三津木春影「古城の秘密」(「新青年」版)
「新青年 第19巻(昭和13年)合本6」本の友社、2003年
初出:「新青年」1938年7月特別増刊号(昭和13)
「813(5)」の翻案で、雑誌「新青年」の増刊号に収録されたもの。元は1912年に単行本として発売され、前編が近代デジタルライブラリーに収録されているが、完全な形で読むのには困難がともなう。ということで、この省略版を読んでみることにした。しかしやはり省略が多いようだ。元が前・後篇の2冊に分かれているものを、長編読みきりにまとめようってんだから、当たり前なのだけど。
「古城の秘密」はアルセーヌ・ルパンが仙間龍賢という風に、固有名詞が日本風に改められているものの、おおむね忠実である。しかし、部分的に改変がある。
たとえば、ルノルマン部長(原作での名称を用いる)が、ルパンの代わりにと手下の一人を逮捕させた後(ここまで原作にあり)、ルパンの隠れ家を探り、一網打尽に捕らえることになっている。この場面、新青年版では不可解だった。捕らえられた中に、マルコとルパンがいるのだ。その後に、ルパンからルパンを奪い去るという公開状が出される。曰く、
即ち五月三十一日の金曜日を期して、龍賢と丸吉らを奪い去るつもりなり。(「新青年」P23)
果して此奇怪なる公開状は、同日の、都下の
所有 る夕刊新聞紙上に印刷された。そして幾百万読者を驚倒させたのであった。(「新青年」P23)
龍賢はルパン、丸吉はマルコのこと。牢屋の中に入っているルパンがルパンを奪い去る? どこから公開状を? と不審に思って、近代デジタルライブラリーの単行本を確かめてみた。
即ち来る五月三十一日の金曜日を期して、龍賢の贋者、瀬利田、丸吉其他を奪い去るつもりなり。
果して此奇怪なる公開状は、同日の都下の
凡有 る夕刊新聞紙上に印刷された。そして幾百万の読者を驚倒させたのであった。(単行本P162)ああ、神戸警部が龍賢と目したのも、蓮田大探偵が龍賢と思って捕縛したのも、真の龍賢ではなかったのか! 事件は真に根底から転覆った。そして真の龍賢が公表したこの大胆な公開状はどうだ!(単行本P162)
元の単行本では、逮捕されるのはルパンの偽物なのだ。
それから、判断が難しい箇所。
『さァ。話すのだ。話すのだ。是非話してくれ。儂はお前の友人じゃ。儂は数だけは知っている。八百十三。』
『ハチ、イチ、サン!』
一語初めて迸った。(「新青年」P22)
元の単行本ではこうだ。
『さァ。話すのだ‥‥‥‥話すのだ‥‥‥‥是非話してくれ‥‥‥‥
私 はお前の友人じゃ‥‥‥‥私は数だけは知って居るのじゃ‥‥‥‥八百十三‥‥‥‥。』
『八一三!』
一語初めて迸しった。(単行本P152-153)
「八一三」という表記がどのように読むべきととらえていたか判断がつかない。「八百十三」と「八一三」と表記が異なるのだから別の読み方だと考える人もいるだろうし、ハッピャクジュウサンを強調するために「八百十三」という表記を使ったとも言える。いずれにせよハチ、イチ、サンと区切ってしまうと一語にならない。
省略版でも面白かったのだけれど、元の単行本が読みたい。
国立国会図書館 NDL-OPAC(書誌 詳細表示 ):古城の秘密 : 武侠探偵. 前篇
http://opac.ndl.go.jp/recordid/000000563023/jpn
本文 - 古城の秘密|近代デジタルライブラリー
http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/947412
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