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2011/05/11

《料理する》(その2)

※以下の文章は「ルパンの結婚(6-9)」の内容に触れています。※


アルセーヌ・ルパンの計画に関して重要な要件が、サルゾー=ヴァンドーム公爵の性格にあった。

この事件に独特な風格を添えて公爵家の友人達を特別に興がらせたのは、公爵その人の性格、その高い誇り、その思想と主義の面に於ける、妥協性の欠如であった。(P333)

若い頃シャンボール伯爵の亡命に行を共にしたこともあり、老いての後は、いやしくもサルゾー家の一員たる者は同程度の貴族以外の者とは同席は出来ないとの理由で、下院に与えられた議席を拒んだものだ。
今度の事件は、公爵の泣き処を、じかに突いていた。立腹がおさまらないまま、ルパンに対して大袈裟な形容詞入りの罵詈を飛ばすかと思うと、あらゆる刑罰を一度に加えてやるとおどしたり、娘をやたらに責めたりした。(P334)

「シャンボール伯爵の亡命に行を共にした」という箇所は一緒に亡命したという風にも取れてしまうんだけど、ここは、亡命中のシャンボール伯爵と行動を共にしたということ。シャンボール伯爵はブルボン王家最後の王位継承者。1830年に亡命しており、1873年に王政復古が実現する最大のチャンスがあったが、王位に就くことはできなかった。

サルゾー=ヴァンドーム公爵は非常にプライドの高い貴族で、下々の者との同席が我慢ならないと下院の議席を拒む。まして、世俗の好奇の目にさらされるのは甚だ不快な耐えられないことであった。それを利用したのだ。

本人の意志でとった行動が、実はルパンが望んだものだった。相手の性格を見抜いて、予告状や新聞記事であおり、行動に移させたという点で、「獄中のアルセーヌ・ルパン(1-2)」が思い出される。アルセーヌ・リュパン風《料理》の一例だろう。いずれも、肉体的暴力によるものというより、主に、精神的な攻撃によるものである。

「(略)あいつはあなたの生活をめちゃめちゃにしました、あなたの精神を混乱させました、〈あなたの不眠の夜の思いを、仮眠の夜の夢を〉混乱させました(略)」(P355)


ちなみに、公爵のブルターニュへの出立に際して、ルパンが「ヴァレンヌの逃亡」と揶揄した記事を載せる。「ヴァレンヌの逃亡」というのは、フランス革命時ルイ16世一家がフランス国境を目指してパリを抜け出した事件のことだ。一家が捕まった場所がヴァレンヌ(Varennes)、サルゾー=ヴァンドーム公爵の住む場所がヴァレンヌ街(rue de Varenne)という類似からの当てこすり。この箇所の綴りは前者なので、新潮文庫の「バレンヌ街からの脱出」(P344)という訳は正確なところを伝えていない(創元推理文庫、偕成社アルセーヌ=ルパン全集も然り)。

Fuite de Louis XVI et arrestation a Varennes - Wikipedia(フランス語)
http://fr.wikipedia.org/wiki/Fuite_de_Louis_XVI_et_arrestation_%C3%A0_Varennes
Rue de Varenne - Wikipedia(フランス語)
http://fr.wikipedia.org/wiki/Rue_de_Varenne

最後は、本作品以外の例について。


前→《料理する》(その1)
次→《料理する》(その3)

※以上の文章は「ルパンの結婚(6-9)」の内容に触れています。※

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