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     うろ覚えでなく、半可通でなく、物事をマスターするには徹底して繰り返すことだ。
     繰り返しが、素早く正確に処理する力を培う。

     だが、そんなことは誰だって分かっている。
     
     繰り返しは飽きる。やる気が出ない。一度やったことはやりたくない。新しいことに手を出したい。
     これは知的好奇心と同じ源泉から出てくる心の叫びだから、むげに扱うわけにもいかない。っていうか、やりすごそうとしても、それこそしつこく再来してくる。

     ここでは、「必要だと分かっているが、繰り返すモチベーションが上がらない」という問題について問題解決してみる。
     ありがちな「問題を解く」ことを例にするが、応用は容易だろう。
     
     
    0.まずは問題を解いてみる

     ここで重要なことは時間を測ることだ。
     何分以内にやらなきゃならない、と考えるのは不要だ。
     ただタイムを計るだけなのに、モチベーションはいくらか底上げされる。
     そして後には、自分についてのデータが残る。


    1.もう一度解いてみる

     ここからが本番である。
     同じように解くのではやる気が出ないから、今度はさっきの半分の時間で解く。
     それには解き方を覚えている(と自分では覚えている)間にとりかかるのがいい。
     普通は「もう解き方は分かったし次行こう」と思うところをとらまえて、再戦する。
     同じ問題をもう一度解くことにはいろいろメリットがある。
     
     二度目なので、解けることが確実に分かっている。
     それどころか解き方のうち、少なくとも一つは分かっている。
     解けないかも知れないという心配がなく、心に余裕があるので、一度目では気付かなかったアイデアやアプローチを思いつける可能性がある。
     試行錯誤の多くの枝ははらわれ、一度目には選択肢(オプション)とならなかった域へのチャレンジも可能になる。
     
     人は自分がやった問題解決であっても、そのすべてを理解してはいない。
     二度目に解くことは、自分がつかった、しかし自分でも気付いていない隠れた知恵を発見する機会でもある。
     
     もちろん速度と正確さを高める絶好の機会でもある。
     実のところ、多くの場合、半分の時間で解くことは難しい。
     だからこそ、二度目は、同じ問題を解くにしても、まったく新たなチャレンジになる。
     したがって制限時間を越えても落ち込む必要はない。しかし悔しがるくらいの方が、そしていくらか焦ったほうが、モチベーションの低下は避けられる。そっちに気が行かなくなる。



    2.思考を実況中継しながら解く

     その次は時間制限とは別の重り(ウェイト)をつけて挑もう。
     情報を処理するための認知資源は有限である。
     今度はそれに制限をつける。

     頭を使って処理しながら、それを報告することは古くからある認知科学研究の一手法である。
     これはかなりタフな、頭の疲れる作業であることが分かっている。
     どんなことも「実況中継」できる訳ではないことも分かっている。
     
     さっきまでなら、問題を解くのに使っていた能力のかなりの部分を、今自分が何をやっているかを言語化するというタスクに回さなければならない。
     しかしこの作業は面倒で疲れるだけのものではない。

     自分の問題を解くプロセス、思考過程をメタ化する作業であることは明白だろう。
     
     改めて自分の問題解決プロセスを言語化、メタ化することは、
    自分のやっていること、できること、できないこと、
    とりわけ思考の息切れがどこで起こるか、処理能力をあふれてしまうボトルネックはどこか、自分が本当に苦手とするところはどこか、そこでは自分はどんな風にやりくりしているのか、といったことについての認識と知識を深める。
     この経験は、自動処理できる問題では大差ないが、どうやって解いていくか自分でプランニングしなければならないような難しい問題を解く能力を高めていく。
     自分の問題処理能力と注意の配分を最適化する能力が身につき、総じて問題解決能力を高めていく。
     
     言語化するのは、口頭言語をつかって、ぶつぶつ言うのでいい。
     これを録音しておく。
     聞き返すのは、最初は大変な苦痛を伴うが、苦いからこそ効力がある。
     

    3.自分に説明する
    4.誰かに説明する


     口でぶつぶついう言語化は、かなり紆余曲折して、筋道立っていないものだ。
     自分で聞き返しても混乱しそうになるくらいであり、とても分かりやすいものではない。
     
     今度はこれを〈清書〉しよう。
     自分がどう解いたかを、分かりやすくまとめ直してみる。
     
     誰か自分以外の人間相手にやるのが最も効果が高いことは言うまでもないが、相手が得られぬ場合もあるから、そちらはオプションにしておく。
     自分以外に説明する場合でも、まずはまとめ直す作業が必要だ。つまり誰かを相手にする場合も、自分相手への説明が先行する。


    5.心のなかにカンペをつくる

     さらにダメ押し。
     自分の解き方をさらに圧縮して1枚にまとめよう。
     カンニング・ペーパーをつくることを想像するとよい。
     カンニング・ペーパーなんて不道徳なものはウソでも嫌だ、という人にはコンデンス・ノートという名前がある。
     濃縮したノートという意味だ。
     
     できるだけ情報量を落としてまとめること。
     すべてを書く必要はない。
     カンニング・ペーパーがそうであるように、自分が思い出せる手がかり(トリガー)だけを抽出したものが望ましい。
     すべてを紙に書き出すことは安心して、記憶がサボろうという誘いにもなるからだ。
     
     カンニング・ペーパーができたら、それをアタマの中に転写する。
     自分で作った濃縮ノートだから、ここまでやっておけば、かなり楽に記憶できる。
     
     

    6.問題を見て、瞬間的に心のカンペを思い出す

     とどめはリコール・プロセスを使う。
     繰り返し思い出す作業を行って、素早く記憶から引き出す回路をつくる。

     理屈は、単語カードや暗記用チェックペン&シートをつかった奴と同じだ。
     何も見ずに思い出し、すぐに正解を確認する。これを繰り返す。
     
     繰り返し書く(もっともポピュラーな記憶法)と比べて優れているのは、くり返し書いているうちに筆記ミスが蓄積するということがない点、書くより速度面で有利であり、同じ時間で数多く繰り返すことができる点だ。
     
     
     ここまでくれは大抵の問題は〈鬼に金棒〉レベルに達しているだろう。
     

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