chapterⅣ-Ⅲ mind ―本心―
「……貴方が、そうなのよね……?」
凛とした雰囲気の美しい天使は――苦しむ剣士……
碧を乗っ取っている強化データの前に降り立ち、彼の左耳に触れる。
「……やっぱり、来てくれたんだな」
強化データは嬉しそうに、天使を見つめる。
「貴方が体を乗っ取ってる子には借りがある……だから私が元に戻す……!」
そうして天使は剣士の左耳に、託された黒いピアスを付けようとする――
「……お前が――」「……?」
「……苦しく……なくなってく……あったかい……ありがとう……レイナ」
天使の名前を呼び、強化データは優しく微笑んだ――
「……!?」
「……楽しかったぜ、初めて――自由に、体使って、遊べて……じゃあな」
剣士がそう言った瞬間――真っ白な光に包まれる――
そして、光が晴れた後……碧は僧侶の姿に戻っていた。
「あれ? 僕……!? 良かった……今は僕の意志で、ちゃんと動いてる……!」
「……」
……元に戻った碧の姿を確認し――天使は「2代目」への変身を解除する……
黄緑色の髪の、初代のRPGキャラである氷使いの姿に戻る。
初期のキャラの方が落ち着くからだ。 と、その瞬間――
「ごっ……ごごごごごごごめんなさいぃっ!!」
碧はいきなり大声で謝り、土下座したのだった……。
「えっ……」 「……あっ……碧さんっ!?」
碧の大声には……レイナも椿も驚いた。
「体が勝手に動いて……黒い僕……? が――
3人も殺してしまって……それに竜君も死ん……うわーん!」
……と、碧は大泣きし始めた――
「えっと……碧さん? 竜さんは無事ですよっ!」 椿は急いでフォローした。
「本当ですかっ!? よっ良かっ……って!? 全然良くないですよ!?
僕は……蓮さんにも重傷を負わせて……椿さんも危険な目に遭わせて
レイナさんにわざわざ止めてもらって……ここにいる貴方達全員に、
たっ……大変なご迷惑を……!ごめんなさい……ごめんなさい……!!」
そして再度、全員に向かって土下座し始めた……。
「うるさいっ! 黙れ……傷に響く……」回復薬を飲みながら、蓮は怒鳴る。
「すっすみません……僕っ……蓮さんにも酷い事――」
「謝る必要はねぇ……そもそも責任自体てめぇにある訳ねぇだろ……
データに体乗っ取られて暴走に巻き込まれて胸糞悪ぃ思いして大損……
創造者の野郎が全部悪りぃんだ……それに、さっきのは全部
“強化データの意志”のはず……お前は体を乗っ取られていただけで
何の操作も効かなかった……しかも強化データと感覚共有してる所為で
むしろ苦しみ損した……そんな所だろ?」
「!! どうして……それを知って……?」
説明せずとも分かったような口を聞く、蓮の言葉に碧は驚いた――
「創造者の野郎に聞かされてた……この世界で唯一、“心を持つデータ”の話――
アイツの事だ、また何か―妙な事企んでんだろーがな」
「創造者ってまさか……黒髪の小さい槍使いの子?
私その子に―制御データの譲渡頼まれたんだけど……」 レイナは蓮に問う――
「ああ……何考えてんだかわかんねーが……そういや、僧侶のお前――
攻撃魔法使えねぇんだろ?」そう言って、蓮は碧の方を見る……
「あっ……はい……」「どうやら――強化データを発動させたら攻撃使えるよう
にはなったみてぇだけど、さっきみてぇに強化データの意志でしか動けねぇし
制御がきかなくなったら――間違いなくさっきみたいに自滅するぜ……その時
――お前を救えるのはきっと……そこにいる魔法使いの女だけだろーがな……」
そう言って、蓮は――レイナの方に目をやる。
「私……だけが……?」
「……ピアスを外さない限りは奴は出てこねぇようには設定されているはずだ」
「先程のように……いきなり勝手に乗っ取られてまた暴走する可能性は――」
「それはおそらくねぇな。初期発動以外は創造者は関わる気はなさそうだった
……今後、強化データを発動させるか否かはてめぇら2人次第だ」
「え……?」 そう言われたレイナは――元々その事を聞かされていた……
というより、強化データに乗っ取られて言わされていた碧と顔を見合わせる。
「あのデータを発動させたら、今日みたいにきっと暴れまくる……
それでも使いたければ使えば良いって事だ。……別に発動させなくても、
攻撃魔法が使えないだけ……特にてめぇにとっては不自由ではないはずだ」
そう言って蓮は碧の方を見る――
「それは――もちろん“僕”は不自由ではない、ですが……
その……“彼”は……?」碧はおずおずと、蓮に問う――
「おそらく、てめぇらが自ら発動しない限りは……永久に眠らされているだけ
の状態だ……そもそもあの強化データは不安定な存在で、プレイヤーの……
僧侶のてめぇの体を借りる事でしか、自分の意志を伝える事ができねぇし、
自由に体を動かす事もできやしねぇ……」「“心”がある……のに……?」
「……情が移ったのか?」「……それは……その……」
碧は思い出す……
「……楽しかったぜ、初めて――自由に、体使って、遊べて……」
操られていた体で、言った言葉。自分達にとって――自由に体を動かせる事、
遊べる事……それは“当たり前”の事。でも“彼”にとっては違う――
“彼”は碧がピアスを外さない限り、それが叶わない。そういう設定にしたのは
創造者である、けれど――“彼”の存在が、碧の心に引っかかる。
「……それに……」 碧は言葉に詰まる――
「碧、お前は……邪魔なんかじゃない! 碧のおかげで俺様は存在できる
ようになった……俺様には碧が必要なんだ!」
そう言ってくれた、その気持ちも、偽りだったのだろうか……?
それはあくまで『媒介』としてという意味だけだったかもしれない……
でも、そう言われて嬉しかったのも事実だった……
「蓮を、救ってやってくれ……」
更に強化データは確かにそう言っていた。彼は暴走して……ゲームの中で
人を殺めたり、殺そうとしたけれど……他人の幸せを願う事ができる。
更に蓮や椿、レイナに礼の言葉を述べていた――
だから、暴力的な面があっても、完全に“彼”を否定できなかった。
そして“彼”を想いながら――碧は――心を決める。
「僕は彼にもっ……“この世界”を……楽しんでほしい……!!
でも、他のプレーヤーさん達を危険な目に……それに
レイナさんにまたご迷惑をかける訳にはいきません……!!
創造者さんになんとかお話して彼を自由に――」
「それは無理だろうな」 「そんな……」
蓮の否定的な言葉に、碧はショックを隠せなかった。
「……ちょっと待ちなさいよ……迷惑だって決めつけないで……!!」
「え……?」「そうなった時、私が止めれば問題ないわ」
「それって――!?」顔色を変えずに提案したレイナに、碧は驚きを隠せなかった。
「……あのまま終わり、じゃ納得がいかないし。
さっきあの子、確かに私の名前を呼んだ……
さっきの子が――私の事を『どの程度』知っているか気になるし。
可能なら、せめてもう一度――彼に会って色々聞きたい」「でも……」
「私が死ぬ事が心配なの?どうせセーブ使っているんだし、もしあの子に
攻撃されて死んでも別に私は困らない。それにいざとなったら私は――
空を飛んで避難できるし、相手の動きを止める力がある。
それであの子の動きを止めたら、他のプレーヤーに被害が及ぶのは防げる
……その魔法がさっきの子に効くか分からないけれど」
「……いや、おそらく有効だ……
そういう事か……てめぇの飛行能力は……必然だとはいえ、
動きを封じる能力までとは――これを想定して、か……」
「……貴方も、私に関して詳しいようね」
レイナは――意味ありげ蓮を見る。
「創造者の関係者、だからな……アイツよりは知っている情報は少ないだろうが」
「そう……それにそもそもさっきあの子は……私が自分の暴走を止められる人間と
いう事は認識できてたわ。だから私に対する危険性も低いと思う……決まりね」
「その……本当に……!?すっ……すみません……」
碧は――申し訳なさそうに、レイナを見る。
「……どうして、碧が謝るの?碧の、あの子を自由にしたいって
思う気持ちに――罪はないと思うけど?」
「……っ……ありがとうございますっ……レイナさんっ……!!」
そう言って碧は安堵した笑顔を見せる――
「――それより、時間大丈夫なの?竜って子、もしかしたらまだ――」
「ああっ!!そうですね!もしかしたらまだこの世界に――
急げば今日のうちにお話できるかもっ……」
「……急ぐわよ」「はっ……はいっ……!!」
レイナの言葉に――碧は急ぐ、が――その前に碧はまた、椿と蓮に頭を下げる。
「……本日はご迷惑をおかけして、本当に申し訳ありませんでした」
「……何度も言うように、てめぇが謝る必要はない」
「私も、桃ちゃんも竜さんも無事でしたし……気にしないで下さいね。
それより――碧さん、お体の方は……大丈夫ですか?」
椿は――先程苦しんでいた剣士の姿を思い出し、碧の体を気遣う。
「はいっ……!苦しかったけど、今は大丈夫ですっ……
ありがとうございます!!それでは失礼します」
いつも通りの蓮、そして心配する椿の言葉に――
碧は一礼し、レイナと共に、竜の元へと急いだ――
コメント
バトキャラ感想
おはようです! にゃるせです。
遅くなりましたが、再びラブコールです。今回のバトキャラはレイナさん大活躍! でしたね。そのあたりや碧君+乗っ取りくんについて書かせていただきます。
登場シーンからレイナさんは美しかったです……! そして乗っ取りくんとのやりとりなのですが、抵抗どころか助けてくれるのを待っていたところ、そして「楽しかったぜ……初めて~」のあたりに乗っ取りくんに狂いについてまた考えました。
ためらいなく人を傷つけられるけれど、大切なものは大切にする。感謝だって言える。それらは無垢な狂いと、純粋な無邪気さから生まれたのかなと。乗っ取りくんはデータだけれど、複数の面を持つのは人とは変わりがなさそうです。ただ、人と違うのは人に作られただけで、でもバトキャラはみんな(理想の、かな)自分を「作って」遊んでいるから乗っ取りくんも完全にバトキャラと言う世界の中ではおかしいわけではない。
そこを考えてしまいました。
蓮くんとレイナちゃんのやりとりのところは読んでいて、ここまでさらっと情報を分かりやすく説明できるのがすごい! と思いました。
とりあえず乗っ取り君の行動から始まった展開も一息ついて、桃ちゃんや竜くんたちのところへ……だけれど、気まずいことになってしまってるのですよね……!
これからどうなるかが本当にどきどきです!
- 2016/08/08(月) 09:41:27 |
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