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     特別な行動は目新しいため耳目を集めるが、特別であるために実施コストは高く、今回の表現で言えば「不足行動」になりがちである。つまり実施されにくく、すぐにやめることになりやすい。
     
     一方では、我々は「わかっちゃいるけどやめられない」行動も行っており、そちらはむしろ減らしたいと考えている。
     この記事と以下に示すフォーマットは、普通は害ある行動として否定的に捉えられる(今回の表現で言えば)「過剰行動」から、本当は増やしたい「不足行動」の増やし方を学び、逆に「不足行動」からは「過剰行動」の減らし方を学ぼうという試みである。
     

     必要なのは、当たり前の行動を組織立てて実際に実施することであり、それを続けることである。
     目的の行動を増やしたり減らすために、それを持続するために、どんなことをできるかを漏れなく網羅できるように、不足行動/過剰行動の特徴とそれに応じた対策をそれぞれ1枚の表フォーマットにまとめてみた。
     まずは表を示し、その後にこれらの表の成り立ちと意味を解説することにする。
     

    inc_sheet0.png


    dec_sheet0.png






    不足行動/過剰行動とは?

    inc-dec.png


     わかりやすいように、行動を便宜的に二つに分けておこう。
     これから自分が増やしたい行動と減らしたい行動とに、である。
     増やしたい行動は、現状では足りないと思う行動(不足行動)である。
     たとえば、三日坊主で終わってしまう英語の勉強とか、体重を減らすためのジョギングとか、休みがちのブログ書きとか、である。
     増やしたい行動とその前後に起こっていることを観察すると、増やしたい行動がなぜ現状では低い水準に留まっているかを知ることができる。
     
     減らしたい行動は、現状ではむしろ多すぎると思う行動(過剰行動)である。
     たとえば、喫煙(吸い過ぎだ、減らしたい)や飲酒(飲みすぎだ、肝臓をもっと休ませなくては)や食べること(食べすぎだ、なんとかしてくれ)といったことである。
     減らしたい行動とその前後に起こっていることを観察すると、減らしたい行動がなぜ現状では高い水準に維持しているかを知ることができる。

     「意志の弱さ」のようなスケープゴートを用意することを控えて(それは自己嫌悪と自己憐憫にしか使えない概念である)、まずは観察できる自分の行動とその前後を調べよう。
     
     2つの正反対の行動に分けたおかげで、自分の行動から次のような知見を得ることができる。
     不足行動を増やすコツは過剰行動から学ぶことができる。なぜなら過剰行動は行われやすい理由があって、高い水準に維持されているからである。
     過剰行動を減らすコツは不足行動から学ぶことができる。なぜなら不足行動は行われにくい理由があって、低い水準に押し留められているからである。




    不足行動はなぜ行われにくいのか?

     不足行動の特徴は3つにまとめられる。
    (1)行動するのが大変
    (2)ライバル行動に負けてしまう
    (3)すぐには成果が見えない

     勉強を例にしよう。
     もともと「勉強」という漢語には「無理をする」という意味しかない(俗語で商人が「勉強しまっせ(値引きしますよ)」というのもこの意味から来ている)。
     苦労して行うことだけれど、一日か二日勉強したところで効果がすぐにあらわれる訳ではない。
     おまけに勉強よりももっと簡単にできてすぐに成果があらわれる誘惑(たとえばネットを見たりマンガを読むこと等。こうしたものをライバル行動と呼ぼう)がいくらもある。
     もう少し丁寧いえば、ライバル行動は、その行動をしていると当の目的の行動をすることができない(目的の行動と両立しない)ような行動である。
     ライバル行動になるものは、次に見る(ついついやりすぎてしまう)過剰行動の特徴を持つものが多い。ライバル行動は強力である。
     


    過剰行動はなぜ行われやすいのか?

     過剰行動の特徴も3つにまとめられる。

    (1)行動するのが簡単
    (2)ライバル行動がない
    (3)すぐに成果が現れる

     喫煙や飲酒を例にしよう。
     タバコを吸うことや酒を飲むことは簡単である。
     そして、その効果はすぐに現れる。
     しかも、強力なライバル行動がない。



    不足行動を増やすコツは過剰行動から学ぶ

     不足行動になりやすい行動には、3つの特徴があった。
     過剰行動にも、それらと対応する3つの特徴があった。
     不足行動を増やすために、その3つについて、不足行動を過剰行動に近づけることを考えよう。
     
    (1)行動するのが大変→行動するのが簡単

     大変な行動を、少しでも簡単にできるようにするのが、第一のアプローチである。
     これには
    (1a)行動のきっかけをつくる
    (1b)行動のハードルを低くする
    の二つがある。
     
     たとえばダイエット法のひとつに「自分の食べたものを記録する」というものがある。これを続けるための工夫を考えてみよう。
     家に帰ってからノートに記入しようというのだと、何度か忘れたり飛ばしたりするうちに、いつしかやらなくなってしまう。 記録用紙を持ち歩いた方がいいし、もっといいのは常に持ち歩いているもの(たとえばスマホ)を記録に使うことだ(行動のハードルを低くする)。
     通知機能をつかって、食事を終えているはずの時刻、たとえば8時、13時、21時アラームと共に「入力しましたか?」というメッセージを出す(行動のきっかけ)。


    (2)ライバル行動に負けてしまう→ライバル行動がない
    =>ライバル行動を遠ざける
     
     このアプローチは、目的の行動をできるだけ自分に近づける(1)のアプローチと、裏と表の関係にある。
     つまりライバル行動(目的の行動と両立しない行動で過剰行動になりやすいもの)をできるだけ自分から遠ざけるのが第二のアプローチである。
     
     勉強するスペースからマンガとゲームを追い出す、というのはありきたりだが効果は馬鹿にできない。
     机から、ほんの1メートル遠ざけただけでも効果がある、という報告もあるくらいだ。


    (3)すぐには成果が見えない→すぐに成果が現れる
    =>行動に対して「ごほうび」

     不足行動を過剰行動に近づける3つめのアプローチは、直接の成果(ダイエットなら体重の減少)がすぐには現れないならば、すぐに現れる別のものを「ごほうび」を与えること、これが第3のアプローチである。
     つまり決めた行動をやり終えたらすぐに、アメとムチのアメを自分に与えることである。
     これは各自の好みのもので、時間がかからないものを用意しておく。所定の運動をやったら、本当にアメを舐めることもある。
     直接的な「ごほうび」の他に、やったことを記録することも、ひかえめだが効果がある。
     行動はやり終えた瞬間に消えうせるが記録は残る。そして蓄積する。
     
     先ほどの挙げた「自分の食べたものを記録」のためのアプリは、食べたものを入力すると即座にカロリーを計算して示してくれる。些細なことだが効果は小さくない。




    過剰行動を減らすコツは不足行動から学ぶ

     過剰行動になりやすい行動には、3つの特徴があった。
     不足行動にも、それらと対応する3つの特徴があった。
     過剰行動を減らすために、その3つについて、過剰行動を不足行動に近づけることを考えよう。
     
    (1)行動するのが簡単→行動するのが大変
    (1a)行動のきっかけを取り除く
    (1b)行動のハードルを高くする

     簡単すぎてすぐにやってしまえる行動を、できるだけ大変な行動に近づけるのが第一のアプローチである。
     
     再び喫煙を例にするなら、タバコを捨てる、ライターを捨てる、灰皿も捨ててしまう、などが「(1a)行動のきっかけを取り除く」である。
     同様に、自動販売機でタバコを買えないように、taspoを持たない、小銭を持ち歩かない、などが「(1b)行動のハードルを高くする」ことである
     

    (2)ライバル行動がない→ライバル行動に負けてしまう
    =>ライバル行動をもってくる

     こちらも(1)のアプローチと、裏と表の関係にある。
     つまりライバル行動(目的の行動と両立しない行動)がないなら持ってくることである。
     
     喫煙の例を続けると、多くのタバコは口で吸うものだから、何か口を使う行動を「ライバル行動」としてぶつけるのである。
     ガムをかむことや、禁煙パイプを使うことなどがこれに相当する。


    (3)すぐに成果が現れる→すぐには成果が見えない

     このアプローチは少々複雑である。
     というのも過剰行動と、そのすぐ後に現れる成果(効果)を切り離すのは普通は難しく、直接的に「成果(効果)が現れない」状態にもっていくことができにくいからだ(少ない例外として、アルコール依存症に処方されるアセトアルデヒドデヒドロゲナーゼは、血中のアセトアルデヒド濃度を高めることで、飲酒による不快感をもたらす)。
     
     かわりに過剰行動のできるだけすぐ後に、マイナスの「ごほうび」、つまりペナルティをぶつけることで、過剰行動の成果(効果)を打ち消す。
     例えば、タバコを吸ったら罰金を取る。しかしペナルティは嫌なことであるため、「ペナルティを与える」という行動は一般に不足行動になりやすい(つまり自分だけでは続けられにくい)。
     誰かしっかり罰金措置を実行してくれる協力者がいるといい。
     しかし「その人におごる」というのは良くない。「おごり」は協力者にとって過剰行動になるから、協力者は無意識にであれ、あなたにタバコを吸いやすくするかもしれない。
     
     ここは発想を変えて、標的とする過剰行動とは両立しないライバル行動に「ごほうび」を出す手もある。
     

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