2024 映画ベスト二十選~邦画の巻
2025年01月05日
昨年の邦画は良作が多かったですねえ。
確かに、洋画が押されるのも無理もないですかね。
しかしですね。
昨年の邦画の興行収入のベスト10の中でアッシが観たのは7位の「変な家」だけ。 しかもイマイチな映画。
1作目以外観てないシリーズものの「キングダム 大将軍の帰還」(3位)もTVドラマの延長の「ラストマイル」(5位)も観てません。
「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」(8位)はハナから興味外。
コナン(1位)もハイキュー(2位)もSPY✕FAMILY(4位)もガンダム(6位)もドラえもん(9位)もヒロアカ(10位)も観てない。
・・・うん。 まあそうなるよね。 この10作の顔ぶれを見ると。
では20位から11位までをどうぞ。
20位 「一月の声に歓びを刻め」
19位 「ゴールデンカムイ」
18位 「ゴールド・ボーイ」
17位 「悪は存在しない」
16位 「青春18✕2 君へと続く道」
15位 「映画 からかい上手の高木さん」
14位 「碁盤斬り」
13位 「劇場版 アナウンサーたちの戦争」
12位 「侍タイムスリッパー」
11位 「ディア・ファミリー」
惜しくも20位以内に入らなかったのは・・・
「コットンテール」
「化け猫あんずちゃん」
「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」
「違国日記」
「Cloud クラウド」
それではベストテンです。
10位からカウントぉぉぉぉぉダァンッ!
10位 「鬼平犯科帳 血闘」
何と言っても嬉しいのは、奇をてらうことなく正統派時代劇を真っ向から作ってくれたこと。
時代劇が少なくなった今の時代、異世代へのウケを考慮した現代風描写も見られる昨今の流れに抗うかのように、ステレオタイプ上等な昔ながらのゴリゴリ時代劇で一貫した見事な鬼平犯科帳がスクリーンに見参。
爽快なテンポで突っ走り、きっちりとチャンバラを見せて、悪役の作り込みも完璧な一級の娯楽。
9位 「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章」
突如として巨大な宇宙船が東京上空に出現し、世界の終わりが近づいている状況で青春を謳歌する少女の姿を描いた革新的アニメーション。
確実に世界はヤバいことになっているのに誰もが自分の人生、今そこにある日常を普通にこなす、震災やコロナ禍で体験したある意味人の強さでもあるし弱さ。
閉塞感の中のパーソナルワールドを煮詰めたストーリーの斬新姓に圧倒された作品。
後章は残念ながらランク外。
8位 「僕が生きてる、ふたつの世界」
聾者の子として生まれ育ったエッセイスト五十嵐大の自伝エッセイを呉美保監督が映画化した感動作。
コーダの人生を物心ついた時から送ってきた主人公の葛藤に満ちた青春時代をリアルに繊細に、温かな目線で描いた物語は障害のことに疎い周囲の我々の目をも開かせる、より良き社会へのヒントとして意義の高い良作となっている。
「手話で話してくれてありがとう」の言葉のぬくもりにはただひれ伏すしかない。
7位 「あんのこと」
2020年の新聞の三面記事に載った一人の少女の記事からインスパイアされた壮絶な人間ドラマ。
幼少期から母親の虐待を受け、小学生で売春をさせられ、薬物依存症となった21歳の杏。
東京の団地で祖母の介護をしながら無為に暮らしていた彼女は覚醒剤使用で逮捕されるが、出会った刑事の男から生活保護や更生の手助けをしてもらい、母親と縁を絶って徐々に自分の居場所を見出していくのだが・・・
どん底から光を求める不撓の情熱をすくい上げる希望の物語が一転して、親も支援者も、ひいては社会までもが未来を叩き潰す無情の冷や水を浴びせるという救いなき物語に暗転する、その打ちのめされ感がハンパない。
コロナ禍という不運があったにせよ、一人の少女の人生にも光を与えれぬ社会の限界をまざまざと知る問題作は河合優美が名女優として完全覚醒したモニュメントでもある。
6位 「正義の行方」
2022年にNHKーBSで放送されたドキュメンタリーの劇場版。
1992年、福岡県の飯塚市で2人の女児が行方不明になり、甘木市(現・朝倉市)の森林の中で他殺体となって発見された「飯塚事件」。
逮捕された被疑者は終始無実を訴えるも死刑判決を受け、2008年に刑が執行される。
しかしその後も再審請求がなされるなど今も余波が続くこの事件を、弁護士、当時の捜査関係者、新聞記者らがそれぞれの立場から語る「真実」と「正義」をもとに司法の在り方などを浮き彫りにしていく。
一方的に冤罪だという主張だけでなく、やはり死刑囚が犯人だったのではという冷静な視点も尊重されたフェアな構成になっている。
まるでリアルな「羅生門」を見ているかのような、それぞれの立場から発せられる一種の信念の言葉の数々が観る者をカメラを持つ側のそばへと容赦なく引きずり込むその引力が凄い。
5位 「ぼくのお日さま」
カンヌの「ある視点」部門で日本人監督として史上最年少で選出された奥山大史の初商業映画。
雪に囲まれた田舎町。 吃音を持つ少年タクヤはフィギュアの練習をする少女さくらの姿を見て心を奪われる。
さくらのコーチをしている元フィギュアの選手である荒川は、さくらを真似てホッケー靴のままステップをして転んでいる少年を見かけて、彼の恋を応援してやろうと決めた。
荒川に誘われて、フィギュアを始めたタクヤはさくらと共にアイスダンスの大会を目指して練習に励むのだが・・・・
恋が始まる瞬間、その重要な場となるアイススケートリンクの立ちこめるスモークと淡い逆光という緻密な演出の元に表現される、人物の心が動き出すすべての始まりの美しさが見事と言うほかない。
とりわけ、あやふやな想いの人との関係が行き場を求めて浮遊する物語が、目線のやり取りや目配せによって語られるアプローチがまた複雑な感情を揺り起こさせるところも巧い。
小粒ながら小憎らしいまでに技巧を感じさせる秀作だ。
4位 「愛に乱暴」
吉田修一の同名小説を映画化したヒューマンサスペンス。
夫とともに夫の実家の離れで暮らす主婦桃子。 子供はいない。
母屋に住む義母に気を遣い、何ごとにも無関心な夫のこともやり過ごしながら、丁寧な暮らしに勤めてきた彼女の日常が次第に脅かされてゆく。
近所で相次ぐ不審火。 行方不明の愛猫。 匿名の人物の不倫アカウント。
そして、夫の突然の浮気の告白と相手の女性の妊娠。
黒い感情と共に桃子の失った愛が心の床下から堀り起こされようとしている・・・
日常のかすかな圧にさえも感情を閉じ込めたのはすべて喪失を埋めるため。 そんな女の退路が容赦なく断たれていく。
全編出ずっぱりの江口のりこの能面からほとばしる狂気と共に、求めても失い奪われていく女のカオスの底へと観る者も引きずり込まれる。
静から動へとストーリーのトーンが変化しながら負のエネルギーがみなぎり出す不思議な筆致の人間ドラマ。
3位 「ミッシング」
世の中の嫌な部分を引きずり出す映画の名手である吉田恵輔の、またしても容赦ない人間ブラック絵図。
失踪した幼い娘を必死に探す母親とその夫。 母親の些細な落ち度さえ攻撃するネットの悪意。 人の悲劇にも“賞味期限”があるメディア組織の思惑に翻弄される地元TV局のディレクター。 犯人扱いされながら後ろめたい傷を掘り返されて社会から弾かれる弟。
情報に頼らざるを得ない夫婦が世間に顔を出してビラを配り、顔を見せない悪意の情報に振り回されてゆくという歪んだ社会の皮肉な構図。
被害者さえもバッシングする冷血な世間の描写と並び、渋る弟までをカメラの前に引っ張り出すなど、なりふり構わぬ、ある意味、視野狭窄なまでの暴走と混迷の中で彷徨う母親の姿を時に突き放し、時に寄り添う視線でリアルに繊細に描いている。
頭の線が一本飛んだようなぶっ壊れ方を見せる石原さとみの壮絶なまでの体現力。 中村倫也、森優作の抑制の先にある感情の滲ませ方。
演者の鬼気迫るエネルギーがこの映画に強靱な生命を与え、観る者の胸に確かなくさびを打ち込み、「人の気持ちになる心」の薄れた世の中の姿を闘う問題作にして傑作である。
2位 「夜明けのすべて」
PMS(月経前症候群)のせいで怒りが抑えられなくなる藤沢さん。
彼女が転職先の町工場で出会ったパニック障害を抱えた青年、山添君と同志のような絆を育みながら、病気と向き合ってそれぞれの人生を見つけていく物語。
瀬尾まい子の同名小説を「ケイコ 目を澄ませて」の三宅唱監督が映画化した本作は、多くの気づきをもたらしてくれる。
まるで知らないPMSというデリケートな面も含んだ女性の病。 漠然とは知っていてもこれも知識に乏しいパニック障害。
この映画はまずは、よく知られていない病気に対する見識を啓発する目的も備えながら、決して同情を乞うものではなく、私たちのすぐそばにいてもなんら不思議ではない“普通の人々”が慎ましく生きる姿の物語である。
主人公たちがドラマチックに病気を克服したり、恋愛関係に発展するような通俗的な方向に振るのではなく、ハンデを持つ者なりの、他の誰かの支えになる道へと踏み出すドラマが優しい眼差しで描かれている。
変わるかも知れないし、変わらないかも知れない。
人知れず、人と違う日々を送る人がささやかな笑顔で仰ぐ朝の空。
特別何かが起こる話ではないが確かに美しく優しいものを感じさせる。
こんな映画の撮り方があるのかと目からウロコの取れる名作だ。
1位 「ルックバック」
「チェンソーマン」の藤本タツキの長編読み切り作品を劇場アニメ化し、センセーションを巻き起こしたわずか58分の珠玉の物語が文句なしの1位。
小学校の中で、ちょっと絵の上手い少女・藤野は、不登校児ながら藤野よりも凄い画力を持った京本という子の存在を知る。
京本の才能に一時は漫画家になりたい道を断念した藤野だが、卒業証書を届けに行った時の出会いがきっかけで、京本とコンビで漫画を書き始め、やがて二人は漫画賞を受賞するまでに。
高校生になった二人は共同のペンネームでアマチュア漫画家として成功の道を歩み始めるが、京本の進学の意志が固く、ケンカ別れしたのちにお互いが別の道を往くことになる。
やがて、一人で漫画家として連載に追われる日々を送る藤野に耳を疑うニュースが飛び込んでくる・・・・
漫画。アニメ。 日本が世界に誇る文化。 そんな最高の芸術に日々アイデアを募らせ、ペンを走らせ、紆余曲折もありながら私たちに感動を届けてくれるクリエイターの人たち。
誰もが通ってきた夢への道の一歩一歩。
もっとうまくなりたい。 もっといいものを作りたい。 もっと。 もっと。 もっと。 もっと・・・・
そんな高みを目指す志を禍々しい悪が踏みにじる。
どうしても京アニ事件が思い起こされ、それと結びつけていいか否かは別として、それでも悲劇を乗り越えて今も机に向かう人たちの後ろ姿にエールを送らずにはいられない。
最初の出会いで秋田弁でまくし立てながら藤野を追って息を切らせる京本のシーン。
冬の夜のコンビニの雑誌売り場でジャンプを開く藤野と京本が固唾を呑む顔のシーン。
人と話すのが苦手な京本が「練習するもん」と藤野に訴えるシーン。
忘れがたき光景の数々が今も涙腺を刺激する。
京本は生き続ける。 藤野の背中をいつも見ている。
1時間にも満たない時間の中に凝縮された絶望と希望と不滅の青春。
6年前に倒れた36名の魂とすべての創作者の情熱に捧ぐ永久不滅の名作。
それではベスト20をおさらいです。
1位 「ルックバック」
2位 「夜明けのすべて」
3位 「ミッシング」
4位 「愛に乱暴」
5位 「ぼくのお日さま」
6位 「正義の行方」
7位 「あんのこと」
8位 「僕が生きてる、ふたつの世界」
9位 「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章」
10位 「鬼平犯科帳 血闘」
11位 「ディア・ファミリー」
12位 「侍タイムスリッパー」
13位 「劇場版 アナウンサーたちの戦争」
14位 「碁盤斬り」
15位 「映画 からかい上手の高木さん」
16位 「青春18✕2 君へと続く道」
17位 「悪は存在しない」
18位 「ゴールド・ボーイ」
19位 「ゴールデンカムイ」
20位 「一月の声に歓びを刻め」
ええ仕事の俳優20人です。 鑑賞順です。
【ええ仕事の男優20人】
岡山天音 「笑いのカイブツ」
高良健吾 「罪と悪」
松村北斗 「夜明けのすべて」
光石研 「夜明けのすべて」
羽村仁成 「ゴールド・ボーイ」
井浦新 「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」
市川染五郎 「鬼平犯科帳 血闘」
北村有起哉 「鬼平犯科帳 血闘」
草彅剛 「碁盤斬り」
中村倫也 「ミッシング」
森優作 「ミッシング」
青木崇高 「ミッシング」
高橋文也 「映画 からかい上手の高木さん」
大泉洋 「ディア・ファミリー」
森田剛 「劇場版 アナウンサーたちの戦争」
池松壮亮 「ぼくのお日さま」
吉沢亮 「僕が生きてる、ふたつの世界」
菅田将暉 「Cloud クラウド」
仲野太賀 「十一人の賊軍」
横浜流星 「正体」
【ええ仕事の女優20人】
前田敦子 「一月の声に歓びを刻め」
上白石萌音 「夜明けのすべて」
杉咲花 「52ヘルツのクジラたち」
長澤まさみ 「四月になれば彼女は」
芋生悠 「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」
濱尾咲綺 「水深ゼロメートルから」
清原果耶 「青春18✕2 君へと続く道」
見上愛 「不死身ラヴァーズ」
渋谷采郁 「悪は存在しない」
石原さとみ 「ミッシング」
杏 「かくしごと」
永野芽郁 「映画 からかい上手の高木さん」
菅野美穂 「ディア・ファミリー」
河合優美 「あんのこと」
新垣結衣 「違国日記」
江口のりこ 「愛に乱暴」
忍足亜希子 「僕が生きてる、ふたつの世界」
河井青葉 「ルート29」
小泉今日子 「海の沈黙」
中村映里子 「雨の中の慾情」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
以上になります。
今年もたくさん映画を楽しみましょう。
確かに、洋画が押されるのも無理もないですかね。
しかしですね。
昨年の邦画の興行収入のベスト10の中でアッシが観たのは7位の「変な家」だけ。 しかもイマイチな映画。
1作目以外観てないシリーズものの「キングダム 大将軍の帰還」(3位)もTVドラマの延長の「ラストマイル」(5位)も観てません。
「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」(8位)はハナから興味外。
コナン(1位)もハイキュー(2位)もSPY✕FAMILY(4位)もガンダム(6位)もドラえもん(9位)もヒロアカ(10位)も観てない。
・・・うん。 まあそうなるよね。 この10作の顔ぶれを見ると。
では20位から11位までをどうぞ。
20位 「一月の声に歓びを刻め」
19位 「ゴールデンカムイ」
18位 「ゴールド・ボーイ」
17位 「悪は存在しない」
16位 「青春18✕2 君へと続く道」
15位 「映画 からかい上手の高木さん」
14位 「碁盤斬り」
13位 「劇場版 アナウンサーたちの戦争」
12位 「侍タイムスリッパー」
11位 「ディア・ファミリー」
惜しくも20位以内に入らなかったのは・・・
「コットンテール」
「化け猫あんずちゃん」
「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」
「違国日記」
「Cloud クラウド」
それではベストテンです。
10位からカウントぉぉぉぉぉダァンッ!
10位 「鬼平犯科帳 血闘」
何と言っても嬉しいのは、奇をてらうことなく正統派時代劇を真っ向から作ってくれたこと。
時代劇が少なくなった今の時代、異世代へのウケを考慮した現代風描写も見られる昨今の流れに抗うかのように、ステレオタイプ上等な昔ながらのゴリゴリ時代劇で一貫した見事な鬼平犯科帳がスクリーンに見参。
爽快なテンポで突っ走り、きっちりとチャンバラを見せて、悪役の作り込みも完璧な一級の娯楽。
9位 「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章」
突如として巨大な宇宙船が東京上空に出現し、世界の終わりが近づいている状況で青春を謳歌する少女の姿を描いた革新的アニメーション。
確実に世界はヤバいことになっているのに誰もが自分の人生、今そこにある日常を普通にこなす、震災やコロナ禍で体験したある意味人の強さでもあるし弱さ。
閉塞感の中のパーソナルワールドを煮詰めたストーリーの斬新姓に圧倒された作品。
後章は残念ながらランク外。
8位 「僕が生きてる、ふたつの世界」
聾者の子として生まれ育ったエッセイスト五十嵐大の自伝エッセイを呉美保監督が映画化した感動作。
コーダの人生を物心ついた時から送ってきた主人公の葛藤に満ちた青春時代をリアルに繊細に、温かな目線で描いた物語は障害のことに疎い周囲の我々の目をも開かせる、より良き社会へのヒントとして意義の高い良作となっている。
「手話で話してくれてありがとう」の言葉のぬくもりにはただひれ伏すしかない。
7位 「あんのこと」
2020年の新聞の三面記事に載った一人の少女の記事からインスパイアされた壮絶な人間ドラマ。
幼少期から母親の虐待を受け、小学生で売春をさせられ、薬物依存症となった21歳の杏。
東京の団地で祖母の介護をしながら無為に暮らしていた彼女は覚醒剤使用で逮捕されるが、出会った刑事の男から生活保護や更生の手助けをしてもらい、母親と縁を絶って徐々に自分の居場所を見出していくのだが・・・
どん底から光を求める不撓の情熱をすくい上げる希望の物語が一転して、親も支援者も、ひいては社会までもが未来を叩き潰す無情の冷や水を浴びせるという救いなき物語に暗転する、その打ちのめされ感がハンパない。
コロナ禍という不運があったにせよ、一人の少女の人生にも光を与えれぬ社会の限界をまざまざと知る問題作は河合優美が名女優として完全覚醒したモニュメントでもある。
6位 「正義の行方」
2022年にNHKーBSで放送されたドキュメンタリーの劇場版。
1992年、福岡県の飯塚市で2人の女児が行方不明になり、甘木市(現・朝倉市)の森林の中で他殺体となって発見された「飯塚事件」。
逮捕された被疑者は終始無実を訴えるも死刑判決を受け、2008年に刑が執行される。
しかしその後も再審請求がなされるなど今も余波が続くこの事件を、弁護士、当時の捜査関係者、新聞記者らがそれぞれの立場から語る「真実」と「正義」をもとに司法の在り方などを浮き彫りにしていく。
一方的に冤罪だという主張だけでなく、やはり死刑囚が犯人だったのではという冷静な視点も尊重されたフェアな構成になっている。
まるでリアルな「羅生門」を見ているかのような、それぞれの立場から発せられる一種の信念の言葉の数々が観る者をカメラを持つ側のそばへと容赦なく引きずり込むその引力が凄い。
5位 「ぼくのお日さま」
カンヌの「ある視点」部門で日本人監督として史上最年少で選出された奥山大史の初商業映画。
雪に囲まれた田舎町。 吃音を持つ少年タクヤはフィギュアの練習をする少女さくらの姿を見て心を奪われる。
さくらのコーチをしている元フィギュアの選手である荒川は、さくらを真似てホッケー靴のままステップをして転んでいる少年を見かけて、彼の恋を応援してやろうと決めた。
荒川に誘われて、フィギュアを始めたタクヤはさくらと共にアイスダンスの大会を目指して練習に励むのだが・・・・
恋が始まる瞬間、その重要な場となるアイススケートリンクの立ちこめるスモークと淡い逆光という緻密な演出の元に表現される、人物の心が動き出すすべての始まりの美しさが見事と言うほかない。
とりわけ、あやふやな想いの人との関係が行き場を求めて浮遊する物語が、目線のやり取りや目配せによって語られるアプローチがまた複雑な感情を揺り起こさせるところも巧い。
小粒ながら小憎らしいまでに技巧を感じさせる秀作だ。
4位 「愛に乱暴」
吉田修一の同名小説を映画化したヒューマンサスペンス。
夫とともに夫の実家の離れで暮らす主婦桃子。 子供はいない。
母屋に住む義母に気を遣い、何ごとにも無関心な夫のこともやり過ごしながら、丁寧な暮らしに勤めてきた彼女の日常が次第に脅かされてゆく。
近所で相次ぐ不審火。 行方不明の愛猫。 匿名の人物の不倫アカウント。
そして、夫の突然の浮気の告白と相手の女性の妊娠。
黒い感情と共に桃子の失った愛が心の床下から堀り起こされようとしている・・・
日常のかすかな圧にさえも感情を閉じ込めたのはすべて喪失を埋めるため。 そんな女の退路が容赦なく断たれていく。
全編出ずっぱりの江口のりこの能面からほとばしる狂気と共に、求めても失い奪われていく女のカオスの底へと観る者も引きずり込まれる。
静から動へとストーリーのトーンが変化しながら負のエネルギーがみなぎり出す不思議な筆致の人間ドラマ。
3位 「ミッシング」
世の中の嫌な部分を引きずり出す映画の名手である吉田恵輔の、またしても容赦ない人間ブラック絵図。
失踪した幼い娘を必死に探す母親とその夫。 母親の些細な落ち度さえ攻撃するネットの悪意。 人の悲劇にも“賞味期限”があるメディア組織の思惑に翻弄される地元TV局のディレクター。 犯人扱いされながら後ろめたい傷を掘り返されて社会から弾かれる弟。
情報に頼らざるを得ない夫婦が世間に顔を出してビラを配り、顔を見せない悪意の情報に振り回されてゆくという歪んだ社会の皮肉な構図。
被害者さえもバッシングする冷血な世間の描写と並び、渋る弟までをカメラの前に引っ張り出すなど、なりふり構わぬ、ある意味、視野狭窄なまでの暴走と混迷の中で彷徨う母親の姿を時に突き放し、時に寄り添う視線でリアルに繊細に描いている。
頭の線が一本飛んだようなぶっ壊れ方を見せる石原さとみの壮絶なまでの体現力。 中村倫也、森優作の抑制の先にある感情の滲ませ方。
演者の鬼気迫るエネルギーがこの映画に強靱な生命を与え、観る者の胸に確かなくさびを打ち込み、「人の気持ちになる心」の薄れた世の中の姿を闘う問題作にして傑作である。
2位 「夜明けのすべて」
PMS(月経前症候群)のせいで怒りが抑えられなくなる藤沢さん。
彼女が転職先の町工場で出会ったパニック障害を抱えた青年、山添君と同志のような絆を育みながら、病気と向き合ってそれぞれの人生を見つけていく物語。
瀬尾まい子の同名小説を「ケイコ 目を澄ませて」の三宅唱監督が映画化した本作は、多くの気づきをもたらしてくれる。
まるで知らないPMSというデリケートな面も含んだ女性の病。 漠然とは知っていてもこれも知識に乏しいパニック障害。
この映画はまずは、よく知られていない病気に対する見識を啓発する目的も備えながら、決して同情を乞うものではなく、私たちのすぐそばにいてもなんら不思議ではない“普通の人々”が慎ましく生きる姿の物語である。
主人公たちがドラマチックに病気を克服したり、恋愛関係に発展するような通俗的な方向に振るのではなく、ハンデを持つ者なりの、他の誰かの支えになる道へと踏み出すドラマが優しい眼差しで描かれている。
変わるかも知れないし、変わらないかも知れない。
人知れず、人と違う日々を送る人がささやかな笑顔で仰ぐ朝の空。
特別何かが起こる話ではないが確かに美しく優しいものを感じさせる。
こんな映画の撮り方があるのかと目からウロコの取れる名作だ。
1位 「ルックバック」
「チェンソーマン」の藤本タツキの長編読み切り作品を劇場アニメ化し、センセーションを巻き起こしたわずか58分の珠玉の物語が文句なしの1位。
小学校の中で、ちょっと絵の上手い少女・藤野は、不登校児ながら藤野よりも凄い画力を持った京本という子の存在を知る。
京本の才能に一時は漫画家になりたい道を断念した藤野だが、卒業証書を届けに行った時の出会いがきっかけで、京本とコンビで漫画を書き始め、やがて二人は漫画賞を受賞するまでに。
高校生になった二人は共同のペンネームでアマチュア漫画家として成功の道を歩み始めるが、京本の進学の意志が固く、ケンカ別れしたのちにお互いが別の道を往くことになる。
やがて、一人で漫画家として連載に追われる日々を送る藤野に耳を疑うニュースが飛び込んでくる・・・・
漫画。アニメ。 日本が世界に誇る文化。 そんな最高の芸術に日々アイデアを募らせ、ペンを走らせ、紆余曲折もありながら私たちに感動を届けてくれるクリエイターの人たち。
誰もが通ってきた夢への道の一歩一歩。
もっとうまくなりたい。 もっといいものを作りたい。 もっと。 もっと。 もっと。 もっと・・・・
そんな高みを目指す志を禍々しい悪が踏みにじる。
どうしても京アニ事件が思い起こされ、それと結びつけていいか否かは別として、それでも悲劇を乗り越えて今も机に向かう人たちの後ろ姿にエールを送らずにはいられない。
最初の出会いで秋田弁でまくし立てながら藤野を追って息を切らせる京本のシーン。
冬の夜のコンビニの雑誌売り場でジャンプを開く藤野と京本が固唾を呑む顔のシーン。
人と話すのが苦手な京本が「練習するもん」と藤野に訴えるシーン。
忘れがたき光景の数々が今も涙腺を刺激する。
京本は生き続ける。 藤野の背中をいつも見ている。
1時間にも満たない時間の中に凝縮された絶望と希望と不滅の青春。
6年前に倒れた36名の魂とすべての創作者の情熱に捧ぐ永久不滅の名作。
それではベスト20をおさらいです。
1位 「ルックバック」
2位 「夜明けのすべて」
3位 「ミッシング」
4位 「愛に乱暴」
5位 「ぼくのお日さま」
6位 「正義の行方」
7位 「あんのこと」
8位 「僕が生きてる、ふたつの世界」
9位 「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章」
10位 「鬼平犯科帳 血闘」
11位 「ディア・ファミリー」
12位 「侍タイムスリッパー」
13位 「劇場版 アナウンサーたちの戦争」
14位 「碁盤斬り」
15位 「映画 からかい上手の高木さん」
16位 「青春18✕2 君へと続く道」
17位 「悪は存在しない」
18位 「ゴールド・ボーイ」
19位 「ゴールデンカムイ」
20位 「一月の声に歓びを刻め」
ええ仕事の俳優20人です。 鑑賞順です。
【ええ仕事の男優20人】
岡山天音 「笑いのカイブツ」
高良健吾 「罪と悪」
松村北斗 「夜明けのすべて」
光石研 「夜明けのすべて」
羽村仁成 「ゴールド・ボーイ」
井浦新 「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」
市川染五郎 「鬼平犯科帳 血闘」
北村有起哉 「鬼平犯科帳 血闘」
草彅剛 「碁盤斬り」
中村倫也 「ミッシング」
森優作 「ミッシング」
青木崇高 「ミッシング」
高橋文也 「映画 からかい上手の高木さん」
大泉洋 「ディア・ファミリー」
森田剛 「劇場版 アナウンサーたちの戦争」
池松壮亮 「ぼくのお日さま」
吉沢亮 「僕が生きてる、ふたつの世界」
菅田将暉 「Cloud クラウド」
仲野太賀 「十一人の賊軍」
横浜流星 「正体」
【ええ仕事の女優20人】
前田敦子 「一月の声に歓びを刻め」
上白石萌音 「夜明けのすべて」
杉咲花 「52ヘルツのクジラたち」
長澤まさみ 「四月になれば彼女は」
芋生悠 「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」
濱尾咲綺 「水深ゼロメートルから」
清原果耶 「青春18✕2 君へと続く道」
見上愛 「不死身ラヴァーズ」
渋谷采郁 「悪は存在しない」
石原さとみ 「ミッシング」
杏 「かくしごと」
永野芽郁 「映画 からかい上手の高木さん」
菅野美穂 「ディア・ファミリー」
河合優美 「あんのこと」
新垣結衣 「違国日記」
江口のりこ 「愛に乱暴」
忍足亜希子 「僕が生きてる、ふたつの世界」
河井青葉 「ルート29」
小泉今日子 「海の沈黙」
中村映里子 「雨の中の慾情」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
以上になります。
今年もたくさん映画を楽しみましょう。