[喪失の国、日本]を読んで
興味深い本を読んだので紹介します。
それは
喪失の国、日本―インド・エリートビジネスマンの「日本体験記」 (文春文庫) (文庫)
M.K.シャルマ (著), 山田 和
著者は1955年インド生まれ。デリー大学に学ぶ。インド鉄道局勤務を経て、ニューデリーにある市場調査会社勤務。92年4月から94年1月、日本に滞在。
との事。
訳者は取材のためインドを訪れていた際、寂れた本屋で「日本の思い出」と題された本を見つけ手にする。そしてジャイサルメールという街で、昔日本にいた事があるという男性から声をかけられる。彼こそがその本の著者だった。この出会いは9億5千万分の1の確率だったという。
30年前私はイラクに住んでいましたので思うところがありました。
シャルマさんの日本の感想と私のイラクの感想を比較してみます。
シャルマさん
↓
私
です。
窓が密閉されて息苦しく感じた
↓
建てつけが悪くどこからでも風が入ってきた。
銀行では新札が帯封でとめられているだけで誰も数えない
↓
旧札ばかりで必ずその場で枚数を確認しないと間違っている時がある。
落ちていたものを拾って着服しても、それほど咎められない。
↓
部屋の見えるところにはチップと思われるので金品を置かない。
車は大きい新車ばかり
↓
車は古いものばかりで日本では車検を通らないと思うものばかり
日本料理でも煮物や卵焼きをライスと混ぜ、味噌汁も加えればより美味くなるのでは
↓
日本人はタンメンマラクというご飯とスープをご飯とみそ汁のように分けて食べていた。
カースト制で職業は細分化されていた
↓
日本人は何でもやっていた。
日本の定価という概念がインドにはないこと
↓
イラク人は日本のデパートでも値切ろうとして困った。
この本の魅力はシャルマさんの見た日本が我々に非常に新鮮に映ることである。
そしてインドに赴任していた事がある佐藤さん・奥さん・娘さん夫婦の教養あふれる解説無しには彼の日本理解もありえなかっただろう。
この本のいくつか印象的な部分を引用します。
著者はインドの上司の言葉を紹介しながらまずこう言っている。
「日頃、氏はある哲学者の「政治は別の手段をもってする戦争の継続である」という言葉をもじって、経済は別の手段をもってする戦争の継続だと言っていた。アメリカは軍事力を、べトナムを実験場にすることで確立し、いっぽう日本を後期資本主義の実験場にすることで盤石の地位を確立しようとしているというのだ。」「(最も未熟な自己実現の方法は殺し合いだよ。賢い者は血を流さずに政治、つまり交渉でそれを手に入れる。さらに賢い者は経済だけで手に入れる。そして最も賢い者は、日々の労働の中にそれを見出して他に求めない。これは本来逆になってはならないものだ。ところが愚かで貪欲な人は、平和を求めるがゆえに経済発展を望み、経済発展を望むがゆえに政治力を求め、政治力を求めるがゆえに軍事力を高める。
その結果、幸福を得るために集められた金は、再生産しない兵器の購入に消えてしまう。
これはじつは、政治家たちにとって旨味のある話でもあるのだ。何しろ、兵器というものは売り手と買い手が示し合わせて値段をつければいいからね。集めた金の再配分のシステムとしては、これほど都合のいいものはない。今の世界がこの無意味な「大口消費」を最終段階とする構造を持っている限り、幸福のための資金はいつまでも無限の闇に吸い取られていく」
軍需産業から賄賂が流れ、軍需産業のために予算は組まれ、軍需産業の為に戦争は仕組まれる。
再生産を一切しない軍事力のが人類共通の敵であることに地球市民は早く気付くべきだろう。
「21世紀に入って、人々は「絶対的な自由」が「決定的な悪」を社会に誘い込むのを見、 自由を語るものが最も危険な(ファッショ)な人物であることを知る。 壮大な自由の実現とともに壮大な悪が不可避的に跳梁し、 忌まわしい悪の華が地上最後の華を咲かせ、人類は破滅に向かう」
これはブッシュ政権のことではないのか。
全く理由がなかったことがはっきりした「テロとの戦い」というイラク侵略戦争でアメリカは世界中にテロをばらまき21世紀を再び戦争の世紀にし、世界経済も窮地に追い込んだ。
「京都からは奈良に向かい、まず興福寺の宝物館でわれわれは古い仏像をみた。インドの神々があふれているのにはおどろかされた。インドラもシヴァもすべて日本までやって来ているのである。その姿はすっかり変わっていたが、像から伝わってくる清冽な精神力はインドよりはるかに強く、ひじょうに芸術的に仕上げられていた」 「法隆寺では、佐藤氏は、この寺が世界最古の木造建築で、立てられている柱の一つ一つが樹木として深山にあったときと同じ方向、つまり東西南北を守って使われていると説明してくれた。そういうふうに使うことによって、建築の耐久性は飛躍的に増すというのである」 「私はそれを聞いてひじょうに感動した。日本人の樹木への深い理解に驚嘆し、同時にそのことが、日本文化すべてに行きわたっているのを直観した。何とした叡智だろう。日本は、思想と美学のすべてが木への解釈と共振している国なのである。「木への理解」と「存在論」とが不可分なものになっているのは、仏教が伝播する以前からのようだった。というのも、インドでは、大樹の樹上は魔物が棲む所だが、日本では神が降りる場となっているからである」
木の文化の国が木を切り倒し鉄とコンクリート国にしてしまった。
木の文化を見直さなければならない。
護岸コンクリートは全て元の木のある自然の状態に戻す壮大な公共事業が必要だと思う。
「生活に関わる一切が、日本では現在、数限りないメニューやカタログの「選択」によって行われている。レストランでの食事も、旅行も、家の新築も、墓石選びも、結婚式も、葬式ですらそうである」、「メニュー文化は「提示と選択」を前提にした規格品の文化であり、メニューやカタログは消費拡大のために不可欠な刺激剤の役割を果たしている」
メニューやカタログやランキングに依らない自主的な選択をつかみ取ることが新しい文化を生むのだろう。
他に感想を持ったところです。
・ 日本の食肉の細分化をインドのカースト制度に例えたのが面白い
・ 訳が意訳なのかかなりこなれた日本語でインド人の文章としては少し違和感があるほど名文だった。
・ 一部陳腐な保守的論調が気になった。
・ カーストのなごりがあるのでカラオケはインドで普及しないだろうという説が面白い。
・ この本の題は元の題である「日本の思い出」の方が本の内容と合っていいと思った。
皆さんに是非一読をお勧めします。
実は私もかみさんに勧められて読んだのですが・・・
カナダde日本語を習い
とむ丸の夢を見ていた
きまぐれな日々に
あんくる トム 工房での
反戦な家づくりや
すごい生き方を学んだ。
土佐高知の雑記帳に
ささやかな思考の足跡/や
dr.stoneflyの戯れ言 を
たけくまメモ して
観劇レビュー&旅行記に
アルバイシンの丘から見た
ポラリスや
ミクロネシアの小さな島・ヤップの
旅のプラズマを書き
美しい壺日記には
津久井進弁護士の
村野瀬玲奈の秘書課広報室/との
関係性や
大脇道場の
「猫の教室」
ごまめのブログや
たけむらブログや
とくらBlogや
JUNSKYblog2008を書いた。
お玉さんとお玉おばさんでもわかる 政治のお話や
左翼というのはプライドたりえるのだろうかという
愚樵空論をしていたら
「ちょっと、よってけらっせん。」と伊東勉… が来るは
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法大OBや
や嶋ともうみ/が来るわで
わんばらんすになった
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アルバイシンの丘さん
コメントありがとうございます。
読んでみたくなってありがとうございます。
一人でもこういう人がいると励みになります。
投稿: 大津留公彦 | 2008年7月 1日 (火) 00時43分
とても面白そうな本のご紹介,ありがとうございました.ぜひ読んでみたくなりましたよ.
投稿: アルバイシンの丘 | 2008年6月30日 (月) 10時52分