのに「チンさむロード」を疾走している錯覚を覚えるくらい、股間がスーッと縮こまる「トンデモ映画」であります。

面白い映画だけど、ジェントルメンとしては御婦人にはとてもオススメできません。
「中坊はダメよ」のR-18というのも当然。 

サクッと簡単に言うと、熱帯魚屋の店主が、猟奇殺人事件に巻き込まれる話。

93年に起きた埼玉愛犬家連続殺人事件てのがありましたね。 (ペットショップの経営者夫婦が、トラブルになった顧客を相次いで殺害し、遺体をバラバラにして遺棄。 4人が犠牲になった。)
これが元ネタで、モチーフを「犬」から「熱帯魚」に変えてあります。  

それでは皆の衆、覚悟はよろしいかな。


主人公は町で小さな熱帯魚屋を営む社本(しゃもと)信行。演じるは吹越満。
妻・妙子(神楽坂恵)、娘の美津子(梶原ひかり)と3人暮らし。

妙子は前妻が病死した後に結婚した後妻である。
その気もないのに家の中で胸見せルックを着てSEXYビームを放ちまくってるが、同時に「毎日が不満」ビームの放出もハンパではない。
(こんなの、私の望んだ結婚生活じゃない・・・)

ごっそり買いこんだ冷凍食品をレンジに乱暴にぶち込む。
それが彼女の「ザ・料理」。
夫婦仲は良くもねー、悪くもねー。

美津子は継母が嫌いだ。
タバコ臭いし、ハレモノに触るというより、関わろうとしない態度がイラつく。
メシ時にケータイでくっちゃべろうが、男と深夜まで遊び歩こうが、父も継母もなにも言わない。
それが余計に「イーッ」となる。

社本にすれば、ささやかでも愛する妻や娘と楽しく笑いながら暮らせればよかった。
なのに現状は、感情を爆発させるなんてとんでもないと、ギスギスしあう妻と娘に気を使いながら、冷え切った家族生活をやり過ごす毎日だ。
言いたいことを言い、怒ったり、ましてや暴力だなんて社本にはあり得ないのである。

ある日、美津子がスーパーで万引きをして捕まった。
その場を穏便に済ませてくれたのが、スーパーの店長の知りあいの村田幸雄(でんでん)というオッサンである。

村田もまた熱帯魚屋である。 それも社本の店など勝負にならない大型店。
その名もアマゾンゴールド めちゃめちゃ効く栄養ドリンクのような店名。
フーターズのウェイトレスみたいなカッコをしたギャル数人が接客をしている。 

でかい声でたまに親父ギャグを放り込みながら、とめどもなくしゃべり続け、ムダなハイテンションをまき散らす、一見、八百屋の大将ふうキャラのオッサン村田
かなり年下でドSな色気を放つ愛子(黒沢あすか)を妻に持ち、愛車は真っ赤なフェラーリ360
「なにもかも手に入れました」みたいな村田は、言動からして自信満々で俺様カラーを前面に出す。

相手に思考させるヒマを与えない、怒涛のトークで自分のペースに引きずり込む村田の調子に、いつの間にやら社本は彼が持ちかけてきた“儲け話”に付き合わされることに。

事務所で社本村田、愛子が見てる前で、1千万もするはずがない熱帯魚をまんまと買わされそうになってる男が愛子の仕込んだ毒入りドリンクで悶絶死する。
目の前で人が突然死ぬという状況に混乱する社本だが、村田のオッサンは「やったやったあ!ざまあみろ!」とはしゃぎ倒している。

自分で冷静に考えられない社本村田のイケイケドンドンに巻き込まれ、遺体運びを手伝い、山奥の廃屋へ。  
そこの風呂場で始まる死体の解体ショー。

村田
と愛子は鼻唄を唄い、下ネタでキャッキャと盛り上がりながら、楽し~く死体を切り刻んでいく。 
手なれた要領で様々な刃物を使い分けてチャッチャと作業をこなす彼らの手によって、あれよあれよという間に人の形をしていた物が、肉切れと骨のパーツへと変貌していく。

ここで、「バレないための死体のバラし方のコツ・3ヶ条」です。 みなさんも、ぜひ覚えておいてください。
「肉と骨は別々に分けるべし」
「肉はできるだけ細かく切るべし」
「骨は灰になるまで焼くべし」

今にも血の鉄くささが香ってきそうな地獄絵図は劇中、計3度繰り返されます。
このあたりの描写が、「抑え過ぎず、かつ、やり過ぎない」という、悪意がたんまりこもったサジ加減で描かれているのです。

血!
血! 血! 血! 血! ちぃーっ!!
ヘタなホラー映画ではまず拝めない血の大海原でアップアップと溺れる気分に浸って下せえ。 

「おーい、社本~、これが肝臓だぞ~、ほれほれ~」村田のオッサン。
やめんかい!そういう悪ふざけは!

「あんた、これ、オチンチン。」と愛子。
「ほんとだ。 えいっ!このやろっ!」と、オチンチンを床に叩きつける村田のオッサン。
やめんかい!そういうコントは!


これまでにもいろんな映画でサイコキラーが出てきたが、この村田幸雄もまたキョーレツ。
自信過剰な思い切りの良さ。 強引な自己正当化。
臆することなく人を痛めつけ、命を奪い、死体損壊を嬉々とやりこなす異常なオヤジを演じる怪優でんでんに誰もが圧倒されるでしょう。
血まみれでケラケラ笑う黒沢あすか嬢も凄いです。

言いたいことは言う。 やりたい時はやる。
気さくなおっちゃんと、悪魔の大王な二面性を使い分けて、たとえやり方が非道でも人生の勝ち組だった村田
その真逆が社本である。

自分の理想とする家庭のためには妻にも娘にも、ある程度の我慢、寛容は必要なのだと。
怒りや暴力なんてナンセンスなのだというスタンスでいた彼の思う「素晴らしき世界」は、ぬるま湯の中で熱帯魚が泳ぐ、ちっぽけな水槽なのだ。
社本はもちろん、妙子も、美津子も皆、甘ったれたハコの中で、自分を冷たいウロコで覆っている、死んだ目の生き物ではないか。

そんな社本の前に現れた独善の鬼は、彼の信じるきれいごとを全否定し、世の中に勝つってのはこうだということを叩きつける。
そして「こっち」にいた社本は「あっち」に振り切れてしまうのです。

「言いたいことがあるんなら言え!このクソ女房!」
「親の言うことを聞け!バカムスメ!」

「人生ってのはなあ、痛いんだよぉぉぉーっ!!」
今頃、気がつきましたか・・・。


エグい! ヤバい!
オープニングからラストまで全編に吹き荒れるサディズムのハリケーンに、果たして貴方は飛ばされずに耐えられるかぁー!!

「賢人のお言葉」

 「道徳なんてものは意気地なしで社会に生存できない奴が自分を保護する武器に作ったものだ。」  内田魯庵

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