「中国は社会主義か」を読んだ
この本は五人の中国に関する第一級の研究者(芦田文夫、井出啓二、大西広、聴濤弘 、山本恒人)が論考をやりとりする中で生まれたものである。
基本的に社会主義への好意的理解があるからこその表題だろうと思う。
やや理解に難しいところもあるが今後アメリカを抜いて世界一の経済大国になろうとしている中国の理解には必要な本だろう。
きくなみ弘のまとめを中心にその比較をしてみる。
芦田文夫、中国は市場経済を通じて社会主義への途中。但し市場経済の暴走は許されない
井出啓二、「社会主義市場経済」論。社会主義も市場経済である
大西広、中国は社会主義を目指す私的資本主義である
聴濤弘、「社会主義を目指す国」ではなく「限りなく資本主義へ」である
山本恒人、中国の市場資本主義は現状観察の視点からは「大きな政府型資本主義」であり理論的な認識からは「国家資本主義」である
夫々の論者の発言の中から興味のある所を拾ってみた。
「中国は時代区分でみると「半封建・半殖民地社会」から「新民主主義」(1949~51)、「資本主義から社会主義への過渡期」総路線(1953~)、改革・解放!(1978~)(市場経済化第一段階・第一段階)」
「中国は、一定規模の生産書手段を社会が掌握し、マクロ経済制御を行い、階級・搾取の廃し、共同富裕化に向かっている社会と見え、社会主義と体制規定するしかないと考えている。階級社会の廃止方向、共同富裕化、経済の意識的制御がいぜん私にとっての社会主義の定義・基準である。」
「商品・市場経済を資本主義と等置する理解、あるいは柄谷行人のように、生産様式ではなく交換様式によって体制・制度を規定する試みは説得的ではないと考えている。「資本主義にも社会主義にも商品・市場経済はある、それは体制を規定するものではない」という鄧小平の断定の方が正確であろう。」
「周近平政権は、政治的には保守的または守旧的である。前政権期の民主主義的雰囲気が消えた面がある。他方、汚職撲滅、幹部の特権廃止、透明性の拡大、経済改革の推進の店では、前政権よりはるかにアクティブであり、実績を上げている。私は中国の政体の現状はアメリカの一部の学者が指摘しているように「限りなく民主主義に近い一党制」であると考えている。」
「私の生産力理論は故中村静冶大阪市立大学名誉教授に由来するが、氏は機械制大工業の下では資本主義しかありえず、したがって社会主義を必要とするのはまったく新しい技術体系であるとされていた。当時にAI技術は存在しなかったが、生きておられればAI技術を、新社会を必然とする技術体系として主張されていただろう。」
「史的唯物論のいう生産関係とは「形式」でどうでもいい「飾りもの」ではない。私はこのことと、先の「市場」論を合わせると中国は経済体制としては「限りなく資本主義へ」とならざるをえないと考えている。なお付言しておきたいのは「20世紀社会主義」の失敗は、生産手段の共有制そのものにあったというより、公有制のもとで(国有化であれ集団的所有であれ)どう労働者が労働のモチベーションをもつかという「労働の組織化」ができなかったところにある、ということである。それはいまの中国を含めていまだ発見されておない。「アソシエーション論」や「熟議型社会主義」といった積極的アイデアーが提起されているが具体的姿はまだみえてこない。これもマルクスの創造的発展が求められる点である。」
「共産党であっても政権党になった場合「国益」ということを考えて外交を進めなければならない。その場合、現実というものを見なければならない。しかし同時に現実をぶち破る斬新な外交路線を示し実行し現実を変えていく努力をかさねてこそ、政権についた共産党・社会主義政権の意義があるはずである。レーニンは政権につくとすべての民族の民族自決権を実際に認め、ただちに帝政ロシアの支配下にあったポーランド、フィンランド、バルト三国の独立を認めた。(中略)さらにソヴィエト政権が初めて国際会議に出席できた1922年のジェノバ会議で当時の凶悪兵器であった毒ガス兵器禁止条約の締結を提起した。これはインターナショナリズムとナショナリズムを正確に結びつけたものである。」
「林毅夫(北京大学新構造経済学研究院院長)の総括的論評は明快であり、中国の経済的成功の本質的要件を解き明かしている。なかでも「後発の利益を十分に活用できたという認識は経済学者として際立って優れたものである。彼が指摘するように「「後発の利益」こそ中国の今日の発展を理解し、説明する最も重要な視点だといえよう。」
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他に香港問題なども議論されているが紹介しきれなかった。
チベットやウイグルのことも探求が必要だろう。
今回中国の内情についての認識をあらたにしたがまだまだ中国については知らなければならないことがたくさんある。
そして中国の歴史的位置付けや現状を知ることは日本の将来の姿も想像させる。
コロナ禍のなか、日本の政権が変わろうとしており、今後日本政治の激変が予想される。
政治の季節に社会主義というものをじっくり考えてみたい。
2020/09/01 大津留公彦
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