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    会計とは何か?なぜ必要か?

    ・会計とは、財産の状態を出入り(フロー)と残額(ストック)の面で管理することです。

     これをやらないと、儲かっているのか損をしているのかさえ分かりません。

     商品が売れた代金も、どこからか借りてきた借金も、出所が違うだけで、手に乗れば同じ100万円です。
     同じお金なので、どちらの場合も、給料の支払いや仕入れをするのに使うことができます。
     しかし、この後に起きることは、やらなくてはならないことは、お金の出所によってまったく違います。
     借金には利子がつくし期限までに返さなくてはなりません。
     商品の売上金の場合はそういうことはありません。

     だから今どれだけお金があるかを知るだけでなく、その出所がどこなのかも把握しておく必要があります。
     


    倉庫会計ー財産管理のはじまり

     会計の歴史でいうと、倉庫に入っている財産について、その一つ一つを書き出した財産目録をつくるのが最初でした。
     これを倉庫会計といいます※。
     
    ※現存する最古の倉庫会計の物的証拠は、紀元前650年ごろに活躍した「エジプト国庫記録官・王室記録長官・納税記録官・国立穀物倉庫総裁兼エジプト陸軍将官」のハップ・メンの石棺(Sarcophagus of Hapmen)で、大英博物館にあります。


    sarcophagus of hapmen
    (クリックで拡大)


    Sarcophagus of Hapmen
    Found in Cairo, Egypt
    26th Dynasty or later, 600-300 BC

     


     財産目録は、倉庫の中の財産の現状の〈写し〉です。
     いちいち倉庫を引っくり返さなくても、財産目録を見るだけで、財産の状態が分かって便利です。

     倉庫に入っている財産のひとつひとつと、財産目録の各項目は一対一に対応しています。
     おかげで倉庫の中を探し回らなくても、今何がどれだけあるか財産目録を見るだけで知ることができるのです。
     
     財産と財産目録の各項目の一対一対応を維持することが倉庫会計のキモです。
     そのために、
     新しい財産が増えれば、倉庫に財産が増えて、財産目録にも新しい財産を記入します。
     財産を手放したときは、倉庫から財産が減って、財産目録の方も、その財産がなくなったことを記録します(抹消線を引いたりして)。

     このやり方はたくさんの物品を管理するのに、今も現役で使われています。
     図書館の蔵書目録はそのひとつです。
     またお小遣い帳や現金出納帳なども、財産と目録の一対一対応を維持するという倉庫会計の考え方で運用されています。



    借方貸方会計ー価値計算のはじまり
     
     再び会計の歴史に戻ると、13~4世紀のイタリアで新しいタイプの会計が生まれました。
     
     この頃のイタリア商人は地中海貿易で活躍していました。
     海を船で荷物を運ぶ仕事は、当時はとても危険なものでした。
     難破などの海難事故で、財産も生命も失う確率がかなり高かったのです。
     しかし危険を冒してもやろうと思うくらい、とても儲かる仕事でもありました。
     
     この頃の地中海貿易には、2つのタイプの商人が登場します。
     船に乗って実際に海に出る貿易商人と、イタリア本土にいて彼らに資金を提供する大商人です。
     大商人は豊富な資金力をつかって、自分の命はかけることなく、地中海貿易から利益を得ることができます。
     貿易商人は仕入の資金を持っていなくても、大商人が資金を出してくれるので、大儲けできるかもしれない地中海貿易に挑戦することができます。
     つまり資金を実際に運用する者(貿易商人)と、資金を調達してくる者(大商人)が分離したのですが、これを背景に生まれたのが、現在の複式帳簿のルーツである借方貸方会計でした。
     
     〈借方〉とは、資金を実際に運用する貿易商人の方の記録にあたります。
     〈貸方)とは、資金を調達してくる大商人の方の記録にあたります。
     

     さっきの地中海貿易でいえば、ストーリーはこうなります。

    貸方借方の起源

     
    (1)大商人が資金を調達してくる。これは自己資金だったり借金だったりします。これは大商人の方=〈貸方)に記録されます。

    (2)大商人が資金を提供し、買い付けた貿易品が、貿易商人が乗る船に乗せられて航海へ出発。・・・どんな品が船に乗っているかは貿易商人の方=〈借方〉の記録となります。

    (3)貿易先で商品を売ってお金を得る。別の貿易品を買うこともあるでしょう。どれだけの金+商品がが船に乗っているかはやはり貿易商人の方=〈借方〉の記録です。

    (4)無事に航海が終わり船が無事に帰ってきました。1回の航海が終わったので清算します。
     売り買いの結果、船に載っているお金+商品の財産としての価値が、最初に提供された資金より大きければ儲けが出たことになります。
     必要経費や報酬を差し引いた儲けが、大商人に渡ります。つまり差額が利益として大商人の方=〈貸方)に記録されます。

     これが複式簿記のルーツであり、商業簿記の、そしてこれ以降の会計の、基礎になりました。



    財産管理と価値計算ー2つの会計の底にあるもの
     
     倉庫会計と借方貸方会計の、最大の違いは何でしょうか?
     それは、倉庫会計が個々の財産を個別に管理するものであるのに対し、借方貸方会計は全体的な財産を(言い換えれば《資本》を)把握しようとするところです。
     
     倉庫会計では、倉庫に何がどれだけ入っているか、個々の財産を正確に記録し把握することに関心があります。
     倉庫にしまい込まれたそれぞれの財産は(誰かが盗んだりしないかぎり)そのまま変わらないことが前提です。
     
     借方貸方会計では、帳簿に記載されたお金や商品が売り買いによって種類と量を変えることを前提に、そうして種類と量を変えながらも、全体の価値が増えたのか減ったのかを知ることに関心があります。
     
     これが、倉庫会計に由来する単式帳簿が財産中心・物量計算主義と言われるのに対して、借方貸方会計に由来する複式簿記が資本中心・価値計算主義だと言われる背景です。

     1494年『スムマ』(正式なタイトルは "Summa de Arithmetica, Geometria, Proportioni et Proportionalita" 算術、幾何、比および比例に関する全集)という数学書を著し、その第1章で公刊書としては初めて〈ベネチア方式〉つまり複式簿記の仕組みを説明したルカ・パチョーリは、この書の中でcavedaleという言葉を使いました。この中世イタリア語の単語がヨーロッパ諸語に伝わりcapital(フランス語、英語),Kapital(ドイツ語)の「資本」につながっていきます。


    summa.jpg
    (クリックで拡大)


    Summa de arithmetica, geometria, proportioni et proportionalita
    Lucas Pacioli
    Venice: Paganino de Paganini, 1523
    Book (first ed 1494), 31 x 22




     全体として儲かっているのか損しているのかを知るには、価値計算のための複式簿記が不可欠です。
     しかし、個々の財産が現在どういう状態にあるかという財産管理もまた大切です。現金(出納帳)や備品(台帳)など、財産の種類に応じた倉庫会計の末裔もまた、生き残ることになります。


     今でも、会計には、大きく分けて2つの役割があります。
     一つは、主として組織の内で、組織の状態を財産面から捉えて、組織運営のための「目」の役割を担うことです。倉庫会計以来、会計が担ってきた財産管理の役割です。管理会計と言われるのがこちらの側面です。

     もう一つは、組織の外に対して、組織の状態を価値の面から要約して伝える、情報提供としての「口」の役割を担うことです。借方貸方会計以来の、出資者へ向けた価値計算会計です。
     これは、商法や証券取引法でルールづけられた情報提供としての会計であり、そこでは貸借対照表と損益計算書などの財務諸表が主役をつとめ、個別の財産を管理するための財産目録や会計帳簿はその向こうに隠されます。
     


    商業会計と工業会計ー経済発展に伴う価値計算の進化

     リスキーな東方貿易に端を発する、価値計算のための複式簿記は、その後、どのように発展していったのでしょうか。
     
     まず航海以外の商業にも、この新しい会計方式は浸透していきます。
     
     商業とは、ざっくり言えば、お金で商品を買い、そのあと商品を売ってお金を得ることです。この売り買いの差額が利益の元になります。

     借方貸方会計を生んだ貿易では1回の航海ごとに清算していましたが(というより船が無事に帰ってくるまで清算できなかったのですが)、陸の上に店を構える普通の商店だと日々いろんな商品を売ったり買ったりしています。「一回の航海」のような区切りがありません。
     しかし区切りをつけて清算してみないと、最初にいいましたが儲かっているのか損をしているのかも分からないのです。
     そこで人工的に一定の期間(たとえば1年)を定めて、切れ目をつくってやらなければならなくなりました。会計年度の登場です。

     
     時代が進んで、工業の時代になると、さらに新しい会計が必要になってきました。

     工場の設備は、設置するのに大きな費用がかかりますが、一旦設置すればしばらくの間動き続けます。しかも設備によって、その寿命もバラバラです。
     1会計年度で何もかも清算という訳にはいかず、複数年度にまたいで、設備に使った資金は製品を作り続けていくなかで少しずつ回収していくのだ、と考えた方がよいことになります。
     つまり費用は一度にどかんと大きく、売上はちびちび小さいがずっと続くことになります。

     儲かっているのかどうか知るために、工場設置にかかった一時的かつ大きな費用と、長期的かつ小さな売上を、うまく結び付けてやる必要があります。
     ここに費用を製品1個当たりに割りあてる原価計算が生まれ、また設備の価値が減っていく部分を生産物やサービスの価値のなかから生産費の一部として回収するという減価償却という考えが必要になりました。



     
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