「奇岩城の大嘘」とは?(その2)
※以下の文章は「奇岩城(4)」の内容に触れています。※
ここからは作品の内容に触れるので項を改めてみた。
物語の終局であらわされる、保篠氏が「奇巌城」と名づけた岩はフランス北部セーヌ=マリティーム県のエトルタに実在する。中が空洞でそこに通じる道があるというのは作者の作り話なだが、“令嬢たちの部屋”と呼ばれる岩も実在している。なお、映画「ルパン」のクライマックスでアルセーヌが十字架を持って、欄干のある橋のようなものを渡って入っていた岩が令嬢たちの部屋(外観のみ)、そして十字架を使って入っていた先がエギーユ(これも外観のみ)である。中はいずれもスタジオのセットだろう。念のために書いておくと、原作の「カリオストロ伯爵夫人」自体が「奇岩城」前史となっているので映画ではそれを取り入れたものと思われる。
その1に挙げたエギーユという言葉の使用度数のうち、定冠詞を伴った3のレギーユ、書名になっている4のレギーユ・クルーズは、最終的にこのエトルタの沖に存在する巨岩を示す。冠詞という概念が分かりづらいので、1と2の例について三宅氏の言葉を引用させてもらう。
作者は、これを、謎の暗号後として読者に投げかけ、それを次第に明らかにしていく手法をとっている。無冠詞のもの1は、暗号解読時の単語として、その他は、ただ一カ処、<松葉>という構成語として使われているだけである(ガリマール版六五頁)。不定冠詞を伴ったもの2は、れいの大岩を特定しない場合に使われている。(大嘘)
エトルタの巨岩は作中で次のように描写されている。
彼の真正面の沖合いに、ほとんど断崖の高さと同じ高さで、八十メートル以上もある巨大な岩がそびえていた。水面すれすれのところに見える花崗岩の大きな台座の上に、この巨大なオベリスクが垂直につっ立っていたのだ。それは、てっぺんへいくほど細くなり、まるで海の怪物の巨大なきばのようだ。このおそろしげな一枚岩は、断崖と同じように白いが、それはよごれて灰色がかった白色だった。(岩波P302)
<アヴァルの門>と呼ばれている、海底の岩の中に根をはって枝を断崖の上にそびえさせている巨木のような、堂々たるアーチがある。そこから四、五十メートルはなれたところに、とほうもなく大きな円錐形の石灰岩がそびえていた。(岩波P305)
作中でかかれたとおりの位置に岩は存在する。写真で確認してみると、見る角度によって形は換わって見えるが「針のように尖った岩」ではない。単独で立っていて80メートルというのはかなりの大きさである。針というとまうと小さいイメージがあるし(針小棒大)、胴体が細いイメージがある。形状からすれば針よりも角という感じがする。三宅氏が「そんな大岩を<針>と表現する者は誰もいまい」というのもごもっともな岩なのだ。日本語で表現するなら、先端が尖った大岩、尖峰岩となるだろうか。しかし、訳者たちは最初に「針」としたので、それに縛られてしまっているとしている。
しかも「奇岩城」のエギーユはこれだけではない。
(その3に続く)
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次→「奇岩城の大嘘」とは?(その3)
※以上の文章は「奇岩城(4)」の内容に触れています。※
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