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五月雨日記<仮の宿>

イラスト+漫画やアニメの感想等。 最近はプリキュアと東方多めです。

chapter Ⅷ-Ⅳ allowance ―斟酌―





「了解! シーフさん!……えっ!?」
「……――やっぱできたな、隙」
「きゃっ!?」
一方、綾が空の色の変化に気付き、
特大魔法を使おうとした瞬間――綾の視界から、竜は消えていた。
そして――……竜は一瞬で綾の背後に周り込んでいた。

「……空の色が……!? ――えっ!?」
椿が茜色の空に気を取られ、視線を戻した後――
シーフのパラメーターは消えていた。
「……あ~自分のが消えたって事は……綾ちゃん、やられちゃった
 みたいだね、さすが竜君、きっとここで綾ちゃんの隙ができるって
 読めてたかぁ……って事で! 椿ちゃんの勝利だね、おめでと~☆」
シーフは――椿達の勝利を笑顔で祝った。

「あの……でも……」
「お祝いは――皮肉だったかな?」
「……私が残ったのは、
 貴方が本気を出していらっしゃらなかったからで――」
「ん~でも自分は別に優勝報酬必要ないし」
「……納得、いかないです……」
一方、椿は――複雑な表情を浮かべる。

「……世の中、納得できるような事ばかりじゃあないよ、
 なーんて、人生の先輩から――アドバイス? それとね、
 椿ちゃんはきっと――その報酬を蓮に渡すんだろうけど、
 その時に淋しいって気持ちは隠さなくても大丈夫だよ?」
「えっ……?」
「自分は嬉しいよ。蓮と別れる事になるとしたら、
 その事が淋しいって思ってもらえる事」
「……蓮さんは私が淋しがる事に対して嬉しいとは思わない
 でしょうし、むしろ普段から鬱陶しいと思われてるでしょうし
 清々されそうですが」
「――相手が椿ちゃんじゃなかったら、そうだったかもしれない。
 でもね、椿ちゃんは違うって思ってる。確実に――少しずつ
 だけど、あの子を変えてくれてるって思ってる。そして変わっ
 たら、きっと――……今日は色々教えてくれて、ありがとう。
 蓮をよろしくって言いたい所ではあるけど――くれぐれも
 無理はしないでね」
「あっ……私こそ――ありがとうございました、その色々と……」
「きっといつか――直接話す日も来るかもしれない、
 だから――その時はまたよろしくね、椿ちゃん」
そう言って――シーフは椿の前から姿を消す。

「なんだか、掴み所のない――不思議な人、だったな」
残された椿は、そう思う――

--------------------

「……そんな技、持ってたんだ」
「――てめぇと別れてから手に入れた能力、
 だから綾は知らなくても必然だな」
そして――綾は自分のパラメーターが消え、呆然としていた……。
それはつまり――綾は竜に負けてしまった。
勝利を確信していた……空の色が変わったら留めをさす――
そう決めていたのに、竜に行動を読まれていたのだった。
「……殺さなかったのは、わざと?」
「そりゃあ、さすがに殺したくはねぇし、そもそも魔力的にもギリ」

「――いきなり空の色が変わったの、油断すると思ったのに」
「一瞬で頭切り替えた、それにおそらく分かりやすい方法で
 シーフが綾に分かるような事するだろうなって思ったから、
 何があっても綾に隙ができた瞬間に動けるようにって集中してた」
「……私が――シーフさんの合図があるまで
 わざと本気出そうとしなかったの、気付いてた?」
「そりゃあ、本気出せばいつでも俺の事、倒せただろ?
 綾の本気の攻撃、共同クエストでどれだけ見てたと思うんだよ」
「は~……さすがね、竜。もう敵には回したくないわ
 ――本当勝つ為に手段選ばないし、もう、昔から変わらない」
竜の勝利への貪欲さに――綾は呆れながら、ため息をつく。

「まっ……始めから本気出されてたら絶対ぇ負けてたぜ?
 それに綾こそ、俺の事は殺そうとまではしなかったかなって」
「――さぁ、ね。別れた男の主義なんて、
 いちいち覚えてないわよ」
「主義――まっその単語使う辺り、やっぱり覚えてたって
 とっておくぜ。それにしても――今回のイベントは
 何か裏があったとか、そんな感じか?」
今回のイベントは通常の強制イベントではなく、
色々仕組まれた結果――そう感じた竜は、綾に問う。

「そうよ、頼まれてたの、シーフさんに。眼鏡っ子と話したいから、
 合図までは竜の事は倒さないようにして……ってね」
「そのシーフ、空の色変えれる辺り――確実に運営側の人間だな。
 でも眼鏡っ子はシーフの事は知らなかったし、話したい事って――」
「さぁ?そこまでは知らないけど、蓮絡みの事じゃない?この前あの子
 蓮と一緒にいたし。運営、蓮にやけにこだわってる感じだったし」
「そういえば綾、お前蓮の事――」
竜は以前、碧から綾が蓮に興味がある事を聞いていたので問う……

「……話してみて分かったけど、蓮は顔はいいけど、性格最悪だった!
 あの眼鏡っ子が何か弱み握られてるんじゃないかって思う位!
 イライラ怒ってばかりだし!人の事バカにしたり説教したり!」
「……俺は蓮と話した事ねーから分からねーけどさ、
 そもそも綾から何かしでかしたせいじゃね?」
「それはまぁ……否定しないけどぉ、でもやっぱり、現実組が
 現実逃避を望んだ心が弱い奴らだって言ってたのには、ね」
「……否定はできねぇと思うけど……」
「……私は別に良いけど、
 竜や碧君まで心弱いって決めつけたのにはムカつく!」
「……そういう所、なんだよなぁ……」
「何が?」
「なんでもねぇよ。でも綾がその要求を飲んだって事は――
 交換条件的な何かか?」

「そう。こっちもそれなりの見返りはもらえる事になってたから協力した
 って感じ? 優勝報酬の方は、なんか竜にわざと勝利譲るのもなー
 って思ったし、一応もらえそうならもらっておこうとは思ったけど
 ……優勝報酬自体はそこまで執着もないからどっちでも良かったかな」
「……ああ、じゃあ俺や眼鏡っ子は熱くなってたけど
 シーフと綾はそうでもなかったって事か……
 まっ最初にシーフに遭遇した時に瞬殺されなかったから、
 どうりでって感じだけど。なんだか腑に落ちねぇな今回のイベントは」
「まぁでも、世の中全部が全部
 納得できるような事ばかりじゃあないでしょ?」
「……そう言われると反論できねぇけどな」

「それにしても、さっきの子……本当に彼女じゃなかったのね。
 両想いっぽい感じしたのに」
「……まぁさっきので……もう告る前に確実に嫌われたな……
 俺の自業自得だけど」
強制イベントに勝つ為に、自分がした事を竜は思い返す――魔力回復
アイテムを温存する為、アイテムを渡す代わりに、必要最低限の魔力のみ
椿に与えた……つまり、椿にキスをした。恋愛感情がない相手に対しても
目的を果たす為なら、平気でキスができる……その事を――ゲーム中とは
いえ、自分の不誠実さを、桃に見せつけてしまったようなものだった。

「あの子…竜の事かなり好きっぽく見えてたけど? あの子ああは
 言ってたけど、あの子の竜への譲渡は――本気っぽく見えちゃった
 んだよね。それに私の挑発に面白い位嫉妬してた感じだったし。
 どうでもいい相手なら、どこで誰とキスしてようが、どうでも
 いいでしょ? 私と付き合ってた時の竜、私が他の子とキスして
 たの嫌がってたし、それと同じように――
 確実に妬いてたように見えたけど?」
「いやでもなんてゆーか、不誠実とか軽くて嫌な奴って不快に感じた
 だけであれは嫉妬と取れるのか、正直自信はねぇけど……って
 いうかゲームとはいえ綾、付き合ってる奴がいるのに、他の男と
 キスしてたのはどうかと思ったぜ……」
竜は――綾と付き合っていた当時を思い出し、ため息をつく。

「だって~ちやほやされたら嬉しいし、嬉しいお返しにサービス
 しなきゃだし?“綾”ってそういう存在だと思ってたんだもん。
 ちやほやしてくれたら、その分その人達……色んな男達を
 幸せにするサービスしてこその綾様!っていうか??」
「……サービスにも限度あるだろ……俺はそこまで心広くねーし!」
「――だってぇ~現実の私じゃあ、ありえないこのナイスバディ、
 可愛い顔!私に寄って来るバトキャラ界の男って
 恋愛ごっこ的なのも求めてた感じだし? そういう男達の
 為にも“綾”は有効活用しなきゃもったいないって思ってた。
 でも竜は――……ごっこ、とかじゃなくて、真剣に私と……
 リアルの私とも、恋愛してみたいって思ってくれてたんだよね?」

「……当たり前。俺の一方的な感情だったとは思うけど――
 あの時の俺は、いつか、リアルの綾とも付き合いたいって思ってた。
 綾には考えられないかもしれねぇけど、リアルの俺の事、正直どこまで
 受け入れてもらえるかまでは分からなかったけど――綾の事本気で
 好きだったし、一緒に遊んでて――すっげー楽しかったよ。
 ――でも……綾はリアルの事話す事自体
 嫌がってたから、そこまでは踏み込めなかった感じだったな」
「……リアルの話したくなのは、当たり前でしょ。
 ――現実逃避を祈ったから、私達“現実組”は
 “この世界”に招かれた訳だし」
「まぁ、確かにそうだよな……でもさ……お前、綾って名前の由来に
 なったリアルの友達の事話す時は……すっげー楽しそうだったよな?」
「そりゃあ、絢女(あやめ)ちゃんは一生特別だもん。
 ……絢女ちゃんは――今は私の事、どう思ってるか分からないけど、ね。
 それで竜は今――あの子と……現実世界でも会って付き合いたいって、
 そこまであの子の事想ってるの??」
綾は――真剣な目で、竜を見つめる。

「……アイツの、リアルの事とか色々あるだろうし……無理にとは
 言えないし――……他の奴らはどう思うか分からねぇけど、人を
 想う気持ちに――“世界”は関係ねぇと思ってる。現実に帰っても、
 やっぱ好きな奴……そいつ自身って求めちまうもんだと思うから」
「つまり、現実世界でも会って、触れて、抱きしめたいとか
 キスしたりとか、それ以上の事も――って思ってる訳?」
「まぁ……な」
「……竜は自分のリアルの事はあの子にどれ位話してる?」
「――あまり詳しくは言ってねぇけど、少し話した事あるから
 全く知らない訳じゃあねぇな。
 ……っていうか、その話したからこそ、俺は――」
竜は――思い返す。竜は綾と別れた後、「ゲームの世界の自分」と
「現実世界の自分」について悩んでいて――桃に質問した事があった。
その時の言葉があったからこそ、竜は――……

「まぁさっきは私、ああは言ったけど……竜の事情ある程度
 知ってるんだったら、向こうもそれなりに覚悟はできてるん
 じゃない? ……告れば?」
「……そう簡単にいくかよ!
 ゲームだけの付き合いじゃ満足できねぇって――やっぱ重くね?」
「――まぁ確かに、現実含めてと考えたら、
 そうよねぇ……私も昔リアルで男子に告白した時そうだったし」
「……前から思ってたけど、綾って結構行動力あるよな……
 俺に付き合おうって言ってきた時も、ある意味すげぇなって思ったぜ
 ……アレはゲームの世界だけって意味だったから重みも違うし
 あの時は――その場のノリみたいな感じもあったけどよ……
 それでも自分から言うのって結構勇気いるよな……」

そして竜は思い出す――綾が竜に付き合おうと言ってきた時の事。
その日は2人で共同クエストに出ていた。もう少しで敵を倒せるかと
思った時――竜の魔力が尽きてしまい、2人共魔力回復アイテムが
なかった為、綾は一方的に竜に魔力を譲渡した。その後、そういった
行為は普通は恋人同士でしかしないと言った竜に、だったら付き合おう、
と綾は言ってきたのだった。

「……正直、お前と付き合ったのは――なりゆき?みたいな感じでは
 あったけど、結局綾は――なんで俺と付き合おうって言い出したんだ?
 俺の事、多少は好きでいてくれたから……とは思いてーけどさ、
 それ以外の理由も――あったのか?」
「ん~好きになったら、少しでも一緒にいたいのは必然だし、時間合わ
 ない時とか、正直淋しいって思った事あるし……もちろん、竜と一緒に
 いて楽しかったのがあるかな……でも自分から告白して付き合ったのは
 ――リアルの竜がどんな人間かを探る為でもあったの。竜にもっと
 近づいて――見極めたいと思った。もしかしたら、竜は私が今も
 現実世界で好きな人かもしれないってそんな……ありえない幻想を
 抱いた事もあった。でも竜は違った。それで勝手にがっかりした……
 ごめんね、昔の私――勝手に竜を、昔付き合ってた人と――重ねちゃ
 って……不思議だよね、竜はその人じゃあないはずなのに、竜はその
 人と似てるって感じる事があって。もしかしたらって、なんでか
 分からないけれど……竜と同じようなノリの子もいても、竜だけに
 感じた。竜といたら――どうしても、その人の事を重ねちゃうんだ」
「でも俺は――リアル女子と付き合った事すらねーし。それは絶対ぇ
 ありえねぇ話だったぜ……俺がもしも綾の元彼だったら、ある意味
 ハッピーエンドだったかもだけど……世の中そこまでうまく
 いかねぇよな普通。」
「それで改めて痛感した。……やっぱり私、まだ、その人の事が好き
 なんだって……この世界で、色んな男の子にチヤホヤされて、
 良い気持ちになっても――埋められないの。やっぱり違うんだって
 思ってしまう……!それにね、本気で想い合ってる人達……悔しいけど、
 竜とあの子とか、蓮と眼鏡っ子とか――見てると、嫌でも思い出す……
 私が現実世界で本気で好きになった人の事も……結局、忘れられないの
 ……その人の事が。今も私の事覚えてくれているか分からないのに、
 逆に私のせいで今苦しんでるかもしれないのに……!」
そして綾は――泣きそうな表情を見せた。

「でもさ、完全に別れ話した、とかじゃねぇんだよな?今も――
 現実世界の綾の事、想っていてくれてるかも――しれねぇんだよな?」
「……それはさすがにないと思うな。だって私――
 あんな形で、お別れしちゃったし」
綾は思い出す――現実世界の自分が、かつて付き合っていた
男子の前から、何も言わずに姿を消した事を。
「……聞いて良い事か分からねーけど、綾は今回のイベントで――
 どういう報酬をもらう約束なんだ?」
「……そうだね、竜には先に話しておこうかな。私は――」

「……完全に――……ようと思ってる」
綾は――決意した事を、竜の耳元で囁く。

「……! ――その為の準備に必要なアイテム的な何かって感じか?」
「――そういう事。運営は――やっぱり私が一人目の現実組、だからかな。
 ――色々考え読まれてたみたい。それで今回、向こうから
 仕掛けてきた感じだった。 それと竜は――他の人に色々話してから
 また話せたらって思ってる」
「そっか、だったら――その時はまた、な」
「……――それでね、今すぐは難しくても……
 その人と絢女ちゃんには、ちゃんと謝りたいって思ってるの」
「その為に、そうするんだな。だったら俺は――綾のしたいように
 すれば良いと思う。俺は何もできねぇけどさ、応援してるぜ?」
「……ありがとう、竜……あの、ね……竜と付き合って楽しかったのは
 嘘じゃないし、勢いとはいえ私から告白して――OKもらえたの、
 本当に嬉しかった。私ね、ちゃんと“竜”の事も好きだったんだよ?
 初めてのキスも、竜で良かったって思ってる」
「……そいつとは、した事なかったんだな……」
「だからこそ、余計に――してみたかった事、暴走しちゃったっていう
 かね……その人とは、堂々と付き合う事自体、難しかったし」
「俺ももちろん、綾が初めてだったし、綾で――良かったって思ってる。
 まっ正直さ、リアルって色々縛りとかあるけど――
 この世界ではお互い解放されてたっていうか……そのせいで、色々派手に
 やらかした感じはするけど……でもゲームはお互いノーカウントって
 事にしとこーぜ」
「そうだね、あっそろそろ――せっかく勝ったんだし、
 行きなよ、最初のステージに」
「そうだな」
「それとね、竜。私さっきはさ、竜とあの子見ていて――
 なんかモヤモヤしちゃって、色々余計な事口走って……
 信じるかどうかは――竜に任せるけれど、
 私はね、竜が私が付き合っていた人と違ってた事に勝手にがっかり
 しただけで、現実世界の竜の事がすごく嫌とか、そういう訳じゃ
 なかったの。だから――本気なら、そこをあまりに卑下して、気持ち
 抑えなくてもいいと思う。それに私も――少し、竜と似てるから。
 現実世界と違う所って――あって当然だもんね」
「……!! ――ありがとな、綾」
「またね、竜」
「ああ、またな、綾」

そして綾は竜の前から姿を消す……一方、竜は優勝報酬を手に入れる為、
最初に集まったステージへ向かう事にした。


コメント

こんばんは

どんなに小さい事でもうまくいかない事
納得できない事はありますよね
それが現実でもゲームの中での出来事だとしても

バトキャラ内のみんながそれぞれなんらかの形で
それがいいものでもよくないものでもゲームの中でだからこそ
できる経験や思いを伝えた後に現実でもそれを元に
一歩でも前に進めるといいですよね

  • 2021/05/09(日) 20:35:54 |
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  • 荒ぶるプリン #-
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